双頭のバビロン〈下〉 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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本棚登録 : 153
レビュー : 12
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488441050

作品紹介・あらすじ

保護者ヴァルターとの静かな生活から一転、過酷な戦場へ兵士として赴くことになったユリアンとその親友ツヴェンゲル。著名な映画監督となりながらも、撮影現場での大火事の責任をとり、ハリウッドから離れざるを得なくなったゲオルク。交錯しては離れていく双子の運命は、鴉片と悪徳が蔓延する魔都・上海で驚くべき邂逅を果たす。数奇な双生児を巡る群像劇は、ここに終幕を迎える。 解説=石井千湖

感想・レビュー・書評

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  • 切り離された結合双生児のそれぞれの光と影が交差する壮大な物語、上下巻たっぷり皆川ワールド堪能。ゲオルク側のハリウッド内幕ネタが多かった前半(上巻)よりも、ある登場人物二人が一致して以降の後半(下巻)双子が入れ替わると思いきや再会にむけて物語が動きだし、ウィーンやハリウッド以上に退廃した魔都感の強い上海が舞台になってからが圧巻の面白さでした。冒頭の1929年の上海にこう繋がるのかというのも含めて、伏線や謎が次々解けてゆく気持ち良さ。しかし読者のスッキリ感とは裏腹に登場人物たちは追いつめられてゆく。

    結局、あれだけ感応しあい記憶を共有し、お互いの存在にふりまわされた双子の当事者同士よりも、ユリアンにとってはアカの他人のツヴェンゲルとの絆のほうが強かったというのが、皮肉でもありロマンチックでもあり・・・。ゲオルクはゲオルクでユリアンとはまた違う意味で、エーゴンのことが必要だった。そういう意味では双子同志の葛藤や愛憎より、一種の三角関係の頂点にいたツヴェンゲルのほうが真の主役だったのかも。彼は本当に魅力的なキャラクターでした。

    しかし個人的には実は結構ゲオルクが好きでした。双子の影のほうとして生きてきたユリアンは当然精神的に不安定なところがあり、嫉妬深く感情の暴走をコントロールできない危うい面が強い。一方ゲオルクは光として伸び伸び生きてきたとはいえ、ユリアンにとってのヴァルターやツヴェンゲルのような絶対的に信頼できる味方は存在せず、裕福とはいえ養子の身、家族からとくに愛されもせず放逐され、どん底からハリウッドの人気監督まで上り詰める。一見ユリアンより恵まれているように思われそうだけど、実はそうでもなく、成功したのは本人の実力と生命力の強さゆえ。その精神の健康さと逞しさがいい。二次元的にはユリアンやツヴェンゲルのような退廃的なキャラクターに人気が出るだろうけど、実在するならゲオルクのほうがモテるはず(笑)

    実在といえばゲオルクの映画監督としてのキャリアは、実在の映画監督エーリヒ・フォン・シュトロハイムをモデルにしているそうです。ハリウッド部分は結構実在の人物(梅蘭芳、ポマーその他たくさん)や会社(パラマウントやウーファ)、映画が沢山登場するので、どのへんから創作(架空)なのか読んでいる間ずっと気になっていたので、あとがきでスッキリしました。このへんの映画事情にもっと詳しければ、さらに楽しめたのかも。

  • 2015-10-26

  • この作品大好き!文庫を発見したので購入再読♪
    前よりずっとゆっくりと噛み締めて読めて、まだまだずーっとこの作品に浸っていたい気持ちです。今度は手元にあるからいつでも読める!
    世紀末ウィーンと20年代のハリウッドと魔都上海。舞台も全体に映画の雰囲気まんてんの作品。私は映画は詳しくありませんが、映画がお好きな方はもっと違った楽しみ方も出来る作品なのでしょうね^_^

    ↓ここから先はちょっとネタバレご注意↓




    みんな好きなシーンばかりなんだけと、頭にすごく残ったところ…
    パウルとアデーラの出会いからの話とか、大好き♡ え?なにこれ映画?そのまんまだよ〜みたいに思いながら読んでました。
    あとは…ツヴェンゲルが名前を言う瞬間にまたドッキリしてしまいました(・・;)2回目なのに。
    あ、もう一つ外せない大好きな場面、ユリアンとツヴェンゲルの再会。感動で心が震えます…ツヴェンゲルがピアノ弾いてます。メランコリックな小品ばかり弾くとかあるけど、何を弾いてたのかな。やっぱりショパンかなぁ。

