戦場のコックたち (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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本棚登録 : 2027
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488453121

感想・レビュー・書評

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  • 第二次世界大戦、アメリカ兵として志願するティムは、味音痴のエドと知り合い技術兵(コック)に所属することになる。戦線に出て兵士として活動しながら、仲間の腹を満たすコックとしても活動する。見下されながらも、祖母のレシピをお守りにして仲間と過ごしていた。

    ノルマンディー作戦や、名前は忘れたけど失敗に終わった壮絶な作戦を実行していたメンツだということにトリハダが立つ。その中で少しホッとするようなミステリーを解決することがティムの心の拠り所だった(実際に答えを出してるのはエドだが)。

    おかしなことに、戦争が結びつけてくれた仲間の絆を感じられた。明日(ていうか今この瞬間)命を落とすかもしれないのに、一緒に過ごしている。極限の中のつながりは早々切れないし、あたたかく残るものもあれば苦々しく引っ掻き傷のようになるものもある。

    ティムの祖母は本当に大事なことを孫に教えて育ててきた。エドもまた本当に大事なことを知って仲間と接してきた。言葉として出てしまったものは取り返しがつかない。言葉を、相手を考えながら私も生きていきたいな、としんみり最後は思ってしまった。

  • 戦争とコック。あまり見慣れない言葉の組み合わせに惹かれて購入しました。コックといえども現場は戦場。激しい戦争の光景に、胸が痛む場面も多いですが、戦争を他とは異なる視点から知れる一冊だと思います。

  • ロシアによるウクライナ侵攻が勃発してしばらく経った時、書店で今読んで欲しい本として並べられていた本作。

    物語はノルマンディー降下作戦で初陣を果たす合衆国陸軍のコック、19歳のティムと彼の仲間たちが戦地で起こる不可解な出来事を謎解いていくミステリー。表紙の絵とあらすじから、もっとポップなものかと思いきや、ずっしりしっかり重い戦争の物語でした。

    前半は比較的ライトで、ティムを始めとするコックたちの日常や戦地での謎解きが楽しいと感じました。ただ後半に進み、戦況が悪化していくにつれ、ティム自身もどっぷり戦争に浸かっていってしまい、こちらも本当にキツかった。ある種ティムたちの成長と青春群像劇のようでもあるが、これは到底青春なんて呼べるものではない。

    著者はこの本を書くにあたって相当よく調べられたんだろうな、と感じるし、圧倒的な筆力で迫るものがありました。

    この現実の世界で、たったいま戦争をしている地域があり、この物語で描かれているようなことが起きているのかと思うと、本当に胸が苦しいです。戦争なんて誰が得をするのか、一部の権利者のために犠牲になるのはいつだって何の罪もない市民です。そして彼らにも彼らのこれからの人生があった。死んでしまったらその人生は続かないし、生きていたとしても戦争が起こる前の自分には戻れない。戦争は人を変えてしまう。

    一刻でも早く平穏な世の中になることを祈ってやみません。

  • 初めはこういった小説をあまり読むことがなく読み進められなかったのですが、中盤以降は登場人物同士の関係性と謎解き要素が面白くなり一気に読み終えました。

  • コックたちという書名で緩い物語だと先入観を持ってしまいますが、様々な戦争の影にあたる部分がしっかり描かれています。

    いい意味でミステリー小説とはあまり感じませんでした。

  • 戦場のコックたち
    第二次大戦、ノルマンディー上陸作戦からはじまる。主人公の語り手はパラシュート歩兵連隊、G中隊隊員で管理部付きコック、後方で料理もするが、戦場にも出る兵隊さんだ。プロローグで主人公の、平和な家庭で生まれ、兵隊に志願し、訓練、コックとなった経緯が人の好さそうな調子で語られる。語り手はノルマンディー上陸作戦から参戦し、戦闘、死に直面する、をくり返し、無謀な作戦で地味に精神を削られていく。カンナで薄く剥ぎ取っていくような。戦友の死がとどめとなり語り手の精神はついに凍りつく。戦場の暴力を、戦争を肯定しはじめる。

    何が堪えるかというと、前半で戦友エドとの謎解きの話が紛れこでんいるからだ。パラシュートの使い道、糞まずい粉末卵紛失事件、奇妙な事件の底に人間くさい動機が横たわっている。軍隊とはいえ人間の集まりであることを痛感させられるのだ。連合軍はドイツの軍事力に勝っていたわけではない。ただ人間を人肉粉砕器に放り込んで、耐えていただけだ。圧倒的な物資量には、人間、も含まれるというわけだ。後半、ジリ貧になる戦闘で壊れていく心を、幽霊という言葉が無慈悲に表していると思う。

    主人公ティムの人間性は壊れたのではなく、麻痺した段階だろうか。戦友の疑惑に対する怒りがティムの麻痺した心を揺さぶる。収容所に送られた戦友を助けるためにティムが取った行動は心を持つ人間のささやかなしっぺ返しだが、とても良かった。最後の、ユダヤ人収容所を目の当たりにした絶望的な光景がまた凄い。まだ底があるのか、というか。暴力が隠された世界に再び戻れるのか、ティムが故郷に帰り着いたとき、思い出したのは「蝿の王」のラストだ。迎えに来た船を見て泣き出す子ども達。

