- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488451080
作品紹介・あらすじ
魔術や呪いが跋扈する世界で、推理の力は真相に辿り着くことができるのか? 第64回日本推理作家協会賞受賞ほか、各種年末ミステリ・ランキング上位を総嘗めにした話題作!
感想・レビュー・書評
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「我々の使命を果たし、かつ自らを律するため、我々は真相を明らかにするにあたって一つの儀式を行います」、「事件の関係者を集め、我々が何を知ったのか、何を知り得なかったのか、何を知った上で公言を控えているのかを明らかにするのです。その上で、今回であれば〈走狗〉が誰なのかを指摘する」。
領主が事件当夜作戦室にいたことを知っていた8名の容疑者の中から、冷静沈着、緻密な推理で〈走狗〉ではあり得なかった者を一人一人除外していくファルク。そして見事などんでん返し。ファルクの従者ニコラもいい味出してる。
なかなか秀逸なファンタジーだった。
本作、純粋なミステリーとしては読めないかな。魔術や呪いが縦横無尽に飛び交うファンタジー世界では、推理やトリックが読者にフェアな形にはならないからな。例えば、犯罪当夜に捕虜のトーステン(首を切り落とされなければ死ぬことのない、不老不死の呪われたデーン人)が鍵のかかった牢獄から忽然と消えてしまった謎とか…。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ぇ、1日で読み終えたのとか久しぶりだわ…
続編の冒頭の場面が思い浮かぶくらいの傑作 -
面白かった。米澤穂信氏の日本語文が読みやすくて好きなのだが、日本が舞台でないファンタジーでも同様だったので改めてすごいと思った。魔法なら何でもありでミステリー成り立つか?と思ったけど面白く読めた。
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魔法とミステリーが成立するのか
中世という舞台では、「魔法」という能力も当たり前に信じられた時代で、「魔女狩り」が本気で行われたのは歴史の示す通り。
ただ、ミステリー小説の場合、たとえば密室殺人において「ドラえもんの通り抜けフープ」が「アリバイ崩し」であってはいけないように、読者への裏切り行為があっては台無しになる。
その点では、「魔法による代理殺人」という設定が早々に提示されることで、読者に「条件」として提示される。
そこからは、どのなに魔法の世界を見せようと、本筋はわめて正統派の謎解きミステリーを固持している。
「デーン人(北方ゲルマン民族 別名ヴァイキング)」
「十字軍(キリスト教世界)とサラセン帝国(イスラム世界)」
など、12世紀中世ヨーロッパの世界観を満載した舞台で、正統ミステリーを貫く、米澤穂信氏の手腕が、この本の興味を引くところとなる。
その一つは、魅力のある登場人物が活躍するところ。
ミステリーにしてもファンタジーにしても、登場人物に魅力を感じなければ、読書は楽しくない。
主人公たち、傭兵たちの活躍は、夢中で読み進める原動力となった。 -
12世紀頃。ブリテン島の東の海に浮かぶ島が舞台の、ファンタジー風味ミステリ。探偵役と助手役が登場して殺人の犯人を論理によって見つけるお話し。登場人物がおもしろい。領主と娘、彼らに仕える人々、盗賊まがいの騎士、弓使いの兄弟、異国の女戦士、伝説を唄う吟遊詩人、青銅の巨人を連れた錬金術師、塔に幽閉された不死の人… 。探偵役と助手は魔術を使う暗殺騎士を追ってきた遍歴の騎士と年若い従者。語り手は才気煥発な領主の娘。
青銅の巨人や不死人などが居るなんて、楽しくてしょうがなかった。巨人の出番は少ないけど(笑) 呪われたデーン人が襲撃してくる下巻では戦闘シーンの迫力もすごい。
作者さんもリスペクトという名作の修道士カドフェルシリーズとだいたい同じ時代。この「折れた竜骨」は話題の作家さんのずっと前に出た本だけど、カドフェルシリーズが好きなので手に取ってみた。軽めの文体で読みやすい。カドフェルでお馴染みの「晩課の鐘」が出てくるとふふふっとなる。 -
とても面白かったです。
戦闘シーンがあってよかった、無ければひたすら事情聴取していく謎解きで終わっていたと思う。戦闘があってやっとファンタジーと言われる部分がリアルになったように思う。
このルールが先行したファンタジー設定、米澤穂信は日常ミステリーの方が好きだなーと思った。 -
論理的に謎を解決するのが醍醐味であるミステリーにおいて、"魔法"が登場するというのは本来ありえない。
しかし、その魔法は誰が使えるものか、どのような効果をもたらすのか、ということが明確に記されていれば、"本格ミステリー"として成り立たせるのは可能である。
本作はまさにその、特殊設定ミステリーの代表作であるといえる。
そして犯人当てだけでなく、戦闘シーンの描写もなかなかに迫力がある。
日本推理作家協会賞受賞に納得。 -
ミステリーとファンタジーの融合と聞いて興味を持った作品。貴志祐介の『新世界より』が好きなので似たような雰囲気を想像していたが、いい意味で期待を裏切られた。
魔術が存在する世界で、呪われたデーン人という非人間との戦争を描いてはいるものの、それらは世界を表現するツールに過ぎない。本筋となっているのは、ファルクが探偵、ニコが助手、アミーナが依頼人という構図の本格的な推理小説だ。魔術を使えばなんでもできてしまうのではと読者視点で思ってしまうところを、「理性と論理は魔術をも打ち破る」とファルクが言っている通り、論理的な思考手順で犯人を突き詰めていく。
小説としてのクオリティも非常に高い。文庫版では上下巻で1000ページものボリュームがあるが、無駄なところは全くない。登場人物すべてに本筋と関わりのある役割を与え、そのうえで余すことなく見事な伏線回収を行っている。
だからこそ、魅力的なキャラクターたちの先の話を見てみたい気もするが、綺麗にまとまっている物語なだけに、あまり贅沢なことは考えない方がいいかもしれない。