ルピナス探偵団の憂愁 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
3.76
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感想 : 31
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  • Amazon.co.jp ・本 (297ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488469030

作品紹介・あらすじ

高校時代「ルピナス探偵団」と称して様々な謎解きに関わった三人の少女と少年一人。だが卒業から数年後に、一人が不治の病で世を去った、奇妙な小径の謎を残して-。探偵団最後の事件を描く第一話「百合の木陰」から卒業式前夜に発生した殺人事件の謎に挑む第四話「慈悲の花園」まで、時間を遡って少女探偵団の"その後"を描く、津原泰水にしか書き得ない青春探偵小説の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • ルピナス探偵団第二弾。『ルピナス探偵団の当惑』の時にキャラクターの面白さはもちろん、時代感と謎解きのゆるい感じが何となく好みと思ったが、今回連作短編をこの並べ方にするなんて‥ずるい。もう津原さんの罠にすっかりはまってしまった。

  • 火葬場の風景は意外にのどかなものである。

    山手にあるその場所には、自家用車のない者は大型バスに乗り合わせて行く。
    こぎれいなロビーや親族用の待合室は公共の宿泊施設のようでもある。
    青い匂いのする畳敷きの座敷に上がり、窓側に座布団をたぐり寄せ陣取る。
    天気のいい日などは中庭の緑を眺め、どこかのおっちょこちょいが買ってきたであろう菓子盆の『ハッピーターン』を茶請けに一息つく。
    そうしたら何故か斉藤由貴の『卒業』のワンフレーズが頭に浮かんでくるのだ。

    「あぁ、卒業式でぇ泣かなぁいぃとぉ、冷たい人と言われそぉ」

    目の前の現実と心の回路がうまく繋がらないまま二、三日が過ぎ、ある時、ふと胸の奥を風が吹き抜け、そしてようやく悲しみのようなものが押し寄せてくる。

    日影摩耶が死んだ。
    旧姓京野。前作『ルピナス探偵団の当惑』の主人公の一人だ。

    彼女の「訃報」を聞いたのは数年前。
    にわかには信じ難く、ぼんやりと夢うつつの気分で反芻していた。
    続編『ルピナス探偵団の憂愁』は当時すでに絶版で、中古本を購入する気もなく、いつになるかもわからない文庫化を待ち望んだ。

    昨年末の東京創元文庫からの出版の際には発売日に買った。
    一行目の、火葬場から立ち上る煙を見て、
    「あ、本当に死んだんだなぁ」
    数ページ読んだだけで本を閉じ、積読の山に埋もれさせたまま半年近くが過ぎてしまった。
    このたび、敬愛するブクログのお仲間による『ルピナス探偵団の当惑』のレビューに触発され、ようやく続きを読み始めた。

    摩耶の告別式の日。
    かつての友人は吾魚彩子と桐江泉しかいない。
    刑事である彩子の姉、不二子は職務で多忙を極め、生え抜きのエリートであった庚午宗一郎は現在は警視に昇進し要職に在る。
    祀島龍彦は遠いアリゾナの空の下である。

    摩耶が残した「ルピナス探偵団最後の事件」
    大学時代、ルピナス学園高等部へと遡るそれぞれの事件。
    そしてルピナス探偵団結成への布石とも言うべき「吾魚彩子初めての密室」
    僕は卒業アルバムを紐解くように彼女たちの軌跡を辿っていった。

    小説家、津原泰水の言葉選びの美しさ。
    少女小説、青春ミステリ、数あるその手のジャンルのなかの一作品にみえて細部に宿る魂。
    探偵小説としては、Whodunit(誰が犯人か)Howdunit(どのように犯行がなされたか)よりも Whydunit (なぜそのような犯行に至ったのか)を重視している。
    一見奇怪に思える犯人の行動にも意味がある。
    そこに人間のおかしさ、悲しさ、愛おしさがあらわれる。
    犯人だけではない登場人物たちの血の通った姿が動き始める。

