- Amazon.co.jp ・本 (550ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488481117
作品紹介・あらすじ
1961年7月2日、神奈川県の山林から女性の刺殺体が発見される。被害者は地元で飲食店を経営していた若い女性。翌日、警察は自動車工場で働く19歳の少年を殺人及び死体遺棄の容疑で逮捕する。――最初はどこにでもある、ありふれた殺人のように思われた。しかし、公判が進むにつれて、意外な事実が明らかになっていく。果たして、人々は唯一の真実に到達できるのか? 戦後日本文学の重鎮が圧倒的な筆致で描破した不朽の裁判小説。第31回日本推理作家協会賞に輝く名作が、最終稿を元に校訂を施した決定版にて甦る。
感想・レビュー・書評
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19歳の少年が起こした殺人事件。
裁判所に呼ばれた証人達が証言する内容が思わぬドラマを展開していく。
真実にたどりつくのか、それとも真実から離れていくのか、、
法の目線が人の心の中を見破れるのか興味深く読めた一冊。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
定評のある大御所の有名な裁判もの。
大岡昇平の推理小説は『最初の目撃者』を読んで、洒落ているなあと思った記憶がある。
最初は新聞連載小説で4回も手入れしたそうだから、作者も力を入れた作品。
裁判の場面はもっとさらりとする予定が書いていくうちに、裁判所という仕組みを前面に据えることになったという。
裁判の進行や法律用語などちょっとめんどくさい描写もあるが、ぐいぐいと読ませる。
若者の殺人事件が、法廷における弁護士の活躍で、意外な事実がわかってくるという、サスペンスの面白さ。
時代は高度成長期、東京圏郊外に広がる都市化の波に洗われる土地柄。一時代を追憶するだけではなく、人として、成長して生きていくとは?という普遍性。
新聞小説の時は『若草物語』というタイトルだったそうだが、被告の主人公と恋人、その被害者姉が幼なじみであるという設定がこの作品に奥行きを醸す。若さゆえの憂愁。だから、自転車の相乗り(その時代も今もルール違反だね)というキーワードが光ると思う。 -
丹念に書かれた物語はそれ自体に力がある
裁判という制度を小説としてなりたつぎりぎりまで丁寧に描かれている
裁判制度というのが、絶対的なものでは全然なくて社会制度であり、日本独特の進化をしたものと思う
しかし白黒が完全には明瞭ではないものを判断するのが裁判官の仕事とすれば、裁判員制度はやっぱりどうかと思う -
いやいや汗、久しぶりに読むの苦労した笑笑
でも裁判官、検事、弁護人の役割と裁判という根本を教えてくれる本。この本を読んで途中に思った陪審員制度なんて素人ができるのかと思ったら、昭和18年に陪審員制度は停止されていただけだとはビックリ!
また世界では人民が裁判に参加していないのは昨今の再開まで日本だけだったとは…世界では昔から当たり前だったみたいです。もう一つ驚いたのは全編通して、裁判での全ての人の表情や態度がかなり重要な要因だとはビックリで‼️
この本を読むと、とめどなく裁判に対してのコメントを出せるが終止がつかないので!本の分類としてはリアル裁判小説。最後の描写は重い!が、人の記憶何てそんなもんだろう…
印象に残った言葉「一般人の正義感を馬鹿にしてはいけない」!
時間がかかったが、なかなか興味深い意味のある本で、読破後はいつもと違う面白さを味わった!満足です!…が人を選ぶだろーなー笑 -
普通の推理小説と思って読んでたら、全然違っていた。
オビにもあるように裁判小説。
裁判がどのように進んでいくのか淡々と描かれている。
判決後の主人公の心のうちに興味を惹かれた。
時間をおいて再読したいと思う。 -
本作に登場する人物および事件はすべて、いわゆるフィクションであると「あとがき」で知って、とにかく驚愕、マジか。。。と独り言。
本書で取り扱われる「事件」は、特に複雑なものではない。被告人は19歳の少年上田宏。これから横浜にて同棲をしようとともに駆け落ちを画策していた恋人ヨシ子(宏の子を身ごもっている)の姉ハツ子から、計画を互いの親にバラすと脅され、彼女を刺し殺した。
(こういってよければ)この単純な事件に、500ページ以上が割かれる。しかも、主に、弁護士と検事、裁判官の三者の、私生活および法廷でのやりとりがひたすら描写されるのだ。おそらくそう聞いただけで「退屈」と思う人がほとんどではないか。読み始めたときは私もそうだった。
ところが。一見単純な事件が、複数の証人の証言を通じて、また菊池弁護士の(形式的すぎるきらいさえある)弁論を通じて、万華鏡を覗いているような様相を呈してくるから不思議だ。
本書ではおそらくわざと、文体じたいは深みを見せないよう、淡々とした書き方がしてある。法廷でやりとりされる形式的文書がそもそもそうである。だが、かえってそのような文書に事件が取り囲まれることで、司法という(俗っぽい)制度のむこうに、人間という存在の謎が、はるかむこうに、浮かび上がる。
新聞連載され(!)たものの、刊行までに十年以上を要したという。今更ながら、本書が無事刊行されたことを祝福したい。 -
我々の生きる現実は何一つ確かなことはなく、そんな不確かななかでも、それぞれに何らかの決定を下しながら生きるしかないのである。
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1961年夏、神奈川県の山林で飲食店経営の若い女性の他殺死体が発見された。容疑者は19歳の工員。彼は被害者の妹と駆け落ちしたばかり。妹は妊娠していた。
事件直後の時間に容疑者が山林から出てくるところを目撃した証人もおり、警察は中絶を勧めて対立していた姉と口論になって夢中で刺してしまった、よくあるありふれた事件として処理しようとしていた。
容疑者の中学校の恩師は、容疑者の真面目な性格から、知人に彼の弁護を依頼する。
しかし、裁判が始まり証人を調べ始めた時、事件はとても意外な展開を見せ始める…
大岡昇平氏が書いた推理小説。
第二次大戦後、日本の裁判制度が見直され、判事、検事、弁護士の意識も変化を求められていた過渡期という設定。
以前の裁判制度とどう変わったかなどの変化点や、旧制度からやっている検事、弁護士の考え方や、旧制度からの判事と、新制度からの判事が混じっている裁判官側の考え方など、推理小説として事件の真相を追う以上に、裁判制度やそれに関わる人々の意識の変化にも光を当てている。また新制度に対する批判も少し混じっている。
制度上、英米の裁判に比べて日本の裁判は劇的な展開にはならないと言いながら、物語の中ではその地味になりがちな日本の裁判が劇的な展開をみせる。
500ページの長編だが、引き込まれるように一気に読み進めた。 -
地味な裁判事件を、作者の筆力で丹念に、丁寧に書き切る。それがとてつもない感動と、冷たい感情を湧き起こす。大きな動きがない裁判。登場人物の証言。揺れ。事実を突きつけられ、事件の流れを緩やかに見せられる読者。静かな物語を、ページが止まることなく先へ先へと引き込まれる。なんとも魅力的な作品であった。
改めてミステリの奥深さを再認識できるオススメ作品。 -
今の裁判では絶対にこんなこと言わない、と思う部分が多くいちいちつっこみを入れるのはしんどかったし、実際にはこんなに捜査に不手際があって事実が弁護人の反対尋問で明らかになることも少ないと思うが、物語はどんどん新事実が出てきて起伏があり、エンタメとしては楽しめた。
あとがきを読んで新聞連載小説と知り、納得した。