夜の写本師 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
3.99
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本棚登録 : 1819
感想 : 171
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488525026

作品紹介・あらすじ

狙うは呪われた大魔道師。魔法ならざる魔法を操る〈夜の写本師〉。日本ファンタジーの歴史を塗り替え、読書界にセンセーションを巻き起こした著者のデビュー作待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  •  ブク友さんの本棚で見つけた、細密画のような表紙の絵、「夜の写本師」という何とも引き込まれるタイトル。気になってしようがなかった。

     右手に月石。
     左手に黒曜石。
     口のなかに真珠。
     カリュドゥは三つの品を持って生まれてきた。

     と始まる。これはもう読み進めるしかないでしょう。
     そんな意味有りげな不気味な状態で生まれてきたカリュドゥ。怯える親から産婆でもあり、女魔道師でもあったエイリャがカリュドゥを引き取り、育てる。
     ある日、エイリャの前に悪名高き魔道師長アンジストが表れ、エイリャと女友だちのフィンをカリュドゥの目の前で無惨に殺してしまう。
     エイリャとフィンの仇を撃つことを生き甲斐とし、カリュドウは魔道師の修行を始めるが、余りに魔力が強すぎるために写本師への道を勧められる。
     カリュドウが写本師の修行を積んだパドゥキアという国は世界一の写本師のいる国。魔道師同等の魔力を持つ本を作ることができる。それが出来るのは「夜の写本師」。
     カリュドウはパドゥキアでの修行を終えると生まれた国、エズキウムで「夜の写本師」になる。アンジストに仇を撃つために。
     カリュドウは写本師として働きながら、書庫でせっせとある本を探す。エイリャに、全ての秘密が隠されていると言われていた「月の書」という本。やがてその本を見つけると、その本の中に取り込まれ、500年前、千年前の自分に関係するある三人の魔女たちの悲しい運命を体験する。

     この本で、何より魅力的なのは、写本師の仕事の描写だ。まだ切り取られていない、一枚の仔牛皮紙を広げて、写本達はページのとり方を考えて書いていく。使うインク、ペン…写本達それぞれにこだわりの道具がある。文字の書き方や装飾模様にも写本師によって拘りがある。特に魔力をもった本を作るには、インクも何かの鳥の血となにかを混ぜたものとか、特別のものを使わねばならないのだ。そして、本の背の閉じられた部分で読者の目に入らない所(ノドのところ)の一枚一枚に写本師それぞれの印章みたいなものを書いておく。
     魔道師という言葉もいい。魔術では“魔道”。“道”なのだ。何十年、何百年の修行が必要。そして、魔力を発揮するには、魔法のバトンのようなものではなく、生き物の血や骨や時には死にゆく人間の怨念までが必要なのだ。魔道師になるということは“闇”を支配するということで、“闇を支配する”ということは“闇に飲まれる”ことと隣合せであるということだ。
     深い。そして文字より構築された文学の世界も救いでもあり、闇にもなる。深い。


     


  • 表紙とタイトルがええんでゲット!

    何か久々やなぁ〜現実の世界以外を舞台にした話読むのは。
    ここは、魔法が繁栄している世界。
    ええ感じの世界や!
    魔法使いやなく、魔道師だ響きが良いな。

    その魔道師に師匠を殺されて…
    魔道師としてではなく、夜の写本師として、復讐を果たそうとする。
    転生を繰り返し、長い時間を経て、クライマックスへ。
    魔道師vs写本師の闘いは、ハラハラして面白かった!

