数学は言葉 (math stories)

著者 :
  • 東京図書
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784489020537

作品紹介・あらすじ

困ったことに、数学語は数学や科学だけで使われている言葉ではないのです。論理的とよばれているありとあらゆる分野で、数学語が共通語として使われているのです。というわけで、この本の目的は、「数学語を第二言語として身につける」です。言語の本ですから、「ナマモノ」の数学に出てくる補助線の引き方やつるかめ算など数学技能については勉強しません。三平方の定理やオイラーの公式のような有名な定理もやりません。その代わりに、数学の文法と和文数訳、数文和訳、そして数学の作文法を勉強します。

感想・レビュー・書評

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  • 正しい題名は「数学の言葉」.
    日本語で書かれた数学の命題を数文(論理式)に直す練習.そのために必要となる,定義とは何か,命題とは何かなどを丁寧に説明している.大学1年生くらいを対象に書かれた本のようだ.

    確かに命題から論理を抽出することは大切だし,それをメインに据えた本はなかったかもしれない.こういう話題を選んで,一般向けにやさしく語りかける著者の能力には感心するし,軒並み高評価のレビューにも一理ある.
    ただ,私としては少し気になる部分があるので,ここに覚えのために書いておく.(ちょっと長くなる).

    一つ目は日本語の論理記述能力を英語より低くとらえている点.これは正しくない.日本語でもいくらでも論理的で誤解のない文章を書くことは可能.それにはある程度訓練がいるし,書きたい内容がクリアになっていなければいけないけれど,それは英語でも同じことだろう.論理をはっきりさせるためには日本語では通常の言い方にない特殊な言い方をしなければならないことを日本語の限界としているような主張がある(p.125) が,英語でも同じこと.数学の本,論文では通常使わない言い回し such that が頻出する.英語の方が論理式にすんなり直せると書いているがそれは当たり前.数学の論理式自体が英語の発想で作られているのだから.

    次.命題を論理式に直すのは論理的に筋の通った証明を書くことが目的であろう.そうすると命題の真偽があらかじめわかっていないと(あるいはその主張がわかっていないと)論理式に直せない命題は練習としては本末転倒ではないかと感じられる.例えば,例題3.2.2 と3.2.3の違いは「が」と「は」の違いでなくて,与えられた方程式がどれだけの解を持つかあらかじめわかっていないとこの違いが出せない.もちろん,多くの命題が読者のレベルを想定した上で省略による曖昧さを含むのは事実だけども,それはもう少し上の段階のことの気がする.

    「大学初年級の数学の証明の7割は,命題にあらわれている論理結合式に従えば機械的に証明できる」という著者の大風呂敷には非常に違和感を感じる.これは「論理と集合」だけの話.大学1年の数学といったら,分野にもよるだろうが理系だと「微積分」と「線形代数」だろう.そこでの証明問題で論理式で書いただけでとけるものが7割あるとは到底思われない.論理式は証明の大枠を与えるだけでその中身を書くには別の知識とそれを活用するトレーニングが必要だと思う.

    というわけで著者の能力には敬意を払うものの,読者サービスのためか少々やりすぎな部分があるのが気になった.

    後は,細かいところ.
    p. 183 ポアンカレの定理 --> ペレルマンの定理?
    p. 184 ワイエルシュトラウス --> ワイエルシュトラス
    p. 190 例題 6.3.1 解を求めよといってるんだから,解であることは確かめないと.
    p.197 「この同心円をつないで渦巻き状の曲線を作る」はまずいのでは.
    p.216 証明の下から4行目.ここで理由になるのは「pとiが互いに素である」こと.

    たくさん書いてしまったけれど,著者の語りのうまさは他の数学者にはないもの.それには本当に感心する.

