消えた山高帽子: チャールズ・ワーグマンの事件簿 (創元推理文庫 M し 3-1)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488480011

作品紹介・あらすじ

西洋幽霊と日本の幽霊が連続して目撃された怪異。白装束を纏って剣を腹に突き立てていた英国人。歌舞伎役者を巻き込んだ山高帽子盗難の謎。鉄道開通に沸く観衆の中で叫び声を上げた女の悲しい過去。教会堂内で起きた密室状況下の怪死事件。-明治六年、文明開化の最中に起こる不可思議な事件を解決に導く特派通信員ワーグマンの活躍を描いた、江戸川乱歩賞受賞作家の連作推理。

感想・レビュー・書評

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  • 「翔田寛」の連作時代ミステリー『消えた山高帽子 ― チャールズ・ワーグマンの事件簿(英題:The Missing Bowler -The Case-Book of Charles Wirgman-)』を読みました。

    「江戸川乱歩」の短篇集『江戸川乱歩短篇集』を読んだ後なので、その流れで「江戸川乱歩」賞受賞作家作品を選択しました。

    -----story-------------
    西洋幽霊と日本の幽霊が連続して目撃された怪異。
    白装束を纏って剣を腹に突き立てていた英国人。
    歌舞伎役者を巻き込んだ山高帽子盗難の謎。
    鉄道開通に沸く観衆の中で叫び声を上げた女の悲しい過去。
    教会堂内で起きた密室状況下の怪死事件。
    ―明治六年、文明開化の最中に起こる不可思議な事件を解決に導く特派通信員「ワーグマン」の活躍を描いた、「江戸川乱歩」賞受賞作家の連作推理。
    -----------------------

    幕末から明治にかけて、日本で活躍した実在のイギリス人「チャールズ・ワーグマン」を探偵役にした連作短篇集、、、

    イギリス領事官嘱託医師の「ジョナサン・ウィリス」を「ワトソン」役に従え、明治6年の横浜居留地とその周辺で起きる怪事件を解決する物語で、以下の5篇が収録されています。

     ■前口上
     ■坂の上のゴースト(英題:The Case of Ghost on Minowa Hill)
     ■ジェントルマン・ハラキリ事件(英題:The Case of Gentleman's Hara-kiri)
     ■消えた山高帽子(英題:The Case of Lost Bowler Hats)
     ■神無月のララバイ(英題:The Case of October's Lullaby)
     ■ウェンズデーの悪魔(英題:The Case of Wednesday's Devil)
     ■解説 細谷正充


    『坂の上のゴースト(英題:The Case of Ghost on Minowa Hill)』は、日本の幽霊と西洋の幽霊の二つの幽霊目撃談と怪我をして「ウィリス」の診療所を訪ねてきた侍「山際文一郎」の仇討ち事件を解決する物語、、、

    仇討ち禁止令の発布直後であることが事件解決の重要な役割を果たしていましたね… 「文一郎」やその妹「深雪」の将来のことを考えた「ワーグマン」の名裁きが印象的でした。



    『ジェントルマン・ハラキリ事件(英題:The Case of Gentleman's Hara-kiri)』は、金貸しもしている強欲な生糸貿易商人「アルフレッド・ウィラー」が切腹した状態で発見される事件を描いた物語、、、

    なぜイギリス人の「ウィラー」が切腹という手段を選んだのか?
    そもそも彼に自殺する動機はあったのか?

    死の前夜のレストランの食事で吝嗇家の彼がチップを弾んだ理由が事件解決の重要な役割を果たしていましたね… 「ウィラー」と関わっていた日本人を護るための「ワーグマン」の名裁きが印象的でした。



    『消えた山高帽子(英題:The Case of Lost Bowler Hats)』は、「シェイクスピア」の『ロミオとジュリエット』、歌舞伎の『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』をモチーフにした若い男女の恋愛を描いた物語、、、

    歌舞伎役者「市川升蔵」が良い役割を演じていました… 謎解きを絡めたラブストーリーでした。



    『神無月のララバイ(英題:The Case of October's Lullaby)』は、16歳の少年「平吉」が異父姉でオランダ人とのハーフ「お沙紀」に抱いた疑惑を発端に8年前の殺人事件の真相が暴かれる物語、、、

