時間封鎖〈上〉 (創元SF文庫) (創元SF文庫 ウ 9-3)

  • 東京創元社
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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488706036

感想・レビュー・書評

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  • 読了。Kindle版がないので紙で。地球だけが何らかの存在によって時間の流れを1億分の1にされてしまったという異常事態が発生したら…というぶっ飛んだ設定ながら、それによって起きるであろう事柄がリアリティを持って描かれる。これぞSFというところだが、ハードSFかというと、その現象を実現するメカニズムが地球外の技術であるということ以外最後まで全く説明されないのが逆にすごいと思った。作中では出てこなかったけど、これが現実に起きたら、「ちょっとタイムトラベルしてくるわ」とか言ってスピン膜の外に数時間だけ滞在して帰ってくる実験をするヤツはでてくるだろう。
    ストーリーは、ラストシーンにつながる流れと、そもそもの発端から順に起きたこと描く流れを交互にならべる手法で先がどんどん気になる設計になっているので一気に読んでしまった。そして大団円と思わせて三部作の1作目だったとは…。

  • その日、すなわち空の星が全て消えたその日、少年タイラーは、遊び友達にして双子の姉弟ダイアンとジェイスンと共に夜空を眺めていた。後にスピンと呼ばれる暗黒の界面が突如として地球を覆い、夜空の星々を消し去ったのだ。そして、スピンは地球の時間をも封鎖してしまう。なんと地球で流れる時間は宇宙の時間の1億分の1の速度になっていたのだ…

    ヒューゴー賞に輝く本書は、とても読み応えのある傑作でした。空から星が消え去り、偽の太陽が昇る。地球だけが遅々とした時を刻み、太陽は急激に膨張。人類存続の危機が訪れる…設定はまったく異なりますが、なんだか年初めに読んだ「異常」を思い出しました。どちらも人智を超えた異常事態に放り込まれた人間の挙動を精密に描く、という点で共通したテーマだと思いますが、本書の方がスケールが壮大で、事象を追求し一定の結論を導いており(すなわち投げっぱなしではない)、個人的には好みです。
    こういうテーマってSFでは古典的なのかもしれませんが、ドキドキワクワクして、おもしろいんですよね。

    本書では、主人公タイラーと物語の中心人物のダイアンとジェイスンを少年期から緻密に描きます。不思議だったのは、読み進めるほどに少年時代の彼らのエピソードを思い返されるんですよね。スピンが彼らの人生を変えた、とは作中でも指摘されますが、スピンが発生しなかった場合の彼らをどこかで求めてしまっているのかも知れません。

    オチのインパクトはそこまでありませんでしたが、それでも過去(スピン時代)と現在(ポスト・スピン)を交錯させ、クライマックスに仕上げる構成はお見事の一言。3部構成のようですので、2部も3部も読んでみようと思った傑作でした。

  • 面白いです!これぞSFですね。地球を覆う謎の膜スピン、三人の少年少女の成長物語。葛藤、難病との戦い。そして火星のテラフォーミング。迫り来る終末にどう立ち向かうのか?そして結末は・・・・少年の日々はその後の人生のそこそこで顔をだして、生まれの身分の格差を埋める。人類の存亡の影に、個々人の生活が描かれていて読ませます。下巻いきます。

  • 「実をいうと、ああいう小説を読む最大の楽しみは、描写される風景にあるんです。そう思いませんか?にもかかわらずえ、すべての風景は自在に変化してしまう。砂丘をひとつ越えるたび、新たな運命が待っている、といった感じで」(下巻47ページ)これはある火星人の言葉だが、まさにそれこそ小説を読む楽しみだと思うし、作者自身がそうした小説を愛してやまないのだろうと想像させられた。

    文庫版の文字サイズが微妙に小さいが、一気に読んでしまう面白さ。

  • 読みだしたら、なんだか読んだような感じがした。いくつかの場面の記憶はあるが、再読でも面白かったからいいや。タイラーはダイアンとジェイスン姉弟と小さい頃から一緒に遊んでいた。彼らの家は大きくお金持ちで私立学校に通い、タイラーは公立学校に通っていた。それにタイラーの家は彼らの家の庭の隅に立ったプレハブだ。母親が彼らの家の家政婦をしているから。それでも彼らはいつの一緒だった。あの日、夜空から星々が消えてしまった時も。地球の周りを膜のようなものが取り巻いて、地球から星々を隠し、太陽の光の代わりの光を提供する。ただそれだけではなかったのだ。

