真実の10メートル手前 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
3.84
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本棚登録 : 1268
レビュー : 119
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488451097

作品紹介・あらすじ

高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの大刀洗と合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める。大刀洗はなにを考えているのか? 滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執――己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、大刀洗万智の活動記録。「綱渡りの成功例」など粒揃いの六編、第155回直木賞候補作。

感想・レビュー・書評

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  • ジャーナリスト太刀洗万智の短編集。様々なストーリーが楽しめる。各話とも、事件の表層に隠れる真実を、太刀洗が鋭い推理力で明らかにしていく。
    事件に感じる若干の違和感を、早く払拭したくなり、どんどん読み進めてしまった。

    単なる謎解きに収まらず、ジャーナリズムとは何か、真実とは何か、様々なテーマが含まれていて、考えさせられるストーリーだった。

  • ダ・ヴィンチで米澤穂信さんと星野源さんの対談を読んだことがきっかけで「満願」を先に読みました。とても面白く、他の作品を読みたくなり次に手に取ったのが本作です。
    タイトルにひかれました。

    記者の太刀洗万智が登場する短編6作ですが、他者からみた太刀洗万智が描かれているところが、とても面白かったです。

    語り手が違うと、同じ人物でも少し違ってみえてきます。
    それは物事もそうで、情報の組み立て方や順番が違ったり、それをどの方向からみるかで、こんなにもいくつもの「真実」が出来上がってしまうのか、と読みながら驚きました。
    当事者でさえも、真実がみえているかというと、そうではないのです。

    日々のニュースはあたかも真実のように報道されますが、それはあくまでも一つの方面からみたものなんだ、と思って読むことが大切だと思いました。
    思い込むことの怖さを、ひしひしと感じる小説です。

    太刀洗万智が「記事を書く」その根底にある彼女の思いを察すると、なんだか切なくなります。

    次は「王とサーカス」か「さよなら妖精」を読みたくなりました。

  • 太刀洗万智を主人公とした短編集。短編ミステリーなので、アンティパストを楽しむ感じ。こういう小皿ミステリーをサクっと出せる作者の力量。改めて米澤ミステリーを読めるありがたみを感じる。

    しかし、ジャーナリストってヤツは本当に因果な商売で、志とそれを忘れない強い意志をもっていないと、たんなる死肉あさりになってしまう。テレビでも雑誌でも、こんな報道や記事になんの需要があるのかと思うような、くだらないうわさ話があふれかえっているのを観るにつけ「こんなことに費やしてる時間はない」と思ってしまう。

    太刀洗万智のようなジャーナリストば多く増えてくれれば、日本のマスコミもニュースの質も少しずつ変わってくれるのだろうけど。

  • 真実の10メートル手前/正義漢/恋累心中/名を刻む死/ナイフを失われた思い出の中に/綱渡りの成功例

    辿り着いた真実はそこにある…でも もう 届かない
    自分は絶対に正しい…その自信は でも 正しいのか
    こいがさね での心中…その裏には あぁ 醜い
    独居老人の孤独死…身勝手な人の残した物は 不要
    記憶の中の温かさ…守りたい この身を挺しても
    救助された老夫婦…その後ろめたさをほぐしてあげたい

  • フリージャーナリストになった太刀洗万智さんが、取材を通して事件の裏にある真実を解明する短編集。
    スクープのためでなく、また警察に協力するわけでもなく、ただ真実を知ることのみを目的として精力的に動く姿は孤高の存在感があります。
    作品中で太刀洗さんはプライベートの人間関係を全く見せず、また何度か縁がある人物と会った時でさえも殆ど感傷を表さない。これほどの厳しさを身に付けるまでに、いったい彼女に何があったのだろうかと気になります。

  • 久しぶりの米澤作品。これまで古典部シリーズ、小市民シリーズとほのぼの系のイメージ。
    さよなら妖精も読んではいたけれど、かなり前過ぎて太刀洗さんの印象はほとんどなかった。
    王とサーカス、悩んで短編から手に取ったけど、良かった。こんな深いミステリのその先に触れて、胸にずっしりきた。
    そして、一気に太刀洗さんに惚れた。
    これで、王とサーカスが楽しみでしかたなくなった。
    ちょうど読み終わり間際に、雑誌ダヴィンチで星野源さんと米澤さんの対談が。
    源さんも太刀洗さんを絶賛してたのが、なんだか嬉しかったな。

