パイド・パイパー - 自由への越境 (創元推理文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488616021

作品紹介・あらすじ

フランスの田舎道でパンクのため立ち往生したバスは、ドイツ軍の編隊の機銃掃射を受けて動けなくなった。これから先は歩いてもらわにゃあ-。老イギリス人は、やむなくむずかる子供たちの手を引いた。故国を目差して…!戦火広がるフランスを、機知と人間の善意を頼りに、徒手空拳の身でひたすらイギリス目差して進む老人と子供たち。英国冒険小説界の雄が贈る感動の一編。

感想・レビュー・書評

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  • 老紳士と子供たち(他人)の冒険小説。
    第二次世界大戦下、スイス?フランス?からイギリスへの国境を越える旅の様子を、ドキドキハラハラしながら見守りました。
    人生でトップスリーに入る作品です。

  • 名作!

    フランスへ釣りに来た老人が、戦禍を逃れてイギリスへ帰る道すがら、子供をどんどこ連れ歩く「パイド・パイパー」になってしまう不思議な話、とでも。この辺はちょっとファンタジーっぽいけれど。
    しかし著者の目線が素晴らしい!子供の心理描写・些細な仕草の描写が本当に自然で、何より優しい。ゲシュタポがちらつく背景でありながら、老人の余裕だとか、最愛の人を失った女性の強さだとか、どれも無理なくストンと落ちる作り。話は至ってシンプルでありながら、読了後のしみじみとした残り香が非常に良かった。
    「今から三十年もすると、きっと世界はこの子たのだれかを必要とする世界になる」…子供たちを平和な未来に届けるためにジョンと出会ったんだと云うニコルに泣けました。

  • とても良い本。かなり古い本の復刻版だが、今読んでも面白かった。第二次世界大戦が始まったばかりのフランスでお爺さんと子供達がイギリスまで逃亡する話だが、悲壮感はほとんどない。最後の最後に進退極まった所を、どう切り抜けるかは見もの。映画で見たいと思った。

  • ジワジワと染み入る小説。第二次大戦、独軍のポーランド侵入を機にヨーロッパに広がる恐怖。迫りくる危険を感じ独占領下の仏から本国英国へ帰ろうとする老人ハワード。しかも自分の子供、孫でもない小さな子供二人を連れて。英国への道のりは迷走しながらも一緒に行く子供の数が増えていく。戦争の恐怖と緊張感、そしてハワードが背負う命の重さと責任を一緒に感じ取りながら息をひそめるようにページをめくる。独兵を悪魔のように書くこともできるが良い面も見せている。国の未来を信じ戦っているのは同じ人間なのだ。戦争終結前の1942年作品。

  • 老体に堪えすぎる。

  • 「パイドパイパー」とは「ハーメルンの笛吹き男」のこと

    スイス国境近くのディジョンで釣りをしようとしていた70歳のイギリス人ハワードは、ドイツ軍のフランス進撃とイギリス軍のダンケルク撤退を知って、イギリスへ帰国しようとする。
    ところがドイツ軍がスイスに侵略する噂に心配した国連に勤めるイギリス人夫婦から、2人の子供を連れてってほしいと頼まれる。
    ゆく先々で子供は増え、最終的に7人それもイギリス人、フランス人、オランダ人、ポーランド系ユダヤ人、ドイツ人と、縁もゆかりもない子供たちを連れてイギリスを目指す。
    戦争で交通手段もままならない中、乳母車とともに大勢の子供を連れて「ほとんど歩いて」イギリスを目指す姿は、ハーメルンの笛吹き男そのもの。

    作られたのは1942年、第2次大戦真っ只中で戦争の行く末はまだ混沌としているとき。
    作者はハワードを必要以上に「戦時の英雄」として語っていない。
    むしろ、故郷イギリスで突然の不幸から孤独となり、生きる希望を失った老人の再生物語として描き、読者の共感を呼びよせている。

    ロンドン空襲のさなか主人公ハワードが「私」に語る帰国までの道のりは、誰かに必要とされる喜びとそれにこたえようとする充実感にあふれている。

    現代にも通じる主題を持ち、読む手を止めさせない「ロードムービー」でした。

  • 戦時下の極限状況のなかで進む物語は、すべて人間の善意で成り立っている。行く先々で子供たちを託され、または自ら保護してともにイギリスへ帰ろうとする70歳の老紳士ハワードはもちろんのこと、恋人を亡くし失意のなか自ら同行しそれを助けるニコルも、(この小説のなかでは)敵国ドイツの少佐でありながら姪のことを想いハワードに託すディーゼンも、みんな誰かの幸せを願っている。戦争の真っただなか、当然血は流れ人は死ぬけれど、全編に渡りなんとも言えない優しさに満ち溢れている。人間の美しさを感じられる小説だった。