    時間を逆行していく毎に「さして取り柄のない美少女」だった京野摩耶の輪廓が浮かび上がる。
    そして次第にそれはマリア様のような光背に縁取られ、神々しいまでに気高い像を結ぶ。

    亡き友を偲ぶ旅は終わる。
    京野摩耶はいない。
    ルピナス探偵団はもう存在しない。
    それでも彼女たちの友情は永遠なのだ。

    卒業アルバムを閉じる時、ふいに胸を風が吹き抜けた。
    そして何かがこみ上げてきた。
    そんな時、彼女たちなら口ずさむのだろう。
    百合樹の下で口にしたあの言葉を。
    「           」

    風薫る新緑の公園にて読了。
    あなたにも彼女たちの声は聴こえたはずだ。

    • kwosaさん
      アセロラさん

      コメントありがとうございます。

      歳を重ねてくると、親戚が一堂に会する機会も限られてきますよね。
      そして、ひさしぶりに会う甥...
      アセロラさん

      コメントありがとうございます。

      歳を重ねてくると、親戚が一堂に会する機会も限られてきますよね。
      そして、ひさしぶりに会う甥っ子姪っ子の成長に驚いたり。

      アセロラさんからのコメントはいつも嬉しく拝読していますよ。
      これからもお気軽に書き込んでください。
      僕も時々おじゃまします。

      あっ、『ルピナス探偵団』シリーズも、もしご興味があれば読んでみてください。
      2013/06/06
    • まろんさん
      kwosaさん!

      幸せを運ぶというハート型のハッピーターンを袋の中に見つけては狂喜乱舞し
      カラオケでは斉藤由貴の『卒業』を何度歌ったかわか...
      kwosaさん!

      幸せを運ぶというハート型のハッピーターンを袋の中に見つけては狂喜乱舞し
      カラオケでは斉藤由貴の『卒業』を何度歌ったかわからないほど好きな私ですが
      kwosaさんのこのレビュー!
      ぜったいに読むぞ!と意気込んでいたけれど
      もう、読む前からノスタルジーとせつなさがこみ上げてくるような。

      『憂愁』では、ルピナス探偵団の誰かが死ぬ、というのは知っていたのですが
      実は、キリエかなぁと思っていたのです。
      でも、『当惑』の冒頭、「さして取り柄のない美少女」と紹介したところから
      摩耶をめぐる物語の種は蒔かれていたんですね。
      すごいなぁ、津原泰水さん!
      『大女優の右手』でも、Whydunitの切なさ、温かさで心を鷲掴みにされましたが
      この本では、もう戻らない人や時間への想いも重なって
      さらに心を揺すぶられそうですね。
      樹の下で、彼女たちはいったい何とつぶやいたのでしょう。
      早く読みたくてたまりません。
      2013/06/07
    • kwosaさん
      まろんさん!

      コメントありがとうございます。

      そう『ルピナス探偵団の憂愁』の紹介文では「一人が世を去った」としか明示されていません。
      な...
      まろんさん!

      コメントありがとうございます。

      そう『ルピナス探偵団の憂愁』の紹介文では「一人が世を去った」としか明示されていません。
      なので厳密に言えば今回のレビューは「ネタバレ」になるのですが、本書の一ページ目で摩耶の死が明かされているので、このようなレビューを書きました。
      みなさんに読んでほしくて。

      ミステリとしての面白さはもちろんですが、やはり物語世界に引きこまれます。
      軽いジュブナイルのようでいて、人やその関係性の描き方がいいんですよね。
      津原泰水さんって、ミステリは『ルピナス探偵団』シリーズしか書いてないみたいなんです。
      あまり「謎解き」に主眼を置いていないのでしょうが、もっとこういう作品を書いて欲しいです。

      まろんさんの感想が楽しみです。
      この作品についていろいろ語り合いたいなぁ。
      2013/06/08
  • ルピナスシリーズ続編。前作で高校生だった4人が冒頭では大学も卒業し、25歳になっている。しかも、ちょっとショックな始まり方だ。その後、大学生時代の話、高校生時代の話と続く。
    最後の話の最後のシーンは少し泣けた。前作「ルピナス探偵団の当惑」では、いつも一緒にいる事が当たり前の日常。それが大学生を経て社会人になり、当たり前だが個々の生活もあり、なかなか会えない日常へと変化する中でもやはり4人の心の繋がりは強いのだという気持ちを最後のシーンでしっかり感じる事ができた。また、今回登場人物の存在感が確立していて、特に摩耶の姿に深く感動した。

