盤上の夜 (創元SF文庫)

著者 :
  • 東京創元社
3.82
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本棚登録 : 692
レビュー : 80
  • Amazon.co.jp ・本 (333ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784488747015

作品紹介・あらすじ

第33回日本SF大賞受賞作。第1回創元SF短編賞で山田正紀賞を贈られた表題作にはじまる全6編。囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋……対局の果てに、人知を超えたものが現出する。2010年代を牽引する新しい波。解説=冲方丁

感想・レビュー・書評

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  •  囲碁、将棋などの盤上・卓上のゲームをめぐって起こった奇跡が語られる短編を6編収録。

     SF的なガジェットはいくつか出てきますが、そこまでSF色というものは強くなく、ゲームを通して人間の可能性を描いている作品が多い印象を受けました。

     ゲームというのは極限まで人間の集中力を高めるものだと思います。将棋での名人戦なんかの映像を見ていると、「この二人の世界では今自分がいる世界とはまったく違う世界が見えているのだろうな」と思う時があります。この小説はそんな世界の一端を凡人である自分にも、ほんの少しそれに似たものを覗かさせてくれたような気がします。

     そしてこの小説はその世界のさらにその先を暗示しているようにも思います。表題作『盤上の夜』では四肢を失った女性棋士が登場します。彼女は囲碁に打ち込むことになるにつれ囲碁盤を感覚器のように感じ始めます。そしてその先の彼女がたどり着いた世界は、凡人には想像もつかない世界だったと思うのですが、そこにたどり着くことのできるヒトの可能性についても思わされました。

     人とゲームの関係や惹かれる理由についても思うところがいろいろと出てくる本です『人間の王』は天才チェッカーとコンピュータの対決をテーマとした話なのですが、最強チェッカーの孤独や虚無をチェッカーというゲームの終焉と絡めて描かれていて非常に読みごたえがありました。短編ながらなんと濃密なのでしょうか……

    『像を飛ばした王子』では古代インドを舞台に盤上ゲームの起源が語られます。

     どこまでが史実かは分からないのですが、宗教の教えと盤上ゲームに一つの共通点を見出している点が非常に興味深かったです。そして同じ共通点があってもそれの向かう方向性が違う、と主人公が悟る点が印象的でした。

    『千年の虚空』では一人の悪女とも呼べる女性が登場。歴史の完全解、ゲームを終わらせるゲームという大きなテーマに挑みながらも、最後に一人の女性に収束していくのが、なんとも印象深く思いました。

     最終話では『盤上の夜』の登場人物が再び登場。大局の場面は自分の頭の中で違う世界がぐるぐる回っているような不思議な印象を受けました。

     この本のすべてを読み取れた、とは正直思えません。たぶんこれから先、何度か読みなおしてもそう思えることはないと思います。ただこの『像を飛ばした王子』の中で盤上ゲームについて「簡単で、時間とともに規則も変わり、そして奥深くなければならない」と書かれています。この本も読みやすさ、再読した時の印象の違い、そして奥深さを兼ね備えた、作中の最初の盤上ゲームのようなこれから自分の中で形を変えていく本だと思いました。

     また、この本を読んで改めて人の想像力のすごさを感じました。宇宙船が飛び、クローン技術やインターネットの登場と、時代は進み科学技術も進歩し続けています。それでも、人の、そして文学の想像力は、まだまだその先の世界を見せてくれるということをこの本は証明してくれたと思います。新しい時代の文学として、この本はますます注目されていくのではないか、そんな予感も持ちました。

