- Amazon.co.jp ・本 (380ページ)
- / ISBN・EAN: 9784488623012
感想・レビュー・書評
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主人公は殺人犯で、財力と権力を乱用して警察から逃れようとしている悪人。それと同時に、己の内側にある孤独と恐怖から目をそむけ、必死に逃げ続けている、哀れな男でもある。テレパスが増え監視社会が実現し、殺人ということがほぼあり得なくなった時代でのこと。死刑という「野蛮な」習慣はとうになくなり、代わりに殺人には「分解」という刑が待っている。その「分解」の正体はラストで明らかにされるのだが……。
重く暗いテーマだけれど、コミカルな場面を交えつつのユーモラスな語りがあって、その分いくらか軽快に読める。ただそのぶん重さが損なわれている感があって、個人的には同じ作者なら「虎よ、虎よ!」のほうが好きだったかなという印象です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
第一回ヒューゴー賞に燦然と輝く「分解された男」は、鬼才アルフレッド・ベスターの処女長編小説。
ベスターといえば超有名な「虎よ、虎よ!」にて、あの破天荒な文体と怒涛のストーリー展開、魅力あふれるジョウント=テレポーテーションのお陰でエンジョイ&エキサイティング&エネルギッシュな読書タイムを味わうことが出来たのですが、いかんせんSF初心者であった当時の僕にとっては、ただただ圧倒されるばかりで、先に挙げたようなベスターが放つ”破天荒さ”や”勢い”、”魅力”を直視出来ていなかった覚えがあります。
でもって、当著。
この疾走感!脈動感!力強さ!荒々しい語気!飛び交う罵声!
「もっと引っ張る、いわくテンソル。緊張、懸念、不和が来た」なんて、イカした歌を織り交ぜるあたり、いいねぇ、やっぱベスターですねぇ。
「虎よ、虎よ!」に比べると多少大人しめな感を抱いたのだが…でも充分であります。
「いいか、殺しのイロハは、大胆・果断・自信だぜ」なんて痺れる言葉をぶっ放すベン・ライクは、すんげえ悪党なんだけど嫌いになれない。
彼を追っかけまわすパウエルをはねのけて、むしろ応援したくなる。
高度に発達した24世紀の未来社会だから、知的でスマート、薄情な印象をもって物語に入るんだが、本を開けた途端、ライクの怒号に始まり、だけでなくライクは苦しみ、大きく笑い、時に弱気になる。
すんごい人間臭いんだよなぁ。
このライクの尋常足らざる喜怒哀楽さに奇妙な好感を抱いちゃう。
そしてこれら物語の奔流が全て頭の中で映像として思い描ける。
これが何より当著の凄さをあらわしていて、SF小説が面白いところなんだよなぁ! -
SFと推理小説の融合というと、アシモフ先生のイライジャ&ダニールシリーズしか知らなかったのですが、こちらも傑作です。
「虎よ、虎よ!」といい、べスターのグイグイ読ませる筆力は半端ないですね。
基本推理小説は面白ければトリックなんぞどーでもいい人間なんですが、これはかなりフェアにルールを守っていると思います。
この騙された、やられた感がたまらない。
しかしこの主人公のベン・ライク、やたらに魅力的で困ります。ロクでもない男なのに応援してしまいたくなる。ここまで俗物的野心家だと、見ていて気持ちがいいですね。 -
今年の春に買って以来「そのうち読もう」と放ったらかしにしてましたが、今日は時間があるし気の向くところまで読んでみるかな、と手に取ったのが運のツキ。夕飯の準備も忘れてハマりまくりですよ。しかもワイン飲みながらベスター読むと回るんだこれが(笑)実に気持ちのよい酩酊感を味わえましたヽ( ´ー`)ノ今はもぅちゃんと夕飯作って食べた後ですよヽ( ´ー`)ノ
アルフレッド・ベスターと言えば、SF史上に燦然と輝くワン・アンド・オンリーな(いろんな意味での)傑作「虎よ、虎よ!」が代表作ですが、この「分解された男」を最高傑作にあげるSF者も多いです。ベスターの処女長編にして、第1回ヒューゴー賞受賞作。初の長編作でこのパワー、恐るべしベスター。ストーリーは実に単純で、いわゆる「犯罪小説」です。大衆文芸としてあまりにもありふれたこのジャンルを、「一般人の犯罪者(ただし恐ろしく有能)」vs.「超能力者の刑事(ただし超能力者ならではの法規制にがんじがらめに縛られている)」の虚々実々の攻防戦として描いたところが、この作品を傑作たらしめている理由です。ベスター最大の特徴である、ジェットコースターの如き疾走感溢れる絢爛華麗な文体が既に確立されていて、超能力者(この作品では「超感覚者」と訳されていて、この言葉の響きがまたcool)同士の発音無き意思疎通の表現が面白いです。後の「虎よ、虎よ!」に通じる視覚性を感じさせますね。
何分にも邦訳初版が1965年(!)の作品なので、翻訳が古臭いのは致し方ないです。が、その時代がかった訳文がまたベスターの世界観に合うんですね。筆が走り過ぎて、主役の犯罪者&刑事がどちらも異様にチンピラくさい喋り方をするのはまぁご愛嬌ヽ( ´ー`)ノ重要なファクターとなる「もっとひっぱる、いわくテンソル」は名訳ですね。一度耳にすると脳裏にこびりついて離れない迷曲として登場するんですが、元の英文を読むとホントに離れなくなります(笑)鴨的には、こちらのブログで評している「エイドリアン・ブリューが書きそうな詞」ってのがむちゃくちゃツボなんですがヽ( ´ー`)ノ 鴨注*エイドリアン・ブリューとは:KING CRIMSONの現ヴォーカリスト兼ギタリスト。満面の笑みで楽しそうに飛び跳ねながら「Red」を弾きまくる謎の男ヽ( ´ー`)ノ
これ、映画にしたら面白くなると思うんだけど。ベスターの作品は版権の関係で映像化が困難らしいですが、ものすごく「絵になる」テキストですからね。宇宙ランドの自然公園で野生動物の潜在意識にモーションを仕掛ける場面とか、最後にパウエルが敵に仕掛ける一世一代の大仕掛けとか、鮮烈なビジュアルがてんこ盛りですから、映画にするならどんな映像表現で攻められるのか、想像するだけでも楽しいですよ。「絵になる」というのは、SFにおいては最大級の賛辞ですからね(-_☆
こういう傑作がゴロゴロしているから、SF読みは止められません!(-_☆ -
近未来、読心エスパーが当たり前にいる世界が舞台。コンゲーム、ピカレスクものと思わせて実はディストピアもの。非エスパーの実業家ベン・ライク目的達成のためには殺人をも厭わず行う。そんな彼を訴追すべく動くエスパー刑事のパウエル。ベン・ライクは素晴らしく憎たらしく描かれており、パウエルの捜査がうまく行くことを願いながら読むが、そもそも、エスパーに簡単に心を読まれる社会はディストピアであろう。また、「分解」刑の真実も一見人道的に見えて非人道的だと思う。ハッピーエンドのようなエンディングを迎えているが、その違和感は否めない。それとは別に、終盤の展開の唐突さが星3つ。
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生きるって何だろう、自我ってどういうことなんだろう。読み終わったら頭がボーッとしてしまった。終盤のめくるめくイメージが凄い。
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ほぼ古典と言ってもいいSFサスペンス。
登場人物の緊迫したやりとりがスリリングで良かった。但しミステリ的にはやや甘い部分も感じられた。
訳文は古めかしいが、寧ろ懐かしさを感じる古さなので気にならない……というか好きだw