さよなら妖精 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488451035

感想・レビュー・書評

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  • ミステリーというより青春小説。
    ユーゴスラビアについてめちゃくちゃ勉強になった。
    ソ連が崩壊したあと、東欧のほうで小さな国が沢山生まれた…というより元に戻った。私が生まれたときには既に“ソ連”の一部だった土地は本当は別の国だったのだと初めて知った。
    ところが、ユーゴスラビアではそれから激しい内戦が始まった。ユーゴスラビア、サラエボという地名を何故良く知っていたかというと、確かその数年前に“サラエボ・オリンピック”があったからなのだ。あのクマちゃんをマスコットにした平和の象徴、オリンピックを行なった国が、内戦で国も人もボロボロになっている…目の前のテレビの画面の光景が信じられなかった。
    サラエボは元々“ボスニア・ヘルツェゴビナ”という国の首都だったのだと初めて知った。“ボスニア・ヘルツェゴビナ”“セルビア”“クロアチア”という国が独立したというニュースをなんとなく覚えている。
    そして私の頭の中ではいつしか“元ユーゴ=ボスニア・ヘルツェゴビナ”に変わっていたのだが、元ユーゴは“ボスニア・ヘルツェゴビナ”“クロアチア”“セルビア”だけでなく、“スロヴェニア”“モンテネグロ”“マケドニア”という合計6つの国だったのだ。知らなかった。
    “マケドニア”なんて世界史の初めのほうに出てこなかったっけ?調べてみたら、あのマケドニア王国のほとんどの地域は現在のギリシャであるらしく、ギリシャから「マケドニアという国名を使うな!」と文句を言われたらしく、今は“北マケドニア”と戒名しているらしい。それからモンテネグロ。内緒だが、私はアフリカの国だと思っていた\(^o^)/って笑っている場合ではない。実はモンテネグロと日本は2006年まで戦争状態にあったらしい!1905年、日露戦争の時、モンテネグロはロシアを支援するために戦戦布告したが、実際に戦闘状態になることはなく、その後の講話条約も結ばず、忘れたまま一旦モンテネグロと言う国が無くなり、2006年、モンテネグロがセルビア・モンテネグロから独立してモンテネグロ公国になった際にやっと日本と休戦協定が結ばれたとのこと(え、終戦じゃなくて休戦なの?)。
    日本に生まれた日本人の私は、自分の生まれた国が100年後もそのまま同じ国であると思っているし、自分が日本の国の国民であることに何の疑問も持っていないが、そうではない国の人々も世界には沢山いるのだな。
    それから、独立のための内戦は“愛国心”のみが理由ではない。元々豊かな国が貧しい国と一緒になって「損をしている」という気持ちも大きな動機なのだと、人間とは結局、現金なものだと、ユーゴからきたマーヤが教えてくれた。
    それにしてもこの小説の舞台“海無し県の観光地”。「どこだ?」と調べたら、どうも作者の米澤さんの出身地、高山市がモデルらしい。高山には3回くらい行ったことがあり、いい所なのは知ってるが、どうしてユーゴスラビアからわざわざ高山だったのか?そこが謎だ。

  • 米澤穂信の初期作品。
    元々は『氷菓』シリーズの最終章として書かれた物だけアリ、どことなく古典部のような雰囲気で、高校生特有のみずみずしさとさわやかさ、そしてその背後にある世界観の不穏さがバランス良く配置され、更にマーヤの日本の習慣や言葉などからの謎解き要素も含まれている所も面白かったです。
    マーヤと他のメンバーが過ごして行くにつれてユーゴスラヴィアの治安が悪化していき、それにつれてマーヤの雰囲気もシリアスな物になっていき、守屋やいずるの彼女を戦火に帰したくないという思いがとても切なかったです。送別会のシーンでの守屋とマーヤのシーンは心がキュッとなりました。そして彼女が亡くなったことを知るシーンはとても切なかった。守屋はもしかしたらマーヤのことが好きだったのかも知れないなぁと思ってしまった。
    太刀洗万智シリーズが始まったきっかけともなった出来事であるため、同シリーズを読み返したら他の発見もあるかも知れないと思いました。