  • 「真実の10メートル手前」
     米澤穂信作品を読むようになったのは、「追想五断章」や「儚い羊たちの祝宴」を読んで、良質の短編、良質のダークミステリだったからだ。この2作品は、現実と夢想が交錯するような感覚に浸ることができた。
     米澤穂信の短編集で、ミステリ色の強い作品で、文庫化されていること。それを条件に捜してめぐり合ったのが、本書だ。先の2作品とは違い、現実感があるミステリだった。
     本書では、主人公のジャーナリスト・太刀洗万智が様々な事件と出会い、わずかな気付きから鮮やかに真相にたどり着く。太刀洗の観察眼や謎解きの手腕は見事だ。太刀洗が本書で出会うのは、失踪、心中、孤独死、親族殺人、災害といった、地味なものから派手なものまでバリエーションに富んだ事件の数々。数日間はTVを騒がせるだろうが、その後はもっぱらネットの世界で好き勝手な噂が氾濫し、翌年にふと「そういえばそんなこともあったな」くらいに思い出されそうな事件だ。
     事件の謎解きも楽しめるのだが、とにかく太刀洗という女性が魅力的だ。知的で凛として社会性はあるが、人情味に欠けて見える。ジャーナリストとして清廉な矜持を持つと同時に、狡猾でずる賢い。彼女のジャーナリズムはまっすぐな正義感ではないし、ただ事実をありのまま聴衆に伝えることでもないように思う。当然、エンターテイメントでもない。太刀洗のジャーナリズムは、出来事を「太刀洗万智」というフィルターを通して観たときに映る、真実を伝えることなのだと思う。ジャーナリズムとはそもそもそういうものなのだろうか。私は門外漢なので専門的なことはわからない。しかし、「太刀洗万智」という魅力的な一人の女性ジャーナリストを通して観るから、一つ一つの事件が面白いと感じられるのだと思う。
    本書の中で私が好きなのは、「正義感」と「ナイフを失われた思い出の中に」だ。ストーリーや登場人物が気に入っていた。後になって「さよなら妖精」を読んで知ったのだが、どちらにも「さよなら妖精」にゆかりのある人物が登場する。「正義感」には太刀洗と同級生の守屋が。「ナイフを失われた思い出の中に」はマーヤの兄が。そういった繋がりを知って、改めて本書を読み直せるのが楽しい。

  • 〇 総合評価
     米澤穂信らしい,ひややかな手触りの短編集。どの作品にもちょっとした推理要素,ミステリ要素はあるが,それ以上に社会,世間のいやらしさが込められているように思う。真実の10メートル手前では,太刀洗自身も「いい子ね,とってもいい子」と言っていた早坂真理という女性が自殺するという終わり方をする。作品としては,自殺を試みたが,太刀洗が早坂の行方を推理により割り出し,早期に救出したから助かったという話にすることもできたはずである。むしろ,そういう筋書きにして仕上げる作家の方が多いのではないかとすら思う。しかし,そうしない。午前1時には死んでいたというやるせない。そうすることでなんともいえないいやな終わらし方をしている。これが米澤穂信の味だろう。ナイフを失われた思い出の中には傑作と言えるデキ。これは太刀洗に対してマーヤの兄が感じた誤解を解くという終わらし方でありながら,その筋書きが米澤穂信らしいブラックな逸品。ミステリとしての仕掛けはそこそこだが,全体の雰囲気が非常に秀逸。姉を思う良和という少年の手記,その手記から感じられる良和の心境は,昔の猟奇的なミステリの雰囲気すら感じさせる。綱渡りの成功例はやや物足りないデキだったが,全体の完成度は安定している。トータルのデキは★4で。


