ラヴクラフト全集 (3) (創元推理文庫 (523‐3)) (創元推理文庫 523-3)
- 東京創元社 (1984年3月30日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488523039
作品紹介・あらすじ
アーカムやアヴドゥル・アルハザードが初めて言及される初期の作品や、ロバート・ブロックに捧げた作者最後の作品をはじめ、時空を超えた存在〈大いなる種族〉を描く、ラヴクラフト宇宙観の総決算ともいうべき「時間からの影」など全8編を収録。
収録作品
「ダゴン」 「家の中の絵」 「無名都市」 「潜み棲む恐怖」 「アウトサイダー」 「戸口にあらわれたもの」 「闇をさまようもの」 「時間からの影」 「資料:履歴書」
感想・レビュー・書評
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「ダゴン」
ある船員が海の真ん中で体験した恐怖の記録。
海上の不気味な島も良いんですが、オチが非常にいい味を出してました。
「家のなかの絵」
雨宿りに入った不気味な家で出会った本の挿絵、そして白痴めいた老人の語り。
ラヴクラフトらしく、婉曲な表現で想像を掻き立てる手法が怖さを引き立ててます。
「無名都市」
無名都市に辿り着いた探検家の物語。ごめん、イマイチ伝えたいことがわからなかった。
「潜み棲む恐怖」
薄気味悪い山に館をかまえていた呪われた血統という、いかにもな舞台設定。
オチも含めて非常にラヴクラフトらしい作品でした。
「アウトサイダー」
自分の正体は実は…な、お話。オチも含めて雰囲気がよい。
「戸口にあらわれたもの」
精神交換・精神乗っ取りなお話。「インスマウスの影」とシンクロする部分もありなかなか面白かった。
「闇をさまようもの」
地元の人ですら避けるとある黒々とした廃墟のような教会から、壮大な狂気が迫ってくる話。
「時間からの影」
大学教授ナサニエル・ピースリーが体験する奇妙な二重人格と幻覚症状、そしてその真相。
非常にスケールの大きな話でコズミックホラーに相応しい内容でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
①ダゴン
船乗りのわたしは運悪くドイツ軍に拿捕された後、すきを見て逃げ出す。漂流の後に小島に漂着したわたしは、丘の頂上を目指すことにしたのだが――。
●「窓に!窓に!」で有名な、クトゥルフ神話の原型とも指摘されている短編。
②家の中の絵
道中で雨宿りのために家屋に入ったわたしは、そこでテーブルに置かれた古書に目を奪われて――。
●夢幻的なホラー。そこにいたのははたして死者だったのか生者だったのか。
現場がアーカムの近くなので、食屍鬼をゲストにした物語やTRPGシナリオがありそう。
③無名都市
アラビアの砂漠で伝説の古代都市を見つけたわたし。探究心から内部に侵入したわたしが目にしたものは――。
●初めて"アブドル・アルハズラット""アブドゥル・アルハザード"の名が出た作品かな?
