失われたものたちの本 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (445ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488517069

作品紹介・あらすじ

母親を亡くし、本の囁きが聞こえるようになった12歳のデイヴィッドは、死んだはずの母の声に導かれて幻の王国に迷い込んでしまう。狼に恋した赤ずきんが産んだ人狼、醜い白雪姫、子どもをさらうねじくれ男……そこはおとぎ話の登場人物や神話の怪物たちが生きる、美しく残酷な物語の世界だった。デイヴィッドは元の世界に戻るため、『失われたものたちの本』を探す旅に出る。全米図書館協会アレックス賞受賞の本にまつわる異世界冒険譚、文庫化!

感想・レビュー・書評

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  • なるほど。
    宮崎駿監督作品「君たちはどう生きるか」(の原作そのものと言ってしまってもよいレベル)がオマージュを捧げた物語。

    現実から物語に入り込んでしまった主人公の成長譚としてはエンデの「はてしない物語」を思い出す。だが、私は個人的にはこちらの方が好き。主人公の考え方に、より共感できることが最大の理由。本の囁きを聞くようになってしまう主人公が現実世界で直面するのは"喪失"と"嫉妬"だ。それだけに本作の描写ははるかにシビアでダーク。必要以上に残酷でエロティック。物語の世界観やリアリティが私好みだ。長過ぎるとも感じる前半エピソードと、中盤以降のダークファンタジー部分が、『虚飾の玉座より大切なのは正しく生きること』を丁寧に訴えていたことが分かるという展開も良い。

    …という訳で、宮崎駿監督作品「君たちはどう生きるか」を見てモヤモヤしている人用…かな。主人公が抱える心の傷の痛々しさや、繰り返し描かれる"これでもか"的な残酷描写で読むのが辛くなる人もいるでしょうからお薦めとは言い難いです。主人公は少年ですが『お子さま向け』ではない。全く逆です。
    …なお、私は本屋で見るまでこの本の存在自体知りませんでした。映画は、『泉鏡花の世界観』を投影して見ていたんですが、勝手な思い込みでしたね。宮崎駿監督、さすがです。

  • スタジオジブリの新作「君たちはどう生きるか」の元ネタなのではないか?と噂されている本。映画の内容が伏せられているので、あらすじは省きます。
    主人公の少年の成長の物語。

    物語に出てくる人物や出来事は全て少年の心の中のメタファーなのだろうか?

    映画の内容が気になるが、映画館に観に行こうか、金曜ロードショーでやるまで待とうか悩む。

  • 失われたものたちの本
    少年が物語の世界へ入り込む系の話に弱く、手に取る。

    病気で母親を亡くした少年、父には新しい女性と再婚、子供までできて少年は自分の居場所を失ってしまう。
    そんな時、彼方から声が聞こえてきて物語の世界に飛び込む。

    童話風の語りで進むためロングバージョンの話を聴いている感じで進む
    荒れ果てた物語の王国では、合間に読んだ探偵者の殺人よりも数倍惨いことが起きていて、よくある昔話の原型はグロさが強いという話を思い出す。
    終盤はこれまた昔話風の"それから"の話が怒涛の勢いで話が終わる。

    ちょっと疲れたけど、登場人物たちが少年にとっての何の象徴なのかを追いつつ楽しみながら読めた。(ただ長くは感じた。)

  • 原題は「THE BOOK OF LOST THINGS, including one short story, CINDERELLA(A Version)」by John Connolly

    宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」ありきで読んだ。
    帯文に「宮崎駿氏推薦 ぼくをしあわせにしてくれた本です。出会えてほんとうに良かったと思ってます。」と。

    ファンタジーの読めない子供だった。
    いや、正確に言うと、ファミコンゲーム→角川スニーカー文庫や富士見ファンタジア文庫、そしてファンタジー漫画は読んでいたので、サブカルチャーで美味しく加工されたファンタジーしか食べられなかった、と。
    でも少なからぬ子供がそうなのではないかしらん。

    駿が読み、戦時中の幼年期を思い出して感応し、きっと夢でデイヴィッドと同化しただろうと想像すると、ちょっと琴線に触れる。
    というか、そもそも著者と読者の時空を超えた交流ってそうだよな。
    作中、本の声という描写があるが、読者たる駿がそれを再現したのが、今回のアニメ化。
    で、そこまで突き詰められないわれわれは、そのお裾分けを頂いている、と。