  •  物語の起点となる現在は、なんと西暦40億年。

     大きな物語。突然地球のまわりに障壁ができ、星も月も見えなくなり、偽物の太陽が天を回り出した。その障壁とは時間の勾配であり、地球上の時間経過は1億分の1に減速され、地球からみると宇宙は1億倍のもの凄い速度でスピンしているような状態になった。よってこの障壁を人々はスピンと呼び、それが本書のタイトルとなっている。それを訳者は「時間封鎖」と訳したわけだが。
     時間の勾配により地球上には1億倍のエネルギーが降り注ぐことになるはずだが、スピンがフィルターを掛けており、地球上には従前と変わらぬ生活があった。しかし、地球上で1年のあいだに太陽は1億年の年をとり、太陽が巨星化して地球を飲み込むのは、地球上からしたら文字通り数十年という時間の問題である。さあ、人類はどう生き残りをかけるのか。人類にこのような仕打ちをした存在は何者か。

     小さな物語。ぼく、タイラー・デュプリーの父親はE. D. ロートンの親友だった。E. D. は成功をつかんで富豪となるが、〈ぼく〉の父は夭折してしまう。ロートンは〈ぼく〉の母親を家政婦として雇い、〈ぼく〉はロートン家の双子の姉弟、ダイアンとジェイスンとともに育つ。E. D. の期待を担ったジェイスンは天才。やがて、人類を救う科学者の枢軸を担うようになる。〈ぼく〉と彼との友情。〈ぼく〉はE. D.の援助で医学の道を進む。他方、E. D. にとってダイアンは添え物。彼女はスピンの恐怖に目を背け、新興宗教団体にはいっていく。〈ぼく〉とダイアンのもどかしい恋愛感情。姉弟の母キャロルは酒に溺れ現実逃避している。

     ジェイスンの属する政府組織は、宇宙と地球との時間差を利用して、火星に人類の種をまく計画に取り込むが、医務官の〈ぼく〉は、病魔に冒されたジェイスンを秘密裏に治療する。
     人類とロートン家の危機。それを語るのは、地球外の時間として西暦40億年の現在にいる〈ぼく〉。もうジェイスンはいない。ダイアンと行を共にする〈ぼく〉は何かから逃げ、そして何やら危険な薬を使おうとしている。そして現在の〈ぼく〉たちにも危機が迫る。

     人類レベルの話をどの視点から記述するかというのは、読者がどのように感情移入できるかという点からして重要であるが、人類とロートン家と現在の〈ぼく〉たちの直面する危機、スピンの物語とジェイスンの物語と〈ぼく〉の物語、こうした重層的叙述が見事に成功している。イーガンの『宇宙消失』と設定が似ていることが指摘されるが、まったくタイプの違う小説である。
     上巻だけでも相当に面白い。この三層の物語が後半でよりあわされていく。そしてだんだんと感じてくるのは、数十年後に地球の終わりを設定された世界にあって、諦念と自暴自棄のあいだで揺れながら日常を送る人々の物語とは、政治・経済・環境、あらゆるところで閉塞している現代社会のアリュージョンではないかということである。ウィルスンは希望を描くことができるのか。

  • SFの面白さてんこ盛り

  • これは、かなり、面白い!!

  • 2012年11月 05/90
    あまり読んだことはないジャンルのSFですが、レビューが気になり読んでみました。めちゃおもしろい!はまって、とりあえず著者の作品をいろいろと買うことにしました。

  • ずばり申し上げましょう。
    SFファンの方、これは読んでも損はないでっせ!

    RCウィルスンという方は、SFを舞台装置に、人物関係の描写をしっかりされていることが特徴です。これはほかのRCウィルスン作品全体に言えることです。

    特に親友のジェイスンとのラストはぐっときます…
    ちなみに、こちらには上下巻に加え、続編もあります。
    この世界にハマった方は、長く愉しめる土壌がありますよ 笑

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