    ティムは子どもではない。絶望も失望も踏み越え、大人になったのだ。エピローグは大人になり老人となったティムと仲間たちの話だ。プロローグとは対になってるんだろう。最後まできっちり面白かった。ありがとうございます。

  • 深緑さんは『ベルリンは晴れているか』に続いて2冊目。発表順からいえば後戻りです。
    部隊はノルマンディー上陸からベルギー、オランダと転戦する第二次大戦末期のヨーロッパ。主人公はアメリカ南部出身の志願兵。銃を持って戦い、食事時にはコックにもなる空挺師団の特技兵(コック)です。
    終戦直後のベルリンを描いた『ベルリン・・』と舞台は違いますが同じような印象を受けます。
    ミステリー仕立てであるところも同じ。5つの各章で戦場の事件の謎解きをしながら、こちらが本題の多くの一般市民も巻き込む戦争の無残さ、次第に戦争の狂気に染まって行く主人公達、さらに人種差別~ナチスのユダヤ人虐殺やアメリカの黒人差別(この時代、まだ白人と黒人は別部隊なんですね)が描かれます。特に戦争の悲惨さ狂気は、あまり情緒的に陥らず乾いた筆致で客観的に描かれるのですが、それが次々に積み重なって深く迫ってきます。
    舞台やテーマのせいもあるのでしょうが、どこか日本離れしています。人物・背景など余りに上手く描かれているので、何か上手い訳者の翻訳小説を読んでいるような気がします。もっとも私は野分さん文体は苦手なのですが。。。

  • ミステリー三賞にノミネートされた作品だが、私はミステリーというよりも心理小説の面を感じた。
    様々な戦場における兵士の心理を描いた作品で、兵士間の連帯感・憎悪や恐怖などがよく描かれていると思う。
    一介の兵士があそこまで戦場の状況を把握できるものかという意見もあるようだが、そういったマイナス点を払拭する作品だと思う。

  • 第二次世界大戦での米国とドイツの戦いが舞台。戦争の残酷さ虚しさ、人の人生や性格をも変えてしまう恐ろしさ。なぜこんなことが行われたのか、改めて考えるきっかけになった。

  • 17歳で軍に志願し、特技兵として合衆国陸軍のコックとなった少年ティム。
    いくつかの奇妙な出来事に見舞われながらも、そこで出会った仲間たちと共にヨーロッパ戦線を駆けていく。

    ミステリ、戦争、青春、グルメと様々な要素を持ちながらも、それらのうちどれでもないと思わせる。
    第二次大戦のヨーロッパにおける合衆国軍というやや遠い話を、映画をみるような鮮やかさで書き出す筆致は流石の一言。
    序盤は後方でコックを勤め、戦場にいながらも戦いから距離のある雰囲気だったが、徐々に凄惨さを増していく様は、主人公と共に戦争に引きずられていく心地がした。

    同作者の『ベルリンは晴れているか』に比べると、ミステリ部分が非日常でなく日常に伸ばされている分、若干のまとまりを欠いたような齟齬を感じる。
    しかし、戦場におけるコック、ヨーロッパ大陸の争いに参加する合衆国という、どこか嵌りきらない視点と組み合わさることによって、いわゆる戦争モノとはちがった新しい作品に仕上がっているように思う。

    巻末の参考文献から丹念に調べ上げたであろうことを信じて読むと、やはりあのころのアメリカは他国より豊かだったのだろうと思わせる場面が目についた。合衆国に帰ってくる場面では、戦争に行く前と変わらない街の風景、平和で清潔で飢えていない人々の様子が書かれている。同時期の日本を思うと、別の時代の風景を描写しているのではと思うような光景だ。
    第二次世界大戦後も多くの戦争を経験することになるアメリカだが、どれも海を越えた先でのことだった。内戦を除くと、アメリカ国内が争いに初めてまともに晒されたのは9.11だろうか。
    物語はベルリンの壁崩壊の1989年で終わっているので、その光景を彼らが目にしたのかは分からない。
    戦争、テロ、ウイルスの蔓延。
    日常と非日常の境なんて非常に曖昧なものだが、最後にエドのメガネがなくなっているのは、それでもしっかり生きていける証だと思いたい。 

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著者プロフィール

深緑野分(ふかみどり・のわき)
1983年神奈川県生まれ。2010年、「オーブランの少女」が第7回ミステリーズ!新人賞佳作に入選。13年、入選作を表題作とした短編集でデビュー。15年刊行の長編『戦場のコックたち』で第154回直木賞候補、16年本屋大賞ノミネート、第18回大藪春彦賞候補。18年刊行の『ベルリンは晴れているか』で第9回Twitter文学賞国内編第1位、19年本屋大賞ノミネート、第160回直木賞候補、第21回大藪春彦賞候補。19年刊行の『この本を盗む者は』で、21年本屋大賞ノミネート、「キノベス!2021」第3位となった。その他の著書に『分かれ道ノストラダムス』『カミサマはそういない』がある。

「2022年 『ベルリンは晴れているか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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