    いまや児童文学やファンタジーが「正当な教養」と位置付けられているが、別に古き良きファンタジーを摂取しなければならないとは思わない。
    が、引け目はある。
    大人になってから「はてしない物語」に再入門("例の"映画は見たので)して、どこが悪いのだ。
    子供に勧めたいが、たぶん乗ってくれないだろう。それでもいいのだ。

    取り留めのないメモになってしまった。
    本書、駿への影響元として読むぶんには面白かった。
    が、もしそれなしで単体で読もうとした場合、途中で挫折したかもしれない。
    あまりよくない意味で作者のひねくれた考えや、性癖のごときものが滲んできているので、しんどいところはあった。
    むしろ中高生のころに読んでいたら面白がれたかもしれないと思える、いわゆるヤングアダルト小説という位置づけなのか。
    調べてみたら、全米図書館協会アレックス賞(「12歳から18歳のヤングアダルトに特に薦めたい大人向けの本10冊」)受賞作らしい。

  • 物語が何を与えるか? そんなことを読みながら考えてしまった。

    児童文学として子どもたちに与える本というよりも、研究者向けと感じたかな。

  • 祝文庫化!

    失われたものたちの本 - ジョン・コナリー/田内志文 訳|東京創元社
    http://www.tsogen.co.jp/sp/isbn/9784488517069

  • 嫌いではないけど、しばらく読む機会のなかったファンタジー。帯の宮崎駿の名前で手に取った。
    男の子だったディヴィッドが、いくつものゆがんだ物語が実体化した世界に引きずり込まれて、旅をする中で成長する。帰ってきた彼が、継母にも異母弟にも優しくなって、その後の一生を送るエピローグが良かった。ローランドも実は生きてて欲しかったな。

  • 読む前は、出版社の宣伝などで「美しくも残酷」とか「ダークファンタジー」という言葉が使われているので、私の好みではありそうだけど、後味の悪さが残るイヤミス的展開だったらしんどいな、と思っていた。
    結果そんなことはなかった。
    (残酷描写はサラッと次々に出てきます)
    母親を亡くした少年デイヴィッドは、父親の再婚相手ローズの屋敷で暮らすようになるが関係はうまく行かず。本の囁きが聞こえるようになっていたデイヴィッドはある日屋敷の庭の沈床園からお伽話の世界へ迷い込み、元の世界へ帰る為、その王国の王が持つという『失われたものたちの本』を探す旅に出る。

    少年の成長譚と感じた。
    そして、「世界は美しく素晴らしい」ではなく、
    「生きる事は辛くも苦しくもある」
    「世界は残酷」
    「それでも生きる」
    「生きる価値はあって救いもある」
    って言う話だと思った。
    でも、その救いは、現世でのものだったんだろうか。
    すっきりカタルシスを得て読了というより、読み終わってもつらつら考えてしまう話だった。

  • 宮崎駿監督のお気に入り、という帯が気になり手に取った本。
    東洋と西洋の違いはあれど、グロテスクな表現あり、象徴(ICON)的表現あり…ジブリのいくつかの作品と世界観が似ているかな?という印象。
    ただし、子供向けではなく大人に童心を思い出させる本という表現が適切かも。

    巻末についていた『シンデレラ』は無くても良かったように思う。訳者あとがきをうっかり先に読むと白けるので要注意!

  • 第二次世界大戦下のイギリス。12歳のデイヴィッドには病気の母がおり、デイヴィッドの献身も虚しく亡くなってしまう。やがて父はローズという女性と再婚、ジョージーという弟も産まれ、一家はローズの故郷の田舎へ移り住むことに。その屋敷はもともとローズの家族が代々住んでいたが、ローズの伯父にあたるジョナサンという人物がまだ少年の頃に幼い義妹とともに失踪する事件があった。デイヴィッドは、そのジョナサンの使っていた本の沢山ある部屋をあてがわれる。

