親しい友人たち (山川方夫ミステリ傑作選) (創元推理文庫)

著者 :
制作 : 高崎俊夫 
  • 東京創元社
3.59
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本棚登録 : 125
感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488481018

作品紹介・あらすじ

34年という短い生涯に於いて「三田文学」の編集に携わったほか、自作5編が芥川賞の候補作となるなど、純文学に大きな足跡を残した山川方夫は、一方で「ヒッチコック・マガジン」連載の〈親しい友人たち〉が探偵小説読者から高く評価される、謎を扱ったショートストーリーの達人でもあった。夏と海、戦後と虚無を描き続けた“早世の天才”の才気を示す、文庫オリジナル傑作選。エッセイ=岡谷公二/解説=法月綸太郎

感想・レビュー・書評

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  • 素晴らしい本である。一編一編の水準の高さもさることながら、背筋がぞわっとするものからニヤニヤできるものまで、多様な読後感の短編が収録されていることに驚く。掛け値なしに最高の1冊。

    2015年当時、「今年出版された国内の本を読む」というテーマで本を読み荒らしているが、この短編集は2015ベストとかいう枠を遥かに凌駕している出来である。好きな国内作家や短編作家を聞かれたら、新しく挙げる作家が1人増えたことが非常に嬉しい。

  • ショートショート集。〈奇妙な味〉の作品もあれば、トコという男が出てくる思惟を絶えず掘り下げ、しかしながら詭弁に聞こえてくるような哲学的作品もある。基底にあるのはミステリ的な趣向だが、それだけに留まってはいない。

  • 高崎俊夫という方の編集。二章に分かれている。Ⅰには『親しい友人たち』と『トコという男』という二つの連作が収められている。前者はいわゆる奇妙な味。教科書に採用されたという『夏の葬列』は私自身は初読だが、十代の頃に出会いたかった短編。恋の愚かさとほろ苦さが味わい深い『菊』も素晴らしい。後者は、トコという友人と作者自身の対話形式で連載当時(一九六四〜六五)の世情についてシニカルに分析していく内容だが、書かれた時代ゆえ仕方ないものの女性嫌悪がきつく、流し読み。Ⅱは、『親しい友人たち』よりやや純文学寄りの短編が集められている。荒々しい男たちに翻弄されてはいるものの、自身で生きていくことを放棄して彼らに身を任せてしまっている若い女の歩みを描く『頭上の海』が読み応えがあった。

  • 星新一とはまた違ったショートショートが心地よかった。ほんのりとした怖さと薄気味悪さが夏に合っていた。

  • 収録内容は以下の通り。

    親しい友人たち
     待っている女(昭和37年2月 発表)
     恐怖の正体(昭和37年3月 発表)
     博士の目(昭和37年4月 発表)
     赤い手帖(昭和37年5月 発表)
     蒐集(昭和37年6月 発表)
     ジャンの新盆(昭和37年7月 発表)
     夏の葬列(昭和37年8月 発表)
     はやい秋(昭和37年9月 発表)
     非情な男(昭和37年10月 発表)
     菊(昭和37年11月 発表)
     メリイ・クリスマス(昭和37年12月 発表)
     愛の終り(昭和38年1月 発表)
    トコという男
     動物の秘密(昭和39年6月 発表)
     デパートにて(昭和39年7月 発表)
     二人の同一人物(昭和39年8月 発表)
     アルス・アマトリア(昭和39年9月 発表)
     人間の条件(昭和39年11月 発表)
     ヘンな日本人(昭和39年12月 発表)
     嘘八百の真実(昭和40年1月 発表)
     "健全な心配"(昭和40年2月 発表)
     行動の理由(昭和40年3月 発表)
     "恐怖"のプレゼント(昭和40年4月 発表)
    十三年(昭和35年2月 発表)
    お守り(昭和35年4月 発表)
    ロンリー・マン(昭和35年10月 発表)
    箱の中のあなた(昭和36年2月 発表)
    予感(昭和36年4月 発表)
    暑くない夏(昭和37年7月1日 発表)
    トンボの死(昭和37年10月6日 発表)
    あるドライブ(昭和39年7月 発表)
    三つの声(昭和39年10月 発表)
    頭上の海(昭和31年8月 発表)
    他人の夏(昭和38年8月 発表)
    法月綸太郎: 人間から少しだけ離れて
    岡谷公二: 山川方夫のこと

