- Amazon.co.jp ・本 (543ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488585082
作品紹介・あらすじ
小泉八雲の全訳や『吸血鬼ドラキュラ』の訳出などに代表される翻訳ほか創作、書評、編纂を通じて本邦における西洋怪奇小説の紹介に尽力し、一家をなした名匠・平井呈一。H・P・ラヴクラフト「アウトサイダー」、ジョン・ポリドリ「吸血鬼」などのアンソロジーピースから、M・R・ジェイムズ、オスカー・ワイルドなどの13編に、生田耕作との対談や伝説の同人誌「THE HORROR」掲載のエッセイ・書評を通して名伯楽の全貌に迫る。まさに集成と呼ぶべき愛好者必携の一冊。
感想・レビュー・書評
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ドラキュラやカーミラなど、吸血鬼ものの翻訳で有名な平井呈一の怪奇もの短編翻訳作品のアンソロジー。作品によっては部分的に言葉遣いが古いので、すらすら読めない部分もありますが、それもまた味というか、恐怖演出にはマッチしている気がして悪くない。
ラヴクラフトで始まりオスカー・ワイルドで締めくくる13作と、生田耕作との対談やエッセイ、書評など盛り沢山。『ヴァテック』や『おとらんと城』も手軽に文庫で入手できればよいのだけれど。ところで平井呈一がどういう人物であるかもよく知らずに今まで読んでいたけれど、紀田順一郎の解説で、永井荷風に師事していた頃に勝手に荷風の色紙や手稿を偽造して売りさばいたり秘蔵原稿を持ち出したりしたので破門され、荷風に忖度した文壇から敬遠されたことなど知り、同情する反面、自業自得のようでもあり、破天荒というかいやはや(苦笑)
収録作品の中ではポリドリ「吸血鬼」、ベンソン「塔のなかの部屋」、ローリング「サラの墓」、クロフォード「血こそ命なれば」の吸血鬼もの四連打が吸血鬼好きにはやはりたまりません。ものすごくベタな展開だけど、墓の中の吸血鬼がどんどんいきいきしてくる「サラの墓」が、ベタなりに好きでした。
ラヴクラフトはやはり少し毛色が違うというか、この手の怪奇小説が基本的に被害者およびそれを伝聞した側の語りになりがちなのに比べ唯一「バケモノ側」からの視点になっていて斬新。ブラックウッド「幽霊島」は、何が起こったのか、何を意味しているのか、結局わからないところが怖い。リチャード・バーラム「ライデンの一室」は黒魔術系=人間がやることなので、幽霊や吸血鬼よりもたちが悪い気がする。不快。
収録作家の中では唯一の女性シンシア・アスキス「鎮魂曲」は女性ならではの細やかな描写で不穏さをじわじわ積み重ねていく丁寧さがいいのだけど、好きな女性が悪霊に憑りつかれて死にかけているのに全然事態を把握しようとしないポンコツな語り手(お約束で超自然現象を信じようとしない医者)にちょっとイラっとする。
余談ながらこのシンシア・アスキス、『ピーターパン」の作者ジェームズ・バリーの秘書も務めた才女で作家であると同時にアンソロジスト。彼女の編んだアンソロジーのタイトル「THIS MORTAL COIL」という名前で思い出したのが4ADのオールスターユニット、コクトー・ツインズやデッド・カン・ダンスのメンバーも参加していた「ジス・モータル・コイル」(http://thismortalcoil.4ad.com/)ユニット名の由来はこれだったのかしら。
おなじみワイルドの「カンタヴィルの幽霊」は、古き良きイギリスのゴーストが自分を怖がってくれないアメリカ人一家のせいでドタバタ喜劇と化し、しかし心優しい娘のおかげで成仏できるという、ティムバートン監督でハリウッドで映画化したら大成功間違いなしの傑作。怪奇小説アンソロジーのラストにこれを置くのは皮肉な気もするけれど、ちょっとホッとします。
※収録
H・P・ラヴクラフト「アウトサイダー」
A・ブラックウッド 「幽霊島」
ジョン・ポリドリ「吸血鬼」
E・F・ベンソン「塔のなかの部屋」
F・G・ローリング「サラの墓」
F・M・クロフォード「血こそ命なれば」
W・F・ハーヴェイ「サラー・ベネットの憑きもの」
リチャード・バーラム「ライデンの一室」
M・R・ジェイムズ「“若者よ、笛吹かばわれ行かん”」
J・D・ベリスフォード「のど斬り農場」
F・M・クロフォード「死骨の咲顔」
シンシア・アスキス「鎮魂曲」
オスカー・ワイルド「カンタヴィルの幽霊」
付録1:対談・恐怖小説夜話(平井呈一×生田耕作)
付録2:THE HORROR
怪奇小説のむずかしさ(L・P・ハートリー)/試作のこと(M・R・ジェイムス)/森のなかの池(オーガスト・ダレット)/聴いているもの(ウオルター・デ・ラ・メア)/怪談つれづれ草1 古城/怪談つれづれ草2 英米恐怖小説ベスト・テン
付録3:エッセー・書評
八雲手引草/英米恐怖小説手引草/恐怖小説手引草拾遺/怪異 その日本的系譜 東西お化け考/英文人の夢と営為語る『椿説泰西浪蔓派文学談義』評/怪奇文学の魅惑『ブラックウッド傑作集』評 -
13の翻訳短編、生田耕作との対談、「THE HORROR」掲載等の
エッセイ、書評と、平井呈一尽くしの一冊。
・翻訳短編・・・アウトサイダー、幽霊島、吸血鬼、塔のなかの部屋、
サラの墓、血こそ命なれば、サラー・ベネットの憑きもの、
ライデンの一室、“若者よ、笛吹かばわれ行かん”、
のど斬り牧場、死骨の咲顔、鎮魂曲、カンタヴィルの幽霊
付録I 対談・恐怖小説夜話・・・生田耕作との対談
付録II 「THE HORROR」・・・掲載のエッセイ等
付録III エッセイ・書評
出典一覧有り。
思えば「怪奇小説傑作集1」はボロボロになるまで読んだものです。
あれは丸ごと平井翻訳の傑作集でした。怪奇の愉しさといったら!
