サイン会はいかが? 成風堂書店事件メモ (創元推理文庫) (創元推理文庫 M お 5-3 成風堂書店事件メモ)

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  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488487034

作品紹介・あらすじ

「ファンの正体を見破れる店員のいる店で、サイン会を開きたい」-若手ミステリ作家のちょっと変わった要望に名乗りを上げた成風堂だが…。駅ビルの六階にある書店・成風堂を舞台に、しっかり者の書店員・杏子と、勘の鋭いアルバイト・多絵のコンビが、書店に持ち込まれるさまざまな謎に取り組んでいく。表題作を含む五編を収録した人気の本格書店ミステリ、シリーズ第三弾。

感想・レビュー・書評

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  • 「成風堂書店事件メモ」の3冊目。短編集に戻る。

    今回の決め台詞は『本屋をコケにして、お日さまがのんびり拝めると思ったら大まちがい』というわけで、相変わらず多絵ちゃんの推理が冴えわたる。
    表題作の本屋さんでサイン会を開く時の段取りや準備の様子はもとより、取り寄せに関するトラブルやコミックへのビニールかけに付録付きの雑誌の紐がけ、常連さんの忘れ物探しなど、本屋さんの仕事の大変さがつぶさに描かれるのも、いつもの通り興味深い。

    幼い頃に亡くなった父親の記憶を胸に本屋の中をそぞろ歩く小6の男の子の心情がいじらしい「君と語る永遠」と、いじられキャラの不器用なバイトくんと彼が憧れる爽やかなホクロ美少女とのすれ違いが微笑ましい「バイト金森くんの告白」が好き。

    お話は悪くないのだが、推理は丸投げする割に多絵ちゃんの不器用なところを何気にディスる杏子さんと事なかれ主義の割にいっちょ噛みしてはこちらも後は丸投げの店長にはちょっとイラつく。

  • 「赤ずきん」に続く書店・成風堂で起こるミステリを多絵が解決していく。アルバイトの多絵はずっと書店にいるわけではないので、きっかけは、正社員の杏子が絡んで、うまく多絵に橋渡しをしていく。

    とにかく読みやすい。なんと言っても犯人予測がミステリ慣れしていない私でも結構簡単にできる。しかし、多絵が謎を解き明かすそのroot causeに心地よい納得感がある。無理な、あるいは強引な結論に至るのではなく、なるほどと読者が無理なく理解できる。それが本作の魅力ではないかと思う。

    取り寄せトラップ
    成風堂ではこの10日間の間に同じ本の注文が4件あった。同じ本の注文が重なることはあるが、その本が品切れのために注文をした連絡先に電話をしたところ、4件ともが注文を否定した。
    土屋雄一、谷康宏、小林登喜夫、和田雅文。いずれも中年男性。
    そして、またこの4名からは別の本で注文が入り、発注前に電話で確認したところ、またもや注文を否定。
    これはおかしいと杏子が多絵に推理を依頼する。多絵の推理では、「この4人に品切れの電話、もしくは確認の電話を掛けさせるため」そして、「この書名にギクッとした人がいたと思います。」という。
    それから後日、杏子が月末締めの請求伝票の整理中に岡本詩織と名乗る女性が「こちらのお店で最近、不審な注文が度重なっていませんでしょうか」と言って訪ねてくる。岡本詩織の祖父は、一年前に釣り仲間4人と渓流釣りに出かけ誤って崖から落ちて亡くなる。祖父の遺品整理で横山大観の掛け軸と思われし遺品をこの釣り仲間に預けている。

    なぜ、この不思議な注文がされたのか、犯人探しのために多絵が三冊目を仕掛ける。
    横山大観の掛け軸を巡って、人間の欲vs多絵のような展開。
    ありがちな日常生活の謎解きをテーマにしているが、よくよく考えると、人が亡くなっている。丸くおさまってはいるものの、やっぱりミステリ作品なんだなぁと思う作品であった。
     
