文豪妖怪名作選 (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488564049

作品紹介・あらすじ

文学と妖怪は切っても切れない仲、妖怪に縁の深い作家はもちろん、意外な作家が描いていたりする。本書はそんな文豪たちの語る様々な妖怪たちを集めたアンソロジー。雰囲気たっぷりのイラスト入りの尾崎紅葉「鬼桃太郎」、泉鏡花「天守物語」、柳田國男「獅子舞考」、宮澤賢治「ざしき童子のはなし」、小泉八雲著/円城塔訳「ムジナ」、芥川龍之介「狢」、室生犀星「天狗」等19編を収録。妖怪づくしの文学世界を存分にお楽しみ下さい。

感想・レビュー・書評

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  • 【尾崎紅葉「鬼桃太郎」】
    桃実より生まれ出でたる桃太郎に攻め込まれて敗北した鬼が島。末代までの恥辱を注ぐべく、武勇優れたる鬼を持って桃太郎の若衆首を挙げんとす。
    選ばれしは川から流れてきた苦桃から生まれた大鬼苦桃太郎。白虎の域日もの袴を履き、針金の袋に髑髏を捧げ、鉄の丸柱を片手に捧げて桃太郎討伐へと進み出ん。道中にて行き会う毒竜、狒、狼を家来に日本を目指すが、あっちへふらふらこっちへ行き過ぎ遮二無二戻れば戻り過ぎ…。
     / 勇ましく始まったかと思ったらなんか一本抜けたなことに…

    【泉鏡花 「天守物語」】
    人が百年足を踏み入れぬ姫路城五重の天守の主は長壁姫。その天守目指して猪苗代の亀ヶ城城に住まう妖怪亀姫が空を飛び訪ねてくる。姫路城ではちょうど鷹狩の最中。長壁姫は空の路を開けさせるために雨雲を呼び、姫路城の殿一番の鷹を天守に誘い込む。
    失われた鷹を求めて、五重の天守へ登ってきたのは、殿の勘気を蒙った若武者の姫川図書之助。美丈夫で弁論鮮やかな図書之助と、美しき妖怪夫人の長壁姫は互いに惹かれあう。
    しかし「天守も含めて姫路城は自分のものだ」と主張する殿は、天守閣へ兵を向ける。
    天守閣に住まう妖怪たちを永らえさせてるのは、天守に収められている木彫りの獅子頭。その獅子頭の目が傷つけられた時、妖怪たち、そして図書之助の目も損なわれる。
    互いに寄り添っての死を覚悟した時、どこからともなく現れた老人。それはその昔、獅子頭を彫った近江之丞桃六だった。寄り添い合う長壁姫と図書之介、そして眼下に迫る兵士たちを見降し近江翁が呵々と笑い幕が下りる。
      / あれ?結局闘い?はどうなったんだ?
     泉鏡花が舞台化を願ったが、上映されたのは死後だったとのこと。
    あと一つ分かった事があった!亀の姫のお付の中に「舌長婆」と「朱の盤」が出てきた。以前おばけ絵本で「したながばば」の相棒が「しゅのばん」で、どういう名前なんだろうと思っていたが、「朱の盤坊」だったのか。

    【柳田國男 「獅子舞考」】
    獅子舞についての逸話、神社に収められた獅子の頭にまつわる話など。

    【宮澤賢治 「ざしき童子のはなし」】
    「ぼくらの方の、ざしき童子(ぼっこ)の話です」
    可愛らしいような哀切を感じるような。

    【小泉八雲/訳:円城塔「ムジナ」】
    翻訳なので「トーキョーのアカサカ街には、キイ地方の坂という意味で、キイ・ノ・クニ・ザカと呼ばれる坂がある」というような文面。
    高校の英語の授業で「ムジナ」を習いました。題名が「ムジナ」というからには「狸に化かされた」ということなんだろうけれど、日本人からすれば「のっぺらぼうはのっぺらぼう、狐狸に化かされるのとはまた別」何だと思ってしまうんだが。

    【芥川龍之介「貉」】
    貉が人に化けて歌を歌ったという最古の記録は推古天皇の御代。芥川龍之介は、その伝説の成り立ちを推察する。人が信じることとは何か、そのためには人が”貉が化けた”という事柄を軽視するべきではないだろう。

