ラヴクラフト全集〈5〉 (創元推理文庫) (創元推理文庫 523-5)
- 東京創元社 (1987年7月10日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (349ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488523053
作品紹介・あらすじ
Uボートの艦長が深海の底でアトランティスに遭遇する「神殿」、医学生のおぞましい企てを描く「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」、セイレムの魔女裁判の史実を巧みに取り込んだ「魔女の家の夢」等、クトゥルー神話の母胎たる全8編を収録。巻末には資料「ネクロノミコンの歴史」が付属。
収録作品
「神殿」 「ナイアルラトホテップ」 「魔犬」 「魔宴」 「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」 「レッド・フックの恐怖」 「魔女の家の夢」 「ダニッチの怪」 「『ネクロノミコン』の歴史」
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
今巻はTRPGのシナリオの種になりそうな話が多いと思いました。
①神殿
時は1917年、第一次世界大戦の最中。独軍の潜水艦が英国の船を沈める。乗員の一人が船に絡んでいた死体を投棄する際、死体から象牙細工をくすねたのだが――
●最期まで正気を保っったままの艦長の冷静な言動が、起きている異常を更に際立たせている。展開が似ている『ビロウ』という映画を思い出した。
②ナイアルラトホテップ
それは、数ヶ月前のことだった。突然、人々が謎の不安に襲われるようになる。そんな時にあれがエジプトからやって来た――
●ラヴクラフト自身が見た夢を元に書き上げられた、「這い寄る混沌」の二つ名に相応しい悪夢的な内容。この話を絵にしたら、ベクシンスキーに似た構図になりそうだ。
③魔犬
遊びで墓荒らしをするわたし達は、オランダで暴いた墓から奇妙な造形の魔除けを奪ったのだが――
●犬の吠え声や唸り声、翼のはためく音、ぼんやりとした黒い雲のようなもの、そして再生する死体――。 全てが判然としないまま終わるのがラヴクラフトらしい。
④魔宴
先祖の取り決めに従い、古都へやってきたわたし。やがて怪しげな老人に導かれて古びた教会に入っていくと――
●最後まで老人の指示に従っていたら、どうなっていたのだろうかと想像するとぞくぞくする。
⑤死体蘇生者
死者の復活に心血を注ぐ若き医師ハーバート。わたしが語る、彼が失踪に至るまでの恐怖の物語とは――
●『家の中の絵』と同じく、神話生物は出てこないがアーカムが舞台なので、広義にはクトゥルフ神話に入るのか。独学による薬液を用いた死者の復活、フランケンシュタインもので、ストーリーは改変されたが映画化されたことがある。
⑥レッド・フックの恐怖
現場から離れて治療を受ける刑事。彼が狂気に冒されることになった、ニューヨークで起きた悍ましい事件とは――
●ラヴクラフトが当時住んでいたニューヨークへの印象を元に書かれた、コズミックというよりマジカルなホラー。
⑦魔女の家の夢
探究心から曰く付きの部屋に住むことにしたウォルター。やがて彼は悪夢を見始め、悪夢に出てくる人物を現実でも見かけるように――
●この話も神話作品では王道の、探究心から身を滅ぼす話。本編よりも古のものの登場が一番の謎。この作品の前に『狂気の山脈にて』が著されているが、古のものと魔女とに関係性は、はたしてあったのか。
⑧ダニッチの怪
大学図書館に不法に侵入した男が番犬に噛み殺された事件を契機に、男の生地であるダニッチで住人や家畜が失踪したり殺されたりする事件が続発する。男が遺した、暗号で書かれた日記を読み解くと、そこに書かれていたのは――
●『クトゥルフの呼び声』に次いで、クトゥルフ神話初心者向けの作品。その最後に、悍ましくも哀しさを感じるのは私だけだろうか。
おまけ『ネクロノミコンの歴史』
ラヴクラフト自身によってまとめられた、古代アラビアで執筆されたネクロノミコンが現代に伝わるまでのの歴史。これを読んだらチェンバースの『黄衣の王』を読みたくなった。こういうの好き。 -
この巻にはクトゥルー神話の「体系」が形成される以前の、萌芽のような作品が集められるということらしい。
相変わらず会話文がほとんど無い上に地の文も妙に読みづらいラヴクラフトの書法だが、印象的な作品が2つはあった。
「死体蘇生者ハーバート・ウエスト」(1922)は、確かに以前スカパーで見た映画の原作だ。何という映画だったかは忘れた。ホラー小説として優れたストーリーではあるが、雑誌連載であったためか、後続の章でまえの章の内容がくどく反復される箇所が沢山あって少々呆れてしまった。これが無ければ傑出した短編と思う。
「ダニッチの怪」(1929)は新潮文庫版の「新訳」アンソロジーにも収められており、記憶によく残っている印象の濃い優れたホラー。
本書を通して例の架空の本、アブドゥル・アルハザード著『ネクロノミコン』が何度も言及される。ラヴクラフトはよほどこれが気に入っていたらしい。このような複数作品を渡り歩く要素は体系というより執着的なライトモティーフのように思える。手塚治虫のマンガで同一の人物(ヒゲオヤジ、ロック等)がたびたび起用される俳優であるかのように、異なる作品で再登場してくるシステムにも似ている。
そのように反復された執着が積もりに積もって、ラヴクラフトは晩年に至ってクトゥルー神話と呼ばれる「体系」に近いようなものを記述するのだが、私はその「体系」の内容には興味は無いものの、強迫的に反復されるイメージへの固執が循環し続ける、心的システムのありようには惹き付けられるものがある。 -
内容は面白いのだが、如何せん読みにくい。特に情景の描写が分かりづらく、頭の中で思い描くのに苦労する。しかし一旦理解するとスムーズに読み進めることができ、後半4ページくらいになるとオチも予想がつく。次巻は気が向いたら読もう。
-
1985年以降購入して読んだが、詳細は覚えていない。
これまで聞いたことがないような擬音のカタカナ、”ほのめかす”という普段使わない訳、不気味な話には惹きつけられた。
また読みたい。(2021.9.7)
※売却済み -
-
神殿★2
ちょっとインパクトに欠ける。Uボートで海底都市の遺跡を見ただけ…。
ナイアルラトホテップ★1
短い。這い寄るニャルちゃん登場。しかし話自体は何があったのかさっぱりわからない。
魔犬★2
短い。墓荒らしが、ゾンビに追跡され、殺された話。
魔宴★3
ネクロノミコンを用い、地下で謎の儀式を行う死者の群れ。よくある話ですな。
死体蘇生者ハーバート・ウェスト★1
死者を蘇生させようと試みたのはわかった。でもまったく怖さや事件はなく、ただただ文章が回りくどい。
レッド・フックの恐怖★2
ニューヨークの下町レッドフックを調査する警官マロウンの精神を破たんさせた出来事とは何か。どの話にも思うが、HPLの書いた話自体はあまり面白くない。ただ、この世界観や状況を背景とした別の話の母体を提供しているとすれば、関心が湧いてくる。この話の五芒星を描いて邪神崇拝している情景からは、山本弘著『ラプラスの魔』を想起させられた。
魔女の家の夢★2
ネズミちゃんに心臓かじられたり。いずれにしても回りくどい。
ダニッチの怪★3
セリフのある話はいいなあ。ちゃんと化け物が登場してくれて何より。 -
どんなのだろう、と手にとったけどこんなの映画でいろいろみてきたなあ、という感覚にとらわれました。それだけ数々の作品に影響を与えているんですね。映像がありありと目に浮かんできます。不思議な世界に浸れました。