ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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レビュー : 224
  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488583026

感想・レビュー・書評

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  • メルヘンチックな語り口の裏にある、何者も寄せ付けない強固な壁とそして狂気。音色自体は美しいのに、音程がどこか狂っているピアノの演奏を聞いているような、ざわつく感覚が尾を引く作品でした。

    姉のコンスタンス、叔父のジュリアンと一緒に大きな屋敷で暮らしているメリキャット。その屋敷ではかつて、メリキャットの家族が毒殺されており、そのため村人たちは、メリキャットたちへの不審と敵意を隠そうとしない。
    そんな村人たちを意識しないよう、徹底的に自分の世界に籠っていたメリキャットだが、従兄のチャールズが屋敷を訪れたことから、その世界にほころびが生じ始める。

    自分が美しいと思うもの、信じたいと思うものだけを世界に取り込み、外の世界を徹底的に排除するメリキャットの一人称で物語は進みます。彼女の姉に対しての想いや、屋敷での生活の叙述は、幼い少女が憧れるメルヘンな童話のように、甘く美しく華やかで甘美な雰囲気が漂っている。

    一方で彼女の視点は完全に内に籠っている。村人たちへの、そして自分の完璧な世界への侵入者であるチャールズへの敵意。語り口や想像自体は可愛らしさは残っているものの、当然のように、彼らの残酷な死を願うメリキャットの思考の闇は深い。
    自分の世界への甘美な語り口と、こうした残酷な面が隣り合っているので、その対比が読んでいて余計に心をざわつかせる。単純な怖さではないけど、読者の心のバランスがゆっくりと崩されていくような、そんな不安な気持ちを抱きます。

    個人的にはクライマックスのコンスタンスが印象的だった。ジュリアンの登場で、徐々に内に籠り切った現在の生活に疑問を抱き始めたコンスタンスと、その姉をなんとか引き留めようとするメリキャット。しかし、物語の終盤、メリキャットとコンスタンスの屋敷に悲劇が起こり……

    開きかけた世界への扉は、残酷なまでに閉ざされ、コンスタンスの言動はメリキャットの理想に近いものに逆戻りしていく。メリキャットにとっては、これは好都合だから、語り口も悲劇的には語られていないのだけど、第三者である読者の自分から見るととにかく不気味だった。人が完全に壊れたところを見てしまった、という感じ。そして、それを自然と受け入れるメリキャットの怖さも、じわじわと襲ってくる。

    美しく可愛らしい、病んでいて閉ざされた世界が、物語の終わりで真の完成を見る。すぐには物語の意味が分からなくても、遅効性の毒のようにじわじわとその怖さが、体を回っていく。美しさや可愛らしさと、狂気と怖さとが奇妙に両立した作品でした。

  • 「魔女」とも称されたという恐怖小説作家、シャーリィ・ジャクスンの晩年の長編。
    短編の『くじ』や映画にもなったという『丘の屋敷』(映画題名は『たたり』)が有名というが、この『ずっとお城で暮らしてる』も根強いファンの多い作品のようだ。

    村から少し離れたお屋敷に姉妹と伯父が住む。屋敷は数年前に悲劇に見舞われて、ほかの家族は皆、命を落としていた。デザートの砂糖に毒を盛られて死んだのだ。ちょっと変わり者の妹のメアリ・キャサリン(メリキャット)はしつけと称されてその日は食事を与えられておらず、姉のコンスタンス(コニー)には砂糖を使う習慣がなかった。伯父は死にかけたが生き延びた。
    一家の料理の担当がコニーだったこともあり、姉が惨劇の犯人と疑われたが、容疑不十分で釈放されていた。
    だがそれまでも村人から距離を置かれていた一家は、それですっかり忌み嫌われるようになった。メリキャットが村に買い物に出かけると子供たちに歌い囃される。
    メリキャット お茶でもいかがと コニー姉さん
    とんでもない 毒入りでしょうと メリキャット
    メリキャット おやすみなさいと コニー姉さん
    深さ十フィートの お墓の中で!

