ラヴクラフト全集〈6〉 (創元推理文庫) (創元推理文庫 523-6)
- 東京創元社 (1989年11月24日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488523060
作品紹介・あらすじ
ランドルフ・カーターを主人公とする一連の作品、および、それと関連する初期のダンセイニ風掌編を収録。猫を愛する読者なら快哉を叫ぶ佳編「ウルタールの猫」、神々の姿を窺わんとする賢者の不敵な企てを描く「蕃神」、巨匠が遺した最大の冒険小説「未知なるカダスを夢に求めて」等全9編
収録作品
「白い帆船」 「ウルタールの猫」 「蕃神」 「セレファイス」 「ランドルフ・カーターの陳述」 「名状しがたいもの」 「銀の鍵」 「銀の鍵の門を越えて」 「未知なるカダスを夢に求めて」
感想・レビュー・書評
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全集⑤巻まで続けて読んでおきながら、
その後スルーした⑥巻を今頃。
ジーン・ウルフ『書架の探偵』読後、猛烈に気になり始めたので。
理由は↑これ↑をお読みの方には何となくおわかりいただけるかと。
春日武彦先生の書評エッセイ集『無意味なものと不気味なもの』で
「ランドルフ・カーターの陳述」ネタばれレビューを読んで
敬遠していたのだけれども、猛烈に実地確認したくなったので。
内容はランドルフ・カーター・シリーズとも呼ぶべき
一連の中短編と、その魁となった初期作品。
面白かったのは下記の二編。
■ランドルフ・カーターの陳述(1919年)
行方不明になった友人ハーリイ・ウォーランについて
問い質され、経緯を語る青年ランドルフ・カーター。
無線機で会話しつつ、
墓地の下の奥深くへ侵入した友人が見たものとは。
■銀の鍵の門を越えて(1933年)
エドガー・ホフマン・プライスの習作に
ラヴクラフトが大幅に手を加えて
仕上げたという「銀の鍵」後日談。
失踪したランドルフ・カーターの財産相続人たちの会議。
当惑する列席者をよそに、
ランドルフの現況を滔々と語るチャンドラプトラ師だったが……。
時間は不動で終わりも始まりもなく、
過去・現在・未来はすべて同時にあり、
ランドルフ・カーターは
窮極にして永遠なる彼自身の一局面として
あらゆる時代に遍在する――という考え方が興味深い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
6巻は、後に「ドリーム・サイクル」と呼ばれる世界観に統合されるものを舞台やネタにした作品を収録。
そして、クトゥルフ神話とドリーム・サイクルの世界観を統合した、前期ラヴクラフト神話の集大成とも言うべきファンタジー大作『未知なるカダスを夢に求めて』。夢の世界で苦しみながらも自由に大冒険を繰り広げるというヤングアダルト的なその内容は、ラヴクラフトの当時の状況を知ると、以前の苦境から解放されたであろう彼の心境を表していると、どうしても勘ぐってしまう。
【アザトース、異形の神の幼生、下級の異形の神たち(蕃神)、バステト、ノーデンス、ニャルラトホテプ(暗黒のファラオ)、ロビグス】
《ズーグ族、ノフ=ケー(グノフケー)、夜鬼(ナイトゴーント)、食屍鬼(グール)、ドール、ガグ、ガスト、月棲獣(ムーン=ビースト)(蟇じみた月の生物)、シャンタク鳥、飛行するポリプ、レンの男、レンのクモ》
(収録されている一編、邦題の『蕃神』は端的に言うと「渡来神」。原題の『The Other Gods』を直訳すると「(他の、もう一つの、向こう側の、過去の、)神々」。素直に受け取るなら外なる神、または旧支配者を指すと思われるが、正体はやはり這い寄る混沌とその下につく存在なのか。) -
白い帆船★3
楽園を目指した灯台守。この結末は、今いる世界こそが楽園であるという示唆なのか。
ウルタールの猫★3
HPLは猫好きだったのかしらん。ウルタールという地名は、この後の話でも出て来る。
蕃神★3
思い上がった賢人バルザイ。神の怒りに触れる展開は素直すぎるほど。
セレファイス★2
夢の中で楽園に行くというパターンが新鮮味がなく。
ランドルフ・カーターの陳述★3
墓から入っていった地下にいる友人と電話で会話するシチュエーションは不気味。
名状しがたいもの★3
モンスターよりも、夜が更けるまで怪奇話を墓石の上でし続けた彼らが怖い。
銀の鍵★3
これは重要アイテムですね~。銀の鍵。時間を超えてとある秘密の部屋に入れるようです。
銀の鍵の門を超えて★4
今までのHPLの小説の中で一番壮大で、わくわくして面白かった。ここまで次元や宇宙を超越した描写はなかなかない。これまでの短編の話のエッセンスの記憶を時々刺激されることもあいまって、ここまで読み続けてきた甲斐があったと言えるだろう。
未知なるカダスを夢に求めて★2
今までの話の集大成!読み始めはなるほど、そういう企みだったのか!と感心したが…。長いよ。長すぎる。もう長すぎてうんざり。結局、カーターは何しに行ったんだ? -
第6巻はラヴクラフトの分身であるランドルフ・カーター(名前からも連想できる)に関する短編が収録されている。「名状しがたいもの」などラヴクラフト読者にはおなじみの単語がそのままタイトルに使われているのだが、原著でも「Unnamable」となっており、この何とも読みにくい古風な文体は日英に関係ないものであることがうかがえる。ラヴクラフトの世界を忠実に再現しようとする翻訳者の苦労がしのばれる。ラヴクラフトが生前作家として大成功をおさめられなかったのもこの古風で読みにくい文体にあるのかもしれない。また現代のようなライトノベルがもてはやされる時代でもなかったことも原因として挙げられるのかもしれない。
ラヴクラフトは怪奇小説作家として有名であるがSF作家としても十分な実力を持っていると思う。ラヴクラフト独特の宇宙論は読者に深淵な哲学的思考を促さずにはおかない。 -
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なんか、スッカスッカの脳内空間に
薬液付けた指をソロリソロリとねじ込まれていく感じだ
しかも抵抗出来ない。
堪能せよ、無限地獄を。 -
ランドルフ・カーターを主役とする一連の物語が集められた一作。恐怖小説というよりは冒険譚のようなものもあるけれど。やはり根底にはわけのわからない恐怖があります。
お気に入りは「ウルタールの猫」。猫好き万歳。おそらく一般的な視点ではこれは怖い話なのかなあ、と思いますが。そうは思わないのが猫好き。そりゃ猫を殺していいわけがないって! ちなみに壮大な冒険譚「未知なるカダスを夢に求めて」にもこの猫たちが登場するので、ついついにやけてしまいます。ラヴクラフト、本当に猫好きなんだなあ。
恐怖を感じた作品ということでは、「ランドルフ・カーターの陳述」がお気に入り。ラストの一文が……怖い!