    〇 真実の10メートル手前 ★★★★☆
     太刀洗万智が後輩記者の藤沢吉成と経営破綻したフューチャーステアの社長の妹で広報だった早坂真理の取材のために真理の甲府に向かう。それは真理の妹から不安を感じさせる電話があったという情報を得たからだった。電話の「おばあちゃんち」という情報と「タイヤがこんなだから」という情報から雪が降る甲府にいるのではないかと疑う。「うどんみたいなの」という情報からほうとうを出す店を疑い,「言葉が上手くて…」という情報から外国人に介抱されたと疑う。ほうとうを出す店で,太刀洗は,「はい」の使い方やチップを受け取ったという行為から,一見日本人に見えた店員が外国人=フィリピン人だと見抜く。フィリピン人のフェルナンドから早坂の行先が河原だという話を聞く。河原に着くと自動車が止まっていた。カメラマンの藤沢が望遠レンズで10メートル手前から車を見る。その自動車には目張りがされていた。ほかの人の通報で救急車が来るが,真理は車の中で自殺をしていた。。早坂真理の居場所を探すところでしっかりしたミステリを描きつつ,フューチャーステアという会社の社長早坂一太と真理の存在に余韻を持たせた,なんとも言えない冷ややかな終わり方,やり場のない終わり方で終わる短編。さすがの短編後者と思われる十分なデキ。★4で。


    〇 正義感 ★★★★☆
     人身事故を目撃した男性の目線から描かれる作品。人身事故現場で卑しい笑みを浮かべて取材をする女性。結果的には,視点として描かれている男性が殺人犯であり,電車内で迷惑な行為をしていた男性を突き落としていた。そのことを察知した太刀洗万智が,囮として卑しい取材をする。太刀洗と一緒にいた男性は「さよなら妖精」の主人公である守屋路行だと思わせる描写がある。非常に短い作品だが,「目の前で事件に遭遇したことを喜ぶ気持ちは,全くなかったと言えるのか?」という太刀洗万智の気持ちを表す描写など,インパクトに残る作品。「さよなら妖精」は読んだのだが,守屋にあまり深い印象は残っていない。守屋に深い印象が残っていればもっと印象深い作品になっていたかも。太刀洗万智が事故ではなく事件と見抜いた点などミステリとしての部分のあって,及第点以上の出来だと思う。★4

    〇 恋累心中 ★★★☆☆
     桑岡高伸と上條茉莉という高校生二人が心中する。フリーの記者の都留正毅という人物目線で話が描かれる。太刀洗万智は取材コーディネーターとう位置付けで取材絡む。太刀洗は議員に発火装置が送られた事件の取材に来ていた。遺書が書かれたんノートには「たすけて」という文字があった。ビジネスホテルの会議室で,高岡と上條が通う高校の教師を取材。下滝誠人という1年前に上條のクラスの担任だった国語教師。次に,春橋真という部活の顧問である物理の教師を取材する。上條は妊娠ており,その父親は身内。桑岡はそれを糾弾しに行くがやり返され,誰も味方になってくれなかったので心中したという筋書き。「たすけて」の文字は死に至るまで非常に苦しむ黄燐を含毒したため。あまりに苦しむ姿を見て桑岡は上條を刺し,自分は河に飛び込んだ。黄燐を毒に進めたのは下滝。下滝は議員に発火装置を送付した犯人だった。一見,春橋を犯人だと思わせる描写があるところがポイント。これもしっかりまとまった作品。サプライズはそれほどないが,短編ミステリの教科書のような存在。優等生過ぎてさほど面白みがないのが難点か。★3で。


    〇 名を刻む死 ★★★★☆
     檜原京介という中学生の視点で描かれる。檜原が住む家の隣人である田上良造という老人が死亡する。檜原は死体の第1発見者。田上が死の前に給料はいらないので会社に雇う形にしてほしい。無色では死にたくないといっていたことを聞き,田上の死を察していた。田上の整然の新聞への投稿や田上の息子への取材などが描かれる。檜原は田上の息子への取材に同行する。死に至る者の願いを聞き入れなかった父親に対する感情,何もできなかった自分への思いなどを持つ檜原に,太刀洗は「田上良造は悪い人だから,ろくな死に方をしなかったのよ」と告げる。これも米澤穂信らしいなんとも言えない冷ややかばミステリ。田上良造という老人が生前,問題がある人物だったのは確かなのだろうが,死亡した人を悪く言わない文化であり,何かしてあげたかったと思い悩む少年に辛辣な言葉を伝えるラスト。現実的と言えば現実的でインパクトに残る作品である。★4で。

