オーブランの少女 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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本棚登録 : 1117
感想 : 105
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488453114

作品紹介・あらすじ

比類なく美しい庭園オーブランの女管理人が殺害された。犯人は狂気に冒された謎の老婆で、犯行動機もわからぬうちに、今度は管理人の妹が命を絶った。彼女の日記を手にした作家の「私」は、オーブランに秘められたおそろしい過去を知る……楽園崩壊に隠された驚愕の真相とは。第7回ミステリーズ!新人賞の佳作となった表題作の他、異なる場所、異なる時代を舞台に“少女”という謎を描き上げた瞠目のデビュー短編集。

感想・レビュー・書評

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  • 外世界と遮断された美しい庭園とお揃いのワンピースの少女たち、ヴィクトリア朝時代のロンドンでの女たちの策略、客の少ない安食堂でのトマトのサラダ、昭和の女学生たちの憧れと片想い、凍てつく架空の北の皇国のダークファンタジー。
    まるで、タイムトリップしたかのように、舞台ががらりと変わる短編集でした。
    どれもこれも、ワクワクする舞台設定です。
    舞台は静かに美しく幕を開けていきます。でも、暫くして私は気づいてしまう。美しい物語に潜む花のような甘い毒の香りを。そして、自分がすでにその毒に侵され始めていることに。私の全身にまわった毒は、じわりじわりと効いてきて「深緑野分」を一生忘れられなくしてしまいました。

    中でも『オーブランの少女』は、その中毒性が半端なかったです。
    まず描かれる情景描写に心を奪われます。花々が咲き乱れる庭園の圧倒的な美しさ、少女たちの細い左手首に結ばれた色とりどりのリボン、小さな乳房、汗の玉が弾ける白い肌……まるで西洋絵画を眺めているかのようでした。この美しい景色が迫り来る狂気の世界の色に染まっていく、覚めない悪夢に眩暈が起こります。

    苦い話は甘く、甘い話は苦く……

    「深緑野分」の世界に足を踏み入れてしまったのは私。羽を切られた小鳥のように、もう彼女の毒を知らなかった昨日には戻ることは出来ないのです。

  • 庭園「オーブラン」の管理人が殺された。自殺した妹の日記を元に、少女たちの寄宿学校(サナトリウム)で起こった凄惨な事件を辿る。閉鎖された空間で起こる血生臭い事件に引き込まれる。「氷の皇国」も良い。

  • 重厚なストーリーと、細部までこだわった緻密な描写で定評のある深緑野分さんのデビュー作品集。深緑さんというと長編のイメージがあるけれど、本書はタイトル作品をはじめとする5編の短編小説で構成される。共通項は「少女」である。

    大人でもなく、子どもでもない、どこか不安定な存在である少女。そして、大人の狡知と、子どもの残酷さを兼ね備えた存在である少女。本書は、時代も国も、はたまた住む世界さえ違う少女たちを描き、そのどれも高い物語性を帯びている。さすが深緑さん、デビュー作からしてこれか!

    深緑さんの作品は、不思議とどこか海外文学のような雰囲気が漂う。考証を重ねて構築された世界観がそう感じさせるのか、どこか突き放したような視点がそう感じさせるのか、最新作はこれまでとはまた違うテイストのようなので、読むのが今から楽しみで仕方がない。

  • 『戦場のコックたち』があまりにも印象的だったので、デビュー作もと思い読んだ。
    短編でも巧みな話ばかりでとても面白かった。明るく美しいのに不穏になっていくさまが見事だった。
    表題作『オーブランの少女』がやはり一番。

  • ずっと気にはなっていたけど、深緑さんの作品は初めて読みました。短編集ですが共通点は「少女」が主役。個人的には最初と最後の「オーブランの少女」と「氷の皇国」が印象に残りました。前者はラストがとても怖く、後者は切ないながらも穏やかな時間を感じる作品。どれもとても面白かったです。

  • 深緑先生のデビュー短編集。
    まずそのバラエティ豊かさに驚かされる。第2次世界大戦下のフランス、ヴィクトリア朝時代のイギリス、昭和初期のの女学校の寄宿舎、中世北欧の辺境地と舞台も時代も自由自在だ。飽きることなく読ませていただきました。以下、特に印象に残った感想を

