ラヴクラフト全集 (4) (創元推理文庫 (523‐4)) (創元推理文庫 523-4)
- 東京創元社 (1985年11月29日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488523046
作品紹介・あらすじ
ヒマラヤすら圧する未知の大山脈が連なる南極大陸。その禁断の地を舞台に、著者独自の科学志向を結実させた超大作「狂気の山脈にて」をはじめ、中期の傑作「宇宙からの色」「ピックマンのモデル」「冷気」や、初期の作品「眠りの壁の彼方」「故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実」「彼方より」の全7篇に、エッセイ1篇を収録。
収録作品
「狂気の山脈にて」 「宇宙からの色」 「ピックマンのモデル」 「冷気」 「眠りの壁の彼方」 「故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実」 「彼方より」
感想・レビュー・書評
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媒介、夢に。身近な場所や未知の地にも現れる恐怖の存在。
宇宙からの色・・・始まりは隕石。妖しい色彩に浸食されたモノたち。
眠りの壁の彼方・・・眠りの中に現れる壮絶な風景は記憶か?
故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実・・・祖先の秘密。
冷気・・・冷気を求めるあの男の正体は?そして、その死。
彼方より・・・機械に触発された未知の感覚器官で観た無限の果て。
ピックマンのモデル・・・画家が描いた醜悪な生き物は実在するのか?
狂気の山脈にて・・・南極探検隊が到達した未知の山脈で見たモノ。
資料:怪奇小説の執筆について・・・ラブクラフト自身の考察。
不可解な存在、憑かれた人々、そして異形の存在。
観てはいけない。出会ってはいけない。
でも好奇心に導かれ、行き着く先にあるのは、悍ましい恐怖。
ホラーに宇宙の未知なる存在を加味した効果が効いた作品、多し。
「狂気の山脈にて」は長編でラブクラフトらしさ炸裂の作品。
執筆の1931年頃は飛行機による探検や南極大陸の調査が盛んに
行われるようになった時期でもあり、まだ未知な場所であったのも
事実。当時としての情報から、創造豊かに南極探検を描き、
飛行機や無線をうまく利用して物語を進行しています。
じわじわと正体を現してくる恐怖感。驚愕の古代建築物への侵入。
そして、ネクロノミコン!
冒険&SF&ファンタジー、ホラーが混在しています。
それにしても、目の無いペンギンは怖いなぁ。 -
①宇宙からの色
荒地を見張る老人が語った、かつてそこに住んでいた家族に起きた悲劇とは――
非知的生命体による侵略物。映画で例えると『遊星からの物体X』とか『ブロブ』とか。こういう恐怖は時代を問わず通じる。
②眠りの壁の彼方
精神病院に強制入院させられた、殺人を犯した男。二重人格を思わせる発作を起こす男にわたしは興味をひかれ、ある試みを実行すると――
ラヴクラフトが初めて宇宙的恐怖をテーマにした作品で、確かに、後に生まれる神話に連なる作品の「原型」と思わせる内容。
③故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実
突如、焼身自殺を遂げた学者、アーサー・ジャーミン。彼がそのような暴挙に走った原因とは――
遺伝をテーマにしたゴシックホラー。ラヴクラフトの当時の状況を踏まえると、こういう作品を書いたのもさもありなん、と言ったところか。
④冷気
どうしてわたしが冷気をそんなにも恐れているのか、って? あんなことを体験すれば、誰だってこうなるさ――
マッド・サイエンティストによる生きている死者の話。設定を少しいじれば、現代を舞台にしたホラーでも通用しそう。
⑤彼方より
二ヶ月半の時を経て再会した友人は、別人のように醜く痩せさらばえていた。友人が言う「彼方」より来たる存在とは――
これも「異界への干渉」という点で、後に生まれる神話に連なる作品の「原型」を思わせる内容。
⑥ピックマンのモデル
なぜわたしがピックマンと絶交したのかって? それはな――
体験者の話を直に聴かされているような会話体の体裁。虚実の境が曖昧にさせるような展開は実話系怪談にも通じる。
⑦狂気の山脈にて
次の南極探検計画を中止させたいために、前責任者が語った、南極での忌まわしい体験とは――
美しいグロテスクと言うのか、単純なホラーではない所がこの物語の面白さ。ギレルモ・デル・トロ監督が映像化を目指すのもわかる。旧支配者を、未来で冷凍睡眠から目覚めた我々に置き換えれば、その恐怖や悲哀に共感できるだろうか。
『アウトサイダー』もそうだが、知性ある怪物をただのモンスターとして描写しないのは、ラヴクラフトが最期まで抱いていた「孤独」に由来するものだろうか。 -