    デイヴィッドは亡くなった母を今も忘れられず、新しい母と弟を愛することができない。おりしも戦争中ということもあり、赤ん坊のいるローズも、暗号解読の仕事をしている父もイライラカリカリ、家族がすっかり不和となったある日、ドイツの爆撃機が庭の「沈床園」と呼ばれるエリアに墜落、デイヴィッドは偶然そこに居合わせ、木のうろに逃げ込むが、そのむこうには別の世界が広がっており…。

    基本設定はわりとベタな児童文学。異世界に迷い込んでしまったデイヴィッドは、人狼に襲われ木こりに保護される。彼はいくつか物語を語ってくれるが、この世界ではデイヴィッドが知るおとぎ話が改変されている。まず「赤ずきん」彼女は人間の男に興味を示さず、一匹の狼に恋をしてしまう。そして狼との間に子供を作り、どんどん人狼が増えてしまった。人狼たちのリーダーはリロイという名前で、この世界の王を倒し、自分が王になる野望を抱いている。

    もとの世界に戻りたいデイヴィッドに木こりは、この国の年老いた王に会い、王の持っている「失われたものたちの本」を読めば、もとの世界への戻り方がわかるかもしれないと言う。デイヴィッドと木こりは王の城を目指し旅に出るが、人狼の群れがデイヴィッドを食べようと追ってくきて…。ここからさまざまな試練がデイヴィッドを襲う。さらにデイヴィッドが「ねじくれ男」と呼び、木こりが「トリックスター」と呼んでいる謎の邪悪な男が、デイヴィッドの周辺に付きまとっている。

    ちょっと驚いたのは、とにかく悪役が残忍で、その所業がグロテスクなこと。一見子供むけファンタジーの王道のような設定と展開なのに、細部がグロいので、実際に子供に読ませることはちょっとできなさそう。とくに「女狩人」という人物は、ほぼマッドサイエンティスト。子供を殺し、動物の胴体に子供の首をつけたおぞましい生物を造りだし、それを放してから自分で狩るというのを繰り返している。もちろんデイヴィッドは機知を働かせてうまく逃げ出すのだけど、びっくりするほどグロい展開でした。

    その後、デイヴィッドは、馬に乗った高貴な騎士ローランドと出会い、道行を共にする。このローランドは、眠り姫の茨の城へむかったきり戻ってこない親友ラファエルを探すため、茨の城にむかうところだという。二人は途中の村で巨大ムカデみたいな化け物退治をしたりしつつ進むが、背後からは人狼軍団がデイヴィッドを追ってるし、「ねじくれ男」はデイヴィッドをローランドの保護下から引き離そうともくろんでいる。

    ここで驚くのが、なんとこのローランド、同性愛者。彼が探しているラファエルはもちろん恋人。ダークファンタジーの世界にもポリコレがあるのだろうか。現代的な設定ですよね。まあそれはさておき、もちろん眠り姫の物語もこの世界では一味違う。前半に出てくる白雪姫は小人たちにパワハラしまくる怪女でしたが、眠り姫のほうは、なんていうか、吸血鬼的なもの? あとこの小説の容赦ないところは、主人公の庇護者をどんどん殺していっちゃうところ。そういう意味でも児童むけではないかもしれない。

    さてさまざまな試練を経てすっかり勇敢になったデイヴィッドは、ついに王の城にたどりつき面会する。そしてそこで王とねじくれ男の秘密を知ってしまい…。王の正体は、予想通りでした。まあ伏線的にそれしかないでしょう。

    それにしても、ねじくれ男の邪悪なことよ。しかも彼の言うことがまんざら嘘や虚構ばかりでもないというのが辛い。どうやらグリム童話の「ルンペルシュティルツヒェン」がこのねじくれ男の元ネタらしいですが、小説内では、人類が生れたのと同じころから存在している邪悪な存在。子供の心の闇につけこみ、さまざまな邪悪なことを吹きこむ。そして紹介される彼の所業がやっぱりグロい。

    基本は少年の成長譚なので、一応ハッピーエンドではあるけれど、もとの世界に戻れても、その人生が幸福なのか、意味があるのか、と問われたらつらいところ。童話パスティーシュとしては、さほど斬新ではなかったけれど、それなりに夢中で読める1冊ではありました。

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