    採録されている「親しい友人たち」と「トコという男」はそれぞれヒッチコック・マガジンとエラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジンに連載されていた短編集である。
    「親しい友人たち」は山川方夫の実際の友人の経験に基づいて書かれたのであろうか。
    「トコという男」は一見すると"トコ"と"私"が小難しい議論をしているだけの文章に思われるが、最初に張られていた伏線が最後の最後に回収される。作中で打たれた傍点の意味を探るために数回読み返す必要があると感じた。

    編集は高崎俊夫、カバー写真は武田花、カバーデザインは西山孝司+Fragment。

  • 2018.12.20 図書館

  • 第3次『三田文学』の編集に携わり、自身も芥川賞の候補となったりもしつつ、34歳の若さで夭逝した作者のショートストーリー集。
    ミステリ味の強いものから、ホラー風味、哲学問答のような純文学風といろんな味わいの作品があり、この作家の抽斗の多ささが感じられます。ショート作品と言えば星新一ですが、あの作家のようにラストにドカンとオチを効かせてくる作風ではなく、話の続きが気になって読んでいくとジワジワと世界が変化していく感じの面白さですね。
    気に入ったのは、ドッペルゲンガーネタとも絡んだ「お守り」と、ドライブ中の夫婦の会話から始まる「あるドライブ」、母親の再婚相手の殺害を目論む「三つの声」の3作かな。

  • 1950年代〜60年代くらいに芥川賞候補になりつつも、エンタメ的なジャンルと思われていたショートショートもたくさん書いていたというこの山川さん。短いながらも美しくそして重厚な感じの作品がおおいですが、なかでも「夏の葬列」といういう作品はすごい衝撃度で私、思い切り撃ち抜かれました。

  • サブタイトルには“ミステリ傑作選”とあるが、どの小品もミステリー色は薄く、あるいはホラーっぽかったり、あるいは純文学風だったり。
    当時の世相を巧みに捉えて映し出す作品が多く、興味深く読むことができる。
    “トコという男”として括られた各話は、哲学的な思考実験とでも言うべきか、現世に対して抱く著者の論理がこれでもかと綴られており、決して読み易くはない。

    厭世的な空気を多く醸し出しつつも、一筋、この世に希望の光を見出さんとする山川方夫氏のデリケートな感覚が、全体を通して読み取れる。

  • 好きな日本人作家を5人挙げるとしたら、そのうちの1人として確実にセレクトするであろう作家、山川方夫。特異な短編小説を生み出し、江藤淳等の才能を発掘したことで知られる彼が34歳という若さで夭折してから、今年で50年になるらしい。久しぶりに書店に行くと、そういうタイミングということもあって彼の作品集が幾つか平積みされており、手に取ったのがこのミステリ傑作選。

    一般的に山川方夫は純文学作家と解釈されているように思うが、実際のところ4回の芥川賞候補に加えて1回直木賞の候補にもなっている。ミステリー作家の法月綸太郎の優れた解説によると、純文学とミステリ・SFを結び付けた最後の世代として山川方夫が認識されていた様子が非常によく理解でき面白い。

    作品については改めて言うこともないが、死に対する甘美な憧れ、独特のブラックユーモア等、山川方夫の世界を知るのにはなかなか面白い選集になっている。

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著者プロフィール

山川 方夫(やまかわ・まさお):1930年、東京生まれ。慶應義塾大学大学院中退。「演技の果て」「海の告発」など5作が芥川賞、『クリスマスの贈物』が直木賞の候補となる。著作に『安南の王子』『愛のごとく』『目的を持たない意志 山川方夫エッセイ集』などがある。「ヒッチコック・マガジン」連載の“親しい友人たち”が探偵小説読者から高く評価される、謎を扱ったショートストーリーの達人でもあった。

「2023年 『長くて短い一年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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