    【瀧井孝作 「狢」】
    ムジナ三連壮。”むじな”で検索すると「貉」「狢」が出てくる。
    芥川龍之介の「貉」を考えつつ、自分なりの「人が信じてしまう話」の考察。

    【檀一雄 「最後の狐狸」】
    「私は三十八歳の今日に至るまで、まだついぞ、その妖怪という物を見たためしがない」
    妖怪は滅亡したのだろうか、幽霊の環境は次第に消え失せたのだろうか、という随筆。

    【日影丈吉 「山姫」】
    代々続く神主の家からは巫女を出す。巫女の守り神として狼が付く。そして巫女たちの中には父親の知らない子供、まるえ狼のような子供を産む女が出てくる。
    著者が訪ねた神官の娘である巫女は、この世ならざるものを見るがあまりこの世のことが目に入らない様だった。そして父親が不明の娘はまさに狼のような少女だった。
     / 精神疾患などの現実的な理由づけを行うながらの体験記かと思いきや…ラストがいきなりサスペンスになってびっくりした。

    【徳田秋聲 「屋上の怪音 -赤い木の実を頬張って」】
    自分が子供の頃は天狗にさらわれる神隠しというものがあった。自分の子供時代の思い出は、天狗の話とおこりという風土病の怖ろしい記憶だ。

    【室生犀星「天狗」】
    城下に住み着いた浪人は「鎌鼬」のようだった。その風貌、すれ違いざまに膝頭を斬ってゆく腕前。 
    もてあました藩は山の奥にある小さな社を与えた。
    年が経つにつれ地元住人は、浪人を天狗のように奉ることになる。

    【椋鳩十 「一反木綿」】
    美しい娘に化けて男の一物を掻き毟る妖怪いったん木綿。剣術の達人は、妻が止めるのも聞かずにいったん木綿退治に出かけてゆく。達人の前に現れる美しい娘。そして後ろに顕われた女の隠しどころをあらわにした女…。
     / エロと怪異と物悲しさが混ざり合う。

    【内田百閒 「件」】
    気が付いたら私は件になっていたんだ。生まれて三日目に予言をして死ななければいけないらしい、困ったなあ。
    件が生まれたと聞いて人間たちが集まってきた。私の予言を待っている。でも私には予言なんてできないんだ、困ったなあ。
     / 深刻なんだか呑気なんだか。なんだかなんとかなるような気がしてきた。

    【小田仁二郎 「からかさ神」】
    唐傘だって年を経れば意思を持つ。風に乗って空を飛んで、落ちたところで神様として祭られた。狭い所は苦手だよ、それにそんな祈りをされたって。
     / これまたエロなんだか深刻なんだか緩いんだか。

    【 火野葦平「邪恋」】
    川のほとりで美しき娘玉章(たまづさ)は物思いに沈んでいた。緑の髪の中央には典雅な皿、形の良い青緑色の背中の甲羅、涼しい眼差しと優しげな嘴。
    話は三年ほど前に遡る。奈良に春日大明神の造営が決まった時に、建築奉行の兵部大輔は、木材から童子人形を作り匠道の秘儀に選り魂を吹き込み、タダでこき使える人夫に仕立てた。その頭は兵子部(ひょうすべ)と名付けられ、童子人形たちを束ね兵部大輔のために働いた。
    だが彼らは造営が終わったら追い払われる。兵部大輔に、秘儀に選り人間の精を抜かれ河童となった彼らは、遠い九州まで住処を求めて辛い旅を続ける。
    兵子部たち河童は、すでに川に住んでいた別の河童一族を襲い、その住処を奪う。
    だが敵同士だった兵子部と、攻め追い出された河童一族の娘の玉章が、互いに惹かれあったことから破滅は始まった…
     / 工事人夫として人形に魂を吹き込み働かせたが、人形たちは工事完成で邪魔にな莉捨てられ、河童になった、という「河童人形起源譚」に、恋愛や紛争を取り入れて小説化。

