二島縁起 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488460020

感想・レビュー・書評

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  • ミステリらしい不可思議な謎に加えて、ハードボイルド的な語り口や主人公の周りを固める登場人物たち。さらにアクションや歴史の謎もありと、要素盛りだくさんの秀作。

    主人公は船上タクシーの船長・寺田。五つの島を回って乗客を拾ってほしい。しかし目的地は全員が乗船するまでわからない。しかし別々の島から乗せた乗客たちは、なぜか全員隣島の住人たち。さらに寺田の航路を邪魔する船も現れ……

    冒頭の得体のしれない思惑が見え隠れする、奇妙ながらも魅力的な謎から引き込まれます。船の操縦シーンは臨場感があって、冒険小説を読んでいるようなハラハラ感があります。謎の敵船を振り切るための操縦シーンや、クライマックスの船上シーンなど、とにかく船をめぐっての場面は読みごたえがあります。

    女性陣のキャラも良かった。寺田の助手の弓や、男勝りな同業者の女性船長の越智。別に色っぽい場面があるわけでもないけれど、こうした女性陣たちのキャラクターや、主人公の寺田の距離感なども印象が良かったです。

    あとは離婚して、長年音信のなかった寺田の息子が現れたり、といった場面があるのですが、ここでうじうじと寺田の内心を描くわけでもなく、全体的に見て人間関係の描き方が絶妙に感じました。

    一つ踏み込めば掘り下げられるところも抑えて描かれるため、話のテンポと内面の掘り下げのバランスが絶妙にはまっていました。ページ数があまり多い作品でもないので、どっちかのバランスが崩れると、途端に中途半端な作品になりそう。
    そこをいい意味で登場人物から距離を取って描いているので、要素やキャラが様々に含まれていても、それらが収まるべきところに収まっているように感じたのだと思います。

    そういう意味で非常にまとまりの良かった作品でした。

  • 海洋冒険物+ハードボイルドというのが基本骨格。 海上タクシーという珍しい舞台装置がまず目を引くが、 読後の印象に残るのは、巧みな伏線とミスディレクション、 意外な犯人、明かされる過去の犯罪といった、ミステリ・マナーが実によく押さえられている点だ。そこに父子の相克を絡めるのだから見事なもの。まさにジャンルミックスの好書。

  • 瀬戸内海の島々の歴史を織りこめながらの、サスペンス。世襲から知らず知らずに芽生えていた周囲の悪意。成人式の夜に起きた事件(オタメシ)が明るみになるのではと言う不安。自分の事より 巻き込んでしまった友人達を思っての殺人。かつて限られた島々の土地は少数の者の手に集中しない様に数十年や百年に一度(地坪)と言う制度で均分化されると言う制度で成り立っていたがアウラ衆なる制度と共に消え世襲の様態になっていった。富は強い磁石の様な物。能力や才能等関係なく大きな富を持つものに吸い取られてしまうと言う思い。今は落ちぶれているがかつては分限者だったと言う話をきいた時から始まったのかもしれない。

  • 海上タクシーの船長を探偵役にしたシリーズの一作らしい。所謂パズラーではなく私立探偵小説風の展開。ハードボイルドと言いたいところだが、主人公はタフでもクールでもない。クライマックスは海上での派手なアクションになるので、背表紙の惹句にある「冒険小説趣向」という言い方が出てくるんだろうけど、ならば最後の窮地からは自力で脱出してもらいたい。ただ助けてもらいましたは、さすがに情けない。

  • なんとなく好きです

  • 瀬戸内海の風土の様子が良いアクセントになっており、暖かみのある雰囲気に仕上がっています。
    序盤は海洋冒険小説のようですが、物語が後半に差し掛かると一気に本格ものに様変わりします。島の因縁やアクションシーンもあって読み応えがありました。
    ただ、論理的に犯人を指摘出来ない展開は、本格ものとしてはやや弱いかなと思いました。

  • 瀬戸内海に浮かぶ昔から仲の悪い風見島と潮見島の抗争。
    海上タクシーの船長として生活している寺田が、この2つの島の抗争とその蔭にある歴史・秘密の暗い渦に巻きこまれていきます。

    瀬戸内海に移住し、海上タクシーとして島々をまわる寺田の視点からみる瀬戸内海の様子が美しいです。
    それぞれの島や島民に特徴があり、海上タクシーなど人々の島での生活の様子も興味深い。

    この場所にふらりとやってきた寺田が、海上タクシーの船長としてその日暮らしをしている姿が渋いハードボイルドみたいでかっこよかったです。
    離婚し、離れてしまった息子との会話なんかも哀愁を帯びていて素敵。

    美しい海にある閉鎖的な島の持つ秘密が、怪しく暗い雰囲気を醸し出していて静かな恐怖があり、島の歴史と事件が密接に関わってきて壮大な印象を与える一方で、海上での船による攻防戦が迫力でした。
    冒頭からいきなりある妨害行為、そしてクライマックスの犯人との対決は手に汗握ります。
    ラストの犯人の行動はすごいです。

    雰囲気がとにかく素晴らしく、静と動のバランスがいい良質な1冊でした。

  • 終盤の展開がちょっと物足りない

  • ジャンル分け、という言葉が陳腐に聞こえる上質なエンターテインメント小説。
    海上タクシーの運転手を主人公とし、様々な冒険を繰り広げる海洋冒険小説でもあり、瀬戸内という地域の、江戸時代からの謎を巡った歴史ミステリーでもあり、真相に迫る寺田に犯人の魔の手が次々に迫るサスペンスでもあり、そして過去の駆け落ち事件と現代の殺人事件を巡るハードボイルドでもある。これらが無理なく有機的に融合していて、なおかつ面白い。最後の最後まで飽きさせず、読者を楽しませてくれる。

  • 話そのものはあれっていう感じでしたが、瀬戸内の海と島の雰囲気の描写がすごくいい。

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著者プロフィール

1948年大阪生まれ。広告代理店に勤務。1982年、小説現代新人賞を受賞し作家デビュー。主な作品に、『海賊モア船長の遍歴』『クリスマス黙示録』『仏蘭西シネマ』『不思議島』『症例A』などがある。

「2021年 『多島斗志之裏ベスト1  クリスマス黙示録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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