ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫) (創元推理文庫 F シ 5-2)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488583026

感想・レビュー・書評

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  • 魅力的なタイトルに反して不穏な空気感が冒頭から漂う。毒殺された一家の生き残りメリキャットと姉コニー。悪意に満ちた外の世界と対照的に甘やかな家の中。この日常が従兄の来訪で変化する。憎悪の絶頂が本当に怖い。何とも言えない余韻が残る話。

  • 久し振りに積読本を消化。

    またもや帯にやられて購入した本。

    ――この美しく病める世界
    ――すべての善人に読まれるべき、本の形をした怪物である。――桜庭一樹
    ――皆が死んだこのお城で、あたしたちはとっても幸せ。

    メアリは、ほとんどの家族が砒素で毒殺されたお屋敷で、姉と体の不自由な伯父との3人でひっそり暮らしていた。そこに従兄のチャールズが現れて……。

    ゆっくりと静かな恐怖。哀しみ。無力感。
    そうしたからそうなったのか。そうであったからそうしたのか。
    明らかにされない部分は多いまま終わります。
    勝手に想像するしかないですね。

    「本の形をした怪物」という非常に魅惑的な言葉に惹かれての購入でしたが、残念ながら私には「本の形をした本」でしかありませんでした。

    そもそも「善人」でもなかったわ( ゚д゚)ハッ!
    桜庭一樹さん、ごめんなさい(笑)

    なんとなくイギリスの話っぽかったんだけど、作者はアメリカの人なんだな~。

    • おびのりさん
      私はiPadでーす。
      それで下げすぎると消えちゃったりします。
      私はiPadでーす。
      それで下げすぎると消えちゃったりします。
      2023/01/30
    • 土瓶さん
      そうなの?
      スマホでも今までどおりできるな。
      こちらアンドロイド。みんみんさんはアイフォン?
      そうなの?
      スマホでも今までどおりできるな。
      こちらアンドロイド。みんみんさんはアイフォン?
      2023/01/30
    • 土瓶さん
      iPadもおかしいのか?
      こっちはどんだけ下げても上げても変わらないな。
      人徳( ̄ー ̄)ニヤリ
      iPadもおかしいのか?
      こっちはどんだけ下げても上げても変わらないな。
      人徳( ̄ー ̄)ニヤリ
      2023/01/30
  • タイトルと表紙のイメージとはまるで違う世界
    読み進めると常に得体の知れない気持ち悪さが根底に流れていて、霧の中を歩き続ける様なスッキリしないダークな世界観が続く
    冒頭から「運さえよければ、オオカミ女に生まれていたかもしれない」と怖い
    誰がまともなのかわからない
    大きな御屋敷に引きこもって閉鎖的な調和のとれた暮らしをしている一家毒殺事件の容疑者の姉、幼い空想の世界に生きている語り手の妹、毒殺事件をきっかけに病になってしまった叔父
    そして従兄弟、友人、村人
    誰がまともなのかわからない
    みんな歪んでいる、狂っている
    そして書いてある通りの事しかわからない
    疑問が山積みになっていく
    最後まで読めば、何か一つでも明らかになるのではないかと期待するがそれはない
    どう解釈するかは読者の自由

  • メルヘンチックな語り口の裏にある、何者も寄せ付けない強固な壁とそして狂気。音色自体は美しいのに、音程がどこか狂っているピアノの演奏を聞いているような、ざわつく感覚が尾を引く作品でした。

    姉のコンスタンス、叔父のジュリアンと一緒に大きな屋敷で暮らしているメリキャット。その屋敷ではかつて、メリキャットの家族が毒殺されており、そのため村人たちは、メリキャットたちへの不審と敵意を隠そうとしない。
    そんな村人たちを意識しないよう、徹底的に自分の世界に籠っていたメリキャットだが、従兄のチャールズが屋敷を訪れたことから、その世界にほころびが生じ始める。