    壮大な話やったけど…
    けど…近場で首飛んで、血がドバドバの方が性に合ってるかもしれん…(−_−;)

  • 魔術師アンジストに育ての親エイリャと村の幼馴染フィンを殺された主人公カリュドウが「夜の写本師」になり復讐を果たすファンタジー。

    カリュドウが写本師になるまでの出会いと別れが辛かった。とりわけ魔術師として修行していたときの。結構インパクト強くて、人の闇、自分の闇との付き合い方。覚悟。

    後半は「月の本」。千年もの因縁、3人の魔女の話は、ずっとクライマックスなので息を呑む展開。魔術師アンジストの若き日の話もあり、最終的に救済へ。カリュドウを見守っている魔導師ケルシュがいい。続き読みたい。

  • いやぁ~、面白かった!
    逸る気持ちを抑えながらページをめくり続けた。
    いわゆるファンタジー小説というジャンルが苦手な自分が
    コレほどハマったのはホンマ珍しいし、
    その新人離れした描写力と、物語が持つ力を読む者に改めて知らしめてくれる、ストーリーテリングの巧さよ。

    数千年の時を越え
    本の中の世界を行き来する主人公と同じく、
    読んでいる僕自身も緑豊かな海沿いの街を、彼、彼女らの生きた世界を、
    本を開くことで追体験できる至上の喜び。
    「ああ~、これが小説だ」と思える何事にも代え難い充実感に感謝!
    ( 開くだけでどこへでも連れてってくれるものなんて本しかないし、極上のファンタジー小説があればタイムマシーンなんていらないのである笑)

    右手に月石、左手に黒曜石、口の中に真珠を持って生まれてきた主人公の少年カリュドウ。
    14歳のある日、女を殺しては魔法の力を奪う大魔道師アンジストに
    育ての親である女魔道師のエイリャと優れた魔力を持つ少女フィンが目の前で無惨に殺され、
    不甲斐ない自分を呪い、復讐を果たすための孤独な旅を描いた
    大人のダークファンタジー。

    まったく何にもないところから
    新しい国や社会を創造し、読む者を今ある現実から異世界へと一気に連れ去るファンタジー小説という特殊なジャンルだけに
    そこに何がしかのリアリティがないとただの絵空事となって
    物語に入り込めなくなってしまう。

    けれどもこのファンタジー小説のスゴいところは圧倒的な描写力と緻密な設定によって違和感なく読む者を引きつけ、
    小説というただの紙束からまだ見ぬ新しい世界を出現させるのだ。

    主人公の少年カリュドウは
    大魔道師アンジストへの復讐のため、
    彼を倒す魔法を習得するのに必要不可欠な「写本師」の修業をしていく。
    印刷技術がまだなかった時代には、それぞれの本はこの世に一冊きりしかなく、古くなったから棄てるなんてことはできなかった。
    だからこそ古くなった本を新たな紙に書き写し、新しく蘇らせる写本の仕事はなくてはならないものだった。
    使いこまれボロボロになった本を一字一句同じ筆跡で書き写し、高品質で一生使用に耐えうるために紙の素材やインクにもこだわり、決められた期限内に仕上げる写本師という仕事のなんと高技術で魅力的なことか。(製本すれば隠れてしまうページの端には花や剣など写本師だけの好きな印を入れられる)

    そして写本師からレベルアップして「夜の写本師」になると、自分が書きしるしたもの自体に魔力を宿らせることができ、なんとその本を読んだだけで呪いがかけられるのだ。
    この力を使ってアンジストに復讐を誓う主人公の執念が切なくも胸に沁みる。

    写本工房での修行のパートは、本好きならヨダレタラタラになること間違いなし。
    装飾文字を書く者、細密画をほどこす者、本文を筆写する者、周囲に飾り模様を入れる者など仕事は分業化されていて、 
    一冊の書物が出来上がる過程が疑似体験できる。
    (印刷技術が普及する以前の本は
    宝石や貨幣よりも貴重な知的財産として大切にされていたことが解ります)

    修行が終わり成人になったカリュドウは自分の出生の秘密が記され、アンジストを倒す鍵となる深紅の革表紙の本「月の書」を手に入れ、
    逃れられない宿命の戦いへと誘われていく。