    風変わりでいくぶん強情なところのあるメリキャットは、自分たちの陰口を叩く村人たちを嫌い、敷地のあちこちに呪いじみた仕掛けを施していた。父の本を木に打ち付けたり、ドル銀貨を土に埋めたり、周りから見ると何のことやらわからないが、それは彼女一流の「儀式」であり、それによって外の「邪悪」なものから愛する姉を守っていたのだ。
    彼女がしたがえるのは1匹のネコ、ジョナス。そういえば彼女の愛称のメリキャット(Merricat)もネコを思わせる。

    ある日、いびつながら平和な日々を乱す闖入者が現れる。
    いとこのチャールズ。
    激しい反発を示すメリキャットだが、コニーは彼を屋敷に招き入れる。
    鳴り始めた不協和音の行きつく先は・・・。

    冒頭から不穏な空気が流れる。
    一家の悲劇にはもちろん裏があり、ミステリ的な要素もある。
    が、全体を流れるのは忌まわしくも甘美な夢のような空気である。
    We have always lived in the castle.
    ずっとお城で暮らしてる。
    メリキャットは大好きな姉とずっとずっと一緒にいたかったのだ。
    彼女の精神はある種、病んでいたかもしれないけれど、村人たちの底意地の悪さもまた相当のものだった。「城」を出て、「常識的」な人々と交わることと、いくらか変わっていても自分たちの「王国」を築き上げることと、さて、どちらを選んだ方が幸せなのか。
    物語が進むにつれ、世界は微妙に歪んでいく。メリキャットのいるこちら側と「奴ら」のいるこちら側と、果たしてどちらが「正しい」のか。

    どことも交わらない、閉じた理想の世界。それは甘美なる牢獄でもある。
    あるいは誰もが世に交わるふりをして、心のどこかにそれを宿しているのではないか。
    本作が隠れた人気を持つのも、そんなところに理由があるのではないか。

    不思議に忘れがたい余韻を残す作品である。

  •  皆の読後の感想が非常に似通うように見えて、それぞれ異なるものになる作品だろうと思う。
     実際、色々な人のレビューを読むと途中までは似たような感想がつづられ、ある地点から不意に、少しずつ違うものを見出し始めるのが見える。人間の顔のように、同じなのに全部違う、そんな感想。

     閉鎖的な村と、かつて砒素で家族が皆毒殺された、村外れの名家の生き残りの姉妹と老人。姉妹と老人の持つ狂気。そして彼らに恐ろしいまでの憎しみと嫌悪と嘲笑を見せる、村人たち。語り手たる姉妹のうちの妹メリキャットが、典型的な「信頼できない語り手」であるために、どこからどこまでが実際に存在した悪意と犯罪だったのかはわからず、全ては誤解と被害妄想だったという極北も含めて、様々な解釈の幅がありうる物語だ。
    「ふつうの人間」「善良な人間」の抱く邪悪と狂気。それらを描いた、心理的な恐怖小説。というのが、一番正統的な感想で、それはたぶん正しい。

     けれど私には、この物語は恐怖の物語ではなかった。狂気はどうかと問われれば、それは立ち位置次第という気がする。
     私が恐怖を全く感じなかった理由は簡単で、この物語の中に、理解不能な部分がなかったからである。むしろ、わかりやすい物語、という気がした。様々な人間の性質が、全て悪い方へ噛み合わさっていってしまって、引き返せない状態にすでになっており、こうなるしかないだろうという結末に流れ込んでいくという感じだった。
     そういう意味では、この作者の人間に対する理解と、私のそれが、たまたま結構似ていたのかも知れない。

