暗闇のスキャナー (創元SF文庫)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (414ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488696092

作品紹介・あらすじ

どこからともなく供給される麻薬、物質Dがアメリカ中に蔓延していた。覆面麻薬捜査官アークターは、捜査のため自らも物質Dを服用、捜査官仲間にも知らさずに中毒者のグループに潜入し、彼らと日々を共にしていた。だがある日、彼は上司から命じられる。盗視聴機を仕掛け、アークターという名のヤク中を-彼自身を監視せよと。彼はその命令に従うが…。ディック後期の傑作。

感想・レビュー・書評

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  • ディックの中でも最高級に好きかもしれない。
    フレッドとボブが分裂していく様、震えた。

  • 今年も夏のディック祭。って夏終わりやがな。

    物質D(覚醒剤?)およびその他ドラッグで友人を失い、警察にマークされている事に気づいているにも関わらず、やめられないアークター。さらに、ホロスキャナーでマークする警察フレッドも、自然に追跡するためにドラッグを使い…。

    前半部分はドラッグによる幻覚と、マークする警察自体がドラッグをやっているという状況で、混乱する。中盤からアークターと仲間3人の話になってわかりやすくなる。

    その辺で、JJ72などであったような、ドラッグ自体で世界が変化するような雰囲気が出てくるが、後ほど薄々気づいていたような展開に。

    あとがき等で、ディック自身が自画自賛する作品ということだけど、正直なところ読みにくいし、SF要素よりもドラッグとスラングばかりの印象しか残らないので、なんかいまいちな印象だな。

  • うーん、最近とみにこの手の現実と妄想の境界があやふやで、死と暴力が隣り合わせのような作品が苦手だ。
    いろいろと忙しかったせいか、読書の体力が落ちてきているのか、自分の趣味嗜好にこだわりが強くなったのかはわからないが、苦行の読書だった。

    『時計仕掛けのオレンジ』のような世界で、そこまでの鋭さもなく、覆面麻薬捜査官である主人公の正体がばれようがどうしようが、どちらにしても自業自得ではないかと思えばもう、物語の先なんてどうでもいいような気になってしまう。
    なんか、ごめんなさい。

  • 落語の粗忽長屋という噺がある。門前で行き誰の死体を見つけた男、これは俺の友達だ、今呼んでくる、と駆け出す。家で寝ているところを「お前、門前で行き倒れてるぞ」と起こされた男、あわてて駆けつけると、あーこンなとこで死んじまうんなんて……帰って弔わなきゃ、と死体を背負う。で「背中に背負われてるのが俺なら背負ってる俺は誰なんでしょうね」というオチ。

    本来、粗忽者(おっちょこちょい)がお前、門前で死んでるぞ、と言われ、そう思い込むという話なのだが、そうじゃなくて、本当に死んでる自分を見つける話と捉えると、ゾワゾワしてくる。

    で、「暗闇のスキャナー」は、
    自分を監視するように命ぜられた潜入捜査官が、自分のスキャンされた映像を見ているうちに

    監視されてるのが俺なら監視している俺は誰?

    となっちゃう話。で、ドラッグのせいもあり、どんどん壊れて「まともな脳細胞が、せいぜいふたつくらいチカチカしている」状態となり、「残りカス」になっていく。

    その過程が痛本当に痛々しい。ただ、その合間に

    10段変速の自転車を前2段と後5段で7段しかない、後の3段は、盗みやがったな、と憤ったり、

    でっかいハシシの塊を人間の形に彫って内側にゼンマイ仕掛けで動かしたら、税関でバレない、

    とか

    「高さ3センチのメーラーマイクロフイルム社のビルの横、通っりかかったんだけどよー」「え?どうして気づくんだよ。そんな小さいビルに」「でっかい看板があんの」

    とか、

    最後の審判のときに読み上げられる罪は、やった順なの、重い順なのか、それとも五十音順なの?

    など、落語のようなジャンキーの与太話がダラダラ続く。

    PKディックが、「おれはこの小説の登場人物ではない。おれ自身がこの小説なのだ。」と書き、最高傑作との声も高い(PKD総選挙3位!)本書だが、大学生のころには、SFっぽさ、ディックっぽさが足りないなあ、と不満だった。まあ、30年たって読み直すと、このヒリヒリするすごさに引き込まれる。
    ここにはぐにゃぐにゃ崩れる現実はない、それはドラッグの幻覚でその代償はとてつもなく大きい。「ドラッグの濫用は病気ではない。決断だ。それも走っている車の前に踏み出そうとするような決断。」とあとがきで書く。