    〇 ナイフを失われた思い出の中に ★★★★★
     「さよなら妖精」のヒロイン,マーヤの兄の視点で描かれる。マーヤの兄ヨヴァノヴィッチが来日し,妹の友人だった太刀洗に会いに来る。ヨヴァノヴィッチは太刀洗の取材に同行する。太刀洗が取材する事件は松山良和という16歳の少年が松山良子という姉(20歳)の娘である松山花凜を殺害したとされている事件。ヨヴァノヴィッチは祖国に取材に来て,一方を悪人と証明するために取材をしていた記者に対し不信感を得ていた。太刀洗に対し,どうして自分の仕事を正当とし,誇りにすることができるのか,と尋ねる。太刀洗は公表された松山良和の手記をヨヴァノヴィッチに見せる。太刀洗は手記が加工されずに公表されなかったことが問題だと言う。ヨヴァノヴィッチは太刀洗に,記者の仕事は「目」の仕事だという。そのヨヴァノヴィッチに対し,太刀洗は真実を明らかにすることは「目」の仕事ではないという。太刀洗は,手記の記載をもとに,歩道橋で凶器を見付ける。また焼け落ちた図書館で花凜のパジャマを見付ける。良和は姉の良子を庇って犯人になろうとした。しかし,無実罪で裁かれる恐怖から手記に真相を明らかにする凶器とパジャマの隠し場所を示した。太刀洗は,本当犯人は,良和と良子の父ではないかと推理する。太刀洗は,良和の無罪の告白であるはずの手記が,良和の異常性の証明の道具とされたことについて不愉快に思っていたのだろうとヨヴァノヴィッチは言う。そのような手記存在したのは事実だというのは「目」の意見。太刀洗は良和の気持ちを救おうとして記事を書こうとしていた。ヨヴァノヴィッチは太刀洗と一緒に晩餐をし,妹のことを聞こうとする。「さよなら妖精」のヒロイン,マーヤの兄が登場する。描かれている事件は少年による姪の殺害。しかも姉を庇っている。真相はきょうだいの父が犯人というインパクトのある事件。良和の手記に込められた無罪のメッセージ。非常に完成度の高いミステリだと思う。★5で。

    〇 綱渡りの成功例 ★★☆☆☆
     長野県南部を襲った水害。太刀洗の大学の後輩の大庭がいる村で戸波夫妻がレスキューに救出される。戸波夫妻は,息子夫婦が置いていったコーンフレークを食べて命をつないだという。「葉が悪いもので参ったが,待っているに食べやすくなった」という報道。太刀洗は,戸波夫妻への取材をする。大庭も取材に同行する。戸波夫妻が避難している公民館に行き,戸波夫妻に「コーンフレークになにをかけたのですか」と聞く。戸波夫妻は牛乳をかけたという。戸波家の電気は止まっていた。戸波夫妻は,崩壊した隣家の原口夫妻の家の冷蔵庫に牛乳を入れ保存していた。戸波夫妻は,原口家の冷蔵庫にあったほかの食料は食べていないという。太刀洗は,戸波夫妻が原口家の食べ物を盗んだという噂が出るのを防ぐために,真実の記事を公表するという。太刀洗は大庭に「今回は運がよかった」という。太刀洗の記者としての姿勢がよく出た作品だと思う。とはいえ,やや筋書きの弱さは否めない。このような状況で隣家の冷蔵庫を使ったことに戸波夫妻がここまで気を病むのも不自然だし,仮に戸波夫妻が原口家の冷蔵庫の中身を食していても,この状況なら緊急避難だと感じる。世間から批判を受けるとは思い難いような気がする。★2かな。

  • なんともモヤモヤした思いが残る。
    一筋の光明があるものもあれば、全然救いがないものもあり。。。

    短編集なのに物足りなさがなく、楽しくは読めないけど、いろいろな想いをしながら飽きずに読めた。

    とてもいい作品。
    米澤さんの作品はやっぱりいい。

  • 敏腕女性記者の仕事をそれぞれの関係者の視点で成り行きを見届ける短編集。敏腕だけどガツガツしてないところがとてもクール。真実の10メートル手前、というタイトルも納得。

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著者プロフィール

1978年岐阜県生まれ。2001年、『氷菓』で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞しデビュー。11年『折れた竜骨』で日本推理作家協会賞、14年『満願』で山本周五郎賞を受賞。『満願』は同年の年間ミステリランキングで三冠をとるなど、話題を呼んだ。近著に『王とサーカス』『真実の10メートル手前』『本と鍵の季節』などがある。

「2019年 『いまさら翼といわれても』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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