赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
4.01
  • (280)
  • (359)
  • (206)
  • (24)
  • (5)
本棚登録 : 2612
レビュー : 284
  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488472023

作品紹介・あらすじ

"辺境の人"に置き忘れられた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の"千里眼奥様"と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。-千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く一族の姿を鮮やかに描き上げた稀代の雄編。第60回日本推理作家協会賞受賞。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  •  高校時代にいわゆるスケバンとして、不良たちの間で伝説的存在となり、その後大人気漫画家となった女性の生涯……って気になりませんか?そんな人物がこの小説には出てきます。彼女の名前は赤朽葉蹴鞠です。

     上の話だけ聞くと、たとえフィクションでも「そんなやつおれへんやろ~」となると思います。実際、ライトノベルやマンガのキャラ付けとして表層的に書くなら、なんとかなるかもしれません。でも小説として、そして一人のリアルな人間として、その人生を描くのは至難の業だと思います。しかし、それを可能にしたのが桜庭一樹さんなのです。

     なぜ、そんな破天荒な人生を描くことが出来たのか。それは、蹴鞠が生まれ、そして生きた「時代」の空気感、そしてその前後の「時代」も一緒に描ききったからだと思います。

     この小説の特徴は三世代に渡った小説だということ。彼女たちは大きな製鉄会社の奥様という立場になります。

     彼女たちと時代を描くうえで、この製鉄会社というキーワードも効果的に機能します。高度経済成長で大きく成長しながらも、石油危機や公害問題で縮小や、業態の変更を余儀なくされ、オートメショーン化や産業構造の変化で、職人たちも減り、シンボルだった巨大な溶鉱炉も停止、そして工場の取り壊し……。

     赤朽葉家の製鉄は、一つの時代の始まりと終わりを描きます。

     そして、それと呼応するように、時代の若者たちの意識も変化していきます。働けばその分報われると信じられた高度経済成長期。学生運動が盛んになり、若者たちのうねりが仕事以外に向き始めた時代。

     学生運動の熱も冷め、若者たちのうねりのぶつけどころが無くなった時代。そして、バブル崩壊後の失われた20年、希望や生きる目的が見えにくくなった現代。

     こうしたそれぞれの時代と、その時代を生きた若者たちの空気感を描きったからこそ、万葉の時代も、わたしの心情も、そして蹴鞠の不良時代から、漫画家への転身という破天荒な人生も、時代の要請として描き切ることが出来たのだと思います。

     この話の謎の中心となるのは、千里眼として未来予知ができた祖母万葉が視た空飛ぶ男の謎。でも読んでいくうちに、その謎が吹き飛ぶくらい万葉、そして蹴鞠の人生の濃さに夢中になると思います。(蹴鞠の人生が濃すぎるだけで、万葉の生涯もかなり濃くて面白いです!)

     そして、現代、万葉が死の直前につぶやいた「わたしは人を殺した」という言葉に導かれ、現代の語り手、瞳子は赤朽葉家の謎に向き合います。そして謎の先にあるのは、時代の終わりと、そして未来への小さな決意だと思います。

     この小説の最後の文章って、冷静に読むとちょっと青臭いです。しかし、それぞれの時代のうねりと女性の生涯を読み切ったあとならば、この文章が美しく、そして読者を勇気づけてくれるものになっていると思います。

  • 米子に旅行に行っている間、ずうーっと読んでいた。そして2日で読み終わった。「こんなの、読んだことないっ」という気にさせてくれる面白さ。作中の鳥取弁が、異国の赤い言葉に聞こえる。ここであって、ここでない世界。ようこそ、ビューティフルワールドへ。