    この小説を読むと、物語が持つ力とともに「言葉の力」や「言霊」について改めて考えさせられる。

    愛情を持って育てられたペットは手並みの艶や目の輝きが違うように、
    ちゃんと一ページ一ページ、人の手と目が触れて、息がかかり可愛がられた本は、
    活字がやわらかくなり、そこに込められた人の思いをじかに感じられるようになる。

    今、簡単に死を選ぶ人や
    夢を信じられない子供が増えてるけど、
    そんな時代だからこそ、ファンタジーが必要だし、
    ファンタジーを信じることこそが悪意の拡散を防ぎ抑止する作用があるのだと思う。
    夢を信じる心をつくるのは
    ファンタジーの世界をいかに信じきれるかどうかにも通じると思う。

    たった一冊の小説が、ときには誰かを救うことがあるように、
    大好きな作家の小説の新刊が気になって今はまだ死ねないでもいい。
    そう思わせてくれる不思議な力が物語には確かにあるし、
    そんな小さなことで人生が繋がっていく感じが人間の一生であって欲しい。

    徹底的な闇を描きながら
    かすかな希望を見せて締めるラストも深い余韻を生む、
    物語の力を忘れた
    今の大人にこそ読んで欲しいダークファンタジーだ。

  • 表紙の美しいイラストに惹かれ購入した。千年の時を経て繰り返される魔導師の復讐の物語。
    壮大なファンタジーで、最後はきっと悪者が退治されるのだろうと解っていながらも、物語の世界にどっぷり入り込んでしまい、どう話が進んで行くのかハラハラドキドキだった。書籍によって繰り出される魔法という設定が、普通の魔法対決とは一風変わっていて良かった。ゲームのRPGになったら、かなり面白いかも!
    乾石さんの他の作品も是非読んでみたい。

  • 右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠を持って生まれた運命の子。
    幼いころに大きな喪失体験をした彼はやがて、<夜の写本師>として世界一の魔導師に挑む。これは、千年以上の時を経た壮大な物語です。

    ブクログのレビューを通して知ったこの本、ずっと気になっていたのですが、先日図書館で偶然見つけてすぐに借りてきました。これがデビュー作だなんて信じられないくらい濃厚なファンタジー小説です。ファンタジー好きにはたまらない、しっかりと確立された世界観、体系的な魔術の数々、運命的な巡り合わせ、深い闇などなど、心をひたすらくすぐります。

    夢あふれるファンタジー小説というより、これは「ゲド戦記」に近い闇の色が濃いファンタジー小説でした。なかなか残酷で、結構怖い。映像化したら美しい場面も数々あるけれど、ホラーになるかもしれない場面もあって、そのバランスがまた絶妙。

    嬉しいことに、どうやらこれはシリーズが出ているようで、この世界をまだまだ楽しむことができるよう。大人になっても一気に心を異世界に飛ばしてくれるファンタジーはやっぱりいいと改めて嬉しく噛みしめた1冊でした。写本をはじめ、本好きには嬉しくなる設定もたまらないですね。

  • 王道のファンタジー。
    清濁合わせのみながら、ファンタジーらしく勧善懲悪を推し進める。最後に過去の話で救いが見つかり大団円へ。
    続けて読む気配濃厚なシリーズファンタジー。

  • いや、すごかった。確かに今まで読んだファンタジーとは一線を画す世界。一気に読んで読み終えて、でも離れがたくて3回くらい読み返した。
    シリーズを順に読み進めるのが楽しみな作品です

  •  大魔導師アンジストの手によって育ての親のエイリャを殺されたカリュドウ。カリュドウはアンジストへの復讐を誓いエイリャが生前言い残していた地へ向かう。

     魔法や呪い、魔法の力を宿した本や輪廻転生などの設定が練りこまれた王道ファンタジーです。

     そしてそうした設定を支えているのが美しい文章と魔法の描写。自然の描写はもちろんのこと魔法や呪いが使われた際の描写や設定の描写がとても書き込まれていて、設定だけに頼らない、文章の力でも勝負できるファンタジーになっています。

