二度のお別れ (創元推理文庫) (創元推理文庫 M く 4-1)
- 東京創元社 (2003年9月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488442019
作品紹介・あらすじ
四月一日午前十一時半、三協銀行新大阪支店に強盗が侵入。四百万円を奪い、客の一人をピストルで撃った後、彼を人質にして逃走した。大阪府警捜査一課は即刻捜査を開始するが、強奪金額に不服な犯人は人質の身代金として一億円を要求、かくして犯人と捜査陣の知恵比べが始まる。トリッキーかつ軽妙な会話が魅力の"大阪府警捜査一課"連作第一弾、著者の記念すべきデビュー作。
感想・レビュー・書評
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冒頭───
風呂あがり、やっとありついた晩飯。冷めたアサリの吸物をひとすすりして、さてこれからと箸をとりあげた時、電話が鳴った。反射的に壁の時計を見る。もう午後十時、こんな時間の電話にろくなものはない。
「おーい、電話やでー」
ちょっと振り向けば電話に届くものなぜかおっくうで、隣の部屋にいるはずの佐智子に声をかけた。返答がない。代わりに、ザーッと水の走る音のするところをみれば、残り湯で洗濯でもしているのであろう。
「えーい、しゃあないなあ」
受話器をとる。
「破門」で直木賞を受賞した黒木博行さんの、正真正銘のデビュー作。
第一回サントリーミステリー大賞佳作賞受賞作品である。
キレのある日本語。
関西弁特有のテンポの良い文章が続く。
実にうまい。
エンタメ読み物としては、すでにこの時点で一流である。
主人公の黒田とマメちゃんという、漫才風の会話のやり取りをする二人のキャラも面白い。
この面白さは、のちの「疫病神」シリーズでも存分に活かされているようだ。
これは銀行強盗から派生した誘拐ものだが、警察と犯人との身代金の受け渡し方法などは、今でこそ同様のものが多くあるが、当時としては画期的だったのではなかろうか。
最後のどんでん返しについては、動機的にはやや弱い気もするが、それでもあっと驚かされる。
いやあ、面白いミステリー作品でした。
これでも佳作なのだから、サントリーミステリー大賞はレベルが高かったんだよな。
そういえば、第一回で読者賞を受賞した「桜子は帰って来たか」というのも、遥か昔に読んだが、かなり面白かった覚えがある。
でも、受賞者のみなさんが、今でも作家として活躍しているかというと、そうでもないところに文筆業の難しさがあります。
一発屋で終わる受賞作家のなんと多いことか。
黒川博行、今後も読み続けます。
好きな作家がまた一人増えました。
直木賞のおかげです。
受賞しなかったら一生出会わなかったかもしれない作家だから。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ユーモアあり、そして最後は意外な展開になり、かなり面白かった!
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黒まめコンビ第一弾。黒川氏のデビュー作!
確かに華はない…でも、軽快な大阪弁とユーモアたっぷりの登場人物がいるだけで楽しく読めました。 -
ずいぶん昔の作品ですが迫力満点で今読んでも古さを感じられない。余韻を残した終わり方も黒川さんの若い気持ちを現している。
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黒川博行のデビュー長編。
洒脱な大阪人の刑事の会話と、スリリングな誘拐~身代金受け渡しと、いずれもテンポが非常によい。とてもすんなり読め、入り込めた。
トリックもよかったが、解説者のいうとおり探偵役が暴くというプロセスが抜け落ちている。それがないと、ミステリとしては片手落ちだと思う。
とはいえ、アイデアも文章も、初作とは思えないくらい安定してると感じた。
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初めて読む作家さん。予想した通りの結末であっけなかった…。
コンビが地味ってことで、大賞がもらえへんかったみたいやけど、良いコンビで大阪弁もとぼけた感じがして、やりとりは面白かった。 -
黒川博行のデビュー作だそうですね。まだ何冊かしか黒川作品は読んでいませんが、ダントツ好きです!事件そのものの解決に向かう経緯をきちんと描いているし、それぞれのキャラクターの描き方もとても丁寧な感じです。まだ黒川博行的なアクがうすい感じが良かったし、読みながら一緒に推理したくなる感じとかも他の黒川作品とちょっと違うかな~という感じがしました。
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安定の濃ゆい大阪弁
なるほど
二度のお別れか -
2020.09.10.読了
途中、犯人の想像はついてくるが、まったく飽くことなく最後まで楽しめる。
やはり、黒川作品にハズレなし -
著者のデビュー作であり黒マメコンビのシリーズ一作目(てとろどときしんは既読)。疫病神シリーズのリズムの良い掛け合いやスピード感を知っていると少しテンポがゆっくりには感じますが、それでもとても読みやすいです。内容は銀行強盗が人質ごと逃げて、その人質に身代金一億円が要求されるというもの。正直途中で犯人は予想できてしまったのですが、それでも夢中になって読みました。そしてたどり着いたのはなんともやるせない重いラスト。確かに華はないかもしれませんが私は古くても古臭くはなくむしろ渋いこのコンビの話はとても好きです。