    この作品をアニメ化した際の声優陣を自分なりのキャスティングしてみたので読む際に参考にしてください(敬称略)。
    守屋路行:中村悠一
    マーヤ:石見舞菜香
    太刀洗万智:茅野愛衣
    白河いずる:佐藤聡美
    文原竹彦:阪口大助
    額田広安:吉野裕行

  • 太刀洗万智シリーズというのかな?これも。
    んー、いまいち好きになれない太刀洗万智だが、やっぱここでもヤな感じが遺憾なく発揮されている。ユーゴスラビアから来たマーヤとの出会いと別れ。ユーゴ内戦でマーヤの運命はどうなるのか?マーヤが滞在していた頃を振り返ってユーゴの中の何処なのか?どうしているかを知る。そしてマーヤとの出会いから振り返る事で物語が始まる。
    ネタバレだけど、マーヤは戦争で死んでしまった。無念だけどそれが現実。ということで終るんだけど。やっぱ気楽に読める古典部シリーズの方が好きかな~。

    Amazonより-----------------
    1991年4月、雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。謎を解く鍵は記憶のなかに――。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。米澤穂信、デビュー15周年記念刊行。初期の大きな、そして力強い一歩となった青春ミステリの金字塔を再び。

  • 自分の原点を探る旅にて久々に再読。

    当時スッキリの加藤浩次の強力なオススメで(笑)
    米澤穂信を初めて知った作品です。



    政治家になるため
    遥かユーゴスラヴィアから日本にやって来た少女マーヤと
    日本の高校生たちとの
    たった二ヶ月の触れ合い。

    そしてユーゴスラヴィアでの武力衝突に巻き込まれていくマーヤ。

    かくして物語は
    彼らがともに過ごした日々と、
    その中に散りばめられた
    日常の謎を追いかけてゆく…。


    ミステリーの枠で語られる作品ですが、
    そんなジャンル分けはどうでもいいくらい、
    切なく胸に深く突き刺さる、
    強烈な読後感を残す作品です。



    人を惹き付ける容姿と、
    その凛とした姿勢が魅力的なマーヤのキャラによって
    物語にどんどん引き込まれていきます。



    マーヤと出会うことで
    少しずつ変わっていく
    何をやっても熱くなれない主人公・守屋。


    守屋にとってマーヤは
    堅い殻で包まれた心を破ってくれる
    唯一のミューズであり、

    外の世界を見せてくれる救世主であり、

    異国から来た妖精以外の何者でもなかったんだろう。



    圧倒的な文化の違いによる
    越えられない壁が
    本当に切なくて無力感を感じて
    やりきれない(>_<)


    そしてマーヤと学生たちが
    町を探索するシーンが
    フラッシュバックのように
    今でもふと蘇ってきます。



    自分たち読者一人一人が
    マーヤの積み上げた強さを
    少しずつでも見習うことができれば、

    いずれ何かが見えるかもしれない。


    この争いの絶えない世界を
    少しずつでも変える
    きっかけになるかもしれない。


    そう思わせてくれただけでも
    (普段考えることもない戦地の現状を考えるきっかけになっただけでも)


    この小説を読んで
    本当に良かったと思います。



    染みに汚れた紫陽花のバレッタ。

    そこに込められた一筋の希望と
    マーヤの切実な願いを
    日本という豊かな国に暮らす自分たちは
    決して忘れてはならない。



    古典部シリーズの原点とも言えるし
    ミステリーファンだけでなく
    本当に多くの読書家の皆さんに読んでほしい
    ほろ苦い傑作です。

    • アセロラさん
      こういう異文化を知ることが出来る本って、好きです。ものすごく切なそう…。
      本当に、今こうやって豊かな生活を享受できている事を感謝したいです...
      こういう異文化を知ることが出来る本って、好きです。ものすごく切なそう…。
      本当に、今こうやって豊かな生活を享受できている事を感謝したいですね。当たり前とは思わないように。

      それにしても、加藤浩次って、読書する人だったんですね…(失礼)
      もともと好きでしたが、好感度(勝手に)アップしました(笑)
      2013/02/23
    • 円軌道の外さん

      1ヶ月仕事が休みナシだったんで
      遅くなりました(汗)

      コメントありがとうございます!

      スッキリの加藤は
      元々米澤さんがブ...