久しぶりにラブクラフト全集の続き。これは当たりの巻。
訳者による解説にも書かれているが、「ピックマンのモデル」以外は、科学的な話というか、分析がキーとなる話になっており、出てくる物質の名前が古いのを除いて、全く現代でも通用するような話ばかりだ。
名作「インスマウスの影」を彷彿とさせつつ、得体のしれない謎の物質(生物?)の恐怖「宇宙からの色」、何故か体を冷やし続けないといけない「冷気」と、南極に氷漬けになっていた宇宙からの生物をめぐる「狂気の山脈にて」そして超名作で怪談風の「ピックマンのモデル」など、硬い文章ながら、読書なれしていない人でもゆっくり読めば映画のように脳内で映像化されてくるはず。
3巻が地味な印象だっただけに、この4巻はさらに素晴らしく感じる。ホラーというよりも、SFとして読んでも面白い。
なお、ラブクラフトの作品は、書き出しは訳がわからないことが多いので、最初の3~4ページは2回位読むのがコツ。本書に収められた作品も例にもれない。 -
ラヴクラフトの文章が読みにくいのは不気味さを最大限に引き出すため。付録として怪奇小説の創作の仕方が掲載されている。
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1985年以降購入して読んだが、詳細は覚えていない。
これまで聞いたことがないような擬音のカタカナ、”ほのめかす”という普段使わない訳、不気味な話には惹きつけられた。
また読みたい。(2021.9.7)
※売却済み -
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270
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第5回(古典ビブリオバトル)
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宇宙からの色
宇宙から来た謎の生命体が、周囲の生命を食らい、飛び去って行く。未知の生命体との遭遇とはこういうものかもしれない。
眠りの壁の彼方
惑星霊が人間に宿っていたため、容量が小さく精神に異常をきたしたという話。人間って、心もちっぽけなんだね。
故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実
自分の祖先が猿を獣姦していたと知って絶望・自殺した人の話。忌まわしいが、自殺しなくてもよかったのに。
冷気
アパートの上の階の住人は、自分を冷蔵しつづける死人だった。忌まわしいというより、面白いけどね。
彼方より
ティリンギャーストが発明した、人間の知覚力を増大させて見えないものを見えるようにする装置。幻覚・催眠術と言われてもしょうがない。
ピックマンのモデル
食人鬼の絵を得意とする画家ピックマン。そのモデルは実在する地下の怪物たちで、地下室の壁に飾られていたものは絵ではなく写真だった。えっと…なんか、今さら感がありますね。そんな話ばかり何回書くんだ。もっと先に行ってほしいものです。
狂気の山脈にて
南極に存在する、狂気の山脈と<旧支配者>の廃墟。かつて<旧支配者>が使役していたが今となっては制御できなくなった無定形の怪物ショゴスとそれが発する音「テケリ・リ!」重厚長大で前半読むのが苦痛だったが、後半、死の都市に入ってからはsnow ballでした。でも、この警告文…読んだら絶対確かめに行きたくなると思うw。 -
今回のも宇宙的な物語が多くて、恐怖感はそれほど感じませんでした。でもあまりに壮大な設定と浮かび上がる光景には息を呑むばかり。全体的にスケールが大きい印象です。
お気に入りは「冷気」。これが一番ホラーらしくて怖いと思える作品でした。
大作「狂気の山脈にて」も圧倒的なパワーのある作品です。うーむ、やっぱりこういう「秘境」のようなところには、何があるか分からなくって怖いなあ、という印象。そして探究心というものの恐ろしさ……私だったら何も見ないで逃げ帰るんだけどなあ(笑)。 -
"きみはこの惑星でのわたしの唯一の友だったーーこの寝椅子に横たわる忌わしいもののなかに、わたしを感じとって見つけだしてくれた唯一の魂だった。また会うことがあるだろうーーおそらくオリオン座の三つ星の輝く霧のなかか、先史時代のアジアの荒涼とした大地か、記憶にのこらない今晩の夢か、太陽系が消滅している遥かな未来の他の実体で。"[p.71_眠りの壁の彼方]
「宇宙からの色」
「眠りの壁の彼方」
「故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実」
「冷気」
「彼方より」
「ピックマンのモデル」
「狂気の山脈にて」
「資料:怪奇小説の執筆について」
「作品解題」大瀧啓裕 -
