赤朽葉家の伝説 (創元推理文庫)

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  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488472023

作品紹介・あらすじ

"辺境の人"に置き忘れられた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の"千里眼奥様"と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。-千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く一族の姿を鮮やかに描き上げた稀代の雄編。第60回日本推理作家協会賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  •  高校時代にいわゆるスケバンとして、不良たちの間で伝説的存在となり、その後大人気漫画家となった女性の生涯……って気になりませんか?そんな人物がこの小説には出てきます。彼女の名前は赤朽葉蹴鞠です。

     上の話だけ聞くと、たとえフィクションでも「そんなやつおれへんやろ~」となると思います。実際、ライトノベルやマンガのキャラ付けとして表層的に書くなら、なんとかなるかもしれません。でも小説として、そして一人のリアルな人間として、その人生を描くのは至難の業だと思います。しかし、それを可能にしたのが桜庭一樹さんなのです。

     なぜ、そんな破天荒な人生を描くことが出来たのか。それは、蹴鞠が生まれ、そして生きた「時代」の空気感、そしてその前後の「時代」も一緒に描ききったからだと思います。

     この小説の特徴は三世代に渡った小説だということ。彼女たちは大きな製鉄会社の奥様という立場になります。

     彼女たちと時代を描くうえで、この製鉄会社というキーワードも効果的に機能します。高度経済成長で大きく成長しながらも、石油危機や公害問題で縮小や、業態の変更を余儀なくされ、オートメショーン化や産業構造の変化で、職人たちも減り、シンボルだった巨大な溶鉱炉も停止、そして工場の取り壊し……。

     赤朽葉家の製鉄は、一つの時代の始まりと終わりを描きます。

     そして、それと呼応するように、時代の若者たちの意識も変化していきます。働けばその分報われると信じられた高度経済成長期。学生運動が盛んになり、若者たちのうねりが仕事以外に向き始めた時代。

     学生運動の熱も冷め、若者たちのうねりのぶつけどころが無くなった時代。そして、バブル崩壊後の失われた20年、希望や生きる目的が見えにくくなった現代。

     こうしたそれぞれの時代と、その時代を生きた若者たちの空気感を描きったからこそ、万葉の時代も、わたしの心情も、そして蹴鞠の不良時代から、漫画家への転身という破天荒な人生も、時代の要請として描き切ることが出来たのだと思います。

     この話の謎の中心となるのは、千里眼として未来予知ができた祖母万葉が視た空飛ぶ男の謎。でも読んでいくうちに、その謎が吹き飛ぶくらい万葉、そして蹴鞠の人生の濃さに夢中になると思います。(蹴鞠の人生が濃すぎるだけで、万葉の生涯もかなり濃くて面白いです!)

     そして、現代、万葉が死の直前につぶやいた「わたしは人を殺した」という言葉に導かれ、現代の語り手、瞳子は赤朽葉家の謎に向き合います。そして謎の先にあるのは、時代の終わりと、そして未来への小さな決意だと思います。

     この小説の最後の文章って、冷静に読むとちょっと青臭いです。しかし、それぞれの時代のうねりと女性の生涯を読み切ったあとならば、この文章が美しく、そして読者を勇気づけてくれるものになっていると思います。

    第60回日本推理作家協会賞
    2007年版このミステリーがすごい!2位
    第5回本屋大賞7位

  • 最初の一文から心を掴まれた。千里眼の祖母万葉の話が一番好みで面白くてずっと読んでいたいと思った。第二部はコミック的味わいを楽しんだ。第三部、真相はうすうす気づいていたが語り手瞳子の成長物語を楽しめた。

  • 借りた本。

    3人とも、魅力的だった。文章も綺麗で、変なひとたちが興味深く可愛らしくて。また、名付けが絶妙。昭和時代のこと、歴史と雰囲気をなんとなく知ることができたこともよかった。