     ストーリーも復讐が一つのテーマになっているだけあって、カリュドウの運命のすさまじさが印象に残りました。辛いシーンも非常にしっかりと書き込まれているのが分かります。

     それだけにカリュドウの心理描写とラストの対決にもう少し読み応えが欲しかったかな、と思いました。

     ただ本当に文章が美しくて、評価の高さには納得しました。ファンタジー作品好きなら読んで損はないかと思います。

  • 右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠をもって生まれてきたカリュドウ。育ての親と友人を目の前で惨殺した大魔導士アンジストに復讐を果たすべく<夜の写本士>となる。

    世界観、雰囲気がとても好きだった。ため息がでる素敵さ。
    冒頭から「右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠」と、おしゃれ…!
    実は、アンジストに力を奪われた女(たち)の生まれ変わりだったカリュドウ。月と闇と海の力は既に奪われ、カリュドウが持っているのは闇の月のみ。オサレすぎる…。しびれる。終始、雰囲気が素敵。

    カリュドウはなぜ男として産まれかわったのか、アンジストは幼きカリュドウの力をなぜ見破れなかったか(ガエルクのもとで魔導師の修行をしている時に、魔導師としての才能が爆発していたのに…)などなど、腑に落ちないところもあった。
    魔導師の道が閉ざされ途方に暮れていたカリュドウに声をかける兄弟子たちの言葉や、アンジストとの戦いに向かう前のヴェルネ(同僚の写本士)の言葉が好きだった。アンジストは孤独だが、カリュドウには助けてくれる仲間が多くいて、カリュドウはそれを受け入れることができたのだ。
    あと、ケルシュが悪戯好きのおちゃめなお爺ちゃん(実は強い)という感じで、好き。

    カリュドウの修行の話や、カリュドウの前世の女性たちの話は壮大で読み応えがあった。逆に、その後のアンジストとの戦いはあっけなく終わったように感じる。
    結局、アンジストを救う形で決着がつくが、そのことがラストのカリュドウが涙して受け入れるシーンと、最後の締めの言葉につながり、千年もの戦いに終わりがあってよかったと思う。

    ”時はめぐり、やっと満ちた。
    月の光と闇と海のように。”(p334)

  • 写本師の仕事、とても興味深い。
    ただ、登場人物が多すぎて覚えられない。国の名前もいくつか出てくるけど、情勢を理解できるほど覚えきれない。
    あくまで、個人的な感想だが、ストーリーは面白いと思う。ただ、それぞれのキャラクターの深掘りが少ない気がした。分量は多いのに未だに主人公について輪郭しか捉えられない。それぞれのシーンについても頭の中で概要はわかるが、細部のイメージがうまく作れない。
    評価が高いだけに私の読み込みが足りないのかもしれないし、私の好みとは違った。私の好きな上橋菜穂子さんの作品とは違うファンタジー。

  • ファンタジーよりSF派。むしろファンタジーは少し苦手意識を持っていたけれど、この作品は読めた。かなりしっかりとしたファンタジーだったけど、恐らく文章の美しさと、人間の陰と陽の描かれ方が好みだったから。

    魔女と魔導師を絡めた1000年にも渡る、何代もの生まれ変わりの復讐劇、という壮大なテーマの割に、中間部は複線が少しずつ繋がっていく作りに飽きず、ドロドロ具合にフォーカスしすぎたわけでもなくバランスが良い。ラストのまとまりも、後日談も後味の良いものでした。

    写本師の手によって1冊1冊紡がれる写本。
    こだわりのインクや紙、写本師それぞれが使う紋章。
    そんな1つ1つが美しくて素敵だ。
    そして、この本自体の想定も美しくて好み。

