赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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本棚登録 : 2875
レビュー : 304
  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488472023

作品紹介・あらすじ

"辺境の人"に置き忘れられた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の"千里眼奥様"と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。-千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く一族の姿を鮮やかに描き上げた稀代の雄編。第60回日本推理作家協会賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  •  高校時代にいわゆるスケバンとして、不良たちの間で伝説的存在となり、その後大人気漫画家となった女性の生涯……って気になりませんか?そんな人物がこの小説には出てきます。彼女の名前は赤朽葉蹴鞠です。

     上の話だけ聞くと、たとえフィクションでも「そんなやつおれへんやろ~」となると思います。実際、ライトノベルやマンガのキャラ付けとして表層的に書くなら、なんとかなるかもしれません。でも小説として、そして一人のリアルな人間として、その人生を描くのは至難の業だと思います。しかし、それを可能にしたのが桜庭一樹さんなのです。

     なぜ、そんな破天荒な人生を描くことが出来たのか。それは、蹴鞠が生まれ、そして生きた「時代」の空気感、そしてその前後の「時代」も一緒に描ききったからだと思います。

     この小説の特徴は三世代に渡った小説だということ。彼女たちは大きな製鉄会社の奥様という立場になります。

     彼女たちと時代を描くうえで、この製鉄会社というキーワードも効果的に機能します。高度経済成長で大きく成長しながらも、石油危機や公害問題で縮小や、業態の変更を余儀なくされ、オートメショーン化や産業構造の変化で、職人たちも減り、シンボルだった巨大な溶鉱炉も停止、そして工場の取り壊し……。

     赤朽葉家の製鉄は、一つの時代の始まりと終わりを描きます。

     そして、それと呼応するように、時代の若者たちの意識も変化していきます。働けばその分報われると信じられた高度経済成長期。学生運動が盛んになり、若者たちのうねりが仕事以外に向き始めた時代。

     学生運動の熱も冷め、若者たちのうねりのぶつけどころが無くなった時代。そして、バブル崩壊後の失われた20年、希望や生きる目的が見えにくくなった現代。

     こうしたそれぞれの時代と、その時代を生きた若者たちの空気感を描きったからこそ、万葉の時代も、わたしの心情も、そして蹴鞠の不良時代から、漫画家への転身という破天荒な人生も、時代の要請として描き切ることが出来たのだと思います。

     この話の謎の中心となるのは、千里眼として未来予知ができた祖母万葉が視た空飛ぶ男の謎。でも読んでいくうちに、その謎が吹き飛ぶくらい万葉、そして蹴鞠の人生の濃さに夢中になると思います。(蹴鞠の人生が濃すぎるだけで、万葉の生涯もかなり濃くて面白いです!)

     そして、現代、万葉が死の直前につぶやいた「わたしは人を殺した」という言葉に導かれ、現代の語り手、瞳子は赤朽葉家の謎に向き合います。そして謎の先にあるのは、時代の終わりと、そして未来への小さな決意だと思います。

     この小説の最後の文章って、冷静に読むとちょっと青臭いです。しかし、それぞれの時代のうねりと女性の生涯を読み切ったあとならば、この文章が美しく、そして読者を勇気づけてくれるものになっていると思います。

    第60回日本推理作家協会賞
    2007年版このミステリーがすごい!2位
    第5回本屋大賞7位

  • 借りた本。

    3人とも、魅力的だった。文章も綺麗で、変なひとたちが興味深く可愛らしくて。また、名付けが絶妙。昭和時代のこと、歴史と雰囲気をなんとなく知ることができたこともよかった。

    地方に興味がある。名家はどんな感じかなと気になるし、山の人って今でもいるのかな、というのも気になる。

  • 米子に旅行に行っている間、ずうーっと読んでいた。そして2日で読み終わった。「こんなの、読んだことないっ」という気にさせてくれる面白さ。作中の鳥取弁が、異国の赤い言葉に聞こえる。ここであって、ここでない世界。ようこそ、ビューティフルワールドへ。

    語り手の瞳子の祖母・千里眼の万葉と、母・漫画家の毛鞠。それに比べて、現代の語り手である瞳子の、なんとふわふわと薄っぺらいことだろう。
    そう嘆きたくなるくらい、万葉と毛鞠の時間は謎めいた驚きに満ちている。時代とともに駆け抜けていく彼女たち、しかしそこにはまだ知らないもの、見たことのないもの、そして出会ったことのない人とのまだ見ぬ出会いがある。未知であることが不思議を生み、希望を生む。それらは時に残酷で、恐怖ですらあるけれど……それでも見えないからこそ、立ち向かえることもあるのだと思う。

    わたしたちは、悩み多きこのせかい、広大でちっぽけなこのせかいに生まれた。周りは自分と同じような人ばかり……なんでもできるけれど、特になにもできない。どこに行けばいいの? わたしはこのせかいで誰なの? 
    それでもわたしは、真っ赤なこのせかいで生きていく。せかいは、そう、すこしでも美しくなければ。