    横浜駅に蒸気機関車を見に行って甦った、辛く哀しい8年前の記憶… 「ワーグマン」により姉弟は救われましたね。



    『ウェンズデーの悪魔(英題:The Case of Wednesday's Devil)』は、密室状態の教会堂で発生した西洋人の若者と日本人青年の死の謎を解決する物語、、、

    なんとなく、二人の関係が想像できたので、やっぱりそうだったかぁ… という感じでした。

    二人の関係を隠そうとして捜査に非協力的な態度をとるマロン司祭の気持ちもわからないこともないですが… それにより犠牲になる人がいることを考えるとなぁ、、、

    風邪で寝込んだ「ワーグマン」に代わって「ウィリス」が動き回りますが… やはり謎を解いたのは「ワーグマン」でしたね。



    明治時代初期の日本が舞台で、探偵役がイギリス人という、これまでにない設定ですが、意外と入り込みやすかったですね。

    時代ミステリーは久しぶりですが、なかなか面白かったなぁ。

  • 登場人物が魅力的に描かれてて、情のある結末のミステリ連作短編集。このタイプの本が好き。歯切れよい文章もいい。

  • 何となくミステリーが読みたくなり、読んでみました。
    維新後、文明開化の横浜が舞台です。雰囲気がある時代だし場所だと思います。ただ外国人が主役なのにどちらかと言うと日本視点だし、今現在とその当時は文化も人の考え方も違うはずなのに、違和感を感じないその辺りを逆に不自然に思いました。

    事件や人物は面白いんですけれども。今ひとつ自分の琴線には触れなかったようです。残念。

  •  全体的に地味な雰囲気だけど、なかなか味があって面白かった。「消えた山高帽子」に出てくる歌舞伎役者のマスゾーがナイス。ただ舞台を明治に持ってきただけでなく、明治ならではの仕掛けがちゃんとあったところに満足。

  • 幕末から明治にかけて実在したイギリス人、チャールズ・ワーグマンを探偵役、イギリス領事館の医者ウィリスをワトソン役とする連作ミステリ。たまたま続けて読んだ<なにわの源蔵事件帳>のシリーズと構成というか外形が似ています。世の中も人々の生活のさまもガラリと変わらざるを得なかった明治時代、幕末から日本に住み日本の妻をもち日本の風俗と日本語に通じている新聞記者ワーグマンが、横浜居留地を舞台に謎を解いてゆくとても上品なミステリです。事件顛末を触りの無いように新聞記事にした後には、友人のウィリスとの私的なやりとりとして、本当にあったことはこういうことである、という解説も付いていて、読後感はすっきりさわやか。とても面白かったです。

  •  ワーグマンはコールテンの上着に落ちたパイプの灰を払い,指で茶色の口髭を撫でながら,深々とした灰色の目を細めた。ウェーブのかかった茶色の豊かな髪。広い額。人の話を聞くとき,ワーグマンの唇は物静かに閉じられ,眼差しはじっと相手に向けられる。だが,いまはウィリスに高い鼻先を向け,唇の端にからかうような悪戯っぽい笑みを浮かべている。
    「ねえ,ジョナサン,君はロンドンで最新医学の研鑽を積んだんだろう。まさか,ほかの連中みたいに,幽霊なんて非科学的なものを信じているわけじゃないだろうね」
    「そりゃ信じちゃいないさ。だけど,この世の中には,科学だけじゃ割り切れないことだってあるぜ」
     ことに,この日本みたいな未開の国じゃね,とウィリスは言い訳がましく口にすると,大好きなチョコレート・ビスケットを一枚つまんだ。
    (本文p.15-16)

    ※ひとこと※
    明治六年,新聞記者のワーグマンが,医師ウィリスをワトスン役に事件を解決。王道ですが面白かった!

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著者プロフィール

1958年東京都生まれ。2000年「影踏み鬼」で第22回小説推理新人賞を受賞し、デビュー。01年「奈落闇恋乃道行」で第54回日本推理作家協会賞(短編部門)候補となる。08年『誘拐児』で第54回江戸川乱歩賞受賞。14年「墓石の呼ぶ声」で第67回日本推理作家協会賞(短編部門)候補に。17年『真犯人』で第19回大藪春彦賞候補になり、18年にWOWOWで連続ドラマ化。他の著書に『人さらい』『左遷捜査 法の壁』『左遷捜査2 迷宮入り事件』『冤罪犯』など多数。

「2022年 『時効犯』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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