ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

制作 : Shirley Jackson  市田 泉 
  • 東京創元社
3.77
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本棚登録 : 1287
レビュー : 193
  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488583026

感想・レビュー・書評

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  •  皆の読後の感想が非常に似通うように見えて、それぞれ異なるものになる作品だろうと思う。
     実際、色々な人のレビューを読むと途中までは似たような感想がつづられ、ある地点から不意に、少しずつ違うものを見出し始めるのが見える。人間の顔のように、同じなのに全部違う、そんな感想。

     閉鎖的な村と、かつて砒素で家族が皆毒殺された、村外れの名家の生き残りの姉妹と老人。姉妹と老人の持つ狂気。そして彼らに恐ろしいまでの憎しみと嫌悪と嘲笑を見せる、村人たち。語り手たる姉妹のうちの妹メリキャットが、典型的な「信頼できない語り手」であるために、どこからどこまでが実際に存在した悪意と犯罪だったのかはわからず、全ては誤解と被害妄想だったという極北も含めて、様々な解釈の幅がありうる物語だ。
    「ふつうの人間」「善良な人間」の抱く邪悪と狂気。それらを描いた、心理的な恐怖小説。というのが、一番正統的な感想で、それはたぶん正しい。

     けれど私には、この物語は恐怖の物語ではなかった。狂気はどうかと問われれば、それは立ち位置次第という気がする。
     私が恐怖を全く感じなかった理由は簡単で、この物語の中に、理解不能な部分がなかったからである。むしろ、わかりやすい物語、という気がした。様々な人間の性質が、全て悪い方へ噛み合わさっていってしまって、引き返せない状態にすでになっており、こうなるしかないだろうという結末に流れ込んでいくという感じだった。
     そういう意味では、この作者の人間に対する理解と、私のそれが、たまたま結構似ていたのかも知れない。

     私の受け取った物語を蛇足を承知で説明すれば、この物語はメリキャットの心象風景を描いているという意味で完全に事実に正確ではないけれど、信頼できない妄想というほどあやふやでもない。というより、そもそも妄想とは、土台のないところに楼閣を出現させるような曲芸ではなく、ある勘所をつかめばむしろ解釈するのは容易い(解釈することが状況を好転させるかどうかは別として)とさえいえるものだ。
     メリキャットが家族を毒殺した理由は、サマー・ハウスでの「家族の声に耳を傾ける」場面ですでに語られていると思う。家族たちが「最愛の娘」とメリキャットを讃え、お仕置きなどしないとうやうやしく語る光景は、現実に彼女が夕飯抜きのお仕置きをされている以上、わかりやすい陰画として見るほかなく、かつて彼女が家族の中で爪弾き者であり、虐待かどうかは微妙としても、少なくとも愛情を向けられなかったことをストレートに伝えてくるのだ。
     そしてかなり解釈というよりも想像の領域の話だが、たぶんその愛情の欠落(あるいは虐待)の中心にいたのは、実はメリキャットが誰よりも憧憬するコンスタンスではないかと思う。悪意というよりも、コンスタンスは、良妻賢母かも知れないが根本的に他人を理解するとか思いやるような感受性が、あまりなかったのではないだろうか。
     だがメリキャットにとって、コンスタンスは憎むことが決してできない世界の中心で、それがゆえに彼女に向けられてしかるべき敵意は他の家族全般に拡散され、「姉さん以外は皆殺し」という行為に至ったのではないか。そしてコンスタンスが、「私が全て悪い」と言い、メリキャットの犯行を隠蔽してしまったのは、それを薄々わかっていたからではないのか。そう私が想像するのは、こういった家族の感情のもつれは、意外と外から見て原因らしい人が原因ではなく、「最も犯人らしくないことが犯人」という事態が現実にままあるからだが、これについてはさすがに、私の勝手な想像である。
     ともあれ、メリキャットの言動は、あるポイントから見るととてもわかりやすくて、不条理なところが全くない。それゆえに、恐怖は覚えない。狂気というのすら、微妙に違うように感じられる。最終的には彼女と暮らすことを選ぶ、コンスタンスの心もまた。

