滅びの鐘 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488525095

作品紹介・あらすじ

北国カーランディア。建国以来、魔法の才をもつカーランド人と、征服民アアランド人がなんとか平和に暮らしてきた。だが、現王のカーランド人虐殺により、平和は消え去った。怒りに燃える大魔法使いが、平和の象徴であった鐘をで打ち砕いたのだ。そして闇の歌い手と魔物をも解き放ってしまった。闇を封じることができるのは、古の魔が歌のみ。著者が二十年間温めてきたテーマを圧倒的なスケールと筆致で送る、本格ファンタジーの金字塔。

感想・レビュー・書評

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  • 分厚かった・・・。章はかなり細切れで、それというのもタゼーレン側(カーランド人)とロベラン側(アアランド人、王族)、ふたつの視点を、同時進行でそれぞれ書いているから。最初は向き合っていたわけではなくお互いは大きな集団でしかなかったのに、物語が進むにつれて円が狭まるように焦点が合っていき、ついにはタゼーレンとロベランが直接相対する、という流れが面白い。

    穏やかな時期もあり戦もあり、と緩急はあるが全体的に淡々と時間が過ぎていく印象。タゼーレンの哀しみ、憎しみも、湧き上がるというよりタイダーのそれに同化するという感じで静かなものにさえ思えるのが不思議。ロベランの"怒り"のほうがよほど激しい。
    そう、ロベラン・・・少しずつ、こわれていく彼は誰よりも哀しくみえた。すべてが壊されて立て直しが始まった時、彼が立ち直ることは許されなかったのだ。当然の帰結とはいえ、その結末はなんとも哀しかった。
    それにしても民族の違いを理由に対立する、その愚かしさ。
    こうしてシンプルな構図の物語で見せられると、その虚しさがいっそう際立つ。

    好きな場面もいくつも。
    タゼーレンが父から諭されるところ。
    「――淵は深いがゆえにまだあふれてこないが、努力をつづけていれば必ずあふれるときが来るだろう。」
    アアランド人であるセフィアが、追われるカーランド人たちに合流するところ。
    「ひたすら逃げて逃げて、相手の善意を信じるときは終わったの。――カーランド人も、戦うときが来たのよ」
    ダニシアで過ごした、輝かしい一年。
    そして、カイドロスの体を切り裂くように老ローマルトが飛んできた瞬間。
    自然物のさまざまな描写の羅列は今作でも繰り返し見られ、それは読み流すこともできるが、一つ一つできるだけ思い描くようにすると、この世界が色づいて見える。

  • 今まで読んだ乾石さんの作品で、一番おもしろかった!
    「精霊の守り人」のように、ドラマ化してほしい。
    映像でも見たいなと思いました。

    出てくる人たち、みんななぜか好きだった。

  • なんとなく評価が難しい作品。
    特に序盤の部分で読み進めるのがいやな感じがしたのだが、後書きの部分を読んでそう感じた理由が分かった。

    著者の代表作であるらしい『オーリエラントの魔導師シリーズ』を避けて、お試し目的で単一の作品である本作を選んだのだが、どうやら(他の単発の作品も含めて)全て同じ世界観の中で描かれているようなのだ。
    なので、特に導入部分で、物語は面白い感じがするんだけど、身の回りの異世界的なモノ達が何の説明もなく当たり前のように出続けてくることに小さな違和感が積み重なっていった(→ やがて不信感に)というのがなかなか読み進められなかった理由だろう。
    「自分だけが異世界に転移して、他のキャラクターや世界から置いてけぼりになった気分」だったのだ、と今なら理解できる。
    シリーズものの影響下にあるのなら、帯などに書いておいて欲しかったし、著者も後書きで「大丈夫だと思うけど」と軽く流しているが、導入部で新規参入者の世界観への引き込みには失敗していると思っている。
    新規にこの作品から読み始める人などいないということだろうか。

    導入部の不親切さで悪い印象を持ってしまったので、この著者の作品を読むことは無いだろうと思われる。
    その点では2点なのだが、物語は面白い部類に入ると感じたのでそこは3点はある。ということで評価が難しい。


