折れた竜骨 下 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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感想 : 251
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488451080

作品紹介・あらすじ

魔術や呪いが跋扈する世界で、推理の力は真相に辿り着くことができるのか? 第64回日本推理作家協会賞受賞ほか、各種年末ミステリ・ランキング上位を総嘗めにした話題作!

感想・レビュー・書評

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  • 「我々の使命を果たし、かつ自らを律するため、我々は真相を明らかにするにあたって一つの儀式を行います」、「事件の関係者を集め、我々が何を知ったのか、何を知り得なかったのか、何を知った上で公言を控えているのかを明らかにするのです。その上で、今回であれば〈走狗〉が誰なのかを指摘する」。

    領主が事件当夜作戦室にいたことを知っていた8名の容疑者の中から、冷静沈着、緻密な推理で〈走狗〉ではあり得なかった者を一人一人除外していくファルク。そして見事などんでん返し。ファルクの従者ニコラもいい味出してる。

    なかなか秀逸なファンタジーだった。

    本作、純粋なミステリーとしては読めないかな。魔術や呪いが縦横無尽に飛び交うファンタジー世界では、推理やトリックが読者にフェアな形にはならないからな。例えば、犯罪当夜に捕虜のトーステン(首を切り落とされなければ死ぬことのない、不老不死の呪われたデーン人)が鍵のかかった牢獄から忽然と消えてしまった謎とか…。

  • 上巻に引き続き犯人探し。と思いきや、急展開してデーン人が攻めてきて、迫力ある戦闘シーンも入ったり…上巻でも思ったが、本当RPGの様な世界に興奮し一気に読んでしまった。
    後半はミステリーらしく、みんなを集めて謎解き(笑)「犯人はお前だ!」と素直にはいかない展開。でも、今回はちょっと真犯人はあの人じゃないかな~と思ってた。その暴き方や真犯人の心情には流石!と思ったが。暗殺騎士の結末が少しあっさりしすぎてたかな。

  • 最高です。儀式と称して、本格ミステリ恒例の真相の解明が始まるところがまずいい。フーダニットの中で、1人ずつ犯人をロジカルな手がかりから絞り込み、途中の伏線回収を一気にするところも見事。
    あと、不死身のデーン人の密室脱出トリックもバカミス感あっていいし、何より1番敬遠していた剣と魔法のバトルシーンが、そんじょそこらのファンタジーより面白いのも正直ズルい。
    さらに言えば、作者らしい救いのない結末なんだけど、イヤミスで終わらせないカタルシスがあったのが良かった。上下別れてなくても★5ですね。

  • [1]剣と魔法のある世界でのミステリ、おもろかったです。誰が暗殺騎士の「走狗/ミニオン」なのか。消えたトーステンとその方法は(謎というほどではない)、彼の主とは。
    [2]呪われしデーン人(ほとんどゾンビ)来襲。島は阿鼻叫喚の戦場と化し、新領主アダムはクソの役にも立たずアミーナ奮闘す。
    [3]気に入ったのは《不可解にも扉が閉ざされている場合、それは『何らかの方法で』閉じられたのだと解すべき》(p.188)というくだり。要するに密室を作る方法は無限にあるしそこに密室的なものがあるなら何らかの方法でなされたと判断すればよく、わざわざどうやって密室が作られたか解明しようと余計な時間をかける必要はないということでしょう。この場合ファルクはあえてそう言ったんやけどこれはまあ、真理でもありそう。ミステリのセオリーを破壊している。