    このシリーズ、凄く好きなので続いて欲しい。彩子と祀島くんの仲も進展があって欲しい。

    • kwosaさん
      taaa('∀'●)さん

      僕も凄く大好きなこのシリーズ。
      おっしゃる通りショックな始まり方に、文庫新刊で購入にもかかわらず、半年間も寝かせ...
      taaa('∀'●)さん

      僕も凄く大好きなこのシリーズ。
      おっしゃる通りショックな始まり方に、文庫新刊で購入にもかかわらず、半年間も寝かせてしまいました。

      でも読んで良かった。
      最後のシーンは泣けましたね。
      思い出を遡るようにして、あの最後ってのは。
      ああ、なんだかまだ胸がいっぱいです。
      2013/06/02
    • taaaさん
      Kwosaさん

      コメントありがとうございます(^-^)

      最初にあの話があって、
      過去を遡る話に続くのがまた良かったですよね。
      自分もルピ...
      Kwosaさん

      コメントありがとうございます(^-^)

      最初にあの話があって、
      過去を遡る話に続くのがまた良かったですよね。
      自分もルピナス探偵団の一員になったような気で読んでいて、
      非常に感慨深かったです。

      また、四人が高校生時代の話を
      読みたいので続編期待しています。
      2013/06/02
  • ああ、本当に大好きで忘れられない物語になった。
    過去へと遡る構成、一作目でははっきりしなかった一人一人の個性や良さがさらに輪郭を増す。
    あの日の誓いのシーンでもう涙腺がやられる。
    素晴らしい青春小説。

    絶対一作目から読んでください。

  • 20190306
    「なんだ」とキリエが威勢よく云うので、得意の八つ当たりが始まるのかと思った。
    なんだ、なんだ、なんだ、なあんだ
    繰り返しながら百合樹の間を歩きまわる。顔を伏しているので表情は見えない。
    「会えたんじゃん」(p77)

  • 再読
    ミステリとしても1巻同様楽しめる上に
    1巻で紹介されたキャラクタたちの青春小説としても素晴らしい至高の傑作
    4編とも文句つけようない結末で完璧というに相応しい


    2014/4/13
    ミステリだとしても許されないほどに卦体な登場人物だからこそある
    不可思議な物語が
    作者の申し分ない技術で描かれる
    そんじょそこらにない特異な青春ミステリ
    読書の楽しさをしみじみ味わわせてくれる

  • 4/8 読了。
    最高の少女探偵小説!「この話が永遠に続いてほしい」と思うような物語の幕引きとして全体の構成が大正解すぎる。ベタの底力を分かってる人の書くベタ展開はなんでこうも泣けるのか。津原泰水すごい。

  • 若干行きあたりばったりだった前作品集と較べ、構成もまとまりもぴかいち。
    レクイエム・フォー・あの頃。
    レクイエム・フォー・摩耶。
    それがぐっとくるのだ。
    「高潔に生きる」。

    また最後の一文でぐいと別の方向を向かせる作者の腕も冴える。

  • お葬式から遡ることで存在感存在の大きさがわかる。
    最後のシーン、美しいですね。


    次が文庫書き下ろしだとうれしいなぁ

  • 時計が逆回りしていく間に、起こった数々のたわいないことが、高潔に生きようとした少女を輝かせる。なんて悲しい効果だろう。

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著者プロフィール

1964年広島市生まれ。青山学院大学卒業。“津原やすみ”名義での活動を経て、97年“津原泰水”名義で『妖都』を発表。著書に『蘆屋家の崩壊』『ブラバン』『バレエ・メカニック』『11』(Twitter文学賞)他多数。

「2023年 『五色の舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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