深夜の散歩 (ミステリの愉しみ) (創元推理文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488478124

作品紹介・あらすじ

深夜、男は一冊の推理小説にそっと手をのばす。そこで彼は書物のなかを出掛ける。走ったり、ひと休みしたり、時々は欠伸したりしながら、いい気になって歩き廻っていると、そのうちにあたりは白々と明けてくる。真犯人を捕まえるまでは、この散歩を途中で止められないのだ――。博雅の文学者にして推理小説愛読家である三人が、海外推理小説を紹介する読書エッセイ。推理小説を読み解く愉しさを軽やかに、時に衒学的に、余す所なく語り尽くす歴史的名著が甦る。

感想・レビュー・書評

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  • 最近創元推理文庫で復刊してくれたそうだが、私は昭和53年版の講談社「決定版 深夜の散歩」の感想を書く。よって文庫版にはあるという福永・中村対談は読めてはいない。

    たいへん面白かった。
    紐解いたのは、本来、純文学畑の福永武彦・中村真一郎・(丸谷才一)が、大衆文学のミステリを縦横に語っているからである。もっとも、福永・中村は「モスラ」(61)の脚本も担当していたのだから、エンタメに興味がなかったわけではない。たまたまエンタメを書かなかっただけに過ぎない。主には「エラリー・クィーンズ・ミステリ・マガジン(「ミステリ・マガジン」の前身)」1958-1963年連載から編集。

    福永武彦は探偵小説を紐解くことを「深夜の散歩」と称する。
    ‥‥ヴァレリー・ラルボーというフランスの作家は、読書を「罰せられざる悪徳」と呼んだが、探偵小説の場合には、そんなにたかをくくってはいられない。いい気になって歩き廻っていると、そのうち夜が白々と明けてくる。罰はたちまち下って、あくる日一日中眠くてふらふらする。上役には叱られる。恋人には笑われる。と分かっていても、真犯人を掴まえるまでは、散歩の途中でやめられないというのが、因果なところだ。‥‥
     都筑道夫君は、読書の限界時間は午前三時と言い、もしそれで終わらなかったら、平然と「終わりを先に見てしまい、安心して寝ます」と答えた。飛ばしたところは、翌日、改めて読むそうだ。
     心配性の椎名麟三君は、必ず最後の部分を読む。そして安心して読み始める。それを精神分析すれば、(1)犯人がわからないで、実存主義的不安に苛まれるのが怖い(2)著者は犯人が誰かわかっているのに、読者の方は皆目わからない、というのは著者から馬鹿にされているのも同然、負けず嫌いの椎名君はだから終わりから読む。←気持ちは物凄くよく分かるが、それを言っちゃおしめーよ、的な所ではある。
     赤鉛筆片手に、トリックから、動機から、いちいちマークして読み進むのは中島河太郎先生らしい。
     福永武彦自身はどう読むか。随時、仕事の合間に休んで読む。仕方ない。つまり我々と同じということらしい。

    という冒頭から面白い。

    ところが、残念なことに私はホームズとルパンを各一冊しか読んだことがない、人も驚く海外ミステリ初心者。福永武彦は、クリスティー「ゼロ時間へ」ブランド「緑は危険」クリスティー「死が最後にやってくる」‥‥と、まるで人をして読んできたような気にさせる軽妙な紹介に満ちている。もちろんラストは明かさない。他にもロンドン警視庁について一席ぶったかとおもいきや、なんとチャンドラーのマーロウ探偵を悪し様に言い、パリ警視庁のダックス警視、メグレ警部までに及ぶ。こうやって読んでいくと、ハリウッド俳優みたいに、詳しくないのに知ったような気になる。

    実は「獄医立花登シリーズ」のタネ本を探す意図もあったのだが、当時の海外ミステリを縦横に語りながら、獄医どころかほとんど医者は出ていないのを確かめた結果になってしまった。藤沢周平の獄医シリーズは、もしかして完全オリジナルなのか?

    未だ「ミステリ」というよりも「探偵小説」と言った方が通りが良かった時代の、「探偵小説は文学じゃないのか、どうなのか」というような問題意識が評者の中に時々芽生えていた時代の、もう深夜の隠れた趣味のような、教養の塊の3人の評論集だった。





  • 翻訳ミステリー愛好家の三人が1958〜63年にかけて書き繋いだ『エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン』での連載をまとめたもの。


    古今の探偵小説を紹介するにも三者三様の好みと流儀があり、一冊でそれを読み比べられるのが楽しい。
    福永武彦はやっぱり文章が上手くて、紹介する本を腐してることも多いんだけどツッコミが飄々としているのでサクサク読める。対して中村真一郎は腐し方が退屈なうえネチネチしている(笑)。
    そして真打は歴史的仮名遣いになる前の丸谷才一。ミソジニー丸出しの内容をポンポン書いてはいるものの(「フェミニスト」を自称する男もれなく性差別主義者の法則)、やっぱり文章は一番面白い。冒頭だけ読んで挫折したウィルキー・コリンズの『月長石』、また挑戦しようかという気になった。『日の名残り』(20/6/13読了)の文庫解説でガックリした記憶が鮮明なのもあり、まともな時期もあったんだよなぁ…と遠い目に。『快楽としてのミステリー』でも読むか。

  • 福永武彦、中村真一郎、丸谷才一の三名による、ミステリ愛溢れるエッセイ。
    各人、それぞれ、ミステリに思い入れも深く、愛もあるのは解るのだが、同様に、それぞれスタンスがはっきりしている。それが1冊に纏まっていることに、本書のユニークさがあるのだと思う。

  • ミステリ畑とは違う、他分野の三人が書き継いだエッセイ集。時代や立ち位置が違うと作品を見る視線が異なってくる好例。海外の翻訳ものをたくさん読むわけではないので、もう少し網羅的に作品が取り上げられていると知識欲を刺激されてうれしいが、そこはあくまで評論ではなくエッセイなのだと感じた。

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著者プロフィール

1918-79。福岡県生まれ。54年、長編『草の花』により作家としての地位を確立。『ゴーギャンの世界』で毎日出版文化賞、『死の鳥』で日本文学大賞を受賞。著書に『風土』『冥府』『廃市』『海市』他多数。

「2015年 『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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