- Amazon.co.jp ・本 (472ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488451103
作品紹介・あらすじ
2001年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、編集者から海外旅行特集の協力を頼まれ、事前調査のためネパールに向かう。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を送ろうとしていた太刀洗だったが、王宮では国王をはじめとする王族殺害事件が勃発。太刀洗は早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり……。『さよなら妖精』の出来事から十年のときを経て、太刀洗万智は異邦でふたたび大事件に遭遇する。
感想・レビュー・書評
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太刀洗さんについては「さよなら妖精」で見せた「当事者でも無いのに深入りすることへの姿勢」が頭にあり、あの子しか出てこないけど「深入り」するのか?しかも記者だし…と、どうなるのか、彼女に何があっても記者の道を進んでいるのか気になる。
王族が殺される事件が発生する。
読み進めると、それとはまた別に起きた殺人事件を追うことになる。
なんだか思っていたのと違うかも…
と不安になりながらも異国の描写に飽きずスラスラ進む。
そして記者として、取材される側にとっては不祥事、恥であるニュースを自国に伝えることの意味について事件の関係者問われることになる太刀洗さん。
ここら辺の葛藤は読んでて唸る。
日々起こる悲劇のニュースを受け取る、聞き流して生活する自分、見えている部分は取捨選択された後の状態であり裏側にはまた別の真実があるかもしれない。人間もまた同じ。
でも(サーカスで次に何が起こるのかを楽しみに待つように)悲劇を消費している。
だんだん思っていたのと違う方に進むなと思ってしまっていた心
あらすじにはちゃんと書いてあるのに
「王族の死を探偵が解決!」みたいなエンタメを期待する心こそ
「サーカスを待つ人」そのもの…
こういう違和感も気付いてるはずなのにどこかに流してしまっている。
三崎亜記さんの「となり町戦争」にも通ずる。
記事を執筆することに向き合う(そして推理する)場面は、少しだけ前作の主人公と重なって、大人になった姿に切なさを感じつつ太刀洗さんのプロ意識に敬服…
毎度のことだけど、米澤穂信さん
真相が切ない、哀しいの多いですね。
メモ:「先人や競合がいる中で自分がなぜそれをするのか」については重要なひとつの解釈を頂いた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
面白い、文句なく★5
女性フリーライターがネパールでの現地調査の最中に、国王の殺害事件が発生。デモ現場やインタビューなど、ルポ取材に奔走する主人公の目の前に、突如死体が現れる。その死体はインタビューした男だった。
事件発生は中盤にも関わらず、序盤から引き込む引き込む。ぐいぐい読んでしまいます。ネパールの情景や混とんとした街並みが目に浮かびます。
米澤穂信の文章はいつも美しく、読んでいて日本人に生まれてよかったなぁと思わされます。本当にキレイ。
主人公のライターとしての葛藤や生き様が荒々しくも繊細に描写され、その他の登場人物も全員が生き生きとしています。
テーマとなっているジャーナリズムも、飽食な情報社会を皮肉っています。単なる見世物として扱ってしまい、自身が熟慮して行動ができているかを考えさせられました。
ミステリー要素も論理的で納得性が高く、犯人や真相の意外性も一級品。ホントにほめる要素しかない。
トリック一発、叙述トリックをひねくり回すのではなく、ミステリーの総合力がスゴイ。万人におすすめしたい作品でした。 -
これは、よかった!
メッセージ性が強い作品。
ジャーナリズムとは?
新興国支援とは?
こういったメッセージ性をもったミステリーは好きです。
ただ、残念だったのは、主人公の太刀洗万智は「真実の10メートル手前」という作品で描かれているとのこと。そっちを先に読めばよかった。
ストーリとしては、
海外旅行特集の事前取材のため、フリージャーナリストの万智はネパールのカトマンズのトーキョーロッジへ。
そこで知り合ったのが、日本人僧侶の八津田、アメリカ人大学生のロブ、インド人商人のシュクマル、女主人のチャメリ。そして、土産物売りの少年サガル。
サガルをガイドにカトマンズを取材しようとしていたとき、王宮にて、国王殺害事件が発生。
日本と連絡をとり、急遽、この事件の取材を開始。
そして、チャメリの紹介で、事件当夜、王宮にいたと思われるラジュスワル准尉と面会が叶います。
ラジュスワル准尉から事件の真相を取材しようとしますが、ラジュスワル准尉は取材を拒否。そして、彼の発する言葉がジャーナリズムの神髄を震わせます。
伝えるということ?
