- Amazon.co.jp ・本 (571ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488485115
作品紹介・あらすじ
三度笠を被り長い楊枝をくわえた姿で、無宿渡世の旅を続ける木枯し紋次郎。己の腕だけを頼りに、人との関わりを避けて孤独に生きる紋次郎だが、否応なしに旅先で事件に巻き込まれてゆく。幼なじみの身代わりとして殺人罪を被って島送りになった紋次郎が、島抜けに参加して事件の真相を追う第1話「赦免花は散った」。瀕死の老商人の依頼により、家出した息子を探す「流れ舟は帰らず」。宿場を脱走した女郎たちとの逃避行の意外な?末を綴る「笛が流れた雁坂峠」。ミステリの巨匠が描く、凄腕の旅人にして名探偵が活躍する珠玉の10編を収録。
感想・レビュー・書評
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「木枯らし紋次郎ミステリー傑作選」と題してあるが、ミステリー色は薄め、サスペンスやハードボイルドの要素の方が濃いが、個人的に好みの作品ばかりで楽しめた。
紋次郎は貧しい農家に生まれ、生まれてすぐに間引きで殺されそうになったところを姉に救われるという過去を持つ。
つまり紋次郎は『生まれて来なくてもいい人間だったのだ』。今の時代なら生まれて来なくてもいい人間などいない、と言いたいところだが、彼は堅気の人間としての暮らしを許されず、渡世人として生きてきた。
紋次郎の決まり文句『あっしには関わりのないことでござんす』とは何も無責任に突き放しての意味ではない。
関わりを持つということは相手のことにも責任を持つということ。だが紋次郎の肩には自分一人分の責任しか背負うことは出来ない。
旅から旅への旅烏、どんな人にもモノにも決まりにも縛られないということは、裏を返せば誰にも頼れず自分一人で解決し乗り越えるということだ。孤独も、他人からの非難の目も哀しみも虚しさも一人で噛み締めるしかない。
いつの世も、権利は振りかざすがそれに伴う義務は果たさない、自由は声高に訴えるがそれに伴う責任からは逃れようとする人間がいるが、紋次郎は自由を手にする代わりにそれに伴う孤独も享受し、決まりにしたがわない代わりにどんな権利も主張しない。ただ道を駆け抜けるだけだ。
そこが長年愛されるキャラクターの理由かも知れない。
そんな紋次郎も時には内面の揺れも見せる。
幼なじみを信じて罪を被り流罪にされたり、『堅気の人々の暮らしを、羨ましく感』じ、『どこかに、落ち着いてみたい』と思ったり、ついには請われて『足を洗って、百姓になりきる』ことを夢見たり。
だがそんな紋次郎の束の間の夢は残酷に引き裂かれる。何かあれば一番に疑われるのが渡世人、無宿の人間なのだ。
結局は『誰にも心を許さず、人を信じることなく、ただひとり死ぬときが来るまで生きる』しかない。
冒頭にミステリー色は薄めと書いたが、中には面白い趣向のものもあった。
七人の飯盛女たちと共にハーレム状態で山越えをするものの、一人ずつ死んでいく変則的クローズドサークルものがあったり、沢山の親分衆の前で名探偵よろしく推理を披露する場面があったり、ちょっとした入れ替えものがあったり。
このシリーズは題名が良い。
「赦免花は散った」「流れ舟は帰らず」「女人講の闇を裂く」「大江戸の夜を走れ」「笛が流れた雁坂峠」「霧雨に二度哭いた」「鬼が一匹関わった」「旅立ちは三日後に」「桜が隠す嘘二つ」「明日も無宿の次男坊」
渋い題名を読むだけでワクワクする。
そして紋次郎のトレードマークである楊枝の使い方も毎回印象的。時に隠し事を暴き、時に人の迷いを振り払い、時に人の心を表す。
またいつもは上州、武州を中心に旅をしているが、最終話では尾張まで足を伸ばしているのが新鮮だった。『紋次郎、お伊勢参りをする』なんて話があったら面白い。 -
木枯し紋次郎シリーズの中でもミステリ度の高い作品を集めた傑作選。
時代小説としても素晴らしいし、紋次郎の意外な名探偵ぶりも楽しめた。
私は子供のころから時代劇好きだったが、中村敦夫主演の紋次郎は他の勧善懲悪な明るい時代劇に比べてあまりにも暗く、救いがない話が多かったのでほとんど見なかった。
しかし今になってみると深い。
どれもミステリ的に面白かったが、逃避行の中で一人ずつ死んでゆく「笛が流れた雁坂峠」と、珍しく紋次郎が弱気になった末の結末が切ない「旅立ちは三日後に」が印象に残った。 -