    山形浩生が解説で、
    「現実の強固さは、これまでの(そしてこれからの)ディックの作品とは一線を画している。ここには逃避できる別の現実など一切ないのだ」
    「この現実はつらい。残酷だ。しかもその残酷さは、主人公の決して知りえないレベルまで貫徹している。本書にあるのはそれだけだ。」
    というとおり。

    最後に本書がささげられた死んでいった友人、と不治の病の友人のリストが重たい。

    ただ、ジャンキーたちが、窓とにはさまった猫を助けたり、殺処分されそうな犬に芸を仕込んだり動物にやさしいのがいいんだよなー。

  • 「スキャナーダークリー」の原作。映画と原作のイメージが
    これほど離れていない作品も珍しいのではないだろうか。
    逆に言えば映画のスタッフが、いかに原作を尊重してそれを
    そのまま映像化しようと奮闘したかが、あらためてうかがい
    知れる。ただ作品自体はジャンキーの自伝であり、それ以上
    でもそれ以下でもないとは思うのだが。

  • [ 内容 ]
    どこからともなく供給される麻薬、物質Dがアメリカ中に蔓延していた。
    覆面麻薬捜査官アークターは、捜査のため自らも物質Dを服用、捜査官仲間にも知らさずに中毒者のグループに潜入し、彼らと日々を共にしていた。
    だがある日、彼は上司から命じられる。
    盗視聴機を仕掛け、アークターという名のヤク中を―彼自身を監視せよと。
    彼はその命令に従うが…。
    ディック後期の傑作。

    [ 目次 ]


    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  •  再読。前に読んだときは、なんとなく雑に読み流してしまったので。
     前回どうやら流し読みしてしまったのは、この訳文の「俗語調」にあるような気がする。女のことを「ナオン」なんて呼んだ時代もあったが、たぶん今では通用しないだろう。俗語調はただちに古びてしまうので、危険だ。なんとなくその「俗語」が耳慣れなくて違和感を感じてしまうと、よみにくく感じてしまう。だから『ニューロマンサー』も苦手だった。
     この小説は、作者P. K. ディック自身が「最高作」と呼んでいるのだが、いつもとは違うSFガジェットだらけのぶっとんだ展開でもなく、むしろリアリスティックな「麻薬中毒という悲惨」をひたすら描いている点で、ディックの異色作である。ディック自身がどうやら麻薬中毒に苦しめられたらしく、実際の作者の体験、あるいは身近な友人たちの人生のなりゆきが反映されているから、こういうリアリスティックな物語になったのだろう。なるほど、では、ディックのSF小説特有の「現実崩壊」感覚は、簡単な話、ヤクによるものなのだろうか。
     本作で「現実崩壊」が始まるのは主人公である覆面麻薬捜査官が、ジャンキーたちと暮らすうちに自らもヤク漬けになり、また、「自分自身を監視する」という妙な職務を命ぜられたこともあって、自我分裂的な現実感覚の崩壊をきたす。そのへんの経過はやはりスリリングで、ディックらしい。ただし、「右脳と左脳というふたつの独立した脳のあいだの連結が崩壊することで、ゲシュタルト統合がなされなくなってしまう」という説明は、少なくとも現在の脳科学では間違っているような気がする。
     いつもの三流SF的な安っぽいガジェットが本作では少ない。「完全に現代」のリアルな世界とはちょっとだけ違う世界を描いているので、おおがかりなSF的飛躍がない。
     その点で、この小説は一般のディック・ファンにはさほど好かれていないのではないだろうか?
     麻薬中毒の世界の恐ろしさをディックは訴えようとしたようだが、どうもそのへんは成功したといえないような気がしている。現実の麻薬中毒の恐ろしさをえがくなら、やはり「完全に現実的な」舞台で物語るべきだったろう。
     けれどもここにある「現実崩壊」の感覚は、やはりディック的な「悪夢」の一典型であることもたしかだ。

  • 読むきっかけ・期待:PKD一冊目はひねくれにひねくれて選ぶならこれがいい、というオススメをされたから。
    感想:実際ちゃんと読むのははじめてのPKD。物語は主人公の意識混濁に従いぐねぐねと韜晦。そんな中、ちらりと楽しい時間があったことが語られるのが切ない。物語が終わったあとの献辞で著者の実体験とのリンクが明かされると、著者自身の友人への哀切な情が深く伝わってきます。体験者による重い重い反ドラッグ小説…だと思うんだけど…

  • 誰もがなにか痛みとかなしいことを抱えていることをかんじて、何度も苦しくて泣きそうになる。ディックの中でいちばんセンチメンタル、だけど好き。すごく好き。

  • 数年前に買ったにもかかわらず、未だ読んでません。映画化とかされてないんですか?そうですか。

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