    「オーブランの少女」
    表題作。非常に映像喚起力の高い文章。
    緑の庭園、白い館、マロニエ並木、キングサリの藤棚、白いスカート、青い瞳、赤いリボン、軋む歩行具。
    なぜ海外が舞台?と思いましたが、なるほどこの残酷な世界はフランス郊外がしっくりきます。
    そして残酷な世界には少女達がぴったりなのです。

    「仮面」
    本当に最終番になってから、ただ醜いとされてたアミラの秘密が記述されます。アミラとは決して分かり合えない隔たりを感じました。

    「片想い」
    昭和初期の女学校の寄宿舎が舞台。日本が舞台でも変わらず面白かったです。

    「氷の皇国」
    架空の国の辺境地。時代はわからないけど、多分中世の北欧がモデル(トナカイが住む、白夜と極夜が訪れる地)。最も読みごたえがありました。

  • 「オーブランの少女」☆☆☆☆
     病気を抱えた少女たちが集められるサナトリウム(療養施設)があった。そこでは治療と同時に教育も受けられる。しかし、そこでは少女たちは本名ではなく花の名前で呼ばれ、家族を含めて外界と隔絶された生活を送っていた。
     どうやら施設には秘密があるらしい。安易に人身売買のための施設かと考えたが、それでは説明のいかないことも多い。果たして真相は?
     オーブランの庭園の描写がきれいだった。緑豊かな様子、庭園に差す光。『この本を盗むものは』で見られた色彩豊かな情景描写の原点はここにあったのだな。

    「仮面」☆☆
     主人公の男アトキンソンは医者をしている。ある患者のメイドの妹はとても美しい少女で、彼は恋をしてしまう。そして、メイド姉妹がひどい扱いを受けていることを知った男は主人の殺害を計画する。
     なんとなくオチが読めてしまうのと、悪意に塗れただけの世界が好きになれなかった。

    「大雨とトマト」☆☆
     男が営む飲食店に少女がやってきて、「父を探している」という。男には妻子がいるが、むかし一夜だけ関係を持った女がいて……。
     またもオチが読めてしまううえにイヤミス。

    「片想い」☆☆☆
     主人公の少女は女学校に通っており、同室には同級生にも下級生にも慕われる人気者の友人がいた。二人は親友関係にあったが、友人は何か隠し事をしているらしい。
     オチは読めるが後味は悪くない。

    「氷の皇国」☆☆☆
     ある皇国で、皇位継承権のために皇女が弟である皇子を殺害する事件が起きた。しかも皇女はその責任をメイドや兵士になすりつけて処刑しようとする。弁明しようにも、裁定人となる皇帝もまた傍若無人で、憶測による皇族への反論を許さない。
     皇女が犯人であることが明らかな殺人事件において、禁止カードが多い中でどうやって皇女の罪を明らかにするかと考えるのが面白い。ただ、最終的な解決策が禁止カードの一つで、「実はこれ禁止じゃないんですよね」という感じで出てくるのが納得いかなかった。それでも、閉ざされた国の寒々しい情景は印象に残った。深緑さんにはやはり情景描写が生きる作品を書いてほしい。

  • 「少女」を共通モチーフにした短編集。
    国も時代設定も様々な少女達。
    どの少女も時代の波に翻弄されても、時にしたたかに懸命に知恵を絞り、時代を駆け抜ける姿が清々しく好感が持てた。

    特にヨーロッパの史実にミステリーを組み込ませた表題作と、深緑さんには珍しい日本を舞台にした『片想い』、架空の北国を舞台にしたミステリアスなファンタジー作品『氷の皇国』が面白い。

    『解説』で「ミステリーを、話を進める起爆剤としてとらえている」とする一方で「謎解きよりも、自分のなかの喪失感をどうやって書くか、みたいなところを考えているかも」と語っておられる深緑さん。
    今後は更に、喪失感を深く掘り起こすヒューマンドラマが読んでみたい。
    深緑さんの短編は初めてだったけれど、どの短編も一捻りあってとても面白く夢中になった。
    すっきりとまとまりもいいし深緑さんはこれが3作品目だったけれど今作が一番好き。
    これからもこんな短編集や、長編のファンタジー作品も読んでみたい。

  • あれこれと雑事に時間をとられているうちに、すっかり久しぶりのブックレビューとなってしまいました。。
    手元立て込みやすく、読書すすみ難し……などと、思わずマイ慣用句をつぶやいてしまいたくなりますが、負けずに、めげずに、今年も少しずつ読んで、書いていきたいと思いますっ!