  • 本の描写、土地の描写、文化の描写が好き。
    しっかり作りこまれている感じがして、期待が持てる。

    カリュドウの養い親喪失の哀しみだけで最後まで持っていくのかと思ったら、背後にはもっと大きな物語が隠れていた。
    うわーここで転生が来るのか、とワクワクしっぱなし。
    しかも転生物のオイシイところ(前世を思い出す瞬間、前世からの敵と仲間、長寿な前世の仲間と再び出会う等)が全部入ってる。
    特にケルシュやガエルクがカリュドウに会ったときのこととか考えると、もう、一人じたばたしてしまう。
    あとラストね!!
    最後は一転、穏やかで優しい感じのラストにぐっとくる。
    結局巡り会う運命で、愛さずにはいられないのか。

    女性性が重要な装置として出てくるけれど、あくまで装置であってあまり気にならない。
    カリュドウが男である意味、写本師であって魔道師でない意味。
    本当によくできている。

  • これは面白い!ファンタジーでありながらも、様々な謎が複雑な時間軸で流れていくので、最後の最後まで気が抜けないのである。その緻密な世界設計は、何かに雰囲気が似ていると思ったのだが、私の頭の中にはMYSTのような世界が広がった。
    魔術ファンタジーと言えば、使い古された手法であるが、これはデビュー作にもかかわらず、まるで大作家の作品のようである。思わず、これだけのストーリーを1冊にまとめてしまうのが勿体ない、と思ってしまうグインサーガ脳である。。。

  • めちゃくちゃ面白かったです。
    読み終わったときに肌が粟立ちました。

    こんなに上質なファンタジーを書ける実力者を知れてうれしいです。
    日本だと、上橋菜穂子さんや荻原規子さんが取り沙汰されますが、ベクトルは違うものの、まったく負けてません。
    ただ、この人の場合は「ファンタジー」に対して真摯に向き合ってはいるものの、「児童文学」とは遠いところにいる気がします。

    主人公はカリュドウという少年なのですが、彼は右手に月石、左手に黒曜石、口の中に真珠を持って生まれてきます。
    キーナの村で魔女エイリャに引き取られ幸せに暮らしていたものの、大魔導師アンジストの魔女狩りによってエイリャと同胞のフィンを惨殺されます。
    雪豹に慰められながら、カリュドウは復讐を命の灯と決め、その身を闇に染めます。
    カリュドウが<夜の写本師>になるまでの成長を描く筆致が実に見事で、エイリャを失って最初に弟子入りしたガエルクのもとで、カリュドウは力を付ける一方で傲慢さも身に着けていきます。
    先輩にあたる女魔導師セフィヤをその傲慢により死に至らしめた、その瞬間から、カリュドウは頭を殴られたようにはっきりと外界を識別します。
    優しく温厚なだけだと思っていた先輩弟子ふたりが、自分が思っていたのとはまったく違っていたことに気付く。この描写がすぐれている。
    はじめカリュドウの主観で描かれる人物の描写は抽象的で、これがこの作家さんの特徴なのかと思っていましたが、それが復讐にとらわれ周りを知覚していなかったが故の表現だと気付いたとき、溜息が洩れました。
    それから彼は<夜の写本師>として修業を積むこととなります。

    そこからは冷徹に目的を遂行するために突き進んでいくのみ、なのですが、章の展開の方法もここから変わってきます。
    カリュドウは<月の書>をひらくことに成功し、月と闇と海の魔女とアンジストとの因縁が語られます。
    女だけがもつ力をねたみ、恐れ、シルヴァインを裏切ったアンジストへの復讐をとげようとして殺された魔女たち。その因縁を持って自分が存在することを知ったカリュドウは、文字通り「いままで奪われたすべて」を使ってアンジストと対峙します。

    決着のあと、語られるのはアンジストその人の物語で、アンジストからシルヴァインに向けられていたものはやはり愛情だったのだということが明らかになります。
    そしてそれを理解したカリュドウが、後継者にアンジストの本質たる紫水晶を含めてすべてを伝えようとするところで物語が終わる、クロージングまで含めて完璧に美しい。

