沈んだ世界 (創元SF文庫) (創元推理文庫 773)

  • 東京創元社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488629014

感想・レビュー・書評

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  • 太陽に異変が起きて地球は灼熱の地獄となり、居住可能なのは北極や南極の近辺のみ。水位が上昇してかつての都市はみな水没。放射能が降り注ぎ、動植物は太古の三畳紀のように大型化。そんな終末世界の水没都市ロンドンで生態系の調査を行っていた生物学者ケランズ。彼は太古の世界の夢を見るようになり、調査終了後も(命令に背いて)本能のおもむくまま同僚研究者(ポドキン)や友人女性(ビアトリス)と共に居残った。そこに海賊(ストラングマン一)味が現れ、都市の水を抜いて略奪を始める。始めは友好的な関係を保っていたケランズ立場だったが…。英国ニューウェーブSF。1962年の作品。

    この作品、一応危機一髪サバイバル劇にはなっているが、ラブロマンスに発展する訳じゃないし、主人公は(一矢報いたとはいえ)報われることなく恐らくは野垂れ死にだ。要するにスッキリしたオチがない。わざわざ終末世界を舞台にした意味もよく分からなかったな。かなり読みにくくて時間もかかった。

  • 気候変動により気温と水位が上がった世界になっている。住民はほとんどいず、わずかに残った研究員達がいたが、引き上げるという決定に反し主人公ケランズら3人は残る。やがて略奪隊が来て混乱の状態になるが、なおもケランズは水にとりつかれ、シダとワニと水の世界に向かう。

    「結晶世界」「旱魃世界」そして「沈んだ世界」と発表とは逆の順で読んでしまったが、この暑い濁った水の世界はバラードの育った上海租界にちがいなく、ケランズが脱出しないのもバラードが上海にまだ囚われているのを示している気がした。自伝では租界を忘れるのに20年、思い出すのに20年かかった、と言っており、この「沈んだ世界」発表の1962年は終戦から18年、疎開の記憶の区切りをつけるために書いたのか?という気もする。

    熱帯と化した混沌の町で暮らし、なおも水にさまよい出る様は、ちょっと「地獄の黙示録」のカーツ大佐のジャングル奥の基地を思い出した。「闇の奥」も読んでみようかと思う。

    主人公のケランズは40才で生物学試験所所員。回りは水に浸されホテルの上階で生活している。水の中にはワニが、階段にはイグアナがいる。読み進むとホテルの名はリッツ、場所はロンドンだとわかる。水深く埋もれたビル、水中の浮遊物などを想像しながら読む。

    ケランズはグリーンランドの基地の街で生まれ育ち生態学調査団に参加して南へやってきた。同僚の25才年上のホドキン博士はまだ水のない生活を知っているが、ほとんどの者は町での生活を知らず、そういう町でさえ巨大な堤防で包囲され、恐怖と絶望で崩壊してい行く状態だった。

    「旱魃世界」でもタンギーの絵が出てきたが、ここでも
    ケランズとともに残っている女性の部屋にはデルボーの絵とエルンストの絵がかかっている。水にあふれた人気のない街をさまようケランズたちの姿をデルボーの絵になぞらえている。また熱帯植物にとってかわられた街をエルンストの描いたジャングルの眺めと似ていると書いている。

    「沈んだ世界」になるに至った部分がいわゆるSFらしくて読んでておもしろいところ。「沈んだ世界」での生活は終末世界で生きる主人公ケランズの内的世界。なんだか今のコロナの巣ごもり生活と同じじゃないか、などとも感じた。

    気候変動は今から6、70年前に最初の兆候が現れ、太陽の不安定さが原因でバンアレン帯が拡大し太陽の輻射熱が直接あたり、年に2,3度ずつ気温が上がり全住民は北か南に移動した。両極の氷は溶け、水に浸った泥を押しだすことでイギリスとフランスは再び陸続きになった。

    次の30年間は極地へ向かう人口移動が続き、水位と気温の上昇に防壁を作って抵抗した都市も次々陥落し、高地は気温は涼しいが大気が薄いため放棄されていた。

    人間を含め哺乳類は増殖ができず、水に適応した両生類の天下となった。両極に住む人口はせいぜい500万足らずになった。

    1962発表
    1968.2.16初版 1982.1.8第14版 図書館 (表紙イラストは金子三蔵氏のもの)