    君と語る永遠
    中池小学校6年1組の生徒たちが社会科の見学学習に成風堂にやってきた。小学生たちが書店員の福沢に質問をしている群れから離れ、ひとりぽつねんと実用書の棚の一番奥にたたずんている男の子・千葉広希がいた。
    そして、杏子がひらける抽斗を「これはなんというの?」と尋ねる。そして、平台に片膝をついて、上段の棚から無理やり広辞苑を引き抜こうとしている。とっさに動いた杏子の頭から肩にかけて落ちてきた広辞苑。倒れた杏子には無関心で、広希は分厚い辞書に手のひらを押し当てて、指を広げて片手で背表紙を掴み「だめだ。」、「まだ持てない。ちゃんと掴めない。」とつぶやく。
     
    なぜ、無理やり引き抜いたのか?周りの騒ぎに背を向けて最後まで広辞苑に広希こだわる理由がわかった時、胸が苦しくなるような切なさを感じる。
     それは最後に広希の亡き父との約束に杏子が言った一言だ。約束は、いつか広希くんがかなえればいい」。
    広希は、何を考えているかわからない子供ではなかった。父との約束を一生懸命考えている子供であったことがわかる。胸が痛い。

    ストーリーとは直接関係のない帯の話が挿入されているのだか、書店員泣かせの帯の話も面白い。「購入する人にとってはきちんときれいに、一点のゆがみもなく整っているのが本である。そういうものにこそお金をかけたい。くしゃくしゃになった帯がぶらさがっている本なんて言語道断。いくら付属物とはいえ、葉損していればほんの値打ちに傷がつくーと思っている人が多い。」
    『うん、うん。そう、そう。』と心の中で納得する。
が、「けっして店の者が乱雑にあつかっているわけではないが、手に取ってもらってこその陳列品であり、お客さんの所作に目を光らせてもいられず、たとえひどい扱いの人を見かけたところで注意するのがまた難しい。・・・・・お客さんの目を盗み、こっそり(帯を)はがして丸めるのも珍しくない。」に書店員の苦労と、一方で客としての疑問が生じる。
     
    バイト金森くんの告白
    「ぼくは成風堂で、恋をしましたー」
    成風堂の飲み会で、多絵の不器用さのネタから話題を変えようと、バイトの金森君に杏子が「金森くんも何かない?」と尋ねた。
    
ひと月前に成風堂の仲間に加わった金森は、言いつけられた仕事をコツコツこなす几帳面な学生で、森目正しいのは美徳としても、万事融通が利かないという難点を併せ持つ人物。みためもエプロンより白衣、カッターシャツが似合うような真面目な学生。
    その金森が高校の時に、成風堂で出会った女子高生に恋をする。
    ことの始まりはゲーセンの店員との賭けでまけたため、成風堂にネイチャー系のグラビア誌「ワールドビジョン」を探しにきた。
駅前の書店も売り切れで文句を垂れていた時、すぐそばに立っていた女の子が「ほしかった本、これじゃないみたいなので。よかったらどうぞ。」と譲ってくれた。沿線にある男子高校生の間では人気のお嬢様学校の生徒であった。
    彼女とは清風堂で何度となく顔を合わせ、少しずつ言葉を交わすようになっていった。高校3年の冬、2月に入り第一志望の大学に合格した金森はふわふわした気持ちで月半ば、久しぶりに清風堂に入った。そこの彼女と彼女の友達の姿を見つける。大学が決まったことや外で会おうという伝える気持ちを強くもっていた金森は、そこで、「あんな男前のレオ様とラブラブなんて羨ましい。今年こそ正式な愛の告白になるんじゃないの?」といわれた彼女は笑っていた。そんな会話を聞いてしまった金森は、本屋の通路に呆然と突っ立っていたのを彼女に見つかり、笑いかけられたがしどろもどろ。会話の話なんか入ってこなかった。
バレンタインデーから3週間くらいたったある日、一人旅でもしようと旅行雑誌をみていたところを彼女に声を掛けられフォトファイルの付録をわたされる。その月刊誌の表示が「ストーカーの心理」であることを知しる。
     
