銀の仮面 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488558031

作品紹介・あらすじ

孤独な中年女性ソニアは、ある日家の前に倒れていた美しい青年を見るに見かねて家へ招き入れる。文無しで家族も養えないほど困窮したその青年は、ソニアの家に飾られた芸術品に優れた鑑識眼を発揮し、また立ち居振る舞いも洗練されたものだった。その日から青年やその家族と交流を持ち始めたソニアだが、徐々に青年は彼女の生活に立ち入り始め……江戸川乱歩が〈奇妙な味〉の代表例として挙げた名品「銀の仮面」ほか全13篇を収録する。繊細な技巧が編み出す恐怖と不安に満ちた日本オリジナル傑作選。

感想・レビュー・書評

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  • 国書刊行会の「銀の仮面」に、2つの短編を追加したもの。
    最初に読んだほうの国書刊行会版はとにかく嫌〜〜な気持ちになるお話が多かったけれど、
    こちらの創元推理文庫で追加された2篇は素直にいい話だった。不気味なこと、不思議なことは起こるけれど、それが主人公に悪くはない影響を与えている感じ。
    国書刊行会版はこちらに書いたので、ここには追加2篇のレビューを。
    https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4336042446#comment

    『ターンヘルム』
    親族の間を預けられる少年が体験した奇談。
    少年がその夏預けられる先は、気難しいが妙に自分に親しみを表そうとするロバート伯父と、見るからに親しみを感じるコンスタンス伯父の兄弟の屋敷だった。
    召使いは頻繁に辞め、ロバート伯父は秘密の塔で何かをしている。
    少年は最初の晩屋敷の中に犬が入り込んだのを見る。そしてその犬はロバート伯父と同じ匂いがするのだった…。
    錬金術?の変身譚物語。語り手の男が少年時代を振り返る形式だが、今では穏やかな生活を送っていること、そして恐ろしい屋敷の恐ろしい出来事ではあっても、当時親戚の間を転々と預けられている少年にとっては、住み込み御者のボブ・アームストロングと、コンスタンス伯父が本当の愛情を向けてくれているので、決して悪い思い出ではないようだ。

    『奇術師』
    何をやってもうまく行かない少年に起きた小さな転機。
    少年は家でも友達の間でも味噌っかす。しかし変わり者の老人クラリベルさんは、少年を一人の人間として歓迎してくれて接してくれている。
    少年にとっていくつかの家庭が集まるクリスマスパーティーは気が進まないものだった。だがどこからか現れた奇術師があらわたときから何もかもがうまくいった。人の心を読むかのようなあの奇術師は何者だったのか?
    喜びの気持ちでクラリベルさんを訪ねた少年は、彼こそが奇術師だったのだと分かる。
    そして成長した今でも、クラリベルさんのように好きなものになって、人を幸せな気持ちにさせたいのに、なかなか難しいんだよね。

  • 乱歩が激賞していたというヒュー・ウォルポール、どこかで名前を聞いた気がするけどなんだったかなと思ったら、モームの『お菓子とビール』に出てくるアルロイ・キア(要領よくて功利主義の嫌みなやつ扱い)のモデルだって言われてる作家でした。まあご本人がどんな性格だったかは現代の読者にはあまり関係ないので、単純に作品を楽しみました。

    3部構成になっており、1部目は人間の心理的な怖さの作品が集められている。表題作は、孤独な初老の独身女性が偶然、貧しいイケメン画家に親切にしたところ、どんどん相手が付け込んできて妻子まで連れてきて・・・という話でオチは案の定。「敵」も「死の恐怖」も主人公が生理的に嫌っている相手が、自分が嫌われてるとも思わずグイグイ絡んできて迷惑する展開なので、読んでいると結構イライラします。「敵」は主人公の感情がころころ変わるのでオチとしてはシニカルで面白かったけど。

    家への執着がすごい女性の「中国の馬」、心を閉ざし打ち解けようとしない従妹のため犠牲になる少年の「ルビー色のグラス」、家族を支配する老婆を無神経な旅行者のおばさんが自覚せず追いつめていく「トーランド家の長老」など、悪気はないけれど迷惑な善意、相手から嫌われていることに気づかないほどの無神経など、人間の嫌な面の描き方が絶妙すぎて読んでいると嫌な気持ちになる作品ばかり(苦笑)

    2部目は幽霊ものなどの怪異譚。こちらも嫌な人物が登場するのは1部の作品群と同じだけれど(売れない作家が成功している友人作家を殺害する「みずうみ」、後妻が前妻の幽霊に憑りつかれるも夫がモラハラ気味な「雪」など)、怪奇ものなのでそこはやや緩和され楽しく読めた。「虎」はなぜかニューヨークの地下に獣がいる、虎に襲われると思い込んでしまった男性の強迫観念の話で現代的な怖さ。