    物語の最後は爽やかに後味良く終わるが、終盤は(ファンタジーと言っても)ご都合主義的な感じが強すぎる。
    遺恨を残すような主要人物は皆ロベラン(+ 破片入りの木)が殺し、国中に恐怖を与える汚れ役も彼が一身に背負う。役目を終えたロベランを最後に押しつぶして、救いのように見える最期を迎えさせる。
    作中で問題となっていた憎しみや欲望はオナガンが鐘の粒子と共に沈静化して、良き王となって終わり。
    タゼーレン一行は手を汚すこと無く特等席に迎えられる。
    後書きを読むと、著者が昔から暖めていた物語ということだが、伏線は今も機能していないように感じるし、タゼーレンは当時の理想のままのスーパーマン(に悲劇を色づけしただけ)から変わっていないように思った。
    中盤以降でカーランド人の評議会を皆殺しにしたのも、最終盤にタゼーレン(= 著者のヒーロー)を伝説の歌い手にし、国の中枢に食い込ませるために邪魔だったからではないかと邪推してしまう。

    エピローグでイリアンが平気な顔をして家族と笑っているのには強い違和感があるし、デリンが虐殺後のカーランドで当たり前のようにリーダー然として振る舞っていたことにも強い違和感があった。デリンがカーランド襲撃時に敵前で踏ん張れば、城へより多くの人を収容できて虐殺の規模を抑えられたし、そもそも鐘を壊したことで全てのことが起きたと(八つ当たりで)憤る人がいておかしくない、もっとしらけた雰囲気があってもおかしくないのではないか。また、虐殺までの間どこで何をしていたのか?カーランドに居たはずではないのか?なぜ襲撃時に姿を見せなかったのか?城の扉を開けたりしていたのならタイミングが遅すぎて戦犯も良いところである。と大事な場面で不合理な行動が多すぎる。
    キースは序盤に物語のキーマンかのような雰囲気をまとい思わせぶりな台詞を吐くがロベランの矛先を緩めることもわずかにそらすことも出来ず、大勢に影響を与えることが出来ない有能風無能。
    終盤では2つの民族が融和していくことを匂わせるまとめ方だが、カーランド人を迫害し続けてきた奴らがそう簡単にまとまっていくとは思えず、楽観的すぎるのではないかと思った。麻薬としての鐘の粒子が効くのか。

    最後が爽やかに終わるのでだまされそうだが、
    この著者はお気に入り以外の登場キャラを軽く扱っているように感じて他の作品は読む気にはならない。

  • 読み応えのある一冊でした。
    民族、差別、混濁した世界の再生の物語。

  • 割と面白く展開するのだが、真ん中ちょっと過ぎたくらいの拷問シーンからの憎しみの描写がいただけない。完全にテンポが止まり進まない。
    わたわたっと風呂敷を畳み終了。

  • 子どもの頃からファンタジーが好きだった。いいかげん大人になっても、その気質は変わらずだ。現実ではない世界にあっても人々には生活があり、人生があってそれは現実となんら変わりないと思えるし、だからこそ現実と照らして考えることもある。差別やそれに伴う憎しみの連鎖、うねりに飲み込まれる人と抗う人。前半と後後半のスピード感の差がちょっと気になったが、読み応えがあった。

  • うーん。風景描写は美しいんだけど…この方の女性の描き方がどうも合わないなあ…どうしても男性キャラのオマケに見える…

  • ファンタジーだがさすがにゴリゴリ。えげつなく死が蔓延するが、最後は迫力ある描写で強引に救いが生まれていく。
    世界観は徹底して守られて破綻なく印象的。ただ、個人的には感情を揺らすものがなく、ただ終わりまで勢いで読み切っただけ。厚いが熱くない。

  • 迫害され逃げるとは、こんなに辛いものなのか。安住を許されず滅ぼされようとする者の苦しさ。天地がひっくり返るような鮮やかな結末に、感服。

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著者プロフィール

山形県生まれ。山形大学卒業。1999年、教育総研ファンタジー大賞を受賞。『夜の写本師』からはじまる〈オーリエラントの魔道師〉シリーズをはじめ、緻密かつスケールの大きい物語世界を生み出すハイ・ファンタジーの書き手として、読者から絶大な支持を集める。他の著書に「紐結びの魔道師」3部作(東京創元社)、『竜鏡の占人 リオランの鏡』(角川文庫)、『闇の虹水晶』(創元推理文庫)など。

「2019年 『炎のタペストリー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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