     私の受け取った物語を蛇足を承知で説明すれば、この物語はメリキャットの心象風景を描いているという意味で完全に事実に正確ではないけれど、信頼できない妄想というほどあやふやでもない。というより、そもそも妄想とは、土台のないところに楼閣を出現させるような曲芸ではなく、ある勘所をつかめばむしろ解釈するのは容易い(解釈することが状況を好転させるかどうかは別として)とさえいえるものだ。
     メリキャットが家族を毒殺した理由は、サマー・ハウスでの「家族の声に耳を傾ける」場面ですでに語られていると思う。家族たちが「最愛の娘」とメリキャットを讃え、お仕置きなどしないとうやうやしく語る光景は、現実に彼女が夕飯抜きのお仕置きをされている以上、わかりやすい陰画として見るほかなく、かつて彼女が家族の中で爪弾き者であり、虐待かどうかは微妙としても、少なくとも愛情を向けられなかったことをストレートに伝えてくるのだ。
     そしてかなり解釈というよりも想像の領域の話だが、たぶんその愛情の欠落(あるいは虐待)の中心にいたのは、実はメリキャットが誰よりも憧憬するコンスタンスではないかと思う。悪意というよりも、コンスタンスは、良妻賢母かも知れないが根本的に他人を理解するとか思いやるような感受性が、あまりなかったのではないだろうか。
     だがメリキャットにとって、コンスタンスは憎むことが決してできない世界の中心で、それがゆえに彼女に向けられてしかるべき敵意は他の家族全般に拡散され、「姉さん以外は皆殺し」という行為に至ったのではないか。そしてコンスタンスが、「私が全て悪い」と言い、メリキャットの犯行を隠蔽してしまったのは、それを薄々わかっていたからではないのか。そう私が想像するのは、こういった家族の感情のもつれは、意外と外から見て原因らしい人が原因ではなく、「最も犯人らしくないことが犯人」という事態が現実にままあるからだが、これについてはさすがに、私の勝手な想像である。
     ともあれ、メリキャットの言動は、あるポイントから見るととてもわかりやすくて、不条理なところが全くない。それゆえに、恐怖は覚えない。狂気というのすら、微妙に違うように感じられる。最終的には彼女と暮らすことを選ぶ、コンスタンスの心もまた。

     不条理なところがないというのは、ある意味では、不条理すぎるように見える他の登場人物たちにも言える。あるポイントから見ると、とてもわかりやすくてルール通りに見える人びと。
     自らが殺されかけた一日にしがみつくことで生きる意味を見出そうとするジュリアン叔父。
     いじめが高じて火事をきっかけに狂躁状態になり、燃え上がる屋敷を強姦のように蹂躙してから、後にそれを詫びに来る村人たち。
     完全に善意だが、善意が受け取られないことに対する忍耐がないために迷惑な隣人になる、ヘレンやレヴィ医師。
     金目当てにコンスタンスに近づき、そのくせ彼女を助けられなかったことを悔やむ片鱗を見せる、典型的俗人のチャールズ。
     メリキャットという人物に、こういう人びとがこのタイミングでこのように交錯してしまったら、こういう破綻を迎えるしかないだろうと思う。誰かが特別に悪いとか、特別に間違っているというのでもない。この物語の結末は、予想通りというのとも少し違うけれど、こうなるしかない印象を与える。
     常識的には幸福とは言いがたい結末を、しかし不幸とも呼べず、さりとて祝福するのもはばかられるのは、この帰結が「こうならざるをえない」安定性を持っていて、それでいて本当は何も解決できていない(何が「解決」なのかはまた難しい話だけれど)からなのだろう。


     長々書いてしまったけれど、この物語は、不条理な恐怖小説とは私には思えない。わかりやすい、不可解なところが何もない、心象風景をつづった物語だと思う。

  • 面白かったです。
    善良な、というかいたって普通の人も、悪意にとらわれるとこんなに激しい事をしでかしてしまうのだと思うとかなり怖かったです。
    その後には「ごめんなさい」のしなじなを運んでくるというのに…集団心理やその場の雰囲気にのまれるのだろうか。
    コンスタンスとメリキャットの暮らしがずっと害われず幸せなままだといいと思いました。
    みんな少しずつ狂っている、幸せなお城の暮らしです。

  • 語り手のメリキャットは極端に偏っているし、叔父さんも明らかに普通とは言えない状態。
    だから2人を世話するコンスタンスは結構常識人に見える。

    でも実際どうだったんだろう。

    従兄は嫌な奴だけど、多分普通の世界の常識で生きている。
    彼の誘いに乗っていればコンスタンスはお城を出て行けたはず。

    彼女が正気を保ったまま妹の世話を続けているとしたらちょっと怖い。
    あのお城で、村人の罪悪感によって何十年も生かされ続けるとしたらもっと怖い。

    個人的にはコンスタンスが狂っていく話かなぁと思ってます。メリキャットは知らないだろうけど。

  • 「虫唾が走るような不快感」が癖になってしまうという桜庭一樹さんお勧めの一冊。確かに嫌な気持ちになりながらも読むのをやめられない。自分の胸に問えば邪悪な部分がないとは言い切れない。人間の意地悪な妬み心が高じると、自制が効かなくなる哀しさ、お屋敷の火事に乗じて村人が略奪・暴行に至る過程が怖い。