     不条理なところがないというのは、ある意味では、不条理すぎるように見える他の登場人物たちにも言える。あるポイントから見ると、とてもわかりやすくてルール通りに見える人びと。
     自らが殺されかけた一日にしがみつくことで生きる意味を見出そうとするジュリアン叔父。
     いじめが高じて火事をきっかけに狂躁状態になり、燃え上がる屋敷を強姦のように蹂躙してから、後にそれを詫びに来る村人たち。
     完全に善意だが、善意が受け取られないことに対する忍耐がないために迷惑な隣人になる、ヘレンやレヴィ医師。
     金目当てにコンスタンスに近づき、そのくせ彼女を助けられなかったことを悔やむ片鱗を見せる、典型的俗人のチャールズ。
     メリキャットという人物に、こういう人びとがこのタイミングでこのように交錯してしまったら、こういう破綻を迎えるしかないだろうと思う。誰かが特別に悪いとか、特別に間違っているというのでもない。この物語の結末は、予想通りというのとも少し違うけれど、こうなるしかない印象を与える。
     常識的には幸福とは言いがたい結末を、しかし不幸とも呼べず、さりとて祝福するのもはばかられるのは、この帰結が「こうならざるをえない」安定性を持っていて、それでいて本当は何も解決できていない(何が「解決」なのかはまた難しい話だけれど)からなのだろう。


     長々書いてしまったけれど、この物語は、不条理な恐怖小説とは私には思えない。わかりやすい、不可解なところが何もない、心象風景をつづった物語だと思う。

  • 語り手のメリキャットは極端に偏っているし、叔父さんも明らかに普通とは言えない状態。
    だから2人を世話するコンスタンスは結構常識人に見える。

    でも実際どうだったんだろう。

    従兄は嫌な奴だけど、多分普通の世界の常識で生きている。
    彼の誘いに乗っていればコンスタンスはお城を出て行けたはず。

    彼女が正気を保ったまま妹の世話を続けているとしたらちょっと怖い。
    あのお城で、村人の罪悪感によって何十年も生かされ続けるとしたらもっと怖い。

    個人的にはコンスタンスが狂っていく話かなぁと思ってます。メリキャットは知らないだろうけど。

  • 超自然なものの恐怖とかじゃなくて、日常に潜む恐怖、普通の生活の中に顔を出す恐怖みたいなものを書いたら右に出る者がないのではと思うシャーリイ・ジャクスンの中編。
    いわゆるモダン・ホラーでもないので、人間賛歌も読後のすっきり感も当然、ない。
    6年前に殺人事件のあった(と後になってわかってくる)没落名家の末裔の娘に、村人が大人も子供も悪意をぶつけてくる、その集団的な悪意はちょっと「くじ」を思い出させて、主人公少女に同情したのだけど、話はそれほど単純ではない。少女はもちろん、美しく優しい姉のコンスタンス、殺人事件の後遺症に苦しむ伯父も、みんなどこか変。アリスのティーパーティーのよう。そこに従兄弟を名乗る男が介入してきて、時が止まっていたような世界は動き始めるのだけど……。
    結局のところ、「なぜ」がいまいちわからなくてもやもやが残るけど、美味しかった。

  • ずっと前に『吉野朔実劇場』で紹介されていた本。このたび、本屋さんのブックフェアもあってあらためて手に取った。

    タイトルどおり、「ずっとお城で暮らしてる」良家の姉妹(+α)の物語。姉妹で暮らしている理由がかなりのダークグレイから黒にかけての理由であるということもあるけれど、周囲の姉妹を見る視線というのも、憐れみもしくは嘲弄の2択なので、かなり救いがない。なので、姉妹が近隣住民を遠ざけるために城の周りにバリケードを築くのはわからないでもない。でも、そこに正気が保たれているのかというのはまったく読み取れなくて、読んでいて「みんなヤバいな」という単純な感想が何度も頭の中をよぎった。メリキャットという愛称はキャッチーでかわいらしいのに…でも、すぐ月世界に行っちゃうからな、この子は。