    電子書籍で買ってしまったことが悔やまれます。
    紙で買い直そうかな。
    純粋に素晴らしい本と作家さんに出会えたことが嬉しくてたまらないです。

  • 千年もの時間を転生し、記憶を継ぎながら目指す強敵に復讐を仕掛ける。魔法が全面に繰り出され、しかも本や文字の神秘な力を元に編み出される魔法というところにも惹かれる。復讐は虚しいという意見も語られるが・・・。ラストには、ああ良かった、是非そうして欲しいと思える。大きなひねりがあるストーリーではないけれど、隠してある秘密を知りたくなる。人は大自然の一部と感じられる壮大な物語。

  • すごく良書!
    この一冊で世界観がよくわかるし、無駄なくいろんなものが繋がって隙のない作品、という感じ。

    主人公は魔法の才能があるけど、訳あって魔法使いではなく魔法を込めた本を書くことのできる写本師になる。

    彼が村を出る出来事、若さ故の思い上がりによる挫折、新たな世界への道。。。
    なかなかの冒険談だが、心情の語りが少ないため静謐さを感じる不思議な作品。

    この作品だけでも成り立っているのだが、やっぱりもっと足を踏み入れたいので続きも読む!

    2023.8.27
    138

  • 魔法を舞台にした作品だが、主役は魔導士ではなく写本師。
    選んだ本の材質、インクの原料、ペンの種類など魔法が変わる。地味な手作業の先に夢があるようで、読んでいて面白かった。

    買った文庫本の後ろにあった解説で、魔法を扱う作品であるなら、その魔法を自然なものとして、扱う世界観として書くべきで、現実との比較をしてはいけない、と触れていた。
    この解説に思わず、大きくうなずいた。自分が転生ものにしっくり来ないのはこれだ。ファンタジーの世界観はファンタジーの価値観を持って描かれるべき。

  • ファンタジーらしいファンタジーでとても満足。
    明るい話ではないし、人格者みたいな人もいないけど、
    世界に浸れる。
    話の展開はややわかりづらい部分もあったけどそれもファンタジーとして楽しめた。

  • 文庫刊行当初より、このやや妖しげで蠱惑的なタイトルに惹かれ、ずっと読みたいと思いつつ数年、やっと読むことができました。

    エズキウムの地で、右手に月石、左手に黒曜石、口の中に真珠と三つの品をもって生まれてきたカリュドウは、産婆をつとめた女魔道師エイリャに引き取られ、育てられました。
    十二歳のある日、カリュドウの目の前でエズキウムの支配者にして魔道師長アンジストにエイリャが惨殺されます。
    カリュドウは隣国パドゥキアに逃れ、復讐の決意を胸に魔導師の修行に励みますが、取り返しのつかない失敗を経た後に、「夜の写本師」を志すこととなります。

    育ての親の復讐譚かと思えた物語は、一千年にも及ぶ、そして三つの石にまつわる3人の女魔道師が関連する、壮大な魔法と復讐の物語へと展開していきます。

    魔道師同士の戦いの描写は残酷で血腥く、目を背けたくなる描写も多々あり、全編を通して流れるダークな雰囲気にも慄かされます。
    ただ、それにも増して、カリュドウ自身とその復讐の行く先が気になって、夢中になって読ませられてしまいました。

    ラストに出てきた少女は、そんな物語の中での、期待と希望の象徴ということになるのかなぁ?
    素直に続いていく話とは思えないけど、「オーリエラントの魔道師」シリーズ、続けて読んでみたいと思わされました。

  •  予想以上に壮大なファンタジーでした。読み終えた時には最近味わったことのない重厚な感じで心が一杯に。

     物語の面白さだけなら星5つですが、少しわかりにくい描写が何箇所かあったので(カリュドウが闇に染まった時の見た目の変化とか)、星4つにしました。

     魔道師に対抗するために、魔道師になるのではなく、魔法を操る「夜の写本師」となる、というのが面白い着想。綺麗な飾り文字で書かれた書物に魔法が宿っているという設定は魅力的です。