    【佐藤春夫 「山妖海異」】
    海の怪異と山の怪異の話。
    「帰りに弔おう」との約束を違えられた女の死体の話は悲哀だ。

    【稲垣足穂 「荒譚」】
    人間がおばけを楽しむ気持ち。
    ・第一話
    備後の稲生平太郎という少年侍の家に現れる怪異。怯えぬ平太郎の前に姿を現した怪異の主は「別の場所へ行く」と言って去る。平太郎はもっとその怪異と話がしたかった。だからまた来て欲しいと思っている。
    ・第二話
    灰屋のおっさんのゆうれい話。怪異を捕まえたけれども翌日消えていましたとさ。

    【獅子文六 「兵六夢物語」】
    大石内蔵助の子孫、大石兵六(ひょうろく)の化物退治物語。化け物にしてやられながらもなんとか退治。途中の醜態を考えれば褒めてよいやら貶してよいやら。しかし今日までも功名手柄が伝わっているのはひとえに彼の愛嬌さ故である。

    【寺田寅彦 「化物の進化」】
    化物についての随筆、考察。

  • 文豪主催の百物語に招かれた気分になれる素敵なアンソロジーでした。彼らが語る妖怪話を思う存分堪能。
    文豪毎に採用する物語の選び方と編集の順序が絶妙。巻末の編者解説でそこら辺のこだわりが書かれてますが、掲載順に話のネタが繋がる感じになっているので、百物語で「この話をきいて思い出しましたが、こんな話が……」と次々文豪が語りはじめてくれているような気分になれます。(なので、アンソロジーだからと気になる作家の作品だけつまみ読みするのではなく、頭から順番に読んで欲しい)

    どれも面白かったのですが、やはりトップバッターの紅葉先生の『鬼桃太郎』がお気に入り。まさかのドジっ子属性のアレとかトンデモ展開とか凄いですよ……挿絵もステキでした。
    あとは、流石門弟三千人の佐藤春夫。あっちこっちの文豪の語りに出てきて笑ってしまう。どんだけ顔が広いんだよと(笑) で、締めが寅彦ってのもシビれました。

  • 明治~昭和の文豪の作品から、妖怪が扱われているものを選んだアンソロジーだけれども、名高い作品もあれば、ああこんなのがあったのかと思うものもある。
    そして、並べ方が実に秀逸。
    文壇は、○×派などというものがある通り、ある程度グループを作ったりなどして交流があったもので、そういうところから、あるいはテーマから、互いにつながっていくように並べてある。
    まあ、収録されているものには好みのものもあれば好みではないものもあるのは仕方がない(たとえば私は昔から火野葦平の作品はいまいち相性が悪い)。
    とはいえ、嬉しいのはやはり掘り出し物で、獅子文六による「兵六夢物語」などは私にとってはまさにそれであった。

  • 内容ももちろん面白かったのですが、解説も、作品同士作者同士が影響を与え合っているなど書かれていて、ためになりました。

  • タイトル通りのアンソロジー。鏡花の「天守物語」と百けんの「件」は鉄板で、もう何度読んだかわからないくらい好きだけれど、それ以外もお馴染みの有名作もあれば、掘り出しものもあり、アンソロジーの醍醐味が存分に味わえました。以下お気にいりなど。

    尾崎紅葉の「鬼桃太郎」は桃太郎に退治された恨みを抱く鬼たちが「苦桃(にがもも)」から生まれた鬼桃太郎に桃太郎退治を託すというブラックなパロディ作品で、挿絵もついててとても楽しい。

    日影丈吉の「山姫」は巫女と守護狼(犬)の八犬伝か犬狼都市かという異類婚姻譚的な匂わせもたいへん好みな上に、ノンフィクション風だったのにオチがいきなりホラーで最高。

    椋鳩十は子供向け動物もの作家という文壇のムツゴロウさん的なイメージしかなかったのだけど、ヒラヒラしてるだけで無害だと思ってた「一反木綿」がまさかこんなエログロ妖怪になってしまうとは!数ページの短さですがなかなかの衝撃です。