    自分が美しいと思うもの、信じたいと思うものだけを世界に取り込み、外の世界を徹底的に排除するメリキャットの一人称で物語は進みます。彼女の姉に対しての想いや、屋敷での生活の叙述は、幼い少女が憧れるメルヘンな童話のように、甘く美しく華やかで甘美な雰囲気が漂っている。

    一方で彼女の視点は完全に内に籠っている。村人たちへの、そして自分の完璧な世界への侵入者であるチャールズへの敵意。語り口や想像自体は可愛らしさは残っているものの、当然のように、彼らの残酷な死を願うメリキャットの思考の闇は深い。
    自分の世界への甘美な語り口と、こうした残酷な面が隣り合っているので、その対比が読んでいて余計に心をざわつかせる。単純な怖さではないけど、読者の心のバランスがゆっくりと崩されていくような、そんな不安な気持ちを抱きます。

    個人的にはクライマックスのコンスタンスが印象的だった。ジュリアンの登場で、徐々に内に籠り切った現在の生活に疑問を抱き始めたコンスタンスと、その姉をなんとか引き留めようとするメリキャット。しかし、物語の終盤、メリキャットとコンスタンスの屋敷に悲劇が起こり……

    開きかけた世界への扉は、残酷なまでに閉ざされ、コンスタンスの言動はメリキャットの理想に近いものに逆戻りしていく。メリキャットにとっては、これは好都合だから、語り口も悲劇的には語られていないのだけど、第三者である読者の自分から見るととにかく不気味だった。人が完全に壊れたところを見てしまった、という感じ。そして、それを自然と受け入れるメリキャットの怖さも、じわじわと襲ってくる。

    美しく可愛らしい、病んでいて閉ざされた世界が、物語の終わりで真の完成を見る。すぐには物語の意味が分からなくても、遅効性の毒のようにじわじわとその怖さが、体を回っていく。美しさや可愛らしさと、狂気と怖さとが奇妙に両立した作品でした。

  • 世界観が好き。
    主人公のメリキャットが見ている世界は、まるでおとぎ話のようだ。

    この作品は「人と交流してこそ幸せ」という世間一般の価値観を拒絶し、しかし完璧には否定せずにいる。それでいて、殻に閉じこもることで幸せを得る人種がいることも肯定している。その道の先が不幸であろうとも、それしか選択できない人間もいるのだ。それが幸せだと思いこむことでしか生きられない人間も。

    家族毒殺の容疑をかけられ、裁判に引っぱり出されたコンスタンス。
    彼女には無罪が言い渡されたが、ゴシップや人々の好奇の視線に傷ついた心は癒えず、人目を徹底的に避けている。

    彼女の妹のメリキャットは、ともに暮らすコンスタンスの影響をモロに受け、また生来のあまのじゃくな気質もあってか、外の世界と人間が大嫌いだ。

    彼女らといっしょに暮らすジュリアンおじさんは、毒の影響でくたばりかけで、耄碌もしている。
    そのため、家族が毒殺された一日を無限に追体験する日々を送っている。

    そんな三人は、人との関わりを最低限にすることで、蚕の繭のように危ういが、穏やかな生活を営んでいた。

    しかし、コンスタンスとメリキャットの従兄であるチャールズが屋敷に住み着くようになって、幸せの土台が大きく揺らぐ。
    彼の常識的で実務的な振る舞いは、コンスタンスの「隠れて生きてきた」後悔を引き出し、メリキャットの破天荒な振る舞いを徹底的に否定する。
    彼の気持ちはわかる。コンスタンスは新たな人生を歩むべきだし、メリキャットは世間との調和、常識を学ぶべきだし、ジュリアンおじさんの介護はプロに任せるべきだ。
    チャールズの私欲が絡んでいるにせよ、その言い分が世間的に正しいからこそ、コンスタンスの心は揺らぐ。

