切れない糸 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M さ 3-4)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488457044

作品紹介・あらすじ

卒業をひかえた大学生4年生の新井和也は、東京育ちだが、最新のファッションに興味があるわけでもなく……。そんなある日、クリーニング店を営む父親が倒れ、急遽家業を継ぐことになった。周囲が新しい門出に沸く春、クリーニングの集荷作業でお客さんから預かった衣類から思わぬ謎が生まれていく。失敗を重ねながら、謎を解決するたびに成長する和也。商店街の四季の移ろいと、人情味あふれるキャラクター描写が美しい青春ミステリの決定版。著者あとがき=坂木司/単行本版解説=石川絢士/創元推理文庫版解説=大矢博子

■目次
「第一話 グッドバイからはじめよう」
「第二話 東京、東京」
「第三話 秋祭りの夜」
「第四話 商店街の歳末」

感想・レビュー・書評

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  • 主人公は寒がりの新井和也くん。
    「待ちに待った春の始まり」を「遠距離恋愛の彼女みたいな四月」、秋の気配を感じる九月を「最愛の恋人が去ってゆくようなやりきれなさに襲われる、そんな季節だ」と表現する彼。
    もう、本当にその通り!と彼の手をとってブンブン振り回したくなる。
    寒がりでお洒落じゃない東京都民という点で新井くんを他人と思えない私としては(新井くんからしたら迷惑極まりない話だろうけど)、さらに彼が優しくて働き者なのもとても嬉しくて、ますます応援に力が入ってしまう。
    突然実家のアライクリーニング店で働くことになった新井くんは、困っている人が寄ってくるという天性の素質(?)をフル活用し、頼れるクリーニング屋さんに成長していくのだ。
    実際の謎を鮮やかに解いているのは友達の沢田くんなのだけど、困っている人を助けているのは新井くんだと私には思える。
    「それに多少お金がかかったって、新井くんが来てくれる方がいいし」なんて言われちゃうんだもん。シチュエーションが違ったら告白にしか聞こえないよ、この台詞は。

    そして新井くんのお客さんに対する気遣いは、クリーニング店という仕事にとって1番重要なこと。
    使われている生地と汚れの原因を明らかにして最適な方法で洗うことと、相手がどんな人で何に悩んでいるのかを明らかにしてその人のこれからを一緒に考えることはとても近い。
    彼の天職と言ってしまっていいのではないか。

    これから新井くんがアライクリーニング店でどんな風に成長していくのかとても気になる。
    それと寒さを克服する日が来るのかも。
    解説で待たせ過ぎと指摘されているシリーズ第二弾を私も楽しみに待ちたいと思う。

    • まろんさん
      takanatsuさ~ん!
      ひきこもり探偵シリーズに続き、この本も読んでくださって、うれしい♪
      奥ゆかしくて優しい新井くん、いいですよね~。...
      takanatsuさ~ん!
      ひきこもり探偵シリーズに続き、この本も読んでくださって、うれしい♪
      奥ゆかしくて優しい新井くん、いいですよね~。
      丁寧に、心をこめて仕事をしつつ、お客さんを気遣う。。。
      こんなクリーニングやさんがいたら、ぜったい常連になってしまいます♪

      このアライクリーニングのパートのおばさんの娘のアンちゃんの物語『和菓子のアン』とか
      『動物園の鳥』で、あたりさわりのないことしか言わなかった松谷さんが
      成長した姿をちょこっと見せる『ホテルジューシー』など
      坂木さんの本は、それぞれ繋がりを持ちながら書かれているので
      ぜひぜひ他の作品も読んで、感想を聞かせてくださいね(*'-')フフ♪
      2013/02/25
    • takanatsuさん
      まろんさん、コメントありがとうございます♪
      新井くん、いいですよねぇ♪
      大ファンになってしまいました(笑)

      そうですよね!梅本さん...
      まろんさん、コメントありがとうございます♪
      新井くん、いいですよねぇ♪
      大ファンになってしまいました(笑)

      そうですよね!梅本さんはアンちゃんのお母さんですよね!
      『和菓子のアン』の中に新井さんの跡取りについての会話があるのを発見してにやりとしてしまいました!
      『ホテルジューシー』も含めて坂木さんの本はまだまだ気になる本がたくさんあるので、読むのがとっても楽しみです♪
      2013/02/25
  • 坂木司さんは職業についての描き方が上手だなぁと思いました。
    クリーニング店を継ぐ…というあまり身近にはない題材でしたが、読後はクリーニング店への感じ方が変わりました。
    ミステリー部分も面白い!