  • Math Storiesというシリーズの1冊。
    なぜ日本語では数学を理解し難いのかという疑問を起点にして、数学の基本を貫く言語である「論理学」の世界を解き明かしていきます。
    本書では最終目的は数学の基本である「証明」の解明方法の共通する部分を認識すること。構成は以下のとおりです。
    1.論理学を構成するすべての論理記号を確認する。
    2.日本語で記述された命題を論理記号に置換する。また論理記号で展開された論理を日本語で把握し直す。
    3.論理記号で表された命題について、その形式ごとに証明のテクニックを確認する。
    こうした段階を一歩ずつ踏むことによって、一見どこから手をつければ良いかわからないような証明問題でも、論理に導かれるように問題を溶けるようになるという算段です。
    数学を構成する論理の根本はこんなに簡単な構成であったのかということに目から鱗が落ちました。「または」「かつ」「全ての…」「ある…」といった最小限の論理を細かく積み重ねることによってあの巨大な体系が出来ているのかということを考えると、数学が古代ギリシャから脈々と積み重なる叡智の結晶であることが改めて実感されます。そして数学の基本的な論理と背理法や数学的帰納法などのいくつかのテクニックについて、例題を解きながら触れていくことで私たちにも「数学する。」ということに慣れていくことができました。(超ド文系の私にはそれでも理解が追いつかなかったりする部分はありましたが。。。)一見超複雑な論理で彩られた数学の世界の土台の部分をしっかりと確認することで、私たちにもこの世界にかじりつく感覚を少しだけ味わうことができた気がします。
    また、今回は数学と言語を結ぶものとして論理学が用いられ、最終的には数学の問題を解くための話につながりましたが、テクニカルライティングの場でも本書で掲げられた和文数訳は役に立つものかも知れません。日本語の文章を厳密な論理のもとで書く必要が有る場合は、論理記号と日本語の相互置換のもとで文章を書き進めていくと良いかもしれないと感じました。

  • わかりやすい。時間をかけて読めればもっと理解できそう

  • 2020/11/12 二度目の観測
    2017/10/16 初観測

  • サイエンス

  • 小学生から大学生初学年まで 
    Math Storiesの1冊(計算とは何か、変化をとらえる、測る、数学の視点)

  • 題名に惹かれて。AIの可能性が盛り上がっている今、数学的厳密性と言語的曖昧性の接地ポイントを体感出来るかな、と期待して手に取りました。シンプルな構成ですが結構苦労しました。数学を英語とかフランス語とかみたいな第二外国語として習得するための最初の教本というコンセプト。そこで「英文」「英訳」みたいに「数文」とか「数訳」とか初めて聞く概念を持ち込んでいます。外国語の文法本を読んだだけでは外国語語が喋れる訳じゃないのと同じように、この本もサラッと読んだだけでは沁みてきません。しかし数学という第二外国語は、ものすごいシンプルで複雑ゆえに時代も社会も、もしかしたら宇宙も超えることに対する感動が改めてあります。論理ってすごいな…このすごさは言語が人間の現実にたいするコミュニケーションなのに対して、数学が人間を超えた真実に対するコミュニケーションだからなのだと思います。

  • 論理の積み重ね。
    数学とはこうだ!が見えてくる。
    直感ではなく、言葉、それも論理。合理。
    世界中で通じる言葉でもあるに納得。
    一度、つまずくとわからなくなる理由も見える。
    このギリシャ数学の原点の存在を知るか否かで
    この世の見方が変わってくるというのは大げさか。

  • Mon, 28 Dec 2009

    数学の式を理解しよう.
    それは,何かを意味している言葉である.

    定義とは何か? とか ∀ とか ∃ とかが入った式の読み方,書き方など.
    それからεδ論法など そういうのが載っていたわけだ.
    出来る限り平易な言葉で書かれていて,なるほどな と面白く読んだのだが,
    僕にとっては,まぁ,基本的には既に知っていること.

    非常に数学の人らしい記述のものを平易にしたかんじなのだが,
    我らがR大の学生達が これを読んでどのくらい「フンフン!」
    と思えるのかは,気になるところだ.

    分かりやすい解説も,場合によっては受け手の想定をミスると
    ひとりよがりだからなぁ~.

    分かる人にとって分かりやすくおもえても,
    分からない人にとってわかりにくかったら意味ないし.

    また,だれかに渡してみようかしら.

  • [ 内容 ]
    困ったことに、数学語は数学や科学だけで使われている言葉ではないのです。
    論理的とよばれているありとあらゆる分野で、数学語が共通語として使われているのです。
    というわけで、この本の目的は、「数学語を第二言語として身につける」です。
    言語の本ですから、「ナマモノ」の数学に出てくる補助線の引き方やつるかめ算など数学技能については勉強しません。
    三平方の定理やオイラーの公式のような有名な定理もやりません。
    その代わりに、数学の文法と和文数訳、数文和訳、そして数学の作文法を勉強します。

    [ 目次 ]
    1 定義とは何か
    2 数学の文法
    3 和文数訳
    4 数文和訳
    5 かたちから言葉を見る
    6 証明とは何か
    7 数学の作文
    8 終章―ふたたび古代ギリシャへ

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

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著者プロフィール

国立情報学研究所情報社会相関研究系・教授

「2021年 『増補新版 生き抜くための数学入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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