ねじの回転 心霊小説傑作選 (創元推理文庫)

  • 東京創元社 (2005年4月10日発売)
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本 ・本 (376ページ) / ISBN・EAN: 9784488596019

感想・レビュー・書評

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  • 「ねじの回転」、好きなんだなあ、私。

    読んだことない翻訳版を目にすると
    必ず読んでいるから!

    翻訳によって、また読んでいる私の気持ちによって、
    印象が違うのがこの小説の良いところ。

    今回は主人公の家庭教師の女の人が
    「本当にあったことを
    ちょっと脚色して話していると
    興奮してきてどんどん話が大きくなり、
    しかもそれを自分でも信じてしまう」
    というタイプの人、みたいな印象を受けました。
    (たまに出会いますよね、こんな人…)

    一番最初に読んだ時には、
    「…え?(ポカーン)」となったのだけれど、
    今となってはそれがこの小説の良いところと
    わかっています。

    この本にはあと四つ、怖い話が入っているとのことで
    最大級の期待をもって読んだのですが、
    どれもこれも怖くないのよ。

    特に「古衣装の物語(ロマンス)」なんて、

    「おいおい、一人の男をめぐって姉妹が争ったとして、
    絶対にこんな風にはならないよ、ヘンリー君!
    君って姉妹とか従姉妹とかみたいに、恋愛や結婚と『関係ない部類』の女の人が身近にいないんだね?」って言いたくなるほど。

    他の作品もさあ…なんて文句言っていると、
    文学に詳しい方に肩をそっと叩かれ、
    「これは怖い話というよりもっと深遠な意味が隠された…」と優しく教えられても恥ずかしいのでこの辺で…。

  • 難解で有名ながらも、現在も4つの出版社から(!)文庫が出ているほど今日性のある表題作。どの出版社の文庫で読もうかな~と迷ったすえ、「ヘンリージェイムズのゴースト・ストーリーもの」としてまとめられた東京創元社の本版を選んだ。そして、この判断は正解だったように思う。「ねじ~」だけを読むと、私の理解力ではおそらく、「で、結局何なのだ?」と言いたくなってしまっただろうと思うから……。

    私は先に辻原登さんの『東京大学で世界文学を学ぶ』を読んでおり、辻原解釈が先に頭にあって読んだため、「なるほどこれはいろんな解釈ができるな」、と思いながら読んだ。他の収録作の方は「ねじ~」と比べるとかなりわかりやすく、ストーリーもかなり楽しめた。
    ただ、それでも全体的に薄気味悪い感じはある。取り調べ中の容疑者を、マジックミラー越しにじっと眺めているみたい。その人が無実なのかそうでないのかはわからない、でも、その人が取り調べされていて不安だったりいらいらしているのだったり、帰りたいと思っているのは痛いほどわかる、そういう感じだった。

    でも、つまるところ、何がそんなに不気味なんだろう。考えてみて、こういうことなのでは?と思う。つまり、目に見える事実が、本質的なものの媒体に過ぎないんじゃないか、私たちに見えているのはその「媒体」でしかないんじゃないか、いうところ。
    誰にも真実はわからない。表面的なものしか私達はとらえることができず、本質的なものというのはそもそも「存在しない」とさえ言えるのではないか……だとしたら、私達が見ているものは、私達が見ていると思い込んでいるだけ? 
    何かが見える/見えないは、世界のある/なしに直結しているのでは、ということ。見えない世界は存在しない。可視化できるものが全てではないことを、この人は逆説的に書く作家なのかもしれない。

  • 思ってたよりも私には少し難しく、スラスラ読めない感じでそこまで夢中にはなれませんでした。個人的には表題作より短編のほうが良かったですが、幽霊譚としては少し共感できるところが少なかったと思いました。

  • 表題作について。
    たしかに難しい…。「怪奇小説の傑作だが難解」を痛感。いろんな見方ができる作品なのは確かだけど、ひとつの解釈がしっくりくるかというとそうでもない。
    一人の視点・主観(しかも感情に左右されていたり、もしかしたら妄想が含まれてるかもしれない)であやうさのある状態で始終物語られており、第三者の明らかな反応が乏しいのがモヤモヤと難解さの原因か。
    とはいえ「幽霊とおぼしき何者かがいる」という第三者の反応も皆無ではない・確実にあるので、1人の妄想だとも言い切れない…それもまた難解さのひとつ。
    怖いのは幽霊か、人間心理か、あるいかその混合か。

    ほかの作品もゴーストストーリーながら、肝心の幽霊は最後の最後。それまでの人間描写の積み重ねがなかなか。
    始終幽霊の存在を感じる作品も面白いが、最後にピリリと効いた幽霊というのも面白い。
    日本語訳も読みやすくて、サクサク楽しめた。

  •  古典怪奇小説として名高い表題作。ほおと思って読んでみたが今一つわかりにくくちっとも怖くない。解説を読むと「難解な」と注釈がついていた。家庭教師と幼い兄妹をおびやかす2人の亡霊の話なのだが、登場人物それぞれの心理が理解しにくく読んでいて意味が分からない。どうやらぼくの頭には難解すぎるようだ。併録されているいくつかの短編のほうがまだしもだった。

  • 表題作『ねじの回転』は、終わり方が唐突だし、主人公の家庭教師の女性は出来事に対する個人的な印象を語るばかりで、この舞台でどんなホラーな出来事が起こったのかいまいち判然としない。でも文庫の巻末に収録されている解説を読んでようやく、なんとか納得。解説で赤井敏夫氏は本作について、「文学的滋味に欠ける心霊研究報告の文学的再話としての構造を持つ」と指摘されています。