    多絵は、このレオ様が女性であることがすぐにわかる。きっと多絵がそのとき金森くんの相談相手であったならきっと金森くんは失恋しなかったんだろうなぁと。もしかしたら失恋したと思っている人の半分は思い込みの失恋かもしれないのでは?っと思える金森くんの淡い恋の話だった。

     
    サイン会はいかが?
    まるで酒屋の御用聞きのような軽いノリの取次の担当者・藤永がうわさ話のつもりで、店長に人気ミステリ作家の影平紀真の新刊発売記念サイン会の話をしたため、店長がその気になる。1冊1800円の新刊の大量販売ができるのはとても魅力的ではあるものの清風堂規模の小さな書店に売れっ子作家がくるわけがない。
    影平の熱心なファンがいるのだが、ずっとペンネームのやり取りでサイン会に毎回きているのに誰だかわからない。ミステリ作家なので、いつまでもわかりませんでは立場がまずいため、サイン会を開くにあたり謎の字文物がどこの誰かを解き明かしてくれる店員のいる書店で開きたいとのこと。実はこの話にはもっと深い意味があった。
     
    本作メインの章であるが、ミステリ作家の影平も犯人がわからない設定であるのに、本屋に関係するミステリとして多絵は、難なく謎を解いてしまうのだが、ここに繋がる設定に少々強引さを感じる。

    つまりなぜこのファンが犯人に変わったのかというのは、予想できないにしても、犯人は私でも予想ができる。それなのにミステリ作家がわからない?それは友達としての繋がりが犯人を分かりづらくしているという設定であるのだろうか?
    この章でも犯人の気持ちになってメッセージを紐解く多絵の洞察力に説得力がある。

    ヤギさんの忘れ物
    「白ヤギさんからお手紙ついた、黒ヤギさんたら読まずに食べた。」
    常連客の老人・蔵元が、成風堂のパート勤務主婦の名取の退職と転居にがっかりする。そんな状態であったからスナップ写真を入れていた白い封筒を、どこかに置き忘れてしまう。

    封筒は、ヤギに食べられずに蔵元の手元に戻ってくる。
    犯罪あり、恋愛ありの「清風堂書店事件メモ」ではあるが、最後はすっきりとした気分で読み終えることができた。理解不能な子供の行動心理をついた章であった。

  • 一作目、二作目に引き続きやっぱり杏子さんが苦手で…お話しは面白くて好きなんですが、杏子さんの言い方がなんだかきつく感じて気になってしまうのが残念。多絵ちゃんやその他の登場人物は大丈夫なのになぁ。

  • シリーズ3作目。
    前作は長編だったが、今作はまた短編に戻っている。
    本屋で起きる様々な謎を書店員の杏子とアルバイトの多絵が解明していく様子は、長編より短編の方が面白い。
    表題作の「サイン会はいかが」は少し長いが、初めてサイン会を開く、書店員の方たちの奮闘と多絵の推理が並行して描かれ、楽しめる。
    「取り寄せトラップ」と合わせ、この2作は本格的な推理が展開されるが、他の方のレビューにあるように、手掛かりが多絵の謎解きの中で解説されてしまうので、読者が謎解きしながら読める楽しさはない。
    「君と語る永遠」は小学生の社会見学の様子が描かれるが、こちらは推理よりも、小学生と書店員たちの触れ合いが微笑ましいと思いながら、読んだ。
    おまけ程度のページ数の「ヤギさんの忘れ物」が、個人的には一番好き。

  • 書店に行きたくなる

  • 好きでないと勤まらない、よくそう言われるが、好きであることさえ忘れるようなめまぐるしい毎日だ。検品、品だし、レジ、返品、発注、そこに接客業の煩わしさや、売り上げの重圧がかかり、これ以上出来ない、と切れそうになるのはたびたび。激務の割りに低賃金でもある。辞めていく人も多い。
    けれど、本をかいしてのささやかな出来事は、ときにたのしく、ときに刺激的で、ときにはほろりとさせてくれる。(292p)