     カリュドウは夜の写本師としてアンジストと戦ったけど、その後は魔道師になったようですね。

  • 面白い、んだけど、だけど。
    なにかが引っかかるのか、どうにも世界に入り込めず、なかなか最後まで読めなかった。
    設定も構成も面白いはずなのに、文章が好みに合わないのか、とにかく進まない。
    うーん、続きのシリーズはどうしようかなぁ。

  • タイトルに惹かれて購入~。ど派手で容赦のない魔法の顕現や何種類もの魔術の手法や修行についての詳細な描写が面白くて、どんどん読み進められました。
    物語では主人公のカリュドウと三人の魔女、そして大魔道師アンジストの千年にわたる宿命が明らかにされていきます。
    「書物の魔法」…本そのものやページの紙片や書かれた文章が魔力を持つなんて、とても魅力的ですね。

  • 久々にファンタジーらしい、ハイファンタイジーを読んだような気がした。文化風土が違うから無理なんだろうなと思っていたタニス・リー的なファンタジーを日本人が書けるようになったんやなぁ。

    井辻朱美が解説2本を掲載するぐらいの気合の入れよう、それに合いふさわしいボディのしっかりした内容。

    写本と魔術の関わりとか、ところどころ疑問符付くところもあるし、途中で人間関係(特に生まれ変わりの因果関係)が分かりづらい難点はあるものの、冒頭の登場人物紹介を都度見開けば思い出すレベル。

    ボディがしっかりしてる分、ボーッと読んでると置いてかれる感じがあるので、読むのに少々の集中力が必要だけど、しっかり読めば読んだ分の手ごたえは感じられる。この作者このシリーズ要注目だなこりゃ。

  • ファンタジーを読んで幸せだと思うのは「そうそう!こんなのが読みたかったの!」と、感じる時だと思うのです。千年にも及ぶ復讐と呪い。主人公は男性でありながら、女性性を強く感じました。月、闇、海は女性の持つ力。それを欲した魔道師アンジストに育ての親と幼なじみを殺されたカリュドウ。三人の魔女の因縁も絡み壮大な物語でした。けっこうグロい描写もあったので、正統派にみせて実はダークファンタジーかも。ラストがすごく好きでした。復讐の跡にもたらされるのは新たに踏み出される一歩。それが、赦しだと感じられたからです。

  • 果てしれぬ輪廻。大いなる許し。

    すべてを奪われ、復讐のために何度となく転生を果たす女魔道師たちの暗い望みは、女でも魔道師でもない者の手で、また復讐という形でもなく果たされた。

    そうして、その壮大な歴史の輪廻の予兆が暗示されて物語は終わる。

    しかしそこにはもはや忌まわしさはない。
    女を女として敬い、男がただの男として振舞う新しい時代には、もはやすべてを手に入れようとすることでしか癒されぬ孤独を抱えた者は存在しない。

    互いを支え、互いを信じることの価値を知った世界では、もはや紫水晶を分かつ存在も生まれないだろう。

    まだ生きることの喜びを知らぬままにその肉体を滅ぼした、たった一人の子どもが新たに生き直すための輪廻。そう信じたい。


    闇、獣、人形、そして書物。それぞれの儀式に使うものは異なってはいても、どの魔道師が操る魔法も、呪文を唱えることでしかその力は生まれない。

    しかし写本師の魔法ならぬ魔法は、文字そのもの。そうして魔道師の力に対抗できる唯一のもの。

    この設定は、言葉を仕事にしている私を魅了した。語られる言葉と綴られる言葉。男と女。この偉大なファンタジーにおいて拮抗するものとして語られた存在は、いずれも互いの力を奪いあうことなく、それぞれがそれぞれの存在のままであり続けることで最も素晴らしい力をこの世界に生み出すのではないだろうか。