  •  世界大戦下のイギリスのとあるクラブ。遠くから空襲の砲弾の音が聞こえる長い夜に、わたしはジョン・ハワードという老人と意気投合する。フランスからイギリスまで、あらかた歩いて帰ったというハワード。わたしはその話に興味を持ち、さらに話をうながす。そしてハワードは、幼い子供たちをつれてフランスからイギリスは渡った話を語り始める。

     戦争の影響で電車やバスの路線は乱れ、さらに侵攻してきたドイツ軍は、イギリス人を捕らえようとしています。

     また子供たちの描写のリアルさも、物語を盛り上げます。道中で熱を出してしまったりぐずったり、あるいは無邪気に戦車を見たがったり、ドイツ兵の前で英語で話そうとしたりと、状況を理解しきれない子供を連れていくからこその困難も、待ち受けます。

     しかし、そんな中でもハワードは忍耐強く子供たちを叱ることなく、先に進んでいきます。その我慢強さが心強く、そのおかげで読んでいる側も、子供たちにイライラすることなく、読み進められます。

     そして、ハワードの責任感の強さは、初めに預かった子供たちだけでなく、道中で出会う知らない子供たちにも発揮されるのです。

     旅先のホテルでお世話になった女中の娘。ドイツ兵に家族を奪われたユダヤ系の少年。怪我をしている、英語もフランス語も通じない少年。

     旅をする中では、足手まといになるであろう子供たちも、引き連れハワードはイギリスへ向かいます。そうしたハワードのやさしさや強さも、読んでいてさわやかですが、道中で出会う人たちもいい人が多く、ドイツ兵ですら
    憎みきれない人たちが多いのが、いいです。

     しかしその一方で、子供たちの環境や路線の混乱、道中の町や村の描写、スパイを警戒し、捕虜に対し厳しい仕打ちをするドイツ兵の将校など、戦争の悲惨さも描かれます。こうした状況をしっかりと挟まれます。

     旅先でトラブルが起こり、それを一つずつ乗り越えていくという、シンプルな展開ながら読ませます。読んでいてなんとなく連想したのが、田川さんと蛭子さんがやっていたテレビ番組「ローカル路線バスの旅」

     ローカルバスだけを乗り継いで、期限内に目的地に向かうというシンプルな番組なのですが、バスが通ってなくて、徒歩で移動したり、少しでもバスが通じている可能性を信じ先へ進んだり、とそうしたトラブルと、それをどう乗り越えるか、という選択が見どころの一つだと思うのですが、この小説もその面白さが根底にあるような気がします。

     そして終盤、ハワードはかつて付き合いのあった大佐を頼り、その娘のニコルと出会い行動を共にします。

     このニコルも実はハワードと浅からぬ縁があることが、分かります。そしてニコルとの別れが近づく場面。その縁をとても美しく感じさせる、ロマンチックなやり取りが最後に描かれるのです。これはかなりの名場面!

     読みどころの多い、素敵な小説でした。

  • 評判が良かったので、いつか購読しようと思っていたのですがやっと古本屋で見つけ講読。
    本当に一気読みしました。

    激しいアクション、殺伐としたシーンがない。70歳のおじいさんが主人公の異例な冒険小説。
    唯一の武器は、弁護士であった資金力、交渉能力、フランスの土地勘のみ。
    本当にこれでもか!と、難題が降りかかるが、タフなイギリス紳士が切り抜ける。こんな状況でも未来に溢れた子どもとはいえ、他人の子どもを自らの犠牲を厭わずに守れるのか。
    敵であるドイツ軍に捕まりそうなスリリングな状況下に子ども達の無邪気なのが癒される。
    第二次世界大戦のフランスの情景を生かしながら、主題は、未来を担う子ども達に自らの犠牲を厭わない大人の責務であろう。

  • 第二次大戦中、引退し休養のためフランスを訪れていたイギリス人弁護士。戦局の悪化を憂い急遽帰国を決意した彼は同宿した一家の子供二人を預かることに……。
    派手なアクションも謀略もなく、老人と子供たちの旅を淡々と描くだけ……ながらも手に汗握る極上の冒険小説。様々な苦難に出会いながらも決して折れないハワード老の矜持が素晴らしい。静かで、そして力強さにあふれた物語。

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