    ■ソロン島についての簡単な単語集

    【アダム・エイルウィン】ローレント・エイルウィンの息子。アミーナの兄。ソロン島に住んでいる。読んでるとどうもデキのいい領主にはなれなさそうな気がする。
    【アミーナ・エイルウィン】主人公の「わたし」。ソロン諸島領主ローレント・エイルウィンの娘。十六歳。英雄の娘らしくなかなか苛烈な性格のようで悲しみより戦うことを選んだ。新しいことがわかるたびにそいつが犯人かと思ってしまうタイプ。
    【暗殺騎士】ファルクが追ってきたという敵。元来は魔術を使うサラセン人暗殺者に対抗するため医療系の「トリポリの聖アンブロジウス病院兄弟団」は戦闘力を持つことになったがまだ足りず同じく魔術を研究し使うようになったが一部が堕落しその技を政敵暗殺などに使うようになった。兄弟団はこれを駆逐することに決め長年闘い続けている。
    【イーヴォルド・サムス】吟遊詩人。ローレント旧知の吟遊詩人、ウルフリック・サムスの息子。ローレントが探しているたいうバラッドを受け継いでいる。
    【イェルサレム】聖地。異教徒に激しく責められている最中。
    【イテル・アプ・トマス】ウェールズの傭兵。みすぼらしく見えるがどこか異様な雰囲気を持つ。弟のヒム・アプス・トマスを連れてきている。
    【エイブ・ハーバード】エイルウィン家が預かっている唯一の従騎士。十八歳。
    【エドウィー・シュアー】長くローレント・エイルウィンの従者を勤めた。死んだ彼の死体に異変が起こった。
    【エドリック】ファルクが追っているという暗殺騎士。髪と眼の色はファルクと同じ。ということはたぶん…
    【エルウィン家】ソロン諸島領主のロスエア。その娘で主人公のアミーナ。家令のロスエア。アミーナの侍女ヤスミナ。
    【エルウィン家の屋敷】島では珍しい石造建築。地元産の石は建築物向きではない脆い性質のようなので他所から運んできたのだろう。複雑な構造になっていて迷いやすい。
    【コンラート・ノイドファー】ブレーメンの騎士。三十前後。精悍で非の打ち所のない騎士だが曲者めいて見える。七名の配下を連れてきている。
    【サイモン・ドット】島では最も上等な宿屋を経営している。酒と料理も出すので地元住民も来る。
    【強いられた信条】暗殺騎士が使う魔術。他者を操る術。
    【小ソロン島】ソロン諸島領主の館がある。ソロン島との距離は百五十ヤード(百三十七メートルほど)だが浅瀬が多くマードック以外では往き来できない。夜には潮が引いて浅瀬が増え潮流が速くなりさらに危険になるゆえ、客人はこの島から晩課の鐘(午後三時くらい)までに島を出ねばならない。吹雪の山荘系の密室ができますな。
    【ジョン殿下】リチャードの弟。野心を抱いている。
    【白い瘴気】暗殺騎士が使う魔術。顕著な特徴があり使われたことがすぐわかってしまうが即効性がある。
    【スワイド・ナズィール】サラセン人の傭兵。小柄で子どもにしか見えない。魔術師(錬金術師)。巨大な青銅の人形を操る。
    【ソロン諸島】「ソロン島」と「小ソロン島」からなる。
    【デーン人】デーン人そのものは有能な航海者であり商人。デンマーク人のようだ。ローレントが警戒している敵は「呪われたデーン人」のようだ。多くの人はただの昔話だと思っている。不老で眠らず食物もいらず切っても突いても血を流さず首を切り落とさない限り活動をやめない。トーステンもその一人。
    【トーステン・ターカイルソン】小ソロン島の塔に二十年間囚われ続けている呪われたデーン人。
    【ニコラ・バゴ】ファルクの従士。小柄。赤毛。フランス語しか使えない。
    【ハール・エンマ】女傭兵。東方の蛮族とされているマジャル人を名乗っていると自分で言ったので違うかもしれない。鮮やかな金髪。恐ろしい凄腕。
    【ハンス・メンデル】五十歳近い冒険好きの商人。丸々と太って優しげ。リューベックが本拠地。
    【ファルク・フィッツジョン】巡礼風の男。イェルサレムから来たと聞いていたが本人によるとトリポリ伯国から来た聖アンブロジウス病院兄弟団の騎士。三十前後に見える。《警戒するのは悪くない。次は観察、そして論理だ。》上巻p.29
    【ペトラス】騎士。
    【ポール修道士】ソロン修道院の副院長。
    【ボネス】マーティン・ボネス。ソロン市長。年季の入った仕立職人でもある。
    【マードック】ソロン島と小ソロン島を往き来する唯一の交通手段である小舟の船頭。とても無口。
    【マシュー・ヒクソン】エイルウィン家の唯一の守兵。
    【密室】不可解にも扉が閉ざされている場合、それは『何らかの方法で』閉じられたのだと解すべき、と。(p.188)
    【ヤスミナ・ボーモント】アミーナの侍女。失敗を気にしないおおらかな娘。表情も豊かで人を幸せな気分にさせる。
    【リチャード】現在のイングランド国王。現在十字軍を率いて遠征に出ている。
    【リッターの暗い光】魔術の痕跡を浮かび上がらせるランタン。
    【レベック】ヴァイオリンのような楽器か。イーヴォルドが抱えている。
    【ローレント・エイルウィン】ソロン諸島の領主。アミーナの父。不屈の戦士といった印象。自分のためよりも街のために金を使いたいタイプ。《父の統治は間違っていなかった。領民は悲しんでくれている。》p.208
    【ロスエア・フラー】エイルウィン家の家令。
    【ロバート・エイルウィン】エイルウィン家の初代。アミーナの曾祖父。デーン人を追い出しソロン島をイングランドのものとした。