  • 最初の一文から心を掴まれた。千里眼の祖母万葉の話が一番好みで面白くてずっと読んでいたいと思った。第二部はコミック的味わいを楽しんだ。第三部、真相はうすうす気づいていたが語り手瞳子の成長物語を楽しめた。

  • やっと、読み終わりました~っ。

    戦後の昭和から平成の今までを生き抜いた、女三代の生き様を書いた小説です。

    あとがきにもあったけど、有吉佐和子さんの『紀ノ川』みたいな感じをミステリー調に仕上げた本だな~。
    でもミステリーというよりは、ドラマを読んでる感じ。

    社会背景を踏まえながら、その時代に生き抜いた女の有様とその女に絡んだ男の生き様をとてもよく表現してると思う。
    物語は一見すると淡々と語られてるように感じるんだけど、要所要所でスパイスが効いてて私は楽しめた。

    私の時代は毛鞠を一緒なんだけど、読んでると万葉の時代がとても面白かったし、この本は彼女を中心に書かれてる気がするな~。
    一番つまらなかったのは、瞳子の時代。

    ミステリーさは、ほんとに最後の方にしか出てこないんだけど、でもこれはやっぱりこの長い前置きを読んでからじゃないと分からないんだな~。
    仮に「万葉が殺した」という死体の正体が早々分かっちゃっても、当人の心理描写や万葉との関係は、最後読むまで分からない。
    なんか、最後は胸があつくなった。
    最後、やられたな~~~。

  • 昔の話でなんだか現実だか幻想だかわからないような不思議な話が読みたい、とつぶやいたら友達が貸してくれた。
    たしかにそれっぽい。
    読みごたえもあって、時々出てくる文章にはっとさせられる。

    あらすじ
    ”辺境の人”に置き忘れられた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の”千里眼奥様”と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。――千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く一族の姿を鮮やかに書き上げた稀代の雄編。

  • 鳥取県紅緑村に構えるお屋敷、赤朽葉家の女3代の物語。
    村の描写や現実の流れ(オイルショック、バブル崩壊、家庭崩壊など)、人物の描写台詞すべてがばちっとはまった感じ。

    昔のジブリ映画観てるような感覚だった。

    物語の強さや現代の物語のお役目など、読みながら考えたこともたくさんあった。

    物語のための物語といったおもむき。

    桜庭一樹は少女向け短編よりも「私の男」とか「赤朽葉~」みたいな濃厚な長編がいいな。

    暗さを持たせずに惹きこむ感じも良かったと思います。

    語り手である現代の瞳子の空虚な感じが暗いといえば暗いが時代背景とのバランスが取れてると思いました。

  • タイトルからも堅苦しそーだなあでも読みたいなあ読まなきゃなあを彷徨ってたこの超大作をようやく読めました。読んで良かった。堅苦しさとはなんのことやったのか。物語への没入のしやさすさ。戦後からの時代背景を詳細に踏まえながら、赤朽葉家の物語は語られます。時代に沿ったり沿わなかったり、旧家の有り様も表現豊かでとても面白かった。

    なにより、文体や語り草にとても笑ってしまう。
    『寝取りの百夜』は腹抱えて笑いました。死に様も全く裏切ることなく、とても良いキャラでした。
    万葉、毛毱、瞳子の3世代がもちろん色濃く強く素晴らしい主人公でしたが、周りを取り巻く女性たちのなんと華やかで可笑しなことか。黒菱みどりがとても印象的です。この女性が出てくるたびに、万葉の少女時代が思い返され、飛行人間の謎をそのたびに思い出してたのですが、これはまた最後に解決されるお話。切なくも、強かった男のお話。

    毛毱とチョーコの関係性はとても儚く、寂しいものでした。チョーコという人間の考え方にはとても共感するものがあり、この陰影な考え方は毛毱が大きく強い赤い光であることを再確認していた。
    だからこそ、毛毱の最後には驚いた。チョーコが迎えに来たのか、毛毱がチョーコを迎えにいったのか。死してなお、胸を打たれた。

    桜庭一樹さんの全体小説、とても楽しませていただきました。流石の一言に、尽きます。

  • 3章で構成された物語ですが、1,2章は独特の世界観で引き込まれます。ところがミステリー小説と思っていたのにその要素が無い?…。3章目で漸くその展開がありました。昭和から平成に生きる女性の愛憎を時に恐ろしく、時にコミカルに描いた作品です。とても面白く印象深い作品でした。

  • 濃密な時代小説を読んでいるようで。
    文字は小さいし分厚いしうーんってなったけど、
    ノリ始めたら止まらない。
    不思議な運命の巡り合わせに翻弄されます。

    毛鞠の話が一番すき。

    赤朽葉家は今も何処かで続いているのかしら。

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著者プロフィール

1999年デビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で第60回日本推理作家協会賞、08年『私の男』で第138回直木賞を受賞。21年2月、小説『火の鳥』刊行予定。

「2021年 『東京ディストピア日記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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