一時期、木枯らし紋次郎にはまっていた。
ドライな物語と、ダイナミックな剣劇に魅了されたのである。
しかし、突然、止めてしまった。
死亡率の高さに疲れてしまったのだ。
なにせ人がよく死ぬ。
登場人物の九割、いや九割五分が死ぬといっていい。
いい人が出てきたら死ぬ。あるいは死んだほうがマシという目にあう。
渡世人紋次郎の居るところ、山は噴き、橋が燃え、夜討ちにあい、頭は割れ、背中は裂かれ、指が飛び、腕が落ち、胴が突かれ、血が吹き出し、人は減り、コミュニティは潰れ、産業は崩壊し・・・・・・
一通り彼が歩くだけで、一国がつぶれるに違いない。
さながら、災いの木枯らしなのだが、話はとにかく面白い。
面白かったな、また読みたいな、けれどもあの死亡率はなあとためらって幾星霜、これくらいなら程よいなという一冊が出た。
『流れ舟は帰らず 木枯らし紋次郎ミステリ傑作選』
改めて読めばなるほど面白い。
いつか読んだ題名を見て、
「これって、なんかえらいことがおこったような」と、ぼんやり思い起こせば、やはりどえらいことが起こる。
人がばったばった死ぬ。死ぬ。死ぬ。
そして思わぬ事実が明かされる。
人の思惑、因縁が現れる。
実はこのシリーズは、ミステリーなのだ。
これが面白い。
舞台は江戸の天保年間だが、その様子が、実にわかりやすく描かれる。
『春の雪である。天保九年三月の、初旬であった。二、三日前までは、春めいた陽気だった。それが急に寒くなり、昨日の明け方から白いものが舞い始めたのであった。春の雪だからと、誰もがタカをくくっていた。ところが一昼夜も降り続けて、とんだ大雪になったのである。
その雪も、いまはやんでいる。今朝は裸で洗濯ができる気候になるだろうという期待もまた裏切られて、青空は見えず冷たい風が吹いているのだった。それでも道中には、差し支えなかった。明け六ツをすぎると、たちまち旅人の往来が激しくなった。
旅人たちは菅笠を用い、合羽を着込んでいた。それぞれに、吐く息が白かった。しかし、それほど深刻で、憂鬱そうな顔は見当たらなかった。そこが、冬の雪の日とは、違うところである。誰もが、もう春は来ているのだと、自覚しているのであった。』 (174頁)
読めば目の前に、頭で解り、手で触れられそうな天保の世が現れる。
加えてアクション満載、見所充分の剣劇。
しかし、落ち込んだ時に読むのはすすめない。
普通の時には面白い。
ちょっと気持ちの荒んだ時には、なお面白いだろう。
ご自身の心境を鑑みてから、どうぞ。 -
すごい。実はドラマも見たことがなかったんだけど、おもしろい。ミステリ傑作選というだけあって、粒ぞろい。容疑者が逆転するのではなく、構図が変わるような作品がおもしろい。あと、タイトルがかっこいいよね。
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2018.5.21読了。
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ど~こかで、だ~れかが~♪
昔の記憶の方が残っているんだよなぁ… -
時代劇ヒーローのひとり、『木枯し紋次郎』シリーズの短編から、特に本格ミステリとしての側面が強い短編を集めた。創元推理文庫からは眠狂四郎シリーズの傑作集に続いての刊行。
あまり時代小説は読まないのだが、その分、新鮮で面白かった。テレビドラマの方はうろ覚えなので、どう違うかは解らない……CATVでやってないかなぁ。 -
なんだろ、かつて大好きだったシリーズなんだけど。主人公がニヒルすぎて、ニヒル疲れしてくる。
あんなにかっこよく見えた主人公が厨二病に見えてしまう。悲しい。
しかもミステリ系のどんでん返しの話ってそもそもそんなに好きではなくて、もっと普通の話が好きだったような気もする。
俺は木枯し紋次郎を卒業してしまったのだろうか。
著者プロフィール
笹沢左保の作品






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ドラマは観てないのですが、渋い雰囲気を楽しめました。
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曲もイメージに合ってますね。
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