- 東京創元社 (2019年7月30日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (464ページ) / ISBN・EAN: 9784488629182
作品紹介・あらすじ
日中戦争中の上海。日英間の開戦を機に日本軍が上海のイギリス租界を制圧し、少年ジムは避難民の大混乱のなか両親とはぐれてしまう。独りぼっちになったジムは混乱する都市を彷徨う中、ほかのイギリス人とともに日本軍によって龍華捕虜収容所へ送られる。信用できる大人も庇護もないまま、飢餓、病、孤独、絶望に晒されながら、ジムは生と死の本質を学んでいく――スピルバーグによる映画化で知られる、二十世紀の歴史に名を刻むバラードの代表作を新訳決定版で贈る。
感想・レビュー・書評
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「クラッシュ」の原作の人くらいしかバラードには知識が無くて、スピルバーグが映画化したのを大昔観て今になって新訳が出たから手を出してみた。映画の冒頭で出てくる水葬される棺の位置付けが、原作では違うというか、原作を読んで数十年越しに意味が分かった。第二次大戦を経験した著者の自伝的作品ではあるものの、あくまで自伝的なSF作家の作品であるというのが感想です。
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上海の日本軍の外国人捕虜収容所時代の自伝的小説。
11才になったばかりの1945年12月8日、真珠湾攻撃があり、ほどなく上海の外国人は日本軍の捕虜収容所に収容される。収容から解放まで、ジム少年の11歳から14歳までの収容所での生活を描く。最後にはかなり大きく見えていた大人と背丈がほぼ同じになっているのに気づいて驚き、そうだ自分はもう14歳なのだ、という場面がある。日本式の学年に直したら小学校の5年生の終わりから中学3年の夏までである。
自伝でもかなり収容所のことはページをさいてあったが、小説になると肉体や街、土地の匂いが感じられ、特に銃撃で死ぬ中国人、日本軍、飢えや病気で死ぬ捕虜収容所の人たちが、日常のこととして少年の回りに満ちている。
自伝を読んでいたので、収容所では実際は両親と一緒だったが、設定は両親とはぐれて1人になったことにしている。捕虜収容所では大人たちの間では大人たちの事情があったにちがいないが、まだ11歳の少年にとっては大人の世界のことはよく分からなかったので、少年1人の設定にしたとあった。
「太陽の帝国」とは何なのか?
戦争が終わりそうになり、収容所からスタジアムへと向かう。そこで収容所にいた人たちが病気で死んでゆくなか、ジムは青白い光がスタジアムを覆うのを見る。それが「太陽の帝国」と題された章に書いてある。それは長崎への原子爆弾の光が見えた、となっている。
日本との戦争は終わったが、今度は中国共産党や国民党の戦闘があり、ジムは第三次世界大戦が始まったと思いこむ。
小説にしたことで、饒舌になったバラードの少年時代が現れた気がした。ジム~バラードにとって日本とはどういう存在なのか。ものごころつくころには日本軍が街にあり、ゼロ戦、ナカジマ、と物体としての飛行機が大好きなのだ。街中にある日本軍、事変ではなく本当の戦争へとじわじわと進む日常、まさに「旱魃世界」などの非日常化がじわじわ進む世界を生きてきたのだという気がした。
1984発表
1987.8.30初版(単行本) 図書館 -
救われた少年兵の中には新しい生活に馴染めず戦闘に戻っていく子がそれなりにいると聞くけど、その心理ってこういうことなのかもと思ってしまった。ジムは兵士ではなかったけれど親と離れて捕虜として収容されて、戦争の中でできることをなんでもやって生き延びた。幼さも賢さも全部使って適応して本当に想像を絶する。戦勝国の被害者の経験を読む機会は多くないけど戦争ってほんとに誰にとっても平等にひどいものだと思う。いまもあちこちでこんな暴力と残虐性に晒されてる人たちがいることも、私たちに迫ってくるかもしれないことも、本当に辛い。
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「言葉のほうが重要だ、ジム。毎日、新しい言葉をひとつ蓄えろ。いつかはわからんが、いずれ役に立つ時が来る」
降伏するには、勇気と、それなりの狡猾さが要る。 -
バラードの自伝的長編が文庫化。確か単行本は国書刊行会から出ていたんだよな。
上海で生まれ、太平洋戦争中は上海の民間人収容所にいたというバラードの体験が色濃く反映されている。決して美しいばかりではない上海という街や、主人公が両親と生き別れて収容所生活を始めてからの描写は真に迫るものがある。
また、子供らしい単純さと、逆に捻くれたところのある複雑さが上手く混じった主人公の造形は非常に魅力的だった。
これでバラードの邦訳書のほぼ全てが創元SF文庫で読めるようになった。後は新潮社から出ていたコカイン・ナイト辺りなのだが、これも復刊されないかなぁ……。
著者プロフィール
山田和子の作品