  • めくるめく物語の奔流。
    結末に辿り着いた時、書かれた人物たちの生を想い、胸を熱くする。

    そうか、そう生きたのか。辿り着いたのか、と。

    皆川先生、物語を紡いでくれて、私たちに読ませてくれて、本当にありがとう。

  • うぉぉ…
    ラストのユリアンの独白(でも、太字になっているのだからきっと、ゲオルクの自動書記が成功したものなんだろう…と思いたい。)で、一気に涙腺が緩んでしまった。

    アヘンに侵される上海で、
    増えていく謎…、
    転がるように変化していく状況…、
    そして、ユリアンとツヴェンゲルはどうなってしまうのか…。
    ひとときも目を離せない下巻!

    そしてこのラスト…。
    またしても皆川女史に圧倒され、飲み込まれ、酔わされた。
    あぁ、思う存分「双頭のバビロン」の世界に溺れました。

  • 下巻はあっという間だった。
    私はユリアンよりもゲオルクに感情移入して読んでおり、どちらも不幸な結末を迎えてほしくないと願っていたので読み終えてほっとした気持ち。それなのにもやもやした何とも言えない不快感も残っているのは噎せ返るような生々しい描写のせいかな。人間の汚さ、醜さが容赦なく描かれて、街の情景から音や臭いまでが漂ってきそう。
    全く違う環境で育っていた二人の人生がほんの少しずつ交わり、同じ場所にたどり着き同じ人々と出会い、やがて重なっていく。その運命を見ているのは不思議な感覚で、恐ろしさも感じる。ラストのユリアンの告白にはぞくぞくした。

  • 文章から、声ばかりでなくにおいさえ感じられる。描写されるもののにおいではない。作品自体が放つ、腐爛直前の果実のようなにおいだ。陶酔と眩惑に包まれ、自分自身に内含されたり外部から刺激してきたりする登場人物たちの温度に親しみ、或いは鼓動を速めた。今は何を書いても、作品に魅せられた人間による下手な物真似になってしまう気がするが、それでもこの感動を残しておきたく思う。

  • 書く作品書く作品すべてが代表作といってもいい奇蹟の作家。
    作者の入れ込む結合双生児というモチーフを題材に落とし込みながら、往時の風俗、幻視の街、執着にも近い感情を、小説に織物していく。
    陶酔するしかない。

    ゲオルク―「きみ」(エーゴン・リーヴェン)
    ユリアン―ツヴェンゲル

    ぼくはきみを慰めたいのだ

  • 下巻。
    幻想と現実、或いは光と闇。ラストシーンは何度読んでもゾクゾクする。
    腐り落ちる寸前の果実というのはこんな匂いがするのだろうか。

    まぁ、皆川博子に関しては、この著者の作品を好きになれるか否か、という違いしかないように思うのだが。

  • ウィーン滞在中に読了という幸福な経験。
    是非とも19世紀末から20世紀初頭にかけてのウィーンのカフェに行ってみたい!と思ってしまう。

    どんでん返しがあるタイプではなく、とある双子ともう一人の男の数奇な運命が描かれている。
    エーゴンを中心にしての三角関係とも見れるかな。
    皆川作品に出てくる、「魂で繋がった二人」という甘美な関係性が本当に大好きすぎて苦しい。
    ウィーンや上海や城の頽廃的だったり猥雑だったり不穏な世界観も美しい。

    意外に人死にが少なくて安心した。
    パウル君とかいつ殺されるかとヒヤヒヤしてたもんw

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ ひろこ)
1930年旧朝鮮京城生まれ。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁・旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞(長編部門)を、『恋紅』で第95回直木賞を、『開かせていただき光栄です‐DILATED TO MEET YOU‐』で第12回本格ミステリ大賞に輝き、15年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。著作に『倒立する塔の殺人』『クロコダイル路地』『U』など多数。2019年8月7日、『彗星図書館』を刊行。

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