「故アーサー・ジャーミンとその系譜」が印象的。主人公が自分の系譜を調べていくと実は……な展開を持つラヴクラフト作品は複数あるが、これもその例の一つ。
「狂気の山脈にて」は冒険風味を味わえる作品。「ピックマンのモデル」は描写が要を得ていて面白く、「宇宙からの色」は科学的な(?)律儀さが現れていて楽しい。個人的に比較的好みが多い巻か。 -
第4巻。
資料として『怪奇小説の執筆について』を収録。
この巻では矢張り『狂気の山脈にて』が読み応えがある。一番長いというのも理由のひとつだが、怪奇冒険小説としても素晴らしいクォリティ。飛行機で山を越えた途端に広がる打ち捨てられた都市の姿は想像するととても美しく感じる。本当にあればいいのに……。難を言うなら、あまり『南極』という極限の地で起きていることのように思えないことだろうか。
短編では、ラヴクラフトが何度も使った『家系』『先祖』をモチーフにした『故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実』が良かった。昔読んだときはピンと来なかったんだけどな。歳をとって読み返すと好みも変わっているのだろうか。というか、4巻はイマイチ印象に残っていないようだ……。 -
「狂気の山脈にて」が冗長で少し退屈でした。
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■ 宇宙からの色
■ 眠りの壁の彼方
■ 故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実
■ 冷気
■ 彼方より
■ ピックマンのモデル
■ 狂気の山脈にて
■ 資料・怪奇小説の執筆について -
ラヴクラフト全集1巻を読み終わった時、ラヴクラフト氏の作品は、情景を推理小説が如く性格に描いているにもかかわらず、肝心な恐怖をもたらすそのものについては曖昧にしか書かれていないという話の構成であると感じた。つまり、都市伝説のように嘘にきまっているが、もしかして・・・と思わせる一人称的恐怖感があった。
現在のところ3巻とこの4巻を読み終わったが、その認識を変える必要がある。3巻もそうだが特にこの4巻では、もう個人の幻覚や幻聴として片付けられないほどに、異型の者達を描写しているのである。科学的に判別不能な物質が出てきたり、公式な記録として異世界人らしきものが見つかったと記録されていたりである。
私の中で、ラヴクラフト氏の作品が、自分の身に振りかかるかもしれない怖い話から、SFホラー小説にシフトしてしまった。拍子抜けした部分もあったが、そもそも1巻から架空の都市が出てきたり、後にクトゥルー神話としてまとめられるということを考えると私の第一印象が間違っていただけのことではある。
さて、いざ異型の者達を描写するとなるとそのディテールの細かさは驚かされるばかりで、想像力をフル動員して読み進める必要がある。「見たことのないような」とか、「この世のものをは思えない」という表現に逃げること無く書ききっているラヴクラフト氏の表現力は尊敬するしかない。しかも随所に上記の「この世のものと思えないような」と言った様な表現をここぞというところで使うことにより、物語の語り手が人間の手にあまる自体に遭遇しているという事がひしひしと伝わってくる。
100%フィクションであるとわかりながらも、実際に起こったことのように読みながら感じる。レビューに拍子抜けしたと書いたが、今現在はよりラヴクラフト氏の作品に引き込まれるようになったと思う。 -
巻頭「宇宙からの色」がよかった。
怪異が続発し、原因は多分アレだ!
と察しがつくんだけど、
気づいたときには手遅れ……ってヤツで。
あらゆるものが少しずつ汚染され、
なす術のない人の心も蝕まれてゆく、と。
「狂気の山脈にて」は、
E.A.ポオ「アーサー・ゴードン・ピム」へのオマージュ的作品。 -
「宇宙からの色」
ある農場の隕石落下がもたらした不運、始まる破滅。日常に宇宙的な恐怖が広がっていく様がお見事でした。
「眠りの壁の彼方」
狂人の見る夢をのぞき見ることで知る真実…あまりホラーな内容でもなく、ちょい肩透かし。
「故アーサー・ジャーミンとその家系に関する事実」
ラヴクラフトお得意の家系ネタ。先祖の秘密を暴こうとして自分が不幸になるパターンですね。
「冷気」
永遠の命がテーマ…なのかな?生きながらに朽ちていく身体を保持する様は狂気じみてます。
「彼方より」
トンデモ機械により、普通の人が見れないものを観測したために起こる悲劇。好奇心猫をも殺す…ですな。
「ビックマンのモデル」
実物をみてきたかのようなリアルな屍食鬼の絵を描くビックマン。それもそのはず実際に見ながら描いた物だから。
主人公の語り口がその恐怖をあおり、先が見えててもなにかゾッとするものがあります。
「狂気の山脈にて」
珍しく人類が「宇宙からきたもの」を観察する側。
南極という未開の冒険譚にクトゥルフ的な恐怖が加わってかなり面白く読めました。