    河童好きとしては火野葦平の「邪恋」も外せない。脳内の河童アンソロジーに早速収録。美人の河童というと昔の黄桜のCM思いだすなあ。

    佐藤春夫「山妖海異」は既読だったけれど、相変わらず可愛げの欠片もない口の悪い人魚が気持ち悪すぎてツボる。


    ※収録作品
    「鬼桃太郎」尾崎紅葉
    「天守物語」泉鏡花
    「獅子舞考」柳田國男
    「ざしき童子のはなし」宮澤賢治
    「ムジナ」小泉八雲(円城塔:訳)
    「貉」芥川龍之介
    「狢」瀧井孝作
    「最後の狐狸」檀一雄
    「山姫」日影丈吉
    「屋上の怪音──赤い木の実を頬張って」徳田秋聲
    「天狗」室生犀星
    「一反木綿」椋鳩十
    「件」内田百閒
    「からかさ神」小田仁二郎
    「邪恋」火野葦平
    「山妖海異」佐藤春夫
    「荒譚」稲垣足穂
    「兵六夢物語」獅子文六
    「化物の進化」寺田寅彦

  • 「文豪たちの語る妖怪たちを集めたアンソロジー。尾崎紅葉「鬼桃太郎」、泉鏡花「天守物語」、小泉八雲/円城塔訳「ムジナ」、芥川龍之介「狢」、室生犀星「天狗」等19編を収録。」

    目次

    「鬼桃太郎」尾崎紅葉
    「天守物語」泉鏡花
    「獅子舞考」柳田國男
    「ざしき童子のはなし」宮澤賢治
    「ムジナ」小泉八雲(円城塔訳)
    「貉」芥川龍之介
    「狢」瀧井孝作
    「最後の狐狸」檀一雄
    「山姫」日影丈吉
    「屋上の怪音──赤い木の実を頬張って」徳田秋聲
    「天狗」室生犀星
    「一反木綿」椋鳩十
    「件」内田百閒
    「からかさ神」小田仁二郎
    「邪恋」火野葦平
    「山妖海異」佐藤春夫
    「荒譚」稲垣足穂
    「兵六夢物語」獅子文六
    「化物の進化」寺田寅彦

  • 読み始めたものの妖怪の心地でなかったので中座してまた今度。
    とはいえ『天守物語』の生首桶に入れてジャジャーンと出てきてあーだこーだするシーンは変な色気がやっぱりえぇなぁ。ただ、妖怪括りかと言うと違うような、ジャンルで言えばサロメとかと同じ系統、言うなれば生首持ち歩き系。

  • 「そうなるんかい!」と思わず声に出して突っ込んでしまう話もあれば、本当にあったら怖いという話もありました。特に小泉先生のは懐かしくて気に入りました。ほとんどの人が聞いたことのある話だと思えるはずです。

  • 明治・大正・昭和の妖怪文学のアンソロジー。読むのに少し時間がかかった。尾崎紅葉の「鬼桃太郎」は挿絵付きで雰囲気あって良かった。個人的には「天守物語」がしっとりとした感じで好き。小泉八雲の「ムジナ」は知っている話だったけど、円城塔訳がなんだか新鮮でまた楽しめました。

  • 小説、絵物語、戯曲、実話怪談、エッセイと、いろいろな妖怪噺が楽しめるお得で美味しい一冊。
    実話かな?と思って読み進めていたら、アラアラこれは…?なんてことも。
    また、泉鏡花と柳田国男、柳田国男と宮沢賢治、芥川龍之介と瀧井孝作、壇一雄と佐藤春夫…という具合にそれぞれの作品・作者に関連性があるのも面白いです。

    あとがきで紹介されていた瀧井孝作の和製ポルターガイストもの「阿呆由」は、同じ東雅夫先生編の『日本怪奇実話集
    亡者会』で読めますよ~。

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著者プロフィール

1958年、神奈川県生まれ。アンソロジスト、文芸評論家。「幻想文学」「幽」編集長を歴任。ちくま文庫「文豪怪談傑作選」「文豪怪談ライバルズ!」シリーズはじめ編纂・監修書多数。著書に『遠野物語と怪談の時代』(日本推理作家協会賞受賞)『百物語の怪談史』『文豪たちの怪談ライブ』、編纂書に『ゴシック文学入門』『ゴシック文学神髄』、「文豪ノ怪談ジュニア・セレクション」「平成怪奇小説傑作集」「赤江瀑アラベスク」「文豪怪奇コレクション」の各シリーズ、監修書に「怪談えほん」シリーズなどがある。

「2022年 『桜 文豪怪談ライバルズ!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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