風少女 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M ひ 3-5)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488459055

作品紹介・あらすじ

父危篤の報を受けて帰郷した斎木亮は、中学時代に好意を寄せていた川村麗子の妹・千里と偶然に出会う。そこで初めて知った、麗子の死。事故死という警察の判断に納得のいかない二人が、同級生を訪ね、独自の調査をはじめると…。赤城下ろしが吹きすさぶ風の街・前橋を舞台に、若者たちの軌跡を活き活きと描き上げた、著者初期の代表作。大幅改稿で贈る、青春ミステリの決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 上州の名物といえばかかあ天下とからっ風。両方を印象的に使って前橋を舞台にしたミステリー。青春ミステリーと紹介されているが、青春ど真ん中と言うようなハツラツさとした明るさではなく、青春のほろ苦い後味と言った感じの重さが行間ににじみ出している。季節のせいなのか、舞台のせいなのか、挫折感を味わった登場人物が次々と現れるからなのか。その全てが理由なのかもしれないが、その重さが作品の魅力を引き出しているのは間違いない。とは言え、最後の別れは明るい青春そのもの。やるせない真相と対称的に予想される未来が、いいスパイスになっている。

  • 樋口氏らしい、いわゆる「青春ミステリ」の作品。
    が、これがデビュー二作目だそうなので、
    「らしい」も何も、ここから始まってるのか。

    主人公の(樋口氏らしくひねくれた)大学生の男が、
    里帰りするところからストーリーは始まる。
    駅で偶然にも「元カノの妹」と出会うことで、
    この帰省が大きく変わって行くこととなる。

    件の元カノは、つい最近事故で死んだと知る男。
    紆余曲折の末に、実は事故でも自殺でもなく
    誰かに殺されたのでは、という疑いで調査を始める。

    樋口氏の特徴として、「肝心なシーンを書かない」
    ということが挙げられるのではないかと思う。

    いざ「誰かと対決する」ことになったとすると、
    相手の元に向かうまでの心象を丁寧に描くが、
    次のシーンではもう何日か経っていて、
    読者は、登場人物の「その後の行動」から
    対決の首尾がどうだったかを類推する。

    そんな「芸風」が特徴的な気がする。

    また樋口氏の「青春もの」は、女の子がいい。
    ひねくれた言動をするのに根は純粋で、
    ある意味「理想のツンデレ」的な(^ ^;
    もちろん、この作品の発表当時には
    「ツンデレ」なんて言葉は無かろうが(^ ^;

    本作では、「東京からそう遠くない地方都市で
    色んな意味で『くすぶってる』連中」が多く登場するが、
    そのくすぶりっぷり、ひねくれっぷりの描写がいい。

    地理的にも人間関係的にも、狭い範囲内で
    密度の高いそんなこんなが繰り広げられていて、
    良くは知らんが「地方のリアル」みたいなみのを
    感じられる気がする。

    もしや作者にとっては不本意かも知れないが、
    ストーリーや「謎解き」よりも、
    地方都市の「くすぶってる」若者の群像劇として
    楽しく読ませていただきました(^ ^

  • 前橋を舞台にした青春ミステリー。

    まあサクッと読めるし悪くはない。軽いタッチだしミステリーとしては謎解きもほとんどないし、設定も普通か。
    元不良少年の主人公がやけにカッコ良くて気障な感じ。
    相手役の高校生の千里の台詞で“お袋”を連発しているのがどうも気になって気になって。
    いくら上州弁とは言え、女子高生がお袋なんて使わないだろう。
    うーん・・・・。

    暇つぶしには良いと思います。

  • 読み始めてものすごい既視感。読み進めてそれは確信へ。
    主人公、斉木亮という名前だけど・・・君、柚木さんでしょう? 絶対柚木さんの学生時代でしょう(笑)。

    解説まで読むと、やはりこの『風少女』の設定は、のちにそのまま『彼女はたぶん魔法を使う』に始まる柚木草平シリーズへとつながる・・・というようなことが書いてあり、ああ、やっぱりなぁ、と思った。
    どことなく感傷的で、それでいて乾いたユーモア。どろどろまどろっこしいのに、青くさい爽やかさ。
    樋口さんのエッセンスがよく出ている作品だと思う。よくも悪くも、気障ったらしくナイーブで、それでいて女の子が可愛い。主人公はヒロインに翻弄されているようで、実は亭主関白タイプだと思う(男は本音を言わない。だから女の方が勝手に腹を立てて決裂する)。

    ミステリーというよりは、青春小説。軽妙な会話を楽しむ作品。

  • 主人公は、21歳の大学生。
     父の危篤の報せに故郷に帰ってきた彼は、そこで初恋の人の死を知らさせる。「奇麗だった彼女は、死んだときも奇麗だったはず」そういった違和感から、死んだ彼女の妹と共に謎を解く。