    だが、屋敷が火事を出し、暴徒化した街の人々に襲撃をされたことで、ジュリアンは死に、娘たちはまた「お城」に閉じこもる生活に戻る。
    今度は、一生外と接触を持たない覚悟で、だ。

    果たしてこれはハッピーエンドなのか。
    わたしには、破滅にむかってゆっくり輪舞曲を踊っているように見える。
    命が果てる直前まで、彼女たちはだれにも見られることなく踊り続ける。
    そして、焼け焦げ、物資の不足した「お城」の中で静かに朽ちていくのだろう。

    コンスタンスはわからない。
    だが、メリキャットは生まれつき、閉じた幸せの中でしか生きられない運命にあったのだと思う。
    だからシュガーポットに砒素を入れ、屋敷に火をつけた。これらを起こすことによって、彼女の中の不安は消え去り、閉じた幸福が保たれる。
    それがどんな凶悪犯罪であっても、だ。

    異質だからといって、それが幸福ではないとは、だれにも言えない。

  • 「魔女」とも称されたという恐怖小説作家、シャーリィ・ジャクスンの晩年の長編。
    短編の『くじ』や映画にもなったという『丘の屋敷』(映画題名は『たたり』)が有名というが、この『ずっとお城で暮らしてる』も根強いファンの多い作品のようだ。

    村から少し離れたお屋敷に姉妹と伯父が住む。屋敷は数年前に悲劇に見舞われて、ほかの家族は皆、命を落としていた。デザートの砂糖に毒を盛られて死んだのだ。ちょっと変わり者の妹のメアリ・キャサリン(メリキャット)はしつけと称されてその日は食事を与えられておらず、姉のコンスタンス(コニー)には砂糖を使う習慣がなかった。伯父は死にかけたが生き延びた。
    一家の料理の担当がコニーだったこともあり、姉が惨劇の犯人と疑われたが、容疑不十分で釈放されていた。
    だがそれまでも村人から距離を置かれていた一家は、それですっかり忌み嫌われるようになった。メリキャットが村に買い物に出かけると子供たちに歌い囃される。
    メリキャット お茶でもいかがと コニー姉さん
    とんでもない 毒入りでしょうと メリキャット
    メリキャット おやすみなさいと コニー姉さん
    深さ十フィートの お墓の中で!

    風変わりでいくぶん強情なところのあるメリキャットは、自分たちの陰口を叩く村人たちを嫌い、敷地のあちこちに呪いじみた仕掛けを施していた。父の本を木に打ち付けたり、ドル銀貨を土に埋めたり、周りから見ると何のことやらわからないが、それは彼女一流の「儀式」であり、それによって外の「邪悪」なものから愛する姉を守っていたのだ。
    彼女がしたがえるのは1匹のネコ、ジョナス。そういえば彼女の愛称のメリキャット(Merricat)もネコを思わせる。

    ある日、いびつながら平和な日々を乱す闖入者が現れる。
    いとこのチャールズ。
    激しい反発を示すメリキャットだが、コニーは彼を屋敷に招き入れる。
    鳴り始めた不協和音の行きつく先は・・・。

    冒頭から不穏な空気が流れる。
    一家の悲劇にはもちろん裏があり、ミステリ的な要素もある。
    が、全体を流れるのは忌まわしくも甘美な夢のような空気である。
    We have always lived in the castle.
    ずっとお城で暮らしてる。
    メリキャットは大好きな姉とずっとずっと一緒にいたかったのだ。
    彼女の精神はある種、病んでいたかもしれないけれど、村人たちの底意地の悪さもまた相当のものだった。「城」を出て、「常識的」な人々と交わることと、いくらか変わっていても自分たちの「王国」を築き上げることと、さて、どちらを選んだ方が幸せなのか。
    物語が進むにつれ、世界は微妙に歪んでいく。メリキャットのいるこちら側と「奴ら」のいるこちら側と、果たしてどちらが「正しい」のか。