恐怖よりも強く感じたのは偽史的な面白さ。
④潜み棲む恐怖
とある地方で起きた大量殺人。探究心からわたしは仲間とともに元凶と噂される館に乗り込むことに――。
●厳密には神話に属さないが、展開はホラーの王道で神話っぽさも感じられる。実は何度か映像化されているのだが、設定は大きく変えられているので、知らないとラヴクラフト原作とは気づかないだろう。
⑤アウトサイダー
遥かなる年月を闇の中で過ごしてきたわたし。日の目を求めて塔を登り、念願の外へ出たのだが――。
●結末にて、哀しみの中に混じる救いの描写は、ラヴクラフトが求めたものか。
⑥戸口にあらわれたもの
わたしは確かに親友を殺した。だが彼は親友ではない。親友であって親友でないのだ。なぜなら――。
●よくある結末にせず、あえて曖昧な結末にしたのが良い。
インスマスが深きもの"だけ"の街ではないことを伺わせる点で、クトゥルフ神話の深みをより強く感じさせてくれる作品でもある。
⑦闇をさまようもの
とある男性が自室で変死体で発見される。彼が遺した日記と客観的事実を元に表された、彼の最後の数日とは――。
●ラヴクラフトの遺作。神話作品では王道の、好奇心から身を滅ぼす話。
執筆年で見ると、晩年の作品は「乗っ取られる恐怖」というテーマが続いている。
⑧時間からの影
後を継ぐであろう息子のために書かれた日記。そこに記されていたのは、謎と恐怖と深秘に満ちた体験だった――。
●前半は5年半の空白を埋める内にじわじわと表れ出る未知の記憶に対する恐怖に侵されるが、後半は恐怖というよりも、偽史的な面白さに囚われる。
なにせ精神のみとは言え、古の先住種族から人類滅亡後に登場する種族まで、古今東西の種族が一堂に会するのだから! -
主人公が与えられた状況においてなすすべもなく恐怖に飲み込まれていくというシチュエーションは怪奇の本質であると思われる。「なすすべもない」というのは究極の受身であり、ラブクラフトの不遇な人生もある意味このような受身の態度をもたらさざるをえなかったのだろう。巻末の履歴書がそのことを如実に物語っている。
「時間からの影」が面白かった。SF的なところが面白かった。 -
1985年以降購入して読んだが、詳細は覚えていない。
これまで聞いたことがないような擬音のカタカナ、”ほのめかす”という普段使わない訳、不気味な話には惹きつけられた。
また読みたい。(2021.9.7)
※売却済み -
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再読。
ラブクラフト初期の作品が興味深い。
お気に入りは「戸口にあらわれたもの」
自分が自分でなくなる恐怖ってのはアメリカ人にはすこぶる堪えるものなのかな?
「闇をさまようもの」の裏話がとても好き。
仲間内で楽しんで創作に耽っていたのはなんだか微笑ましい。
自身を語る履歴書がこれまたおもしろい。
ラブクラフト世界を十分堪能しました。 -
久々に読んだら、すごく時間がかかってしまった。
ラブクラフトの創作活動の各時期の
代表作を集めた作品集。
短編七作、中編1作、本人による履歴書が収録。
偶然、或いは自ら深い謎を探求して、
名状し難き者に出会ってしまい錯乱するという定型は、
初期から始まっています。
・ダゴン・・・初期の作品。
短編ながら、その原型となる特色があります。
・家のなかの絵・・・最後が尻切れトンボな感。
・無名都市・・・あの狂える詩人の名が初出。幻想的。
・潜み棲む恐怖・・・邪悪な一族は主人公と何か繋がりが
ありそうだけど、わからぬままで終わり(^^;
・アウトサイダー・・・囚われの主人公が戒めの館から出て
見たものは?描写とクライマックスが秀逸。
・戸口にあらわれたもの・・・インスマウス出身ですか~。
「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」とも類似。
・闇をさまようもの・・・ラブクラフト最後の作品。
雷鳴と停電、群衆が恐怖を掻き立てる。
・時間からの影・・・定型の、SF的&幻想的な集大成。
でも冗漫。読み進めるのが大変でした。
・履歴書・・・ラブクラフトの本質を知る一端になります。 -
ある登場人物がなんらかの謎に疑問を持ち、恐ろしい秘密が明らかになる。定型的、ワンパターンといわれがちなラヴクラフトだが、薬物、忌まわしい因縁の館、都市の遺跡、解読不能の書物、自らが自らでは無くなる不安など様々な題材を使っていることに気づく。特に「家のなかの絵」で海外の事物、「潜み棲む恐怖」の見捨てられた貧しい者たちの部落からやってくるものといった題材には作者の生活圏外の未知なるものへの恐れが読み取れる(差別者であることをこちらが意識してしまうからかもしれないが)。人間ではないものに変化する側の視点で描かれた「アウトサイダー」、時空間に関する科学的視点からスケールの大きな凶々しい宇宙史が展開される作者らしい傑作「時間からの影」が特に面白かった。