  • 「和菓子のアン」の新作が出たことで、平積みされていて、目に留まった。
    坂木司の作品は大体読んでいたつもりだったが、結構前の作品を読んでいなかったことに、ちょっとショック…
    今作の主人公は大学の卒業を控えても、就職先が決まらない商店街のクリーニング屋の息子・新井和也。
    主である父が突然亡くなり、就職先が決まっていなかった和也は実家を手伝うことに。
    御用聞きの中で出会う人々の悩みを、同級生の沢田と一緒に解決していく日常の謎もの。
    10代の頃に、お店の中できちんと洗濯をして、仕上げもするクリーニング店でバイトしていた経験がある自分には、アライクリーニングの様子がとても懐かしく、「うん、うん、そこは要注意だよね」と相槌を打ちながら、読んでしまった。
    坂木作品らしく、悪い人が出て来ない優しい内容。解説にもあったが、続編が出ていないのが不思議。

  • 父親の死をきっかけに、しぶしぶ家業であるクリーニング店で働くことになった和也。しかし、店に携わるプロの仕事やお客さんの反応を目の当たりにして、前向きに仕事に向き合うようになっていく。

    プロの仕事について語る文章が胸を打った。「その道の一番ではないけれど、技能と知識を持った人々。」【プロ】という言葉の持つ完璧なイメージに怖気付いて、いつまでも自分の経験や知識に自信を持てないでいた私に、「それでも、誰かより知っている何か」を持っていることの強みがあることを教えてくれた。

    もう一つ印象に残る言葉は、和也が沢田に対して語っている部分で、「沢田は、関わった人の「その先」まできちんと考えているような気がする。」
    これが、坂木作品を安心して読める大きな理由だと確信した。謎を解いて終わり、ではなく、その後の人々の感情やモヤモヤにも言及し、読者や登場人物を置いてけぼりにしない優しさ。
    それは「切れない糸」だけでなく、他の坂木さんの書くお話にも通じるところ。それをポリシーにしている坂木さんだからこそ、他の日常系ミステリにはない魅力があり、ほっと一息つきたい時に読みたくなるお話が作れるのだと思う。

  • 創元推理文庫、というレーベルからの先入観かもしれませんが、今まで読んできた坂木さんの「お仕事小説」のなかでは比較的ミステリ色が濃いような気がします。登場人物それぞれの人生が主人公の日々の奮闘としっかり絡まり合う展開はお見事で、「切れない糸」というタイトルも舞台がクリーニング屋さんなのも実に絶妙です。

    商店街の下町っぽさ全開も魅力の一つ。こんな町、いまや全国にどれだけ残っているか。それを思うといささか哀しいですが、そんなノスタルジックに浸るのもまた作者の狙い通りなのかもしれません。

    かくいう自分が使っていたクリーニング屋も、先月閉店してしまいました。夏服、どこに出そう…。

  • ミステリの様なお仕事小説の様な。
    商店街にあるクリーニング店が舞台。あまりそういう物語はないから新鮮だった。

    クリーニング店は個人情報の宝庫、と聞いて「確かに…」とちょっと怖くなってしまった。
    チェーン店しか利用したことがないけど、シゲさんの様な腕利き職人さんがいる街のクリーニング店も利用してみたいな。

    人にも動物にも優しい主人公カズと、なんでも客観視してわずかなヒントから読み解いてしまう沢田くんのコンビがおもしろかった。
    続編がありそうな終わり方だけど、まだ出てないのかな?

  • 商店街のクリーニング店を舞台にした、日常に潜む謎を解く物語。父親の突然の死から家業のクリーニング店を継ぐことになった主人公が、周囲の助けを受けながら、成長していく姿が描かれる。通底するのは、生死も含めた人と人の関わり合いの在り方に対する著者の優しいまなざし。人との関係の在り方、人情、友情、そんなものが詰まった爽やかな青春小説。
    ラスト4行に物語の本質が凝縮され、タイトルの意味が明らかになる瞬間がたまらない。

  • 読んでいて、心に明かりが灯るような1冊でした。

    商店街のクリーニング屋さんを舞台にした、日常ミステリーです。

    著者が、“1話限りで去ってしまう使い捨ての人物や「死ねば事件だ」のような話は書きたくなかった”と発言されていたとあとがきにあるように、描かれる人物や日々のできごとに愛情が込められているのがわかります。