    どことも交わらない、閉じた理想の世界。それは甘美なる牢獄でもある。
    あるいは誰もが世に交わるふりをして、心のどこかにそれを宿しているのではないか。
    本作が隠れた人気を持つのも、そんなところに理由があるのではないか。

    不思議に忘れがたい余韻を残す作品である。

  • なんだか不穏でオシャレな外国映画を観たような感覚。特にびっくりするような展開はないけど、静かに狂気じみた姉妹の生活がゆるやかに進んでいく。いや〜な気持ちになった。

  • 「これこそ、本当の恐怖小説。本書『ずっとお城で暮らしてる』は、ちいさなかわいらしい町に住み、きれいな家の奥に欠落と過剰を隠した、すべての善人に読まれるべき、本の形をした怪物である。」
    ー桜庭一樹氏の解説より

    読み終わったあと、なんとすごい解説だろうと思って引用させていただきました。本作への愛と畏敬をひしひしと感じる解説でした。

    さて、肝心の本編について。
    語り手で主人公の18歳の少女メアリ・キャサリン・ブラックウッド…通称メリキャットと、おそらく10歳ほど年上の美しい姉コンスタンス、2人の伯父のジュリアンおじさんの3人で、広い屋敷で暮らしてる。
    彼らの家では昔家族全員が毒殺された経緯があり、3人はその事件での生き残り、犯人はコンスタンスとされていた。
    メリキャットは両親がいない時間を多く過ごし、躾もあまりされずに髪はボサボサ。服も汚れてる。
    コンスタンスは庭の畑で収穫した作物やメリキャットが村で買ってくる食材で食事を作るのが好き。
    ジュリアンおじさんはコンスタンスに介護されながら、その事件について、今でも資料を作り重ね、真実を知ろうとしている。
    極力外界と離れて暮らす3人。
    そんなブラックウッド家を村人たちは忌み、嫌がらせをしていた。

    「メリキャット お茶でもいかがと コニー姉さん
    とんでもない 毒入りでしょうと メリキャット
    メリキャット おやすみなさいと コニー姉さん
    深さ十フィートの お墓の中で!」

    村の子どもたちがメリキャット姉妹を野次るときに歌うこの歌のフレーズが染みつく。

    そんな環境で、ごくわずかな両親と仲の良かった数家とかろうじて付き合いがあるのみのブラックウッド家に、従兄弟を名乗るチャールズの来訪により、事態が大きく変わってゆく……


    私的にはすごく怖い!!というより、じわじわ何この不可解さ?意味わからんのですけど…みたいな恐怖感が読後大きくなってくる作品でした。
    村の空気感も居心地が悪く、メリキャット視点で見ていくと嫌悪的にも感じるし、ブラックウッド家が引きこもるのもわかる…と思いつつ。
    次第にメリキャットの自分たちを守るためのおまじないと称して木に家族の遺品を打ちつけたり、土の中に埋めたり。
    本当に18歳?その年齢は本当?と思いたくなるようなメリキャットの年不相応で病んだ行動や思考にもじわじわきます。
    衝撃の事実…についても、なんでその人はそんなことしたの?という理由が最後まで分からず、そのことも恐怖を煽る。
    極めつけは、おそらくは家族全員が生きてた頃からのメリキャットとコンスタンスの異常なまでの姉妹愛。
    しかもその理由がまたよく分からない。
    読み進めれば進むほど、2人のことが本当に分からない。
    この分からなさが私がこの作品が怖いと思う理由だろうか。

    桜庭さんは、「ジャクスンが描いているのは女の怖さではなく、性別も年齢も国境も超えたところにある、"弱者のとほうもない怖さ"だと思うのだ」と感想を述べている。
    桜庭さんは、私が感じた以上に、この小説の怖さを語っており、読後すぐはひょえーとしか思わなかった私は、えっこの作品そんなにここそこが怖かったですか?と思うところもあった。
    そんなふうに私が感じたのは、私自身、自分のことを弱者だと思っているからかもしれない。と、桜庭さんの感想を読んで思った。
    コンスタンスとジュリアンおじさん以外のすべてのものが、何もかもが敵に思えるメリキャットの気持ちというか、猜疑心というか、頑なさというか。
    そういうところに少し共感してしまった部分があるせいかもしれない。
    何もかも信用できない精神状態に陥ったことがあるので…
    まあ最後を読んで、うん、やっぱりわからん!と思う節もありますが。節だらけな気がしますが。