  • SF。終末。冒険。
    バラードお馴染みの、内宇宙を濃密に描いた作品…なのでしょうか?
    ハッキリと読みづらいし、ストーリーも決して面白くはない。
    それでも、地球の終末の世界観は非常に興味深い。
    登場人物の行動の意味を想像するのも一つの楽しみ方か。様々な考察ができそう。
    決して退屈なだけの作品ではないです。

  • 本作を楽しめるかは、ストーリー展開やキャラクター設定などよりも、作者が幻視する世界を楽しめるかによるところが大きいでしょう。個人的には、描かれている世界を脳内で映像化することが容易ではなく、楽しんだとは言い難いです。

    本作が描くのは地球温暖化による沈んだ世界、すなわち水没した世界。似たような設定であれば、同じ1960年代に書かれたカート・ヴォネガット『猫のゆりかご』やアンナ・カヴァン『氷』も挙げられるでしょう。氷結しつつある世界を描いた両作は、地球寒冷化を幻視したまさに未来小説。

  • バラードの作品を読んで、いつもすごいと思うところは、その世界の作り込みが見事なところだ。丁寧に描き込まれた奇妙な世界は、まるで読者の目の前にあるかのようにリアルに広がっていく。実際「バラード・ランド」という言葉があるくらい、バラードの構築する世界は読者を圧倒する。しかしバラードの持つテーマは、奇妙な世界を描くことではなくその世界の中に生きる人々の内面だ。この人間の持つ精神の奇妙さこそがバラードの真骨頂だ。

  • 2.5

  •  読み終えるのに努力を要した作品であるが、この作家を楽しめる可能性がないわけではない

  • 温暖化が急激に進んだ近未来、地球上の都市は全て水中に沈んでいた。生き残った人類は極地に新たな文明の拠点を築き、国連調査部隊が水没地の調査と残留住民の回収を進めている。国連調査部隊のイギリス隊に参加した生態学者・ケランズは、沈んだ世界の生態系調査に従事しつつも、人類文明の進化を拒絶するこの世界に抗い難い魅力を感じて止まなかった。彼と同様に極地への移転を良しとしない狂気の美女・ビアトリス、水中に没した都市から美術品等を略奪することを生業とするエキセントリックなギャングのストラングマン、水没する前の故郷のイメージに閉じこもるボドキン博士。極地に移転しなければ命が危うい中、彼らがとった選択肢とは?

    ニューウェーブSFの代名詞、バラードが描き出した「世界」三部作のひとつ。
    バラードが描く滅亡の情景、それは「滅亡」そのものであり、それ以上でもそれ以下でもありません。通常のSFに対してSF者が期待する、冒険もドラマも認識の変容もありません。ただただ、滅亡の風景が淡々と描き出されているだけです。

    この作品の特筆すべきところは、そんな「滅びの風景」が生命に満ちあふれていること。
    熱帯性の植物と爬虫類・鳥類に満ち満ちた、原初的な熱気に噎せ返らんばかりの地球。活気に満ちてはいるのですが、そこに人類の入り込む余地はありません。そんな世界の中、極地に生存の可能性を見いだす者と、世界の中で果てることを指向する者とが錯綜します。もぅ理屈の世界ではありませんね。
    ストーリーはあってなきがごとし、というかありません(断言)。この世界観にどっぷり浸れたらスゴく気持ちいいと思うんですが、鴨はどうしても登場人物に感情移入できず、並走したまま読了いたしました。そんなわけで個人的にはイマイチな読後感ですが、スゴく人を選ぶ作品ですので、気になったら是非読んでみてください。

  • 3/5 読了。

  • 読み終えるのにかなり時間が掛かった上に読み込めた気があまりしないけど。でも潜水シーンの美しさには本当にうっとりする。バラードもすごいが、翻訳した峰岸久さんもすごい。『燃える世界』は絶版でなかなか手に入らないので、次は初期の傑作と言われる『結晶世界』を読む予定だけど、僕は晩年のバラード作品が好みのようです。彼の遺作が翻訳させるまで過去作を読んでいこうと思います。

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