    そんな人間心理を個性的な美姉妹をヒロインにして綴るシャーリィ・ジャクスンという作家の心理力に興味惹かれる。ゴシックロマンという作風は、20世紀はじめのイギリスアメリカ女流作家に多い、ダフネ・デュ・モーリアもそうだった。もっと言えばシャーロット・ブロンテからも始まっているのね。

  • 超自然なものの恐怖とかじゃなくて、日常に潜む恐怖、普通の生活の中に顔を出す恐怖みたいなものを書いたら右に出る者がないのではと思うシャーリイ・ジャクスンの中編。
    いわゆるモダン・ホラーでもないので、人間賛歌も読後のすっきり感も当然、ない。
    6年前に殺人事件のあった(と後になってわかってくる)没落名家の末裔の娘に、村人が大人も子供も悪意をぶつけてくる、その集団的な悪意はちょっと「くじ」を思い出させて、主人公少女に同情したのだけど、話はそれほど単純ではない。少女はもちろん、美しく優しい姉のコンスタンス、殺人事件の後遺症に苦しむ伯父も、みんなどこか変。アリスのティーパーティーのよう。そこに従兄弟を名乗る男が介入してきて、時が止まっていたような世界は動き始めるのだけど……。
    結局のところ、「なぜ」がいまいちわからなくてもやもやが残るけど、美味しかった。

  • ずっと前に『吉野朔実劇場』で紹介されていた本。このたび、本屋さんのブックフェアもあってあらためて手に取った。

    タイトルどおり、「ずっとお城で暮らしてる」良家の姉妹(+α)の物語。姉妹で暮らしている理由がかなりのダークグレイから黒にかけての理由であるということもあるけれど、周囲の姉妹を見る視線というのも、憐れみもしくは嘲弄の2択なので、かなり救いがない。なので、姉妹が近隣住民を遠ざけるために城の周りにバリケードを築くのはわからないでもない。でも、そこに正気が保たれているのかというのはまったく読み取れなくて、読んでいて「みんなヤバいな」という単純な感想が何度も頭の中をよぎった。メリキャットという愛称はキャッチーでかわいらしいのに…でも、すぐ月世界に行っちゃうからな、この子は。

    読んでいてすぐ思い出したのはケッセルリング『毒薬と老嬢』。そこに足されるのは、外へ踏み出せば事態を打開できるかもしれないけど(勝算がなさすぎて)踏み出せない姉・コニーの弱さといびつな優しさがウィリアムズ『ガラスの動物園』。しかもお城の中で何が行われているのかまったくわからないことからくる周囲の好奇心と恐怖がフォークナー『エミリーへの薔薇』に通じる。

    明快な物語の経過をたどるではないにせよ、事実のぼんやりとしたほのめかしと断定が「ああ、そういうことね」と合理的ではないにしても理解できるところがヤバいイヤミスというかイヤホラー。このイヤさ加減とボリュームのバランスがよい中編だと思う。

  • きらきらと陽の差す台所、あたたかな朝食、自分のいつもの指定席。向かいの席では、優しくてうつくしい姉がほほえんでいる。そんな穏やかで居心地の良い場所があったなら、幼い主人公が必死になって部外者を排除しようとするのは当然のこと。それなのに諸手を挙げて主人公・メリキャットに賛成できないのは、たぶん彼女がすでに18歳だから。
    18歳、普通に考えたら精神的に自立している年頃。
    はじめはなんの違和感もなく、まだあどけない主人公は村人たちの悪意から自分の領域を守るのに必死なのだと、彼女のむきだしの悪意も受け止めて読んでいた。
    けれども、城に住む一族を襲った事件のことを知って一気にぞっとする。事件から6年が経っているとしたら、じゃああの子は今いくつなの?と。

    事件の詳細は生き残りである伯父の口から明らかにされるのだけれど、その設定も恐怖小説としてとても巧み。伯父は痴呆が進んでいるために発言のどこまでが真実なのかわからないし、それを聞いているメリキャットや姉のコニーは、自分たちも当事者であるはずなのに否定も肯定もしないから。何が本当なのか、読者には分かりようがないのだ。

    …と、考えれば考えるほどにどんどん不安を煽られるみごとな物語でした。推理小説のように納得のいく答えが、この物語には存在しません。
    恐怖小説を、少女小説にみられるような女の子特有の甘やかな毒がいろどっている。そんなイメージを持ちました。

  • 何回でも読みたくなる一冊。あまりに心地よいので抜けだしたくなくなってしまう。

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