    全てメリキャット視点だったからこその恐怖感だと思うんですね。少しでも第三者視点で描かれている部分があったら、こんな怪物作品にはならなかったかと。
    でもメリキャット以上にコンスタンスのことがわからん。コンスタンスは望みさえすれば、メリキャットと違って外の世界に行くこともできそうなものなのに…?
    家族が全員生きていた頃、その頃のブラックウッド家内の関係性などがすごく気になる。
    そんな想像の余地、不可解さもやはり恐怖に一役かっているかも。

    なんにせよ、読んでよかった。
    なんかすごい作品に出逢っちゃったよ。といった感じです。著者の他の作品も貪るように読みたい。

  •  皆の読後の感想が非常に似通うように見えて、それぞれ異なるものになる作品だろうと思う。
     実際、色々な人のレビューを読むと途中までは似たような感想がつづられ、ある地点から不意に、少しずつ違うものを見出し始めるのが見える。人間の顔のように、同じなのに全部違う、そんな感想。

     閉鎖的な村と、かつて砒素で家族が皆毒殺された、村外れの名家の生き残りの姉妹と老人。姉妹と老人の持つ狂気。そして彼らに恐ろしいまでの憎しみと嫌悪と嘲笑を見せる、村人たち。語り手たる姉妹のうちの妹メリキャットが、典型的な「信頼できない語り手」であるために、どこからどこまでが実際に存在した悪意と犯罪だったのかはわからず、全ては誤解と被害妄想だったという極北も含めて、様々な解釈の幅がありうる物語だ。
    「ふつうの人間」「善良な人間」の抱く邪悪と狂気。それらを描いた、心理的な恐怖小説。というのが、一番正統的な感想で、それはたぶん正しい。

     けれど私には、この物語は恐怖の物語ではなかった。狂気はどうかと問われれば、それは立ち位置次第という気がする。
     私が恐怖を全く感じなかった理由は簡単で、この物語の中に、理解不能な部分がなかったからである。むしろ、わかりやすい物語、という気がした。様々な人間の性質が、全て悪い方へ噛み合わさっていってしまって、引き返せない状態にすでになっており、こうなるしかないだろうという結末に流れ込んでいくという感じだった。
     そういう意味では、この作者の人間に対する理解と、私のそれが、たまたま結構似ていたのかも知れない。

     私の受け取った物語を蛇足を承知で説明すれば、この物語はメリキャットの心象風景を描いているという意味で完全に事実に正確ではないけれど、信頼できない妄想というほどあやふやでもない。というより、そもそも妄想とは、土台のないところに楼閣を出現させるような曲芸ではなく、ある勘所をつかめばむしろ解釈するのは容易い(解釈することが状況を好転させるかどうかは別として)とさえいえるものだ。
     メリキャットが家族を毒殺した理由は、サマー・ハウスでの「家族の声に耳を傾ける」場面ですでに語られていると思う。家族たちが「最愛の娘」とメリキャットを讃え、お仕置きなどしないとうやうやしく語る光景は、現実に彼女が夕飯抜きのお仕置きをされている以上、わかりやすい陰画として見るほかなく、かつて彼女が家族の中で爪弾き者であり、虐待かどうかは微妙としても、少なくとも愛情を向けられなかったことをストレートに伝えてくるのだ。
     そしてかなり解釈というよりも想像の領域の話だが、たぶんその愛情の欠落(あるいは虐待)の中心にいたのは、実はメリキャットが誰よりも憧憬するコンスタンスではないかと思う。悪意というよりも、コンスタンスは、良妻賢母かも知れないが根本的に他人を理解するとか思いやるような感受性が、あまりなかったのではないだろうか。
     だがメリキャットにとって、コンスタンスは憎むことが決してできない世界の中心で、それがゆえに彼女に向けられてしかるべき敵意は他の家族全般に拡散され、「姉さん以外は皆殺し」という行為に至ったのではないか。そしてコンスタンスが、「私が全て悪い」と言い、メリキャットの犯行を隠蔽してしまったのは、それを薄々わかっていたからではないのか。そう私が想像するのは、こういった家族の感情のもつれは、意外と外から見て原因らしい人が原因ではなく、「最も犯人らしくない人が犯人」というパターンがままあるからだが、これについてはさすがに、私の勝手な想像である。
     ともあれ、メリキャットの言動は、あるポイントから見るととてもわかりやすくて、不条理なところが全くない。それゆえに、恐怖は覚えない。狂気というのすら、微妙に違うように感じられる。最終的には彼女と暮らすことを選ぶ、コンスタンスの心もまた。