    なるほど、女性の手記を模して書かれる文章は、禍々しい体験を予知できなかった自身の浅はかさを嘆く節が散見されて、本当に彼女が研究員を前にした面接で当時のことを述懐している、それをそのまま文章にしたようにも読めます。
    だからこそ幽霊譚としては不完全で、読み手も不完全燃焼な読後感に襲われるのかと。

    『ねじの回転』は様々な解釈のされている作品のようですね。小説をおもしろ半分に読むばかりでそんなことすら知らずに、何の予習もなく読み始めてしまったのですが、読了後、上記の赤井氏の解説を読んで物語を反芻して、それでようやっと腑に落ちた感じです。
    訳者の方も書いておられますが、小説が書かれた当時の時代背景をふまえつつ、自分なりの解釈をしてみる。そんな作業が必要な作品だと思います。

  • 私にとって幻想、幽霊、英国、館もの好きの原点でもあるねじの回転を翻訳を変えて何度も読む至福。何時でも絶え間ない余韻にうっとりする。見えないものの存在の曖昧とした描写の巧みさに愛を深める。他収録されている怪異譚4篇もどれも一気に読んでしまうほど面白く、また余韻深い作品たち。殊更好きなのは「古衣装の物語(ロマンス)」で、眩いロマンスの物語がある時を境に狂おしい嫉妬や無念や哀しみ、深い情念をたたえ、見事に怪談として描かれる様に惹き込まれます。ラストの迫力の凄まじさ。(2024年5月31日読了)

  • 心霊小説の古典を色々探していて、あのスティーブン・キングがこの100年間に出た個人的傑作の2作のうちの一つに挙げていることもあり(もう一つはジャクスンの『丘の屋敷』)、気になって読んでみた。

    難解といわれているだけあり、意識の動きや心情で構成された意図的に曖昧な文体で、前半はなかなか読み辛かったが、後半は急速に物事が動き出し、三すくみともいえる心理戦が繰り広げられ、悲劇の結末を迎える。読み進めるうちにいつの間にか深みに嵌められたような、魔力のある文章に何度も感心した。この翻訳は大変そうであるが、自然な翻訳で無理なく楽しめた。何度も読みたくなる。
    物語を素直に読むと、美しい兄妹を「穢れ」から救おうとする物語に読めるが、どうもおかしい。この小説では悪霊はただいるだけであり、本当に怖いものは人間の心の中に存在している。語り手の目線から離れてみると、魅惑的な子どもを取り合う大人たちともとれる。家庭教師も結局最後は自身のエゴを抑えきれず強引に物事を進めてしまった故の悲劇ではないか。恐怖の本質をしっかりと捉えているからこそ、曖昧模糊とした幅のある文章でも、何度でも読める強靭なテーマがあるのだと思う。

    単純に物事を曖昧に書いているのではなく、「恐怖」を表現するための手法としてはっきりと意識されて書いている。語り手の心理描写を繋げていくことで、読み手に何が起こっているのかを推理させる意図があると思う。読む側に労力を強いているようであるが、それこそが恐怖の本質であり、対象が理解できないからこそ警戒心があらゆる疑念を膨らませ、恐怖という形のないものを産むのである。
    また、語り手が抑圧的な時代の女性であるために、自身が恐れる汚らわしいことを決して直接的な表現で書けないことが、含みのある言い回しにせざるをえない理由にもなっていることからも、目的を持った表現であることがわかる。

    読んだ後に全体像が見えてくるので、曖昧な部分が読者に想像させる余白になっている。実際何が起こっていたのかは最後までわからず、語られていることはあくまで語り手の憶測と、遠回しな表現による会話の記録だけである。読者はその本心を何とか捉えようと考えはじめると、この小説にまんまと嵌ってしまう。この作品が多くの議論を生んでいることも頷けるし、それこそがまさに「ねじの回転」であり、著者の意図するところなのだろう。

    収録されている他の短編はオマケ的ではあるが、当時の時代背景や著者の作風の一端を知ることができた。どれも怪談というよりは人間のドラマに主眼があるようで、やはり著者の興味は心霊よりも心理なのだと思える。

    2025.02.05追記
    デヴィッド・リンチ監督の「マルホランド・ドライブ」を観て、物語の筋道の煙の撒き方などが似ていると感じた。本心は言葉では表されないが、それぞれの繋がりがどこか歪で、情景と心理が混じり合うことによって物語が語られる。理屈を積み上げるのではなく、感覚を掘り下げるような作り方は、巨匠と言われる作家の共通点な気がしている。

  • 創元推理文庫版だったので表題作以外の短編も読んだけど凄い!
    『テヘランでロリータを読む』でも言及されていた通り曖昧な描写から何通りも読み方があり、読者に解釈を委ねる構造が見事。
    久し振りに大学時代に戻ってぐるぐる色々なことを考えながら本と向き合えたのが嬉しかった!

    『丘の屋敷』もそうだったんだけど幽霊いるのいないの?
    以前に物語を語る語り手が一番信頼できないし、物語が進むにつれて語り手がどんどん不安に脅かされていくところが怖すぎて私が叫びそう。
    他の短編も絶妙に嫌〜な後味が最高でした。

  • 恐いかと言えば恐くない(笑)でも、この文体に身を委ねてこの世界に、深く沈んで行くのが気持ち良い。
    この家庭教師の見た物は幻?それとも・・
    この物語を紹介した男性の正体は?
    謎は深まり、全ては朧に・・この味わいがたまらない。

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著者プロフィール

Henry James.1843-1916
19世紀後半~20世紀の英米文学を代表する小説家。
主要作品に『デイジー・ミラー』、『ある婦人の肖像』、
『ねじの回転』、『鳩の翼』等。
映画化作品が多いが、難解なテクストで知られる。

「2016年 『ヨーロッパ人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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