    語り手の瞳子の祖母・千里眼の万葉と、母・漫画家の毛鞠。それに比べて、現代の語り手である瞳子の、なんとふわふわと薄っぺらいことだろう。
    そう嘆きたくなるくらい、万葉と毛鞠の時間は謎めいた驚きに満ちている。時代とともに駆け抜けていく彼女たち、しかしそこにはまだ知らないもの、見たことのないもの、そして出会ったことのない人とのまだ見ぬ出会いがある。未知であることが不思議を生み、希望を生む。それらは時に残酷で、恐怖ですらあるけれど……それでも見えないからこそ、立ち向かえることもあるのだと思う。

    わたしたちは、悩み多きこのせかい、広大でちっぽけなこのせかいに生まれた。周りは自分と同じような人ばかり……なんでもできるけれど、特になにもできない。どこに行けばいいの? わたしはこのせかいで誰なの? 
    それでもわたしは、真っ赤なこのせかいで生きていく。せかいは、そう、すこしでも美しくなければ。

  • 最初の一文から心を掴まれた。千里眼の祖母万葉の話が一番好みで面白くてずっと読んでいたいと思った。第二部はコミック的味わいを楽しんだ。第三部、真相はうすうす気づいていたが語り手瞳子の成長物語を楽しめた。

  • やっと、読み終わりました~っ。

    戦後の昭和から平成の今までを生き抜いた、女三代の生き様を書いた小説です。

    あとがきにもあったけど、有吉佐和子さんの『紀ノ川』みたいな感じをミステリー調に仕上げた本だな~。
    でもミステリーというよりは、ドラマを読んでる感じ。

    社会背景を踏まえながら、その時代に生き抜いた女の有様とその女に絡んだ男の生き様をとてもよく表現してると思う。
    物語は一見すると淡々と語られてるように感じるんだけど、要所要所でスパイスが効いてて私は楽しめた。

    私の時代は毛鞠を一緒なんだけど、読んでると万葉の時代がとても面白かったし、この本は彼女を中心に書かれてる気がするな~。
    一番つまらなかったのは、瞳子の時代。

    ミステリーさは、ほんとに最後の方にしか出てこないんだけど、でもこれはやっぱりこの長い前置きを読んでからじゃないと分からないんだな~。
    仮に「万葉が殺した」という死体の正体が早々分かっちゃっても、当人の心理描写や万葉との関係は、最後読むまで分からない。
    なんか、最後は胸があつくなった。
    最後、やられたな~~~。

  • 昔の話でなんだか現実だか幻想だかわからないような不思議な話が読みたい、とつぶやいたら友達が貸してくれた。
    たしかにそれっぽい。
    読みごたえもあって、時々出てくる文章にはっとさせられる。

    あらすじ
    ”辺境の人”に置き忘れられた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の”千里眼奥様”と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。――千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く一族の姿を鮮やかに書き上げた稀代の雄編。

  • 鳥取県紅緑村に構えるお屋敷、赤朽葉家の女3代の物語。
    村の描写や現実の流れ(オイルショック、バブル崩壊、家庭崩壊など)、人物の描写台詞すべてがばちっとはまった感じ。