     不条理なところがないというのは、ある意味では、不条理すぎるように見える他の登場人物たちにも言える。あるポイントから見ると、とてもわかりやすくてアルゴリズム通りに見える人びと。
     自らが殺されかけた一日にしがみつくことで生きる意味を見出そうとするジュリアン叔父。
     いじめが高じて火事をきっかけに狂躁状態になり、燃え上がる屋敷を強姦のように蹂躙してから、後にそれを詫びに来る村人たち。
     完全に善意だが、善意が受け取られないことに対する忍耐がないために迷惑な隣人になる、ヘレンやレヴィ医師。
     金目当てにコンスタンスに近づき、そのくせ彼女を助けられなかったことを悔やむ片鱗を見せる、典型的俗人のチャールズ。
     メリキャットという人物に、こういう人びとがこのタイミングでこのように交錯してしまったら、こういう破綻を迎えるしかないだろうと思う。誰かが特別に悪いとか、特別に間違っているというのでもない。この物語の結末は、予想通りというのとも少し違うけれど、こうなるしかない印象を与える。
     常識的には幸福とは言いがたい結末を、しかし不幸とも呼べず、さりとて祝福するのもはばかられるのは、この帰結が「こうならざるをえない」安定性を持っていて、それでいて本当は何も解決できていない(何が「解決」なのかはまた難しい話だけれど)からなのだろう。


     長々書いてしまったけれど、この物語は、不条理な恐怖小説とは私には思えない。わかりやすい、不可解なところが何もない、心象風景をつづった物語だと思う。

  • 2024年の一冊目。本当は昨年のうちに読み終えたかったのだけど、忙しくて年を越してしまった。今年もよろしくお願いいたします。
    シャーリイ・ジャクスンはこれまで目にしたことがない作家だったのだけど、深緑野分さんがSNSで強めにお薦めされていたことで気になって読んでみた。
    『ずっとお城で暮らしてる』というタイトルはすでに不穏であることが確定しているような響きで、そこが素敵。
    惨劇から生き残った姉のコンスタンスと妹のメリキャットが、同じく生き残った伯父のジュリアンと共に暮らすのは、瀟洒な〈お城〉。人目を逃れながらも、三人はおだやかな日を過ごしている。
    おせっかいな闖入者によってそうした日常が崩されていくのだが、読みながら「一体何が起きてしまうんだろう」という胸騒ぎのような予兆がずっとあるのが、恐ろしくも楽しい。
    やがて屋敷が業火に焼かれて燃え落ち、灰だらけになっても、メリキャットとコンスタンス(そして猫のジョナス)が揃っていれば、そこはいつまでもいつまでも優雅なお伽話のなかの美しいお城であり続ける。
    現実逃避の先のお花畑をめいっぱい堪能できる、世にも幸せなサイコホラーだった。世界は、ひとえにお城の中と外で分けられている。

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