未来からのホットライン (創元SF文庫) (創元推理文庫 SF 663-6)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (439ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488663063

感想・レビュー・書評

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  • シュレーディンガーの悪魔

     すばらしい。ここのところ、映画や書籍でタイムパラドックス関係に触れていたもので、ハードSFの作者がこれをどう描くのか興味があって手にとって見た。

     タイムパラドックスについては、アニメを題材にした簡単な解説がある。しかし、ノベライズとなるとこれが難しい。

     ノベライズ(小説化)する場合、それが特にSFである場合には、ストーリーの楽しさとタイムパラドックスに関する帳尻あわせが必要になる。このバランスをどの辺に取るかが作者の技量によるところだろう。

     「未来からのホットライン」は、まさに熱狂的ファンが多いホーガンがこのバランスに挑戦した作品だろうと思う。私も「星を継ぐもの」以来、ホーガンのファンである。どこがいいかというと簡単である。「あっと驚く結末」であり、「破綻のない帳尻合わせ」である。




     こっちのコメントが冗長になる前に今回の感想を書いておこう。まず最初から一気にのめりこんでしまった。いきなりマックスウェルという名前の猫が登場するのである。シュレーディンガーの悪魔が出てきてもおかしくない。このしょっぱなでホーガンの読者に対する挑戦が見て取れた。
    (シュレーディンガーについて簡単な解説はこっち)

     相変わらずホーガンらしく冗長さは残るし、小説としてのストーリーはきわめて単純。ウィルスや核融合を持ち出してはいるものの、その部分は薄っぺらい。飽くまでテーマはタイムパラドックスである。読者はどんな結末を用意しているのかを楽しみにひたすら読み進めることになる。

     後半に入ったところで結末(小説としての結末という意味ではなく帳尻あわせの結末)が読めてくる。その手があったか!と気づくのである。タイムトラベルに関して、私の経験ではこの手法を用いたものはない。

     過去を変えることで未来が変わる手法(これはあまりにアニメっぽいが映画で考えると「オーロラの彼方へ」はこの例だろう)、未来はやはり変わらない手法(これが多い)、そして過去を変えることでもうひとつ別の未来ができるという手法(これも多い)でパラドックスを克服しているものがほとんどだろう。

     「未来からのホットライン」で使われたのは、これらの手法のいずれでもない。考えようによっては未来は変わるし、変わらないと考えても正しい。登場人物に感情移入する必要はない。これまで誰も気がつかなかった超観察者の手法を用いているのだから。賛否両論あるだろうがこれは傑作である。

  • いいんですよ、とばしても……。
    だって、どんなに読み込んでもわからないものはわからないし。

    そう、ハードSFと呼ばれる科学系専門用語?の数多く出てくる本は、目が痛くなるほど凝視しても、ダメなんだ~私。

    じゃ、なぜ読むかって?
    面白いから!

    この物語だって、地球滅亡に抗う主人公たちの悪戦苦闘がパニック映画のように描かれていて、とても面白い。

    過去にさかのぼることで得られることと失うことの重さが、主人公の決断にのしかかるとき……さあどうする。

    ただ、ちょっとだけ????となったのが、ダメな私であるところ。
    残念!

  • 本格的(というのもおかしな表現だけど)な印象の作品。 前半は取っつきにくいのでエンタメ小説として読むにはあまりオススメはしない。 こういった時間モノが好きなら読んで損はないように思う。 時間線の移動に関しての描き方はとても面白いけどもう少し何か細工があるのかと思った。 しかし30年以上前の作品とは思えない。 詳しいことは知らないけどシュタインズゲートはこの作品の影響を受けてるんだろうなって感じ。

  • SFって面白いと、素直に思える作品。時間不可逆を翻す理論と、実験による検証。
    過去にメッセージを送るマシンの存在と、過去にメッセージを送ることで、変わる世界、では現在はどうなるのかというパラドックス。
    丁寧に論理は展開され、どんどん引き込まれるが、前半は物理わからないとどっちきにくいかも。