      1ヶ月仕事が休みナシだったんで
      遅くなりました(汗)

      コメントありがとうございます!

      スッキリの加藤は
      元々米澤さんがブレイクする前から
      彼の作品のファンだったらしく、
      確か文庫本の解説も書いてたんじゃなかったかな?

      あの傍若無人なキャラで
      読書家という
      ギャップに萌えますよね(笑)



      この小説は本当に切なさいっぱいだけど、
      自分たちが暮らす
      日本という国が
      どれだけ恵まれていて
      今の生活が
      決して当たり前ではないということを気づかせてくれます。

      また機会があれば
      触れてみてくださいね(^_^)v


      2013/04/08
  • 読んでるうちにどうにも「氷菓」を思い出してしまった。

    人が殺されることのない「日常の謎」
    うーん、米澤さんの作品いつも静かなのよね。いいのか悪いのか、盛り上がりみたいなものがないまま終わってしまった。

    タイトルからして、切なくなるんだろうなって結末はわかっていて
    静かなまま進んで、静かなまま終わってしまった。

    推理の展開の仕方の部分と、米澤さんが研究してたユーゴスラビアの要素
    を混ぜ込んだ…そこから
    「一歩踏み込む勇気」みたいな学生の無力感のモヤモヤも出でくる。
    この思春期のモヤモヤ感が私の中には未だにあってモヤモヤがムズムズで…

    一連の話が入ってこないまま
    私も傍観者に…なってしまった…

    ひとまず「王とサーカス」に進みます。

  • 「さよなら妖精」(米澤穂信)を読んだ。
    
実は「王とサーカス」を読もうとしたのだが、主人公がこの「さよなら妖精」の登場人物であると書いてあったので、息子の本を借りて先に読むことにしたのだ。
    
太刀洗万智がいいね。
(「映像研には手を出すな!」の金森さやか的なのが好みなので)
    
物語は爽やかな読みごごちで進むが、事が起こった後(旧ユーゴスラビアとマーヤに関して)の物語はズッシリと重たい。
昔読んだ「「サラエボのチェリスト」(スティーヴン・ギャロウェイ:佐々木信雄 訳)を思い出したりしつつ。
この世の戦争という悲劇をいかにとやせん。
    
『哲学的意味がありますか?』(本文より)というマーヤの口癖も何気に胸に残る。

  • 青春ミステリー。
    ミステリー色はほぼ無い。
    青春もの、と言っていいでしょう。
    著者の「氷菓」シリーズを連想はさせるが、重い。

  • 君と一緒ならどこまでも生きていける気がした。頭の中では何でも出来る気がした。何かを成し遂げられる気がした。でも現実はそんなものじゃなかった。何かって?何かってなに?何にも答えられない。残るは思い通りにはならなかったほろ苦さ。そして自分の無知さに恥ずかしくなる。高校生の守屋くんには世界は広すぎて。少し触れた世界は彼に手をさしのべることはなかった。
    日常の謎解きミステリなんだけど、それだけでは
    終わらせない読後感。

  • 紛争地帯を扱った小説はあまたあるが、ほとんどは紛争地に侵入してスパイ活動やテロをする冒険物が多い中、こんなに身につまされて切ない小説には初めて出会った。世界は歪んでいる。今の幸せに浸り切っていいのか?でも、日々の生活に流されていく日本に住む私達。
    歴史好きな観点からもユーゴの分裂の背景を知れて勉強になった。印象深い良い本だった。

  • 雨の中で途方に暮れている外国人女性と交流した高校生の4人組。目にするものの背景にある歴史や理念に興味を示す彼女との2ヶ月間と、帰国後に彼女が残した何らかの謎の理由を知ろうとする話が交互に繰り返される。結果論に自分の思想を後付けで紐付けていくような思考過程が、哲学書のような堅苦しい言葉で綴られてる印象で、高校生設定だよな???という違和感を終始感じつつ、無力な自分に苛立つ論理的な若者はこんな感じかなとも思う。やたらと上から目線にみえる準主役の女の子に、少しイライラしつつ、本音爆発の最後で少し印象を変えさせられました。背景と結末が今の時勢もあって重く響きます。でも主題が良くわからん。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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