運命の剣〈下〉 (創元推理文庫 F ラ 3-5)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488577056

感想・レビュー・書評

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  • 前作までのタルマとケスリーから、ケロウィンへと主人公が変わります。
    そして、舞台となる年代も、かつての時代から、約100年後へと移っています。
    物語の纏っている雰囲気も、前作までとは異なります。

    けれども、これは<ヴァルデマール年代記>です。
    それは、読んでいる中で、紛う方無き実感として体感出来ます。

    本作は、ケロウィンという一人の女性を焦点にした物語です。
    領主の娘として生まれ、あまり幸せではない日々を過ごしている少女。
    その少女が体験する、厳しく辛い人生の物語です。
    Lackeyの持つ卓越した描写力で、丁寧に描かれるケロウィンの日々。
    読者は、その傍らを共に歩む、見えない傍観者となっている事に気付きます。

    ケロウィンは、不幸の星の元に生まれたかのようです。
    物語の主人公にありがちな、「幸運」に恵まれる事は殆どありません。
    彼女は、自らの資質とたゆまぬ努力によって、その苦難の道を進みます。
    やがて出会えた最愛の人とも、長い間、離ればなれになりながら。
    10年もの月日を、指揮を執るものとしての孤独のなかで。

    本書には、シン=エイ=インのことわざが幾つも出てきます。
    非常に示唆に富んだ、含蓄の深いものばかりです。
    その中でも、このことわざの深さは特筆に値すると思います。<blockquote>願い事には気をつけよ。かなうかもしれないから。</blockquote>本当に深い言葉だと、心から思っています。

    そして本作は、「王家」の物語ではありません。
    「傭兵」という、特殊な世界を舞台にした物語なのです。
    ケロウィンの一人語りに、その本質が詰まっています。<blockquote>いつになっても戦いはあるだろう。わたしが生きているあいだに、突然世界が平和になる様子は目にすることができないだろう。戦う者のなかに名誉を重んじる人間がいなければならない。そうでなければ、戦うのは、何をしてもかまわず、誇りも持たず、何人死者が出ようと気にもとめない連中ばかりになってしまうにちがいない。そうだ、だからわたしはこの仕事をしたいのだ。おかしなことだけど、そうすればダレンやローダンのような人、つまり犠牲者になるかもしれない人を守ることにもなる。だからわたしがこの仕事で収入を得ていても、それでもそういう人を守ることになるんだ。
     なぜなら、もしすべての戦いが良心を持たない人間によって行われれば、ただ平和を望むだけの人々にとって安全な場所はどこにも存在しないことになるから</blockquote>この語りは、非常に深い部分を的確に付いていると思います。
    武器を持った「戦い」が、遠い国での出来事にすぎなくなった今であっても。
    「戦い」はその姿を変え、変わらずにこの世界を覆っているからです。
    どんな「戦い」であったとしても、そこには「名誉」が無くてはならない。
    そうでなければ、それは「戦い」ですらないものになってしまう。
    必要なのは、個々人がこのような考えを理解し、共感することだと思います。
    名誉というのは、本書でも書かれているように、なんの意味もありません。
    名誉では、減ったお腹を満たすことはできない。
    それは、他ならぬケロウィンが言い放つ言葉です。
    上記の引用のような考えを持つケロウィンが、名誉には価値がない、と言う。
    それは、一見すると矛盾のように感じられるかもしれません。
    けれど、よく考えれば、それは大きな間違いだと分かるはずです。

    名誉とは、「目的」ではないのです。
    それは「行動原理」となるべきものなのです。

    このように、本seriesには、とても深い示唆があちこちに秘められています。
    それが、<ヴァルデマール年代記>は傑作だという根拠に他なりません。
    そして同時に、ただの説教くさい堅苦しい作品ではない、ということ。
    そこにあるのは、すばらしい娯楽性を備えた物語なのです。
    本書の読後感もまた、とても爽快で気持ちの良いものでした。
    再読しても、その幸福感と満足感は、いささかも減じられてはいません。
    それどころか初読の時よりも、満足感は高まっているように感じられます。
    素晴らしい名作だなぁと、相も変わらず思った次第です。

  • 27:ヴァルデマールは最初の一冊を読んで、主人公があまりにアレな目に遭うのに恐れをなして距離を置いていたけど、お友だちさんからお勧めを頂いて読んでみたらめっちゃ面白かったよ!?という案件……。
    ケロウィンとダレン、エルダン、それぞれの「わかりあえるところ」「わかりあえないところ」がちゃんと両立して、それでもよい関係を築けるっていうのはやっぱりファンタジー世界、特に戦う女の子であるとか、強い女の子を書く人にとっては理想なんじゃないかと思います。
    翻訳ものっぽいまわりくどさ、皮肉っぽさというのか、「願うときは注意せよ、叶うかもしれないから」というあたりはニヤニヤしつつ読みました。かっこいいなー。

  • 天翔の矢―ヴァルデマールの使者〈3〉
    とストーリーが絡んでくる
    -----
    ヴァルデマールに降りかかる苦難。
    隣国ハードーンのアンカー王がヴァルデマールに攻めてくる。ハード-ンの部隊は下級の魔法使いがいて、これにヴァルデマールは大苦戦。
    この第一次侵攻をなんとか防ぐ。発火の<天恵>をもつ使者グリフォンが大活躍(これって魔法じゃないのか…?)。
    だが、ハードーンのアンカー王にはまだまだ油断できない。とは言うもののつかの間の安息。
    -----
    というのが『天翔の矢―ヴァルデマールの使者〈3〉』の終わり。
    この巻『運命の剣 下』の中盤が時系列的にこれにつながる。

    女王補佐タリアがダークと共にケロウィンと出会う。

  • 傭兵を志すケロウィンを後押ししたふたつのもの。ひとつは祖母ケスリーから譲り受けた魔法の剣“もとめ”。祖母にしか扱えなかったその剣は初めて後継者を選んだ。さらにはすぐれた師の存在。ケスリーと姉妹の契りを結んだ伝説の女剣士タルマだった。彼女の厳しい特訓により誕生した傭兵ケロウィンは、いよいよ本シリーズ“ヴァルデマール年代記”の主要舞台へと乗りこんでいく。

  • 再読ー。

    ケロウィンはこの世で一番好きな女性主人公だわ。その悩みも決意もすばらしい倫理観があればこそ。
    正義や名誉ではない、「英雄」ではないという表明、傭兵隊長として、部下を率いるための覚悟や計算。愛にも義務にも冷静。しかも最後の決断は恋人じゃなくて馬のためだし。
    もうね、いろいろジャストミート。

    タルマ&ケスリーも大好きだけど、やっぱケロウィンだな。

  • ロマンスあり、戦いあり、なにより女性たちが‘男前’!

  • 2009年6月中旬読了。

    だいぶ前に読み終わってたのに忘れてたよ。
    やっと物語が私の中で繋がった。
    プロに徹する主人公がかっこよかった。
    ほどほどにロマンスもあって、中々良かったです。
    でも、最後に一気にすべてのかたがついちゃうあたり、めまぐるしくてびっくり。

  • 未読

  • エルダンを救出してからカースの侵略を阻止するまで。<もとめ>がヴァルデマール国に到着し、いよいよ本編へ、という感じではあります。が、上官の感想でも書いたのですが、ちょっと心理葛藤が弱い感じがします。そのせいで共感しにくい。でも女性なら共感できるのかなぁ、とも思います。

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