    地方に興味がある。名家はどんな感じかなと気になるし、山の人って今でもいるのかな、というのも気になる。

  • 米子に旅行に行っている間、ずうーっと読んでいた。そして2日で読み終わった。「こんなの、読んだことないっ」という気にさせてくれる面白さ。作中の鳥取弁が、異国の赤い言葉に聞こえる。ここであって、ここでない世界。ようこそ、ビューティフルワールドへ。

    語り手の瞳子の祖母・千里眼の万葉と、母・漫画家の毛鞠。それに比べて、現代の語り手である瞳子の、なんとふわふわと薄っぺらいことだろう。
    そう嘆きたくなるくらい、万葉と毛鞠の時間は謎めいた驚きに満ちている。時代とともに駆け抜けていく彼女たち、しかしそこにはまだ知らないもの、見たことのないもの、そして出会ったことのない人とのまだ見ぬ出会いがある。未知であることが不思議を生み、希望を生む。それらは時に残酷で、恐怖ですらあるけれど……それでも見えないからこそ、立ち向かえることもあるのだと思う。

    わたしたちは、悩み多きこのせかい、広大でちっぽけなこのせかいに生まれた。周りは自分と同じような人ばかり……なんでもできるけれど、特になにもできない。どこに行けばいいの? わたしはこのせかいで誰なの? 
    それでもわたしは、真っ赤なこのせかいで生きていく。せかいは、そう、すこしでも美しくなければ。

  • 3部に分かれてるんだけど、1部は途方もなくて読み終わらないかと思った………ミステリーとして読むと物足りなさはあるけれど、女3代の物語としては日本のその時々の文化や世相もよく現れていて読み応えはありました。しかし、3部の現代編が1番読みやすかったな。

  • やっと、読み終わりました~っ。

    戦後の昭和から平成の今までを生き抜いた、女三代の生き様を書いた小説です。

    あとがきにもあったけど、有吉佐和子さんの『紀ノ川』みたいな感じをミステリー調に仕上げた本だな~。
    でもミステリーというよりは、ドラマを読んでる感じ。

    社会背景を踏まえながら、その時代に生き抜いた女の有様とその女に絡んだ男の生き様をとてもよく表現してると思う。
    物語は一見すると淡々と語られてるように感じるんだけど、要所要所でスパイスが効いてて私は楽しめた。

    私の時代は毛鞠を一緒なんだけど、読んでると万葉の時代がとても面白かったし、この本は彼女を中心に書かれてる気がするな~。
    一番つまらなかったのは、瞳子の時代。

    ミステリーさは、ほんとに最後の方にしか出てこないんだけど、でもこれはやっぱりこの長い前置きを読んでからじゃないと分からないんだな~。
    仮に「万葉が殺した」という死体の正体が早々分かっちゃっても、当人の心理描写や万葉との関係は、最後読むまで分からない。
    なんか、最後は胸があつくなった。
    最後、やられたな~~~。

  • 昔の話でなんだか現実だか幻想だかわからないような不思議な話が読みたい、とつぶやいたら友達が貸してくれた。
    たしかにそれっぽい。
    読みごたえもあって、時々出てくる文章にはっとさせられる。

    あらすじ
    ”辺境の人”に置き忘れられた幼子。この子は村の若夫婦に引き取られ、長じて製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれ輿入れし、赤朽葉家の”千里眼奥様”と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。――千里眼の祖母、漫画家の母、そして何者でもないわたし。旧家に生きる三代の女たち、そして彼女たちを取り巻く一族の姿を鮮やかに書き上げた稀代の雄編。

  • 鳥取県紅緑村に構えるお屋敷、赤朽葉家の女3代の物語。
    村の描写や現実の流れ(オイルショック、バブル崩壊、家庭崩壊など)、人物の描写台詞すべてがばちっとはまった感じ。