その、英米の怪奇小説翻訳の第一人者である、平井呈一。
翻訳短編、対談、エッセイ、書評と、彼の翻訳職人としての
拘りや想い等が窺える一冊。紀田順一郎による解説と略歴もある。
短編は読んだものが多いけど、改めて味わい深く楽しめました。
生田耕作との対談は、当時の文学界や翻訳者たちに対する、
率直な考えが窺えて、興味深かったです。
エッセイや書評は未読ばかりで、良かったです。
改めて小泉八雲や「オトラント城」を再読してみたくなりました。 -
平井呈一氏と生田耕作氏の対談が興味深かった。平井氏のアン・ラドクリフへの評価が低いのが意外。『ユードルフォの謎』の一日も早い訳出を望む。『ヴァテック』『オトラント』『モンク』は一応読んだけど、忘れてるな。アーサー・マッケンは昔読みかけて挫折。平井先生がここまで絶讃されるなら、再挑戦せねば。
ゴシック文学は文体という両氏の発言に快哉。東雅夫氏編のゴシック名訳集成を読んだ時、そう思った。
この対談の1975年当時、平井先生は最近の作家は翻訳ものを読まないと嘆いておられた。あの頃でさえそうなら、今は… -
平井呈一訳の短編、エッセイ、そして生田耕作との対談(!)を纏めた1冊。
まさか平井呈一名義の文庫で生田耕作の名前を見るとは思わず(生田耕作は澁澤龍彦とセットで語られることが多かった)、これは嬉しい驚きだった。対談の内容も面白かった。
短編は、これはしょうがないことだが、既読の作品が多かった。何度読んでも面白いのだが。その代わりにエッセイは殆ど読んでいないので、こちらも嬉しかった。 -
滅茶苦茶面白かった。
ページ数500ページと少し分厚いけれど、短編集なので読みやすい。怪奇小説は普段あまり読まないジャンルだが、見事に沼に落とされた。
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英米のホラー短編いくつかと、対談やエッセイなども。平井呈一の名前は見たことはある…気はするけれど、翻訳を読んだことはあったかどうか、あまり気にかけず忘れているのかも…。
全体的に古風な訳文で、最初の「アウトサイダー」など、舞台はアメリカ(?)なのに、大正か昭和初期辺りの日本を思い浮かべながら読んでしまいます。
「カンタヴィルの幽霊」は別の訳を読んだことがあって、イギリスのとある幽霊屋敷に陽気なアメリカ人一家が越してくるという話で、ユーモラスなところが好きです。
「“若者よ、笛吹かばわれ行かん”」は大佐のキャラがなかなかよい。「のど斬り農場」(怖いタイトル!)は短いけど、ピリッと鮮やかな感じがするところが好きです。 -
怪談よりも後書きにある平井呈一さんの半生の方がぶっ飛んでて面白かった。
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ワイルドの『カンタヴィルの幽霊』が、喜劇色がありながらも切なさもあり面白かった。
付録の対談なども全部で100ページほどのボリュームがあって凄い。 -
平井呈一氏の訳文による、19世紀~20世紀前半の英米古典ホラーのアンソロジーである。
ラヴクラフトの中では「ダンウィッチの怪」や「クトゥルーの呼び声」に比べたらマニアックで知名度が低い「アウトサイダー」で幕を開け、ブラックウッドの表題作や、時代を象徴する吸血鬼もの数作等を挟み、最後を締めるのはオスカー・ワイルドのコミカルな幽霊譚。
もちろん21世紀のホラーやミステリーに期待されるようなものを求めるべきではないが、当時の空気を想像してその世界に耽溺する魅力を上手く見出すことができれば、してやったりか。
付録のヴォリュームが凄い。