    刊行はこちらの方が先ですが、和菓子のアンでお馴染みのあの人も登場します。それは、思わず親しい友人に再会したかのような嬉しさで。

    私、坂木さんの描く登場人物が本当に大好きで、誰も彼もがすごく魅力的なんです。
    「クリーニング屋」という仕事に少しずつ誇りを持って取り組む主人公も大好きだし、義理人情に厚いプロ職人のシゲさんも好き。そして共通するのはみんなとても優しいというところ。
    著者が周りに愛されて育って、それを感謝する気持ちを常に持っていることが伝わってきて、胸が本当に温かくなります。

    さて、ミステリーとしては顧客の個人情報が詰まった洋服等を集荷しながら、謎を解いていくスタイル。
    クリーニング関連の豆知識も知ることができておもしろかったです。
    クリーニングから戻ってきた服のビニール袋は外すこと、というのは知っていましたが、汚れたらすぐに洗えばいい、という素材ばかりでないこと等知らなかったこともたくさん。
    和菓子のアンでは全国のお取り寄せが登場して楽しめましたが、今回は映画が作中でいくつも紹介されます。
    物語の本筋とは違うけれど、読み手には嬉しいおまけをつけてくれるのもすごく楽しめる要因の1つです。

    『バグダッド・カフェ』はちょっと観てみたい。
    故郷らしい故郷がない私は、こういう生まれ育った町、とか、商店街の顔なじみの関係、とかすごく憧れます。
    きっと煩わしいこともあるんでしょうけれど、顔の見える関係が温かいですよね。
    読み終わってタイトルを見ると、改めていいタイトルだなぁと思ったり、次作もとても楽しみです。

  • 坂木司さんは、私が生きていく先々で必要な作家さんだと思う。

    彼の作品のほとんどに共通しているのだが、連作短編として成立している日常ミステリーなのに、その謎を解く主人公らの人生に秘められた謎が明らかになってゆく。

    いや。

    謎解きというシチュエーションの中で出会う人々がいる。そのゆるやかな繋がりの中で頑なな心がほぐれ、抱えていた重荷を肩からおろし、離れても切れることのない大切な人に出会えたことで、新しい自分を手に入れる。

    人は適切な時期に、自分が変わるきっかけとなる人と出会う。私はこれまでの人生で、そのことを学んできた。

    この作家さんの作品に触れるようになって、もうひとつ学んだ。

    自分が変わるきっかけをくれる人もまた、自分との出会いで変わるのだ。

    互いが響き合う。通じる言葉も時間の共有も必要のない、目には見えない「根」を持つ繋がり。

    「切れない糸」というタイトルは、率直なメッセージでした。この作品に出会って、私もカズのような人に拾ってほしいと思い、沢田のような友人を大切にできる人になりたいと思い、シゲさんのような大人に認めてもらえるような人生を送りたいと思った。

    もちろん、クリーニング屋のプロの仕事に初めて触れ、また尊敬する人たちが増えてきた。私には絶対にできないことを、一連の美しい動きで、生きることの一部として当たり前にこなすプロたちは、本当にすごい。

    私の心をほぐし、歪みを直してくれた。素敵な小説。ミステリーは人の心に触れるための道具と心得て、その奥の深みを味わってほしい。

    私はもう、次の坂木作品の表紙に手をかけています。

  • ★3.5
    坂木さんの小説は、一杯のコーヒや一枚のフレンチトーストが素敵なご馳走のように感じるから好きだ。
    ささいなことを素晴らしい1つのように表現するには、それが素晴らしいのだと思わせる雰囲気が必要だと思う。
    そういった小さな魅力を充分に引き出している小説だから、読んでいてなんだか心地いい。
    登場人物も魅力的で、シリーズになるらしいので第2弾も楽しみにしています。

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著者プロフィール

一九六九年、東京都生まれ。二〇〇二年『青空の卵』で〈覆面作家〉としてデビュー。一三年『和菓子のアン』で第二回静岡書店大賞・映像化したい文庫部門大賞を受賞。主な著書に『ワーキング・ホリデー』『ホテルジューシー』『大きな音が聞こえるか』『肉小説集』『鶏小説集』『女子的生活』など。

「2022年 『おいしい旅 初めて編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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