    読んでいてすぐ思い出したのはケッセルリング『毒薬と老嬢』。そこに足されるのは、外へ踏み出せば事態を打開できるかもしれないけど(勝算がなさすぎて)踏み出せない姉・コニーの弱さといびつな優しさがウィリアムズ『ガラスの動物園』。しかもお城の中で何が行われているのかまったくわからないことからくる周囲の好奇心と恐怖がフォークナー『エミリーへの薔薇』に通じる。

    明快な物語の経過をたどるではないにせよ、事実のぼんやりとしたほのめかしと断定が「ああ、そういうことね」と合理的ではないにしても理解できるところがヤバいイヤミスというかイヤホラー。このイヤさ加減とボリュームのバランスがよい中編だと思う。

  • 海外の怖い系の作品を紹介している本で知った。短めなのですぐに読めるかと思いきや、会話文がきても改行のない状態。ページにぎっしりと詰まっている字たち。ときたま、誰が何を言っているのか分からなくなる。
    資産家のブラックウッド家で数年前に起こった事件。ディナーにヒ素が混入していたことにより、家族数名が死亡。街の人々はブラックウッド家を忌み嫌う。その境遇のなか、屋敷に住んでいるのは三名の人間。ヒ素を摂取してしまったがなんとか生き延びることができた、伯父・ジュリアン。ヒ素が入っていたものを食べなかった為に、容疑者ともいわれている姉・コンスタンス。そして語り手でもあるメアリ・キャサリン。全員の時間は事件の時から止まっている。
    タイトルの「お城」とは屋敷のことを指す。屋敷における三人での生活。それを脅かすものが、あるときに現れる。従兄のチャールズである。この男はブラックウッド家の資産と綺麗なコンスタンス狙い。チャールズによって壊れていく「お城」。
    この小説を語るときに「狂気」がキーワードになるようだが、読み進めていると誰の「狂気」を指しているのだろうかと思う。集団ヒステリーの街の人? 現実から逃げるキャサリン? 何を考えているのか分からないコンスタンス? 書くことに囚われたジュリアン?
    読み終えて思ったのは、やはりキャサリンのことである。彼女が描いていた「お城」は事件以前には存在していなかったのだろう。だから自ら「お城」を作ったのかもしれない。

  • きらきらと陽の差す台所、あたたかな朝食、自分のいつもの指定席。向かいの席では、優しくてうつくしい姉がほほえんでいる。そんな穏やかで居心地の良い場所があったなら、幼い主人公が必死になって部外者を排除しようとするのは当然のこと。それなのに諸手を挙げて主人公・メリキャットに賛成できないのは、たぶん彼女がすでに18歳だから。
    18歳、普通に考えたら精神的に自立している年頃。
    はじめはなんの違和感もなく、まだあどけない主人公は村人たちの悪意から自分の領域を守るのに必死なのだと、彼女のむきだしの悪意も受け止めて読んでいた。
    けれども、城に住む一族を襲った事件のことを知って一気にぞっとする。事件から6年が経っているとしたら、じゃああの子は今いくつなの?と。

    事件の詳細は生き残りである伯父の口から明らかにされるのだけれど、その設定も恐怖小説としてとても巧み。伯父は痴呆が進んでいるために発言のどこまでが真実なのかわからないし、それを聞いているメリキャットや姉のコニーは、自分たちも当事者であるはずなのに否定も肯定もしないから。何が本当なのか、読者には分かりようがないのだ。

    …と、考えれば考えるほどにどんどん不安を煽られるみごとな物語でした。推理小説のように納得のいく答えが、この物語には存在しません。
    恐怖小説を、少女小説にみられるような女の子特有の甘やかな毒がいろどっている。そんなイメージを持ちました。

