狂える者の書 (パラディスの秘録) (創元推理文庫)

  • 東京創元社
4.36
  • (5)
  • (5)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 108
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488585075

作品紹介・あらすじ

パラディスは狂える者の都。それとも、パラディスそのものが狂っているのか……。異なる時、異なる世界のパラディスの狂気に絡めとられた人々の運命。絢爛たる闇の叙事詩。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • タニス・リーの代表作と数えられる「パラディスの秘録」の原書刊行順でみる最後の一冊を読みました。今回は今までの多くがそうであったように短編集でなくて、三つの世界が絡み合う長編小説となっています。
    狂えるものの書、というだけあって、まるで複雑怪奇な構造の螺旋階段越しからペンギンを見つつオレンジ色のお酒を飲んで酩酊するようなお話でした。でも、このシリーズの中でもっとも深い意味を内包したお話のように思えました。

    狂える都パラダイスの中にあって、自分たちは正気を保っていると信じながらも、平然と殺人を繰り返すフェリオンとスマラの美しき双子の兄妹。
    従姉妹に陥れられ、正常でありながら狂人とみなされて精神病院に送られたパラディの女画家、レオカディア。
    激しい片恋に破れ発狂し、やはり脳病院に収監されることになるパラディスの若き令嬢、イルド。
    この三つの場所と人物たちが絡み合い、一つの織物を編むような、そんなお話です。
    正常とは、狂気とはなんなんなのか。美とは、醜とはなんなのか。
    相反する二つの存在の意義を巧みに問いかけた、名作と言えると思います。

    しかし、狂えるものの書、と題名につくだけあって、殺人や精神病院でのひどい描写などが続きます。
    精神状態によっては、引きづられてしまったり、読むのが辛かったりするかもしれません。死者も数多く出ます。
    ですが、面白かったです。そしてペンギンがすごい破壊力です。
    陰鬱なシーンが続くだけ、最後のエピローグは鮮やかで、心が浄化されていくような感じでした。
    正常人の勝利といったところなのでしょうか。ですが、その登場人物が、只中にあって本当に正常だったかなどと、誰がわかるのでしょう。
    個人的に、私が愛好して所有している人形と同じ名前のついたフェリオンと、パラダイスの描写が好きでした。フェリオンとスマラがパラダイスを抜け、パラディの美しさに感動するシーンは、わたしも一緒になって感動しました。
    章の最初に載っているエピグラフも効果的で、この本をまとまりよくしています。
    しかし死せるものの書といい、この本といい、後半二冊はなんだかぼんやりとした夢幻のようにくらくらしてしまう、そんなお話でした。ある意味では、タニス・リーの幻視している世界をともに幻視しているのでしょう。
    あと一冊、堕ちたるものの書だけ未読です。
    いつかじっくりと読みたいと思います。
    なかなかに感慨深い読書体験でした。
    万人におすすめはできないけれど、大好きな一冊です。

  • 主要な登場人物がみな狂っている、または周囲に狂っていると思われている中で、ストーリーが進むごとに彼らの狂気も増していく。
    その狂気は本物なのか、それとも見せかけているだけなのかも判然としないまま、ラストで狂気が現実を塗り替えていく。めくるめく物語。

  • どう感想を書いたものだか……。(。。;)
    ペンギンが、ペンギンが、ペンギンが……パラダイスの兄妹のシーンでは、あれとして……パラディスの恐慌シーンを思い浮かべると、なんとも……。
    あんだけのドロドロの世界の中で――多くのものをひっくりかえす存在感。そして、救い……。

  • パラダイス(スマラとフェリオン)、パラディ(レオカディア)、パラディス(イルド)の3つの世界(それぞれの主人公)が交互に描かれる構成。3つの世界は並行世界のようでもあるし、過去と未来、時代の異なる世界のようでもあり・・・終盤、3つの世界の関わり方が見えてきて、伏線が解明、一気に物語が収束する部分は非常に面白かったです。どの世界が欠けても完成しなかった1枚の絵のようでした。

    ただ、基本タイトル通り、狂った人間しか出てこないので、読んでいるとちょっと憂鬱になってきます・・・。狂った世界で自分たちだけは正常だと信じているスマラとフェリオンの双子は客観的にみれば単なる誇大妄想狂の殺人鬼だし、画家のレオカディアは遺産目当てのいとこに陥れられ精神病院に監禁され、少女イルドは舞台俳優に一方的な恋をして発狂、やはり精神病院に入れられていて、患者はみな残忍な看守たちに虐げられている。元気のないときに読むと読者も精神をやられてきそうです(苦笑)

    ただその分、ラストのカタルシスは効いていました。美しい終わり方だったと思います。

  • 『パラディスの秘録』シリーズ4作目。
    重なり合う3つの世界を舞台に、正気と狂気が入り交じった世界が描かれる。

    角川ホラー文庫から出ていたシリーズ1、2作目も、年明けには創元から復刊されるらしい(訳者あとがきより)。良かった。

  • 「パラディスの秘録」第2弾

    東京創元社のPR
    http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488585075

全8件中 1 - 8件を表示

タニス・リーの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×