  • 物語は過去に情報を送る事ができるタイムマシンを軸に展開されていく。

    タイムマシンでの実験を繰り返しながら宇宙の在り方についての推論を進めていく過程は少々難解だったが 作中でのマシンの実験は実に興味深い。

    60秒後の未来から送られてきた情報を得て、敢えて彼等は60秒後に何もしないという選択をする。

    当然そうすると 送信したのはだれか?という矛盾タイムパラドックスが発生するが、彼等は敢えて問題を棚上げにして様々な実験を繰り返します。

    その結果、歴史改変は可能であると知りそれに宇宙はパラレルワールドではないことを突き止めます。

    歴史改変が行われた瞬間に、それまでの未来は塗り替えられ新たな未来として更新されてしまう。作中では時間線の再構築と呼ばれてましたが。

    まさになかったことになるというわけです。今作ではそこが辛いところ……。

    作中で起こるノストラダムス級のカオス事件はマシンのお陰で未然に防ぐことに成功しますがその代償が何とも切ない。

    マードックとアンのラブストーリーが世界中で起こり得るであろう悲劇の縮図であり、歴史改変によって何度も強制的な別れを強いられる二人の心境は涙腺を緩ませました。

    再構築された世界は以前の世界と然程変化は無い様に思えるが、その僅かな変化がもたらす影響が凄まじい。

    映画バタフライエフェクトを見たことがある方はそれを思い浮かべてみればわかると思います。

    バタフライ効果よろしく、なかった事になるという事実は時間を遡るほど世界の人々に深刻な影響を与えていく。更に人々はそれに気づくことさえ無い。

    歴史改変とは極めて罪深いものであり、バックトゥーザフィーチャー3のドクの判断も納得がいく心境です。

    SF最高!!

  • 【読了レビュー】大御所の著した時間SF。静かなる感動を呼び起こされ、鳥肌が立った。
    作中で述べられている「時間」についての概念は、今ではもう使い古されているものであるにもかかわらず、作品としての纏め方が綺麗で、やられました。
    今この瞬間に見ている世界も、消えていった時間線に懸命に生きた人々の、描かれなかった数え切れないストーリーを犠牲にして成り立っているという。
    こういう美観で世界を見るの、好きです。

  • 特に物語後半からの推進力がスゴかった。
    単純なタイムトラベルものではなく、制約がある中、過去の自分を信じて大切な情報をリレーしていく姿に心打たれた。
    友を世界を救うために過去を改変しようとする。
    そして運命の人には、どんな時間軸であろうと出逢える(出逢ってしまう)のが素敵だった。

  • 本作の原題:Thrice Upon A Time は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の英題に引用された。

    過去にメッセージを送ることができるマシンが完成した……という、それ何てシュタゲ?と今の若い人なら言いたくなるようなオープニング。2010年を舞台に1980年に出版されたホーガン節の時間移動SF。ホーガンといえば真っ先に思い浮かぶのが『星を継ぐもの』。これぞSF、というセンス・オブ・ワンダーとミステリー的な謎解き要素を併せ持った面白さは本作でも健在だ。

    こういった、過去に干渉して歴史を改変するという物語は、改変前の世界と改変後の世界が分岐してそれぞれが継続していくというパターンと、改変前の世界は消滅して完全に書き換わってしまう、というパターンがある。本作は後者であり、「世界線の書き換え」によって生じる様々な問題が、思考実験のように展開されて非常に面白い。たまたま人類の絶滅につながる2つのまったく別々の重大事件が発生し、過去にメッセージを送れるマシンによって救われるか?というのはちょっとわざとらしい展開にも感じるが、必然的に生じるタイムパラドックスも含め、このテーマに関する普遍的な問題を提示していて最後まで興味深く読める。

    美しいラブロマンスでしめる、読後感の良さはさすがのホーガン。あちらこちらで使い古されてしまった時間移動もののネタは新鮮味にかけるかもしれないが、今もって一読する価値のある名作なのは確かだと思う。

    新エヴァについては、なるほど……と今さら気づいた(英題は気にしてなかったニワカ)。

  • 最初の世界観や設定の説明が中々頭に入らず読むのに時間がかかったけど、そこをすぎるとスイスイ読めた。
    過去現在未来はすべて常に変化してるってまあ非現実的だけど、なんか不思議な感じがしてすきだなあ。

  • アメリカ人のロスは、タイムマシンを完成させたという引退した物理学者の祖父のもとへ、友人のリーと共にいく。
    まともに取り組むと、パラドックスもあり、なかなかに難しい。主に時間間通信によるタイムマシンが登場。科学の知識、素養ないて、なかなかに難しい。

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