殺人者の空 (山野浩一傑作選Ⅱ) (創元SF文庫)

著者 :
  • 東京創元社
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本棚登録 : 74
感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488740023

作品紹介・あらすじ

私は内通者Kを殺害した。死体は仲間たちによって埋められ、事件の痕跡は完全に消去された。その後警察が捜査を開始するが、その結果明らかになったのは、Kなる男がどこにも存在しないという事実であった…。非在の男がもたらす不安が"殺人者"を思わぬ結末へと導く表題作ほか、幻の単行本初収録作「開放時間」「内宇宙の銀河」など、著者の真骨頂ともいえる傑作9篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 傑作選の第2巻。こちらも再読。
    1巻と2巻を比べると、不条理さというか、ワケの解らなさというのはこちらの方が強い。安部公房が一番近いような気がするが、『S』や『K』といった記号的な固有名詞の使い方は倉橋由美子を思わせるところもある。
    しかし、好みかどうかで言う話をすると、巻末のあとがきで著者本人が下した評価がイマイチな方が好きだったりもw

  • 実はあんまり期待してなかったんですが、読んだらなかなか面白かったです。
    書かれたのが1970年あたりなので、今読むと風景も懐かしいようなクラシックなような、その懐古的な雰囲気と、閉塞したSF設定がマッチしていて今のSFにはない味があります。
    「メシメリ街道」はなんだか不思議な音感のタイトルといい、不条理な雰囲気といい、小松左京っぽくもあります。
    「開放時間」は、タイムマシンができちゃったら目的を失ってしまう人々の姿が面白いです。SF作家が宗教家になってしまうのも皮肉です。
    「Tと失踪者たち」は、突然消えていく人類消滅の日を淡々と描いてますが、虚無感あふれるラストといい、好みです。
    表題作「殺人者の空」は、学生運動を舞台に、不条理な殺人事件が起こります。自分の殺した男は誰だったのか。しかしこれは正当な殺人なのだ…と逡巡する主人公の辿る道は。これも面白かったです。
    この作者の傑作選の1も読んでみたくなりました。
    (なぜか2を買ってしまったので)

  • 2014/11/10購入

  •  作者本人による自信満々の解説は楽しいのだが、本文そのものはどうしても難解で理解できない。何回か読まないとだめなんだろうか。要するにどこが面白いのか「さっぱり」わからない。展開は非常にスリリングで、いったいどうなるんだろうと思うんだけれど、オチがまったく意味不明。この短編集でも同じ感想だ。

     途中の作品から、オチが面白くない方向でこうなるんだろうってな予感ができるようになる。その通りのオチになるんだが、面白くない。私には理解できない、久しぶりの小説だなぁ。

    作品は以下の通り。

     「メシメリ街道」「開放時間」「闇に星々」「Tと失踪者たち」「φ」「森の人々」「殺人者の空」「内宇宙の銀河」「ザ・クライム」

  • 創元SF文庫の山野浩一傑作選の2冊目(2冊で終了)。
    「メシメリ街道」 恋人の家に行こうとしたら謎の道路が出現。多少シンプル過ぎるがかみ合わないシュールな会話がおかしい。
    「開放時間」 21世紀に入り人類は開放時間の世紀に突入。山野流時間SF。独特の高揚感の無さが味というかなんというか。いわゆる普通のSFだがところどころ著者らしさが。
    「闇に星々」 未来を舞台に駆け出し作家がテレパスに会って遭遇する出来事。なんとなくモチーフは初期ディレイニーを思わせる。「開放時間」もそうだけど普通のSFの方が冴えなくなる印象。
    「Tと失踪者たち」 徐々に人々が消えてしまい社会は次第に崩壊する。こういったシンプルな話は著者に多い気がするが、通常のパニックSFだと俯瞰的な視点で描かれるところを個の視点からアプローチしている点が現代的。しかも個の視点でありながら人間や人類あるいは実存といったテーマに広がっていくところが素晴らしい。やはりSF作家らしい捕らえ方だと思うんだよね。
    「φ(ファイ)」 ファイになった旧友を訪ねる話。これもSFらしい作品だが後期のものでタイトル通りに虚無感が漂う。
    「森の人々」 森を歩くうちに、伝説のような存在である森の人々が実在することを知る。幻想的なショートショート。いいよ、これ。
    「殺人者の空」 加熱する学生運動の最中、内通していたKを殺害してしまう主人公。途方もない世界へと入っていく終盤がすごい。深く理解できていない気がするが傑作だろう。
    「内宇宙の銀河」 「ある日私は、道端にうずくまることを覚えてしまった。」という秀逸なツカミから始まるシュールSFでこれまた終盤の加速度が圧倒的で鮮烈なイメージ。翻訳者の増田まもるさんが<バラードにおける加速度>の話をしていたことを思い出した。
    「ザ・クライム(The Crime)」 山岳幻想小説、だろうか。ちょっと内容はⅠの「霧の中の人々」と重なるか。他の登場人物もいるけど基本的に孤独に山登りをする描写が続く半紙だが、次第に(これまた)著者らしい深遠な世界に入っていく。これも傑作だなあ。山登りの人に不評というのはたしかで、ネットで山岳小説ファンが低い評価をしていのを読んだことがある(あまりSFとか読まない人のようで、それはそれで偉いなと思ったけど)。

     2冊通して読んだのでボリュームがあったな。上下のうち完成度の高い7~8作を1冊に集めた超絶な傑作集になった気もするが、まとめて多くの作品を読むことによって気づく面もある。あらためて好企画を実現してくれた東京創元社に拍手。

  • 山野浩一傑作選のその2。『鳥はいまどこを飛ぶか』と比べると少し時代が後のものが多いのかな。より思弁的で幻想的な内容ヘとシフトしているのが作風の変化として印象的。収録作だけでなく、その掲載順にも配慮が施されているため、二冊併せて作家・山野浩一ヘの入門編として最適。「あとがき」での著者自身による自作への冷静なツッコミも愉しい。

    「メシメリ街道」、「内宇宙の銀河」、「ザ・クライム(The Crime)」がお気に入り。

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著者プロフィール

1939年大阪生まれ。関西学院大学在学中の1960年に映画『△デルタ』を監督。1964年に寺山修司の勧めで書いた戯曲「受付の靴下」と小説「X電車で行こう」で作家デビュー。「日本読書新聞」や「読書人」のSF時評をはじめ、ジャンルの垣根を超えた犀利な批評活動で戦後文化を牽引した。1970年に「NW―SF」誌を立ち上げ、日本にニューウェーヴSFを本格的に紹介。1978年からサンリオSF文庫の監修をつとめ、SFと世界文学を融合させた。血統主義の競馬評論家、『戦え! オスパー』原作者としても著名。著書に『X電車で行こう』(新書館)、『鳥はいまどこを飛ぶか』(早川書房)、『殺人者の空』(仮面社)、『ザ・クライム』(冬樹社)、『花と機械とゲシタルト』、『レヴォリューション』(以上、NW―SF社)、『山野浩一傑作選』(全2巻、創元SF文庫)、『SFと気楽』(共著、工作舎)ほか。2017年逝去。没後、第38回日本SF大賞功績賞を受賞。2022年1月には、『いかに終わるか―山野浩一発掘小説集』(岡和田晃編、小鳥遊書房)が刊行された。

「2022年 『花と機械とゲシタルト』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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