    第1回創元SF短編賞山田正紀賞受賞作『盤上の夜』収録
    第33回日本SF大賞
    2013年版このミステリーがすごい!10位

  • 不思議な感覚。昭和の古臭い劇画タッチの漫画を読んでいるような気分になる。

  • 「ボードゲーム×SF」ということで、一体どんな話なんだろう、と気になっていた一冊。文庫版が出たということで読んでみた。

    「ボードゲーム×SF」といえば「人間×コンピュータ」という構図が思い浮かぶけれど、この作中でもそれは度々現れる。
    現実世界ではそれは「人間VS人工知能」とか「有機物VS無機物」とか、「ヒトの作りしものがどこまでヒトに迫れるのか」とか「ヒトは自らの生み出したものに対してどこまで矜持を保てるのか」とか、そういう構図で描かれているのではないか、と個人的には思ったりする。
    けれどこの作中では、それが「創造主VS被造物」という構図にまで拡大されているのだ、と思った。

    ある一編ではゲームが生まれる瞬間を描き、ある一編ではゲームが滅びる瞬間を描き、またある一編では神憑りの絡繰りを暴き、またある一編では人の生きざまを力強く指し示したりする。
    解説にもあるけれど、「神」的なものの視座、または存在をはっきりと意識する読書経験だった。
    読み終えてみると、ルポルタージュ的な書き方で、語り手が観察と記録に徹しているのも効果的だと納得した。小説的に言う「神の視点」ではないけれど、その言葉以上にその意味を体現しているのではないかと思った。

    盤を挟んで繰り広げられる戦いはとても静かで、極めて思考的だ。

    SFは想像の文学であり、神は常に静かで、そして思考的だ。

    よくよく考えれば、SFとボードゲームは、実は極めて相性が良いのかもしれない。

  • これはSF?
    残念ながら囲碁も将棋も麻雀も知らない私は、凄さを表現する方法がこんなにあるとは!と本筋とは違う所で感心してしまいました。
    『象を飛ばした王子』まで読み進めた時に既視感が。萩尾望都版の百億の昼と千億の夜、に仏陀の出家シーンありましたよね?原作の光瀬龍版にもあったのかな?そう思い始めると、登場人物が萩尾望都さんのタッチで動きだし、あぁなるほど結局脳の問題になるあたりがSFなのねと一人納得。静かな語り口調なのにドラマチック、非常に鮮烈な印象の残る作品集でした。

  • 創元SF短編賞 山田正紀賞、日本SF大賞受賞作を表題作とする短編集。
    収録作はどれも囲碁、将棋、麻雀など、『盤上』で行うゲームを共通軸としている。特にルールを知らなくても読むのに不自由はしない。
    ジャンルとしてはSFではあるが、非常に『創元らしい』SFだと感じた。

  • 囲碁、チェッカー、麻雀、将棋などの遊戯を中心に、それに関わる人間の生き様や人智を越えたものを炙り出すSF短編集。全編通してドキュメンタリータッチの記述形式で描かれ、それぞれの視点から奇妙な物語が浮かび上がってくる。どれも個人の物語から世界を越え、盤上遊戯が抱える命題まで拡散していくが、物語としての骨子がしっかりしているため、非常に読みやすい。扱われている遊戯に馴染みがなくても楽しめるのはやはり土台がしっかりしているからだろう。四肢欠損の代わりに囲碁盤を感覚器に代替し、神の領域に近づく少女を描いた表題作『盤上の夜』は異形ながらも美しく、どこか物悲しい。チェッカーというコンピュータによって完全解が出された遊戯、それに対して挑む男の姿を極限まで掘り下げた『人間の王』は個人的には一番面白かった。滅びゆく二人零和完全確定情報ゲームという題材は、未来に近づくにつれ滅んでいくSFと重なるものがある。それでいて、ゲームを終わらせる機械の存在理由や、いずれくる敗北を予期しつつも挑まざるを得ない人間の王になった男の物語など、掘り下げがとにかく素晴らしかった。将棋の電王戦に対して興味があったり、その行為に疑問を抱いた人なら楽しめるだろう。魔術としか呼べない打ち筋をする現代のシャーマン、代打ちを営む闇のプロ、天才と称されるサヴァンの少年。シャーマンの女に恋い焦がれ狂気に身を落とした凡人の医者、それらが対局する『清められた卓』はバトルロイヤル的な面白さもさることながら、魔術に対抗するための様々な作戦や心理戦、麻雀を魔術で翻弄する女の秘密に迫るというミステリ的な読解の楽しみなどもある。最後その謎が明かされつつ、それでいて亡国の遊戯と言われた麻雀の本質にまで迫る様は読んでいて震えを感じるほどで、とても贅沢な作品だった。他の短編も傑作であり、人間の飽くなき探究心や真理に迫った素晴らしい短編集である。