    本屋に勤めるのが、ささやかな夢である。大変な事は、このシリーズを読むとよく分かる。それでもその夢が色あせない。けれど、しがない岡山の地方都市には、書店の求人は一切ないのである。

    このシリーズを読むのは、三冊目。すっかりファンではあるが、ホントは少し物足りない。日常の推理物はすきなのだが、ちょっと謎解きが「恣意的」、つまり北村薫の云う「本格的」ではないのである。短編集の今回は、それでもテンポが好いので、それも気にならなくなる。そして、私の「物足りなさ」は、作者の意図が私の思いとずれているからではないかと、今回気が付いた。

    すごい書店、すごい売り場に憧れるものの、その「すごい」とはなんだろう。頭の中にはすぐにマニアックな専門書がずらりと並んだ都会の大型書店も浮かぶし、二坪ほどの小さな書店にぎっしり詰まった書棚もかすめる。でも自分が本当にやってみたい「すごい」とは、どちらからも離れているような気がする。そればかりか、「すごくなくてもいいから」という言葉が浮かび、大きく引っ張られた。
    自分が目指したいのは、すごくなくてもいいから身近な人たちが笑顔をのぞかせてくれるような棚だ。(262p)

    あんまり「本格的」なのも本当は良くないのかもしれない。それは、いろんな事に通じる。

  • やはり前作よりも、本屋さんの中で起こることをそこから出ずに解決してしまう今作の方がテンポもよく好みです。本屋さんの裏側を覗けるのは本当に楽しいし、他の書店員さんの特徴も覚えてきて一緒に働きたいと思ってしまうような雰囲気も好きです。ほろ苦くすっきりしないような、後味が優しい話ばかりではないところも逆に良いかと思います。表紙やポップ、帯に呼ばれて本を買う楽しさは知っていますが話題の本はネットでクリックしてしまうことが多い昨今、坂木さんの解説は沁みました。私も地元書店をどんどん利用していきたいです。

  • 大好き書店ミステリー
    本屋で起こる日常の謎は本屋の名探偵が解く!
    ほのぼの系です
    手がかりは全部推理中に出てくるので、読者が想像する余地が無いのが残念

  • 成風堂シリーズ第3弾、今回は本伝に戻って短編集。
    いずれも書店を舞台にした、日常ミステリー。

    なんだけど、ミステリーとしての括りが作品をぎこちなくさせているように思えてきた。多絵ちゃんのそして作者の本意とはかけ離れてしまうのは承知で、このシリーズはミステリーというしがらみを切ってしまった方がいいんじゃないかと思う。謎解きをするにしても、もっとユルい方が物語が映えないかな?と

    5編収録の短編の中で小学生の社会見学を舞台にした「君と語る永遠」が一番好き。ホロっとくる人情もの+健気な子供の一途な思いとくれば、お父さんは泣いちゃうのだ。

  • 書店がかかわる事件の背景がだんだん重いものになってきている気がしながら、読み進めました。最後のお話は、読み終わった後、寂しさもあるけれど心が温かくなりました。多絵ちゃんの頭のひらめき具合は本当にすごいと思うけど、巻が進むにつれて、多絵ちゃんの態度にちょっと嫌な感じが受けるときがあります。たぶん杏子さんの立場で読んでしまうからでしょう。これからの杏子さんと多絵ちゃんの活躍に期待。

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著者プロフィール

大崎梢
東京都生まれ。書店勤務を経て、二〇〇六年『配達あかずきん』でデビュー。主な著書に『片耳うさぎ』『夏のくじら』『スノーフレーク』『プリティが多すぎる』『クローバー・レイン』『めぐりんと私。』『バスクル新宿』など。また編著書に『大崎梢リクエスト! 本屋さんのアンソロジー』がある。

「2022年 『ここだけのお金の使いかた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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