     デビュー2作目で、再出版にあたり大幅に改稿したそうです。
     
     いやあああああ、よかった。
     この主人公が、21歳なのにオヤジですww 「探偵は今夜も憂鬱」の柚木草平に通じる、軽さと客観性。そして、彼をふりまわす女性陣。
     結局、いい感じのオヤジになる人は、若いときから同じスタンスでいるんだよね。つーのを、つくづく感じました。
     ミステリーとして事件の謎解きうんぬんより、彼をとりまく人間模様などなどを楽しむ小説です。
     妹の桜子(あだ名が<つぼみ>)がいい味だしてます。

     これは、絶対お買い得な本ですよww

     で、樋口有介の魅力とはなになのか、つらつら考えてみた。
     なんせ、これがよかったせいで、またクリックしてしまったもの。この調子でいくと、単行本までコンプリートしてしまいそうだ。

     …客観性と俯瞰、でしょうか。

     人間って、客観的になるのは難しい。とくにミステリーな状況だと、それは不可能に近い。が、樋口有介の作品では、主人公は常に自身を含めて客観している。客観しているといっても、冷たいわけじゃない。
     その自身を俯瞰している視点。
     ある意味、こういう生き方がしたいと思うようなところが、魅力なのかな。

  • 1988年に作家「ぼくとぼくらの夏」で第6回サントリーミステリー大賞の読者賞を受賞し、作家デビューした樋口有介の初期の快作の一つ。
    デビュー作は主人公が高校生のカップルで、1990年に和久井映見主演で映画化されたが、「風少女」は映画化もTVドラマ化もされていないようだ。この作品も映画向きと思うのだが。
    「ぼくとぼくら〜」に比べて爽やかな映画にはならないけれども、映画で見てみたい。
    というのもミステリーではあるけど、中学の同級生の女の子の死の真相を突き止めるために、考えたり行動したりのドラマが面白く描けている。主人公・21歳の大学生、斉木亮の発想やセリフ、言い回しがとても学生っぽくないとか、相方や脇の女の子がいい女過ぎないかなど、謎解きとは特に関係なくもない細かいところがとても面白い。
    個人的に事件の真相とラストのところは、自分の身に起きたとしたら相当辛いけど、かりにそうなったらこのミステリーのように振舞おうというような、イカしたものなのである。ぜひ古い作品ではあるけど映画化してもらいたい。
    ラストはもっとも映画的なので、映像化の場合さらにクールなカットを考えていただければいうことなし。

  • 義父の死の報せを受けて、故郷に帰ってきた主人公。20歳の大学生。幼い頃から好きだった女性が1週間前に死んだことも知る。死んだ女性の妹と同じように事件に疑問を抱き、真相を探る。

    樋口有介さんの代表的作品。
    文章のあちこちから瑞々しい感性が顔を覗かせていた。
    微妙な感情の動き、故郷の閉塞感などの描き方がうまく、著者の表現力、ポテンシャルを感じさせる作品だった。

    登場人物たちの会話。ぎこちないような、それでいてしっくりしているような、ちょっと浮ついた印象。その世代を感じさせた。
    学生時代。挫折と希望。今現在しか見えない者と、漠然とでも将来に目を向けている主人公との対比。同じ場所にいても、生きているところは違うのか。
    1歩、自分のエリアから出ることができれば違った風景に出会えるかもしれない。読みながらそんなことを考えていた。

    ミステリとしては、現在読むとさっぱりしたものにしか感じられない。しかし、主人公と同世代の読者なら、どうだろう。

  • “「マフラー……」
    「君がしてるといい、このつぎに会うまで」”

    斎木亮と、川村千里。
    内容がよかったし、この2人、楽しい。

  • 父危篤の報を受けて帰郷した斎木亮は、中学時代に好意を寄せていた川村麗子の妹・千里と偶然出会う。そこで初めて知った、麗子の死。事故死という警察の判断に納得のいかない二人が、同級生を訪ね、独自の調査を始めると・・・。赤城下ろしが吹きすさぶ風の街・前橋を舞台に、若者たちの軌跡を活き活きと描き上げた、著者初期の代表作。大幅改稿で贈る、青春ミステリの決定版。※林檎の木の道と大まかな設定が似ていて、やっぱり爽やかなイメージでした。読みやすい。人が死んでいるのに全然血なまぐさい感じがない。

  • 毎度のことながら読み始めて2,3行で樋口ワールドに取り込まれてしまうこの心地よさ!ワイズラックの影に見え隠れする微妙な心の揺れ・・読んでいて クスッって笑ってしまうのに読み終えたあとの せつなさは何でしょう? ラストのホームのシーンは何度読んでも『絶対どこかにカメラがあるぞ!』と思ってしまう(笑)

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著者プロフィール

1950年、群馬県生まれ。業界紙記者などを経て、88年『ぼくと、ぼくらの夏』で第6回サントリーミステリー大賞読者賞を受賞しデビュー。『風少女』で第103回直木賞候補。著書に『礼儀正しい空き巣の死 警部補卯月枝衣子の思惑』、「船宿たき川捕り物暦」シリーズの『変わり朝顔』『初めての梅』(以上、祥伝社文庫刊)など。2021年10月、逝去。

「2023年 『礼儀正しい空き巣の死 警部補卯月枝衣子の策略』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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