  • 遅まきながら著者のデビュー作を読む決心がつき、文庫版を手に取りました。
    不勉強で将棋以外のボードゲームのルールをまともに知らなかったこともあり、囲碁など多様な遊戯をテーマに扱う本書に、少しハードルの高さを感じていたというのもあります。

    しかし実際に読んでみると、ジャンルレスで独特な視点から語られる、予想のつかない文章展開に引き込まれます。

    本書解説にて冲方丁氏が評していますが、本書の作品の特に素晴らしいアイデアはやはり、文章の語り手として設定されているジャーナリストにあると思います。

    囲碁、チェッカー、麻雀…など、それぞれの遊戯で人生を懸けてきた人間達に迫り、彼らが盤上の次元を通して到達しようとしているこの世界の極北を時に垣間見ながらも、最後には現実との境目を見失わずに記事としての体裁を仕上げています。同時に、記事を書いている個の人間としての心情や価値観が文章に奥行きを持たせ、かといって独立したキャラクターとしてあまり色を出し過ぎることもなく、まさにジャーナリストらしい冷静な文章に留まっているのが、今回の作品にとっては最適な文体だったのでしょう。

    個人的に『象を飛ばした王子』と『原爆の局』がお気に入りです。

  • 草場 純さんとの対談を読んでから、ずっと読みたいと思っていた1冊です。

    もう、シビれるぐらいかっこいいのです。
    なんだろう、このかっこよさは。

    話自体は、実は全部、地味です。
    でも、全部、くるものがあります。

    特に、「象を飛ばした王子」の話を読んだときは、叫びそうになったぐらいです。

    それから、「千年の虚空」で、もう1回、ゲームの完全解の話をへて「原爆の局」でこれまでのお話のすべてをまとめていくの流れが、なんというか完璧だと思います。

  • 四肢無き少女が辿り着いた前人未到の碁の境地、AIにより終わったゲームチェッカー最後の人間の王、闇に葬られた競技麻雀の異常な対局、チャトランガを産んだ小国の王の歪み、量子歴史学と将棋という異なる方法で世界を変えようとした兄弟。ボードゲームにまつわる短編集。

  • 囲碁・将棋・チェス・麻雀等の盤上遊戯を題材とした短編集。
    異色の作品であると思う。
    扱うゲームも多岐にわたるが、登場人物もを四肢を失った女流棋士、AI、現代のシャーマン、古代王国の王子等多彩である。
    人間の思考実験装置であるゲームを極めた人々の垣間見る世界は、神話的な世界と言ってもいいかもしれない。

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著者プロフィール

宮内悠介(みやうち・ゆうすけ)
1979年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部英文科卒業。2010年囲碁を題材とした短編『盤上の夜』で第1回創元SF短編賞山田正紀賞を受賞、各種盤上ゲームの連作短編として2012年『盤上の夜』で単行本デビュー。第33回日本SF大賞受賞、第147回直木賞候補。2013年『ヨハネスブルグの天使たち』で第149回直木賞候補、第34回日本SF大賞特別賞受賞。2016年『アメリカ最後の実験』で第29回山本周五郎賞候補。「カブールの園」で第156回芥川賞候補。同作で2018年第30回三島由紀夫賞受賞。『彼女がエスパーだったころ』で第38回吉川英治文学新人賞受賞。『あとは野となれ大和撫子』で第157回直木賞候補。2017年「ディレイ・エフェクト」(『文学ムック たべるのがおそい』 vol.4)で第158回芥川賞候補。

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