真のジャーナリズムとは?
さらに、その面会の後、ラジュスワル准尉は何者かによって殺害。
誰がラジュスワル准尉を殺したのか?
そして、明らかになる真相
ジャーナリストとしての矜持
さらにその事件の奥底にあった真実、想い、悪意...
それがとても重い...
ラジュスワルが発したメッセージ
スワルの発したメッセージ
が刺さります。
これは、お勧め! -
新聞記者をやめフリーライターになった太刀洗万智は、事前取材のためにネパールのカトマンズにやって来る。トーキョーロッジ(この名前は後で意味を持ってくる)という宿で、アメリカ人のローバート・フォックスウェル、インド人のシュクマル、僧侶姿の日本人の八津田、宿の女主人のチャメリ、観光客相手の物売りの少年サガルと交流をしていくのだが、この辺りの描写がごく自然な感じでとても上手い。このまま事件が起こらなくて旅行記となってしまっても、充分面白いのではないかと思わせる。読む楽しみが堪能できるのだ。
しかし、王族一家殺害事件が起こり、大刀洗は取材をすることになって、大きく物語は動き始める。そして、情報を得ようと紹介された軍人のラジェスワルが殺され、大刀洗に嫌疑がかかる。これらの事件の中で、大刀洗はジャーナリズムの意義への疑問を突き付けられ、自らの生き方を問われることになる。大刀洗は、ラジェスワルの事件の謎を自ら解決することによって、最終的には自分なりの生き方の回答を見出すことができたのだ。
最後のどんでん返しは、あっと驚くほどではないが、上手く主人公のジャーナリストとしての生き方と関わってくる。ミステリーという形が、いい具合に生かされている。この作者は上手い! -
こういう本に出会えるから読書は止められない。シリーズ長編にして、ジャーナリスト・太刀洗万智の原点となる物語。2001年のネパール王族殺害事件を題材に、遠き異国の地にて問われるのは、報道の矜持。ミステリーやサスペンスに分類される本書だが、太刀洗万智の立ち振る舞いはハードボイルドを強く匂わせる。ネパールの空気を肌で感じられるかの様な描写力も圧巻。人は物事の【己にとって都合の良い側面】しか見ようとしないが、現世の森羅万象は全て表裏一体。だからこそ、世の理は複雑で残酷。私たちは否が応にもそういう世界を生きている。
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ネパールの王政衰退の中からジャーナリズムを説いた一冊。
軍人や僧侶、スラム街に生きる子供など様々な立場の人たちと出会い触れ合う中でこんがらがった事件が一つの終着点へと導かれていく。
日本とは異なる当たり前、新鮮でした。
もっと色々と書きたいことがある作品ですが、
私の語彙力では足りないのでこの辺りで。 -
女性ジャ-ナリスト・太刀洗万智(タチアライ マチ)が、雑誌社の海外旅行特集取材のためネパ-ルの首都カトマンズに滞在中、国王、王妃ら王族8人が殺害される大事件に遭遇する。千載一遇のチャンスと、早速取材に奔走する彼女の前に立ち塞がったのは、戒厳令下のネパ-ル警察の監視であった。王宮警備の軍人(ラジェスワル准尉)は事件報道を「自分に降りかかることのない惨劇は、この上もなく刺激的な娯楽だ」と言及し、ジャ-ナリストの書くものなど「サーカスの演し物」に過ぎないと批判する。 報道の真の姿勢を問う、骨太の長編小説です。
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2020/01/22読了
#このミス作品3冊目
ミステリーエンタメというよりは
メッセージ性の強い作品でした。
少し重めですが考えさせられます。 -
万智がカトマンズのトーキョーロッジで目覚める冒頭のシーンに怪しさを覚える。国王殺害事件が起こりラジュスワル准尉殺人事件の関係性を想像しながら読んでいきました。ロッジの近所に棲むサガル少年と万智の交流が最後の方で重要になってきます。異邦人の感覚で見るネパールの情景が伝わる。
著者プロフィール
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