  • ぇ、1日で読み終えたのとか久しぶりだわ…
    続編の冒頭の場面が思い浮かぶくらいの傑作

  • 面白かった。米澤穂信氏の日本語文が読みやすくて好きなのだが、日本が舞台でないファンタジーでも同様だったので改めてすごいと思った。魔法なら何でもありでミステリー成り立つか?と思ったけど面白く読めた。

  • 魔法とミステリーが成立するのか

    中世という舞台では、「魔法」という能力も当たり前に信じられた時代で、「魔女狩り」が本気で行われたのは歴史の示す通り。

    ただ、ミステリー小説の場合、たとえば密室殺人において「ドラえもんの通り抜けフープ」が「アリバイ崩し」であってはいけないように、読者への裏切り行為があっては台無しになる。
    その点では、「魔法による代理殺人」という設定が早々に提示されることで、読者に「条件」として提示される。

    そこからは、どのなに魔法の世界を見せようと、本筋はわめて正統派の謎解きミステリーを固持している。

    「デーン人(北方ゲルマン民族 別名ヴァイキング)」
    「十字軍(キリスト教世界)とサラセン帝国(イスラム世界)」
    など、12世紀中世ヨーロッパの世界観を満載した舞台で、正統ミステリーを貫く、米澤穂信氏の手腕が、この本の興味を引くところとなる。

    その一つは、魅力のある登場人物が活躍するところ。

    ミステリーにしてもファンタジーにしても、登場人物に魅力を感じなければ、読書は楽しくない。
    主人公たち、傭兵たちの活躍は、夢中で読み進める原動力となった。

  • 12世紀頃。ブリテン島の東の海に浮かぶ島が舞台の、ファンタジー風味ミステリ。探偵役と助手役が登場して殺人の犯人を論理によって見つけるお話し。登場人物がおもしろい。領主と娘、彼らに仕える人々、盗賊まがいの騎士、弓使いの兄弟、異国の女戦士、伝説を唄う吟遊詩人、青銅の巨人を連れた錬金術師、塔に幽閉された不死の人… 。探偵役と助手は魔術を使う暗殺騎士を追ってきた遍歴の騎士と年若い従者。語り手は才気煥発な領主の娘。
    青銅の巨人や不死人などが居るなんて、楽しくてしょうがなかった。巨人の出番は少ないけど(笑) 呪われたデーン人が襲撃してくる下巻では戦闘シーンの迫力もすごい。

    作者さんもリスペクトという名作の修道士カドフェルシリーズとだいたい同じ時代。この「折れた竜骨」は話題の作家さんのずっと前に出た本だけど、カドフェルシリーズが好きなので手に取ってみた。軽めの文体で読みやすい。カドフェルでお馴染みの「晩課の鐘」が出てくるとふふふっとなる。

  • とても面白かったです。
    戦闘シーンがあってよかった、無ければひたすら事情聴取していく謎解きで終わっていたと思う。戦闘があってやっとファンタジーと言われる部分がリアルになったように思う。
    このルールが先行したファンタジー設定、米澤穂信は日常ミステリーの方が好きだなーと思った。

  • 論理的に謎を解決するのが醍醐味であるミステリーにおいて、"魔法"が登場するというのは本来ありえない。
    しかし、その魔法は誰が使えるものか、どのような効果をもたらすのか、ということが明確に記されていれば、"本格ミステリー"として成り立たせるのは可能である。
    本作はまさにその、特殊設定ミステリーの代表作であるといえる。

    そして犯人当てだけでなく、戦闘シーンの描写もなかなかに迫力がある。

    日本推理作家協会賞受賞に納得。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年『氷菓』で「角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞」(ヤングミステリー&ホラー部門)を受賞し、デビュー。11年『折れた竜骨』で「日本推理作家協会賞」(長編及び連作短編集部門)、14年『満願』で「山本周五郎賞」を受賞。21年『黒牢城』で「山田風太郎賞」、22年に「直木賞」を受賞する。23年『可燃物』で、「ミステリが読みたい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「このミステリーがすごい!」でそれぞれ国内部門1位を獲得し、ミステリーランキング三冠を達成する。

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