    唯一良い話は「ちいさな幽霊」で、こちらは古い邸宅に住みついていた幽霊が、新しく越してきた賑やかな一家のために居場所をなくしていることに気づいた主人公が幽霊を救ってあげる話。幽霊のほうが人間に怯えていて、系列としてはワイルドの「カンタヴィルの幽霊」と通じるかも。

    3部は文庫化にあたり追加で翻訳されたもの。伯父の豪邸に出る謎の黄色い犬の正体が実は・・・という変身譚「ターンヘルム」、家族の中でおミソ扱いの孤独な少年が奇妙な老人と親しくなりクリスマスパーティーでヒーローになる「奇術師」の二編。前者は怖いけどとても好み、後者は良い話でハッピーに終われてよかった。

    ※収録
    1:銀の仮面/敵/死の恐怖/中国の馬/ルビー色のグラス/トーランド家の長老
    2:みずうみ/海辺の無気味な出来事/虎/雪/ちいさな幽霊
    3:ターンヘルム/奇術師

    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんにちは!(^^)!
      淳水堂さんの『ジェレミー少年と愛犬ハムレット』の感想拝読しました~!
      ジェレミー少年が普通の少年とし...
      淳水堂さん、こんにちは!(^^)!
      淳水堂さんの『ジェレミー少年と愛犬ハムレット』の感想拝読しました~!
      ジェレミー少年が普通の少年として普通に日常を送り順調に成長しているようで私も安心しました(^^)
      なんだヒュー、普通の良い話もちゃんと沢山書いているんですね(笑)
      誤解(?)が解けて良かったです。
      2020/02/11
    • 淳水堂さん
      yamaitsuさん

      ジェレミーが家に帰ったときの話が、「休暇の始まりはだいたい最悪」だったので、「ルビー色のグラスの再来か?!」と思...
      yamaitsuさん

      ジェレミーが家に帰ったときの話が、「休暇の始まりはだいたい最悪」だったので、「ルビー色のグラスの再来か?!」と思いましたが、
      読んでいったらジェレミーは筋が通り学友や大人たちからも信頼されていて
      この子の将来は大丈夫だろうという感じでした。
      しかしやはり皮肉めいていて、大人の俗っぽさも出ていて、
      イギリス人は素直になったら駄目なんだろうか?とは思う。(^_^;)
      2020/02/11
    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんにちは(^^)/
      「ルビー色のグラス」を読む限りでは、ジェレミーの人生がこの先それほどハッピーそうには思えなかったですが、...
      淳水堂さん、こんにちは(^^)/
      「ルビー色のグラス」を読む限りでは、ジェレミーの人生がこの先それほどハッピーそうには思えなかったですが、そうじゃないことを知って再読したらそれほど不穏な印象はなくなるかもしれませんね!
      2020/02/12
  • 表題作のみ読んだ。
    偽善に生きる時ってそれでかすかに気持ちよくなったりするよね。特にいかにひどい境遇の人であるかとか、美しい人に対して偽善をする時の気持ちよさ。なんなんだろうかあれは。優越感なのかな。
    そういう自分にも確かに存在する愚かな感情を肉ごと抉り取られるような感覚になった。

    海外文学はなんとなく読みづらいと思うタイプなんだけども、文体はそれほど固くないしなにより短編なので気負わずに読めていい。

  • 銀の仮面は何かで読んだことがあったが、他のは初読。まあ奇妙な味ですね。これが一番でした。後は「怪談」だそうで、さっぱり。

  • 「奇妙な味」として広く語られる、あるいはカテゴライズされる作品とはだいたいの場合「厭な話」であるか、”厭”な要素を持っているんじゃないか、と表題作を読んで感じた次第。
    以下ずっとどうも不気味―かつ厭な話、イラっとさせられる話、どうにもすっきりしない話が続くが、最後に収録された「奇術師」でホッとさせられる。

  • 2020/07/29予約 1

    冒頭の銀の仮面、するすると青年が入ってくる様子が、どうして?と思っている間にあっという間に進んでいく…

    あとの話はあまり好きな短編ではなかった。

  • やはり『銀の仮面』が秀逸。そして裏『銀の仮面』とも言える『トーランド家の長老』も面白かった。

    思えばデルフィーヌ・ド・ヴィガンの『デルフィーヌの友情』も『銀の仮面』の系譜だよね。

  • 冒頭に収録されている表題作のインパクトがあまりに強く、他の作品の印象がかすんでしまうのが残念だなぁ…と思っていたら、ラストの「奇術師」がなんともいい話。ボーナストラックとして収録した訳者に敬意を表します。

  • 2020/01/03読了

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