    昔のジブリ映画観てるような感覚だった。

    物語の強さや現代の物語のお役目など、読みながら考えたこともたくさんあった。

    物語のための物語といったおもむき。

    桜庭一樹は少女向け短編よりも「私の男」とか「赤朽葉~」みたいな濃厚な長編がいいな。

    暗さを持たせずに惹きこむ感じも良かったと思います。

    語り手である現代の瞳子の空虚な感じが暗いといえば暗いが時代背景とのバランスが取れてると思いました。

  • 話は3部作構成。鳥取の名家赤朽葉家の女三代の物語。里で拾われた山窩の子供、千里眼の万葉。未来に起きることを幻視する。大奥様のタツのひと声で赤朽葉に嫁入り。その娘でレディースから漫画家になった毛鞠。恋愛、抗争、友情、そして青春の終わり。更にその娘、まだ何者でもない瞳子。万葉、毛鞠が主役の2部目までは、これはいわゆる大河小説か?という展開。日本の経済発展、オイルショック、バブルへと。

    当時の風潮を思い出しながら波乱万丈の2人の人生を愉しむ。それが面白い。自分の親の世代の万葉も、自分の世代の毛鞠も私の知ってる時代とは少し違う気もするが地域の違いか、個人の違いか。そこは小説だから御愛嬌。

    そして瞳子の出てくる3部目になって思い出したかのように殺人の話が出てくる。登場人物が、その昔の殺人を告白するのだ。誰が殺されたのか?なぜ?どうやって?という謎解きに瞳子が挑む。その謎を解く伏線は前の2部、大河小説部分に隠されている。だからこんな突飛な2人の女性の人生を描いたのかと、そこで気づく。
    そもそもこれは推理小説なのか?と思いながら読んで、違うけど面白いなと思い始めた頃に謎が提示されるから、そのときにはもう推理小説としての興味を失っている。謎解きはどうでも良いのだが、上手に作っている。それが良いのか悪いのかわからんが何より小説にいちばん大事なこと、お話として面白いので十分だ。










  • 三部の最後までネタバレしてるので注意!

    通勤時間にちまちま読む私には超大作すぎるけど、その分すごく面白かった。

    万葉の見る神話の世界にぐっと引き込まれ、
    毛鞠の突き抜ける衝動と喪失の歴史に踏み潰され、
    一部・二部に対して比較的軽く、二部の喪失から癒えてきた傷口をさらっと爽やかにグリグリされる瞳子の三部。

    視覚的にずっと美しい。
    鉄砲薔薇と箱の渓谷や、曜司の乗るお座敷列車が浮き上がるシーンは、死にまつわることなのに美しすぎる。
    桜庭一樹は生きている人間はもちろん、死んでゆく人間も美しく書き上げてくれるから信頼と愛を捧げたい。
    最高。最高で最高に辛い。

    泪がすごく好きだったので生まれると同時に作中での死が確定して、亡くなるまでずっとしんどかったし、
    いざ死ぬと喪失感がすごくてそのあと泪の話が出てくる度に静かに本を閉じて休憩した。

    最後に瞳子のことを抱きしめる三城の気持ちを考えるとつらい。
    男に生まれてしまったが故に三城と結ばれる未来を選べず、自死してしまったかもしれないかつての友人(まぁおそらく恋人)の泪とそっくりに生まれた女の子の瞳子を、泣いている瞳子を抱きしめるなんて……。
    優しいな三城は。
    女に生まれていたら、って泪はきっと1度は思っただろうな…………。
    しんどい。

    そして豊寿さんも好きだったのに……そんな……ってなる。
    友人の枠からはみ出ないように節度を持って万葉に接する豊寿が大好きだったので、死ぬなんて……。

    この作品に出てくる男たちはみんな魅力的すぎる。
    女たちももちろん魅力的なんだけど、男たちに狂わされる。

    瞳子の今の自分に対する評価とか、未来への不安は共感できるところがあって最後の「ようこそ」は、瞳子を含む生まれた人間たちに対する歓迎の言葉。

    瞳子とは違う種類だけど、三城もまた傷と不安を抱えて生きていくしかないのだ……。
    今生きている私たちと同じように。

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著者プロフィール

1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数

「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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