  • 何回でも読みたくなる一冊。あまりに心地よいので抜けだしたくなくなってしまう。

  • 読了後、タイトルが印象深く刺さる作品。 かつで惨劇があり町の住民から煙たがられているブラックウッド家。外界との交流を最低限にし、独自のルールを作って暮らしている主人公、メアリと姉のコンスタンス。自身たちの世界に閉じこもり、幸せな生活を送っていましたが、従妹のチャールズ来訪をきっかけに世界が崩壊し始めます。 住民たちの悪意、そして自身の世界に閉じこもる姉妹は醜悪ながら無邪気で、ぞわりと背筋が寒くなります。そして二人の世界の崩壊という盛り上がりとその後の美しささえあるおぞましさ。大好きな作品です。

  • はーー面白かったーー!!恐怖小説、と聞いていたから、もっとホラーみたいな怖さを想像してたらそういうのとはまたちがった。メリキャットに感情移入し続ければ(途中で脱落することなく感情移入し続けていられれば)不幸なことがあっても穏やかで幸せに暮らしていこうという小説。ひとたび冷静になってしまうとぞっとする、というすごく質の高い恐怖小説。
    たとえば出てくるお屋敷や、海外小説らしい料理や食材の名前や、そういう描写にはまったく馴染みがないのに、恐れる気持ちや、嘲る気持ちや、善意や悪意、そういうのは現代日本の想像力が貧困な自分が読んでもまったく違和感がなくしっくりきてしまう。

    メリキャットを異常だと思う自分は本当に正常か?ジュリアンおじさんをかわいそう、優しくしてあげたいと思う気持ちは偽善か?

    お願いだから同じようなお話を現代日本の設定で書かないで。受け止めすぎて精神を保てるかわからない。は〜〜面白いな。他のも読みたいです。

  • まずタイトルが好きです。語り手の少女メリキャットは、大きなお屋敷に暮らしていてお金持ちのお嬢様(?)のはずなのに、村の人たちからは忌避され、週に2度の買い出しの際にも、村の大人のみならず子供たちからまで嫌がらせや冷やかしの言葉や視線を浴びせられて辛い目に合っている。家にいるのは彼女の姉・美人で料理上手で優しいコンスタンスと、車椅子の叔父ジュリアン。半病人の叔父のみならず、健康なはずの姉まで、一歩も家から出ようとしない。

    その理由は徐々に明かされていくのだけれど、冒頭からずっととにかく不穏。なぜ彼らがこれほどまでに村人たちから迫害されなくてはいけないのかわからないし、健康で美しいコンスタンスが何故外へ出ようとしないのか、他の家族はどこへいったのか、謎だらけでそわそわしてくる。

    理由(六年前の一家毒殺事件)は徐々に明かされていくのだけれど、このただならぬ気配、きっと何かさらなるどんでん返し(叙述トリック的な)があるに違いない、もしかしてコンスタンスとメリキャットは二重人格の同一人物ではないか、どちらかが本当は存在しないのではないか、あるいはどちらかが幽霊?などなど、勝手に妄想をたくましくしていたのだけれど・・・

    中盤で、姉妹の従兄弟にあたるチャールズ(いかにも財産狙い)が登場して物語は転換を迎えますが、ずっとメリキャットなど存在しないかのように振る舞っていたジュリアン叔父が「メリキャットは6年前に死んだ」と言い出して、チャールズが「そこにいるじゃないか!」と大騒ぎしたときは、そうこなくちゃ!と勝手に盛り上がったものの、むしろこれも引っかけ。この物語の一番怖いところ、それは、これが誰かの妄想でも心霊現象でもなく、全部現実だったということ。

    姉妹に直接なにかされたわけでもないのに、ここまで意地悪できる村人(火事のときのふるまいとか尋常じゃなかった)も怖いし、そのくせいつのまにか祟る悪霊を畏れるかのように「お供え」のようなことをしだす心理も怖い。子供らしいオリジナルの呪術を編み出してはコンスタンスを守ろうとするメリキャットの、6年前から成長していない精神的な危うさ、最愛の姉以外はみんな死んでもかまわないという彼女の言動と、それを知りながら受け入れている姉コンスタンスとの共依存的な関係。世界観的にはゴシックで耽美すらあるのだけれど、精神的にグロテスクなものがたくさん描かれていてそれがすべて現実だという怖さがじわじわきました。解説は桜庭一樹。

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