    少しずつ、本当に少しずつ噛み締めながら読み終えました。上質の物語です。

  • これは…すごいものを読んでしまった。
    コンパクトながらしっかりしたストーリーもさることながらその描写力、設定にびっくりした。
    モモとか、なんだろう、そういう児童文学のファンタジーを大人用に昇華させたような読み味がすばらしいです。この、世界にぐいぐい持っていく力は小野不由美レベルかもしれません。

    あらすじを書くと、どこからがネタバレになるのか悩むが、一言で表すと「復讐」だ。
    主人公カリュドゥは月石を右手に、左手に黒曜石、そして口の中には真珠を持って生まれてきた。この三つの品には大きな意味があるのだが、そのために母からも気味悪く思われ魔道師エイリャに育てられる。小さな田舎の村で膨大な書物と、いろんなことを教えてくれる育ての親に囲まれて成長するが、ある日、エズキウムの国の魔道師長アンジストが現れカリュドゥの目の前で幼馴染のフィンとともにエイリャを無残に殺してしまった。カリュドゥはアンジストに復讐するため、魔道師の修行をしようとエイリャの遺言であるパドゥキアに向かうことにする。そこで師匠のガエルクのもとで修行を積むが、ある事件により、魔術とは別の力を知る。そして「紙に触れるだけで」殺してしまうことも出来るという「夜の写本師」を目指し、アンジストの暗殺を試みるが、実はアンジストとカリュドゥには知られざる因縁があった。その因縁とはなにか、カリュドゥの生まれながらに持っていた三つの品との関係はなんなんのか…。

    とにかく面白いです。
    細かな描写がまた美しいんです。
    繊細なレースを編むような、丁寧な始まりで、話が大きく動き出すまではむしろ描写の美しさばかりを見てしまいます。丁寧に、ゆっくり読みたい。
    そして魔術や、カリュドゥが使う写本師の戦いの描写もすごい。残酷な描写も見られますが、この世界での「魔術」というものは明るさだけではない、闇も苦しみも恨みもあっての魔術なんだ、ということなのでしょう。ちょっと怖いです。
    最後はなんとなく切ないけどすてきな終わり方で、悲しくないのに泣きそうでした。

    映像化して欲しいようなしてほしくないような。

    井辻朱美さんの解説もいいです。
    魔法を扱ったファンタジーの代表作を挙げながら、この作品の良さを再認識させてくれます。

    シリーズ物の1巻とのことなので続きも追いかけたいです。
    ただ文庫化されたのはまだこの作品だけのようなので、ハードカバーで続編を読むかは悩み中です!

  • 魔法を扱う魔道師と魔力を持つ本を作る写本師がいる世界での復讐劇の話。まず小説の世界観が好きですぐ入り込んだ、闇に入り込んだみたいな暗さが良い。読んでる最中何回息を呑んだやろと思うくらい都度都度話の行方が気になりすぎた。

  • いつの間にやらこの世界観に没入してしまっていた。徐々に引き込まれていった。ずっと読んでいたいような感じがした。終わってしまったのが寂しかった。魔法の種類や仕組みなどもおもしろかった。

  • 第72回アワヒニビブリオバトル「【往路】お正月だよ!ビブリオバトル」第6ゲームで紹介された本です。チャンプ本。
    2021.01.02

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著者プロフィール

山形県生まれ。山形大学卒業。1999年、教育総研ファンタジー大賞を受賞。『夜の写本師』からはじまる〈オーリエラントの魔道師〉シリーズをはじめ、緻密かつスケールの大きい物語世界を生み出すハイ・ファンタジーの書き手として、読者から絶大な支持を集める。他の著書に「紐結びの魔道師」3部作(東京創元社)、『竜鏡の占人 リオランの鏡』(角川文庫)、『闇の虹水晶』(創元推理文庫)など。

「2019年 『炎のタペストリー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

乾石智子の作品

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