    昔のジブリ映画観てるような感覚だった。

    物語の強さや現代の物語のお役目など、読みながら考えたこともたくさんあった。

    物語のための物語といったおもむき。

    桜庭一樹は少女向け短編よりも「私の男」とか「赤朽葉~」みたいな濃厚な長編がいいな。

    暗さを持たせずに惹きこむ感じも良かったと思います。

    語り手である現代の瞳子の空虚な感じが暗いといえば暗いが時代背景とのバランスが取れてると思いました。

  • 桜庭氏の著作を読むのは、『少女七竈と七人の可愛そうな大人』以来で二作目となります。
    最初に出会った桜庭さんの物語は、何とはなしに浮世離れした、幻想的な雰囲気をまとった作品という印象でした。そして、少しばかり官能的な要素も含まれていたように思います。
    二作目であるこの物語は、あとがきによれば、著者いわく「全体小説」だそうです。つまりは、歴史小説でもあり、家族小説でもあり、恋愛小説でもあり、かつミステリーでもある。そういった趣の長編小説ということです。
    読み終わって、振り返ってみると著者自身が評した「全体小説」とは、まさに言い得て妙でしょう。三代にわたる山陰のとある村に住む本家の大家族を描いた作品ですが、歴史小説としても読めますし、恋愛小説でもあります。どうにでも読めますが、一方でどの既定のジャンルに収めようとしてもそこから逸脱してしまう。そんな不思議な風合いの小説です。それゆえ、桜庭氏の最初に読んだ作品に感じた幻想的なエッセンスも再び味わうことができました。
    長編小説でもあり、一つの作品で実の多くのエッセンスを味わわせてくれます。読み進めていく間にくるくると表情を変えながら、「全体」としては鳥取の村に大きな鉄工所を構える「赤朽葉家」の三代記という通底奏音に乗って、ゆるやかに、静かに物語は進行していきます。三代記ですが、物語の語り部は、三代目にあたる「なんでもない」娘です。この語り部の選択は絶妙と言えます。
    そんなわけで、『赤朽葉家の伝説』という全体小説は、桜庭氏の代表作たり得る作品という世間の評判どおり、いつしか作品世界に引き込まれ、なにか上質なオーケストラでも聴いているかのような気持ちで読むことができました。本当に一冊で、何度もおいしい作品だと思います。
    残念なことをひとつ。作品中とあとがきで、あきらかな誤植が二カ所ありました。作品の質を思えばわずかな瑕疵とも言えますが、画竜点睛を欠く気がして、その点だけがいささか残念です。

  • ”砂糖菓子の~”が好きで、他の作品も是非!と思いながら、なかなか読めずにいた作品。今回、どこかでオススメされているのを見かけ、いよいよ読んでみることに。で、これがまあ絶品でした。件の家族に生きる女性たち3代(4代か?)を描いた長編で、そういうのが好物な自分としては、祖母や母が活躍する1・2章も十分に魅力的。そのままの流れで自身のことも綴り、家の没落で幕が切れるのかと、勝手に想像してました。一方で、自分の中で勝手にミステリーかと思い込んでたこともあり、1・2章を読みながら、『あ、純文学的な作品なんだ。でも素晴らしいから結構』と、作品の見方が変わっていたところで…。3章、題名からして”殺人者”って不敵なんですが、まさかのミステリ的展開にビックリ。未来視の中で、なぜ空中飛行だけは実現しないんだろう?って、ずっと引っ掛かりながら読み進める訳ですけど、それも最後の謎解きに当たって、いよいよ重要な意味合いを持って現出します。純文学ともミステリとも読めて、かつどちらの観点からもハイクォリティ。素晴らしい作品でした。

  •  桜庭ー樹の初期の代表作を書け、と編集に言われた。さらに、桜庭さんは全体小説が書ける人だと思います……
     そう言われて、大きな物語を書くことにワクワクして書いたのが本作である、と作者は語っている。
     そうして本当に代表作を紡ぎ出した手腕は見事。さびしい山だしの娘が語る素朴さと、山陰の暗さと赤朽葉のあざやかさ。楽しい読書だった。

  • めっちゃ面白い。
    こんな小説初めてです。
    すっかり桜庭一樹ファンになった!!
    女性作家ぽくない骨太な小説。
    海外ミステリーを知り尽くしている著者。
    うなずけます。
    まさにそれが裏付けるようだと思いました。

全284件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

桜庭 一樹(さくらば かずき)
1971年、島根県生まれの小説家。
1999年「夜空に、満点の星」で第1回ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。
『赤朽葉家の伝説』で第60回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編部門)、『私の男』で直木賞を受賞。他の代表作に『GOSICK -ゴシック-』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』『赤朽葉家の伝説』などがある。
ゲームのノベライズやライトノベル作品や、山田桜丸名義でゲームシナリオを手がけるなど幅広く活躍している。

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)のその他の作品

桜庭一樹の作品

赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする