- Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488488116
作品紹介・あらすじ
『宝島』から『水滸伝』、『南総里見八犬伝』へ――
この百年の文学史に「冒険小説」を刻む不朽の名著
第47回日本推理作家協会賞受賞作
スティーヴンスン『宝島』から始まり『水滸伝』を経由して滝沢馬琴『南総里見八犬伝』、そして戦後――英雄なき時代の先に繚乱する冒険小説のオデッセイアへ。洋の東西さえ越えて、著者は膨大な小説と文献を文字通り縦横無尽に渉猟する。ただ一心に、面白い小説を追い求めて。百年の文学史のなかで切り開かれた豊饒なる小説世界、その山嶺を闊達な筆致で踏破する一大評論。大衆文学研究に里程標を刻み、第四十七回日本推理作家協会賞を受賞した名著。この一冊をして、文学史に「冒険小説」は永遠に刻まれる。
■目次
Ⅰ
近代ヒーローの誕生
ドイルと騎士道小説
大観光時代
荒野に立つヒーロー
ハックルベリーの旅
西部辺境の男たち
十九世紀イギリス補遺
芥溜(ごみため)のパリ
デュマの剣豪小説
科学の冒険
愛国主義者ルパン
『紅はこべ』と『スカラムーシュ』
騎士道の消滅
スパイ・ヒーロー、登場
不安と疑惑の時代
クリスティーの冒険
ジョン・カーターとターザン
無人島の少年たち
海の男ホーンブロワー
マクリーンの戦後
イギリス海洋小説補遺
不信のヒーロー
フランスのスパイ活劇
ジョバンニと暗黒小説
スピレインの亡霊
自警団ヒーロー、ボラン
スペンサーの饒舌
悪党パーカーの栄光
ライアルの場合
七〇年代の壁
現代の秘境
キャリスンとカイル
ヒギンズの陥穽
工作員の冒険
謀略小説の時代
ラドラムとカッスラー
フランシスの復活
Ⅱ
『水滸伝』の世界
ふたつの『水滸伝』
Ⅲ
『南総里見八犬伝』の世界
政治小説の時代
黒岩涙香の翻案小説
巖谷小波の少年小説
武侠の冒険
立川文庫と講談
「新講談」の時代
「少年倶楽部」の時代
高垣眸の海
密林のヒーロー
軍事冒険小説の行方
日本伝奇小説の系譜
国枝史郎と講談
伝奇小説の黄金時代
昭和十年代の壁
『宮本武蔵』への道
『赤い影法師』の衝撃
講談『柳生武芸帳』
風太郎忍法帖におけるロマネスク
伝奇小説の伝統
隆慶一郎が残したもの
ヒーローの善意
机龍之助の皮肉
丹下左膳の場合
長谷川伸と流れ者ヒーロー
眠狂四郎の剣
海のロマン
大藪春彦の意味
八〇年代のオデッセイア
夢枕獏の彼方
あとがき
文庫本のためのあとがき
解説=霜月 蒼
書名・作品名索引
人名索引
感想・レビュー・書評
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北上次郎『冒険小説論 近代ヒーロー像100年の変遷』創元推理文庫。
本の優れた読み手として、数多くの優れた書評を残し、2023年に逝去した北上次郎が8年の歳月を掛けて執筆した労作にして、大傑作。
1993年に早川書房より刊行された同名作の最終版である2008年刊行の双葉文庫版を底本に復刊。第47回日本推理作家協会賞受賞作。
改めて北上次郎の鋭い感性と読書量の凄さに驚愕した。冒険小説の捕らえ方一つを見ても、単なるヒーロー物の娯楽小説として括るのではなく、時代背景や歴史、文化を酌み取り、冒険小説を文学史の高みにまで押し上げている。そういう点で本作は北上次郎が語る冒険小説論というよりも、冒険小説史といった色合いが強い。
第1部は、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの『宝島』から紹介される海外の冒険小説。自分が冒険小説を意識して読んでいたのは1970年代以降の作品からだろう。本作にもジャック・ヒギンズ、ギャビン・ライアル、アリステア・マクリーン、クレイグ・トーマス、ディック・フランシスと懐かしい作家が紹介される。
第2部で、中国の『水滸伝』を紹介し、滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』との関連が描かれる。
第3部は、いよいよ日本の冒険小説の紹介なのだが、時代小説、剣豪小説、少年向け小説などを経て、ようやく大藪春彦、西村寿行、北方謙三、船戸与一といった馴染みのある冒険小説作家が登場する。締めを飾るのは夢枕獏で、『餓狼伝』『獅子の門』といった格闘冒険小説の他、将棋の真剣師を描いた『夢果つる街』が紹介される。
自分は、北方謙三のハードボイルド小説を全て読んだが、比較的初期の作品である『逃れの街』が一番気に入っている。北方謙三がハードボイルド小説から時代小説へと転身したことが残念でならない。最近、馳星周もピカレスク小説から時代小説へと転身しつつあるのが気に掛かる。
船戸与一も全作読んだが、最初に読んだ『山猫の夏』に大きな衝撃を受けたことを覚えている。
夢枕獏の作品もかなり読んでいる。未完の『餓狼伝』にやきもきしつつ、完結した『獅子の門』『東天の獅子』には満足している。個人的には夢枕獏の最大の傑作は『神々の山嶺』ではないかと思っている。
本体価格1,500円
★★★★★ -
2024/3/6読了。
本をたくさん読む人なら分かると思うけど、読んだ本は自分の読書歴の中に位置付けられていって、自分の中にたくさんの本をパーツとする文脈、自分なりのコンテキストが形づくられていく。
それを書評家が「宝島」「水滸伝」「南総里見八犬伝」まで遡り、文献も合わせて引きながらきちんとやると、ある種の文学史と呼んで良いもの、生きた文学史とでも呼ぶべき評論になるのだなあと思った。これはそういう本。
特に冒険小説のようなエンターテインメントの文学史というのはあまりないと思うので貴重。本書自体が読んでいて滅法面白いエンターテインメントでもある。 -
2024年3月1日購入。
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様々な賞に輝いた北上二郎による冒険小説ガイド。国内外を問わず多くの小説を紹介しており、読まなければならない本がまた増えること間違いなし(笑)。この手の本では「あれが取り上げられていない」と不満をこぼす人がいるものだが、この本に関しては著者の冒険小説好きがダイレクトに伝わってくるのでそういう人はあまりいないのではないかな。個人的にはもちろん水滸伝が章立てされているところに拍手。
「魔獣狩り」シリーズ
「涅槃の王」
あ、「風果つる...
「魔獣狩り」シリーズ
「涅槃の王」
あ、「風果つる街」なんかもいいな~^^