    というわけで、新年1冊目のレビューは深緑野分(ふかみどり のわき)『オーブランの少女』です。
    もともと、皆川博子さんがインタビューで今気になる若手作家として名前を挙げられていて、読んでみたいな〜と思っていた作家さん。
    本屋大賞にノミネートされていた『ベルリンは晴れているか』にもひかれつつ、ちょっと仕事や生活のタイミング的に大作に手を出しにくかったので、短編集・かつ・文庫版と気軽に挑戦できる要素が揃ったこちらから読んでみることにしました。

    書名にもなっている「オーブランの少女」をはじめ、いずれも「少女」が主人公か、若しくは話の鍵を握る存在となっているミステリが集められた本書。
    まず、私、昔からこの「少女」が美しく、儚く、一途でそれゆえ残酷さを発揮する、というお話がミステリを問わず大好きなんです〜〜。
    そして、ミステリは謎解きのスリルも重要だけど、それが展開されるシチュエーションの美しさも大切にしたい派(え? そんな派閥あったっけ、というツッコミはおいておくとして)でありまして。
    なので、その2つがバッチリ満たされた表題作「オーブランの少女」と本書のラストを飾る「氷の皇国」の2編が特に印象に残りました。

    中でも「オーブランの少女」は、冒頭の美しい花園を管理する謎めいた老女2人の描写から、夢のように美しく展開される少女たちの友情物語、そしてやがてそれを侵食する殺人事件と炙り出された歴史の怖さが圧巻で。
    怖い描写の部分が恐ろし過ぎて、これ小さい頃に読んでたら絶対に夢に出てきて困っただろうなーと思いつつ、光あればこそ闇が際立つことも、改めて感じた作品でした。
    そして、「オーブランの少女」も「氷の皇国」も、過酷な少女時代を生き抜いて、歳を重ねた老女の存在が描写されているのがいいな、と。
    若くて、視野が狭くて、感情的にも未熟だった自分を何らかの形で受け止めて、人々から存在を半ば忘れ去られながらも淡々と暮らす老女もまた、「少女」という存在の一つの発展型なんじゃないか。
    勝手な深読みかもしれませんが、人生はやがては実を結んでいくのだという作者のメッセージに思えて、まさに「少女」と「老女」の中間地点にいる自分には、不思議と明るい読後感が残りました。

    次回は長編にも挑戦してみたいと思います。

    • mei2catさん
      わたしもです!
      わたしもです!
      2021/01/23
    • snowdome1126さん
      >mei2catさん
      コメントありがとうございます!
      共通点があって、嬉しいですー^^
      >mei2catさん
      コメントありがとうございます!
      共通点があって、嬉しいですー^^
      2021/01/24
  • 表題作は何かのアンソロジーで読んでいて、昔の映画や少女漫画のようでビンテージ感ある雰囲気にはまった。他の短編も設定はそれぞれなのに深緑さんの色がすごく滲み出ていて良い。

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著者プロフィール

深緑野分(ふかみどり・のわき)
1983年神奈川県生まれ。2010年、「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題作とした短編集でデビュー。15年刊行の長編『戦場のコックたち』で第154回直木賞候補、16年本屋大賞ノミネート、第18回大藪春彦賞候補。18年刊行の『ベルリンは晴れているか』で第9回Twitter文学賞国内編第1位、19年本屋大賞ノミネート、第160回直木賞候補、第21回大藪春彦賞候補。19年刊行の『この本を盗む者は』で、21年本屋大賞ノミネート、「キノベス!2021」第3位となった。その他の著書に『分かれ道ノストラダムス』『カミサマはそういない』がある。

「2022年 『ベルリンは晴れているか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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