劇場の迷子―中村雅楽探偵全集〈4〉 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M と 2-4 中村雅楽探偵全集 4)
- 東京創元社 (2007年9月28日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (675ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488458041
感想・レビュー・書評
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中村雅楽老シリーズ4作目。恋愛模様を描いた短編が多かったように感じました。シリーズの初めからのおなじみ竹野さん、江川刑事に加えて、関寺真知子という若くて美しくてお行儀の良い雅楽老お気に入りの登場人物も加わり、若くて様子のいいお嬢さんが大好き、という、歌舞伎界の重鎮の雅楽の弱点というか茶目っ気というようなところが描かれていて微笑ましいです。特に「おとむじり」という聞き慣れない言葉がタイトルになった作品が、味わい深かったです。
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もうここまで来るとミステリではないとも思うんだが、ラストのどんでんが趣があって思わず笑ってしまう。なんだかこの頃私は感激した時に笑ってしまうのだ。泣き笑いといってもいい。とりわけおとむじりのラストは素晴らしい。
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鷹揚な「千駄ヶ谷の小父さん」が、意外な〝童心〟をのぞかせる「中村雅楽探偵全集」第4巻。77年から91年にかけて発表された28篇が収録されており、これで「中村雅楽」が登場する短編はすべて出尽くしたことになる。
事件は、劇場やその近辺に生じるいわゆる「日常の謎」がすべて。血なまぐさい殺人などいっさい起こらない。戸板康二の関心は、劇的な事件そのもよりも、歌舞伎役者ら劇を演ずる人間の心の内側のドラマに迫ることにあったのかもしれない。
この第4巻であたらしいのは、若き編集者「関寺真知子」がひんぱんに登場し、中村雅楽にさまざまな影響をあたえるところ。わずか3ページ強で、二人の役者が重ねてきた長い歳月を読者に感じさせる「銀ブラ」、失意の雅楽のために竹野がひと肌ぬぐ「おとむじり」など、これまで以上に地味ではあるが味わい深い小品が並ぶ。 -
日曜日のアリバイ
灰
元天才少女
なつかしい旧悪
祖母の秘密
弁当の照焼
銀ブラ
不正行為
写真の若武者
機嫌の悪い役
いつものボックス
劇場の迷子
必死の声
芸談の実験
かなしい御曹司
家元の女弟子
京美人の顔
女形の愛人
一日がわり
荒療治
市松の絆纏
二つの縁談
おとむじり
油絵の美少女
赤いネクタイ
留め男
むかしの弟子
演劇史異聞 -
とうとう雅楽全集も読み納め。短篇最終巻で、ますます「ちょっといい話」化している。
著者を反映しているという聞き手役の竹野が雅楽の話をきいて、いい話だとしきりに感心するのだが、考えてみれば雅楽の話も戸板が考えているわけで、自分で自分の話をべた褒めしてるってことよね。と思うとちょっとしらける。
といっても、歌舞伎の世界のならわしや、役者たちの微妙な心のあやと芸の話はとってもおもしろい。
「なつかしい旧悪」は、こわーい話であるとともに、嫌い合って別れたわけではない男女の互いの思い遣りと雅楽の羞らいがよい。
「弁当の照焼」も、やはり好きだけど別れた相手への互いの長~い思いの話。
「写真の若武者」は、喜代子さんのお母さんの夫を誇りに思う気持ちがよい。
「女形の愛人」、そうなのか、舞台に出ている間は細君とふしどを共にしないのが、ホントとは…。
「おとむじり」は、いわばワトソン役の竹野の大手柄がほほえましい。この話で雅楽が涙を溢れさすのだが、雅楽もので最後に発表された「むかしの弟子」で、竹野が初めて雅楽の涙を見たことになっているのはなぜ?
「演劇史異聞」は、眉唾な推理が多い気がするが、「異聞」なんだからこんなものか。 -
歌舞伎役者、中村雅楽が解くなぞ。
このシリーズ、最初は殺人事件などなどが多かったんだけど、だんだんそういうのから外れて、日常のちょっとした謎になっている。
まさに北村薫に代表される日常の謎の先駆者といえる。
もう、めちゃくちゃいいですよ。
歌舞伎界という、独特の閉鎖された世界を舞台に、適度に耽美で、でも閉塞的でなく、ユーモアもあって…。まさに「完成された世界」
すべての調和がとれ、すべてのテンポが明確で、終結する、そんな完璧な和音進行を聞くような、安心感と美しさに満ちてます。
でも、垣間見える雅楽の色気とか、茶目っ気とか、またこれがいいバランスなんだ。でもって、上品。
いやあ、今まで雅楽シリーズ知らなくて、人生損したよ、と毎度ながら強く思います。
粋って、大事っすねww -
老歌舞伎役者の粋な推理が楽しめる全集。東京創元社、ありがとう。1から4は短篇で、残る5巻は長編収録。初期は犯罪を取り扱っているのだけれど、後半は「日常の謎」というか、雅楽の人生指南といったおもむき。好きなタイプの短篇なので、読み終わるのが惜しかった。